「単色・一枚岩の韓国」という幻影

個人的な実感からもしっくりくる記事ですね。うん、そんな感じですよ。

某一部週刊誌や夕刊紙や韓国新聞日本語サイトを拾い読みして、また大統領周辺の動きをメディア経由で見て、それで韓国の中を見通せていると思ったら大間違いです。

当たり前すぎて、書いてて恥ずかしくなってきますが…。そんな単純な理解で理解しつくせるほど、お隣の国は単純にはできていません。日本だってそうでしょう?

黒田勝弘さんの政治的な主張を嫌いな方も多いと思いますが、黒田さんの書くことにはその「奥深さ」への敬意が感じられます。それで、黒田さんの著作は私の愛読リストにけっこう入っていたりするわけです。

記者の目:「過去最悪」の日韓関係=大貫智子(ソウル支局)
毎日新聞 2013年12月10日 東京朝刊


日本のファッション雑誌が並ぶソウル市内の大手書店。女性客がひっきりなしに訪れる=大貫智子撮影

 ◇それでも「好日派」が増加

 4月にソウルに赴任して以来、日韓関係は緊張状態が続いている。しかし、日々の暮らしの中で「反日」を実感することは全くない。日本文化は依然として高い人気を誇り、日本人に対する好意的な見方を何度も耳にした。日本国内で「嫌韓」感情が高まっているのとは対照的だ。歴史問題が影を落としているのは事実だが、反日一辺倒ではない韓国の実情を日本に伝える必要性を痛感している。

 戦後の両国は、他国とは異なる特別な関係と言われてきた。日本側は植民地支配への罪滅ぼしの意識から、韓国には通常の外交交渉より柔軟に対応してきたが、韓国は世界15位(2012年)の経済強国に成長。植民地時代の元徴用工訴訟で、日本企業に賠償を命じた韓国内での司法判断が決定打となり、もはや韓国への配慮は不要との見方が支配的だ。一方、韓国側は日本語で意思疎通を図れる知日派が減り、経済的には中国が最大の貿易相手国となった。日韓双方で多くの外国のうちの一つとの位置づけに過ぎなくなったとの声が聞かれる。

 ただ、韓国側に関して言う限り、それは必ずしもマイナス面ばかりではない。むしろ「好日」とでも言うべき新しい価値観を持つ人々が若い世代を中心に増えていると感じる。10月下旬、ソウル市内の銀行の窓口を訪れた際、私を日本人と知った男性銀行員(27)は「日本はあらゆるものが多様で興味深い」と熱っぽく語り始めた。手元にあった電卓を手に取りながら、日本ではさまざまな製品に個性があるが、韓国では何でも少数の大企業中心で多様性がないと言う。こちらから歴史問題に触れてみたが、「日本の植民地時代は直接見たことも感じたこともない」とためらいもなく言い切った。

 ◇日本語に関心、日本食も人気

 1998年の日本文化開放後、日本のアニメやドラマなどを通じて日本語に関心を持つ人も増えた。韓国の教育統計年報によると、12年の高校の第2外国語学習者は日本語が最も多く、これに次ぐ中国語の倍近い。過去数年間の統計を見てもほぼ同じ割合だ。

 日本食の人気も高く、ソウル市内の居酒屋は多くの韓国人でにぎわっている。ソウル市南部・江南(カンナム)区内で和食店を経営する韓国人の男性(43)は「大規模な反日デモ不買運動はもはや起きず、文化や人々の交流は成熟してきている」と話す。

 ではなぜ、朴槿恵(パククネ)大統領は歴史問題による激しい日本批判を展開するのか。韓国のシンクタンク、峨山(アサン)政策研究院の9月初旬の調査では、各国への好感度について日本は10点満点で2・66。米国5・86、中国4・66を大きく下回り、北朝鮮の2・43に並ぶほどだった。

 日本に対する複雑な見方をどう解釈したらいいのか、理解に苦しみ、あらゆる場で尋ねた。日韓関係にも詳しい康仁徳(カンインドク)元統一相(81)は日本語でこう解説した。87年の民主化以前、反体制派は政府が「親日派」だと批判し、体制打破の口実に使った。70年代、80年代にこうした教育を受けてきた人々が現在の40〜50代であり、韓国社会の主要なポストにいるため大統領は難しい立場だ。一方で、20代はグローバルな時代に育ち、日本を同じ価値観を持つ外国としてとらえているので、関係改善を当然視する−−と。

 ◇国家の正統性を保つために抵抗

 日本人を主な顧客とするタクシー運転手(54)の言葉も印象的だった。「現在の50代以上は日本が好きか、嫌いかは半々だろう。しかし20代、30代は7対3で日本が好きだというのが実感だ。時代は変わった」

 とすると数十年後には韓国で反日感情はなくなるのか。保守系大手紙記者(45)は「北朝鮮金日成(キムイルソン)(国家主席)による国家建設の正統性があるが、韓国は李承晩(イスンマン)(初代大統領)が米国から連れられてきただけで、それがない。だから常に日本に対してどう抵抗するか、ということが国家の正統性を保つために存在する」と指摘する。一方で、韓国人の日常生活に日本が深く染み込んだ現状を重視し、日韓関係の今後については悲観していない。

 韓国が日本を全面的に肯定する時代が来ると考えるのは過度な期待だろう。しかし、政治的に過去最悪とも言われる中でも「好日派」の存在を日々感じられるのが今の韓国だ。日本にとって貴重な財産だが、十分に日本に伝わっていないと自省する。5歳の息子が通う幼稚園で、日韓の子どもたちが何のしがらみもなく触れ合っている姿を見るたび、いたずらに対立をあおらない相互理解のための報道が必要だとの思いを強くする。

http://mainichi.jp/shimen/news/20131210ddm005070002000c.html