意図せざる結果としての「非常勤講師5年雇止め」

何度か取り上げてきた話です。

これを「ある意味で望ましい結果」だと政府が考えているとしたら、もはや絶望するほかはなかったのですが、必ずしもそうではなかったのだとしたら、不幸中の小さな幸いです。

でも次は、それをどれくらい深刻で喫緊の問題だと考える(考えられる)かどうかです。それを検討するのはきっと、官庁の正職員様やマスメディアの正社員様や大学の専任教授様ですからねえ。


2013年06月15日08時58分
大学、5年でクビ? 非常勤講師、雇い止めの動き


非常勤講師の男性が、大学から渡された通知書。「契約期間の上限を通算5年とする」と書かれている=4月、都内(画像を一部加工しています)

大学非常勤講師に「雇い止め」の動き

 【吉田拓史、牧内昇平】有力大学の間で、1年契約などを更新しながら働いてきた非常勤講師を、原則5年で雇い止めにする動きがあることがわかった。4月に労働契約法(労契法)が改正され、5年を超えて雇うと無期契約にする必要が出てきたからだ。

■無期契約 避ける狙い

 法改正は、有期契約から無期契約への切り替えを進め、雇用を安定させるためだ。だが講師たちは生活の危機にある。朝日新聞の取材で、国立の大阪大や神戸大、私立の早稲田大が規則を改めるなどして非常勤講師が働ける期間を最長で5年にしている。

 大阪大と神戸大は、その理由を「法改正への対応」と明言。無期への転換を避ける狙いだ。有期の雇用契約の更新を繰り返し、通算5年を超えた場合、働き手が希望すれば無期契約に切り替えなければならなくなったからだ。

 早大は、3千人以上の非常勤講師を徐々に減らす方針で、「長期雇用の期待をもたせられない」(清水敏副総長)。もともと非常勤講師以外の有期職員は上限が5年。これに合わせることも考えていたという。

 一方、国立の徳島大などは、労働組合や指導現場と協議して上限を設けなかった。「地方大学は、5年で一律に辞めさせたら講師が確保できない」(徳島大)という事情もある。首都圏大学非常勤講師組合(松村比奈子委員長)によると、多くの大学が当初、契約期間の上限設定を検討したが、講師らとの協議で、撤回する例が相次いだ。

 松村委員長は「解雇しにくいという理由で大学は無期転換をいやがる。だが、非常勤講師は特定の授業をするために雇われ、その授業がなくなれば解雇される。無期転換を拒む理由はない」と主張する。一方、大学側は「担当の授業がなくなっても雇用継続を主張する人も出てくる」(大阪大)と警戒する。

 こうした問題を受け、政府は成長戦略で、研究者などへの労契法適用に関する課題を検討することを決めた。労契法に特例を設けるのか、別の制度で対応するのか、文部科学省厚生労働省で検討していく。

■20年更新したのに…

 新しいルールは、今年4月以降の契約から適用される。実際に「5年で雇い止め」になる人が出るのは5年後の2018年春からだが、通告された講師たちは危機感を募らせる。

 「契約の更新は、5年を限度とする」。都内の外国語講師の50代男性は2月、勤務先の大学から渡された今年度分の契約書を見て、ため息をついた。1年契約を20回ほど更新してきたが、これまでの契約書になかった言葉が新しく入っていたからだ。「いきなり5年でクビとは」と憤る。

 妻と3人の子どもがおり、住宅ローンも抱える。関東の五つの大学で、1コマ90分の授業を計15コマ教え、月〜土曜日は授業と準備に費やす。だが、給料は1コマにつき年30万〜40万円。年収は500万円半ばで家族を養うには足りず、大学が休みの日には10時間、倉庫で荷物運びのアルバイトだ。「生活はぎりぎり。1校でもクビになれば生活が成り立たない」

 専門は文学。非常勤で語学を教えながら、文学の専任教員になることを目指してきたが、試験は不合格続きだ。「若い研究者でも職探しが難しいのに、今から他の大学の職を探しても無理だろう」

 同じ大学教員でも、専任の教員は「正社員」に近く、特に任期が決まっていなければ終身雇用の扱いだ。一方、非常勤講師の多くは、1年や6カ月の契約を重ねる。

 首都圏大学非常勤講師組合などが2010年度に行ったアンケートによると、講師を主な仕事とする人の平均年収は、約300万円。平均2・7校の大学を掛け持ちで教えていた。志田昇書記長は「非常勤講師と専任教員の格差は明らかだ。5年で一律に雇い止めにされれば、格差は広がるばかりだ」と指摘する。

http://digital.asahi.com/articles/TKY201306140015.html