女性スポーツ選手の身体についての認識

この記事を読んだときにすぐに思い出したのが、過去に書いたこの記事でした。

問題は、「不振」であることよりもむしろ

朝日新聞のこの記事は、無月経や不妊に焦点が当てられています。が、そこにもあるような疲労骨折とそれにつながる骨粗鬆症、あるいは貧血、そして摂食障害などで、現役中だけでなく引退後も身体や精神を傷つけてしまって苦しんでいる女性スポーツ選手は、決して少なくありません。私ごときでも具体例を知っているくらいです。

その時のことを思い返せば、傍から見ているだけでも辛いものでした。

例えば自己流の減量やダイエットがはらむ危険性を、指導者や競技団体がどこまで認識しているのか。まずそうした人々がきちんと対応すること、そのうえで選手たちにきちんとした体調管理指導をすること。選手の心身の健康を尊重し、大事にすることの先にこそ、競技力の向上もあるのだと思います。

その意味で、ここにある国や学会の取り組みには期待しています。

過酷減量、生理が来ない 五輪金・小原さんが悩んだ日々
野村周平 2014年7月26日16時59分


取材に答える小原日登美さん=2014年5月


2012年8月、ロンドン五輪で金メダルを獲得した小原日登美さん

 金メダリストのおなかに赤ちゃんがいる。2012年ロンドン五輪レスリング女子48キロ級を制した小原日登美(おばらひとみ)さん(33)=自衛隊。激しい減量をした現役時代に3カ月以上生理がない無月経に苦しみ、引退後も、産めないのでは、と悩んだ。だからこそ思う。「女性選手の体に関する認識をスポーツ界全体が共有してほしい」と。

 「五輪が終わって初めてのんびり過ごしています」。小原さんは大きくなったおなかを触った。同じ自衛官の夫・康司さんの誕生日の今年1月28日、病院で吉報を聞いた。いま妊娠8カ月。安定期に入ったが、道のりは険しかった。

 五輪にはない51キロ級で世界選手権を6度制した。現役を一度は退いたが、48キロ級での五輪挑戦を目指して10年に復帰した。その時の体重は約58キロ。10キロの減量の厳しさは予想できたが、「(ロンドンまでの)2年だけ」と覚悟を決めた。

 試合に向け、体脂肪率を1桁台まで絞り込む。すると、五輪年の12年初め、生理が止まった。春、病院で検査すると女性ホルモンがほとんど出ていなかった。肩や股関節のけがも相次いだ。「運動ができずに体重を落とせるのか、と精神的にも不安定になった」。悪循環の始まりだった。

 「最後のチャンス」とロンドンに賭けていた小原さんだが、体への不安は常に脳裏にあった。相談していた医師とは「五輪が終わったら、すぐ治療しよう」と話し合っていた。

 ロンドンで無事金メダルを取り、再び引退。「体重を戻せば生理も戻る」と考えていたが、女性ホルモンの値は低いまま。薬で無理やり生理をおこしても、自然には戻ってこない。

 「もし子どもが出来なかったら、48キロ級で五輪を目指したことを後悔してしまう」と悩んだ。「金メダルはとても大事。だけど、自分にとって家族はそれ以上に大切なものだから」

 実際、家族の理解が支えだった。両親は学生の頃から競技で酷使される娘の体を案じてくれた。生理不順になった高校生の時、母と一緒に産婦人科へ通った。最近まで不妊に悩んだ娘を、父は「出来なかったら、それはそれでいいんだ」と諭した。「病院に行けば、子どもが出来ない人にたくさん出会った。苦しいのは自分だけじゃない」と思った。

 昨年は、講演や20年東京五輪パラリンピックの招致活動で多忙に。家で康司さんに「もう仕事を辞めたい」と泣き叫んで当たったこともあった。「好きなようにしたらいいよ」。夫は包み込むように言ってくれた。

 排卵誘発剤を飲み始めた昨年10月以降、ホルモン値が増え、妊娠することができた。膨らんだおなかを見ると、「自分はこの子に救われた」と思う。金メダルを上回る、大きな夢を抱けるようになったからだ。「男の子なんです。妹や弟の子どもたちとレスリングしたら、家族で黄金時代を築けるんじゃないってよく話すんです」

 「生理をコントロールしてこそ一流」という指導者や「生理が来ない方が楽でいい」という選手の声を聞く。小原さんは実体験から「無月経を放置したら、将来子どもが出来づらくなる。早い時期に正しい知識を知ってほしい」と語る。「保護者や指導者への講習会がもっと増えてほしい。競技のために将来が犠牲になるのはおかしいと思う」

■疲労骨折のリスクも上昇

 生理に伴う痛みは人それぞれで、相談もしづらい。小原さんは、練習拠点だった東京都北区の国立スポーツ科学センター(JISS)に産婦人科医の能瀬さやかさん(女性選手の育成・支援プロジェクト担当医師)がいたから、疑問や不安を解消できた。

 能瀬医師は2011年4月から12年5月にJISSを受診した683人の女性選手を調査。うちロンドン五輪に出た選手は156人で、無月経が14人いた。全体では無月経が53人、疲労骨折が78人。競技別では新体操、体操、フィギュアスケート、陸上長距離で無月経が多かった。

 無月経によって、女性ホルモンであるエストロゲンが低下して骨が弱くなる。これに激しい運動が伴うと、疲労骨折の可能性が高まるという。無月経は、放置すると将来の不妊症につながる可能性もあると能瀬医師は指摘する。「特に10代の選手に対しては、周りが気付いてあげないと受診に結びつかない」

 JISSと日本産科婦人科学会は20年東京五輪に向けて体調管理の支援策をまとめるため、選手や一般女性計4千人の月経調査を始めている。(野村周平

http://digital.asahi.com/articles/ASG797SKLG79UTQP02T.html