PL学園野球部:「名門復活へ最後のチャンス」

先日の朝日新聞夕刊の一面を飾っていたこの記事。

学校や宗教法人の側に態度の変化が見えない以上、来年以降の野球部の行く末は極めて厳しいものだろうと推察できます。が、今そこにいる部員たちにとってかけがえのない場であるわけで、最後まで戦いきれることを願うばかりです。

名門PL野球部、特別な夏 監督は校長、部員募集停止
山中由睦 2015年6月16日12時37分


練習試合でベンチから声を出すPL学園の部員たち=PL学園のグラウンド

 春夏の甲子園で計7度の優勝を誇るPL学園(大阪府富田林市)野球部が、特別な夏を迎える。野球経験のある監督がいない状態が続く中、この春からは部員募集も停止。3年生21人、2年生12人の部員は、「名門復活へ最後のチャンス」との思いで挑む。

 大阪府南部の丘陵地にあるPL学園のグラウンドでは、夕方になると部員たちの声が響く。両翼は約90メートル。形が甲子園とよく似た球場で、以前は春秋の府大会公式戦にも使われた。

 「体が突っ込んでる」「力み過ぎや」。野球経験のある監督がいなくなって2年あまり。部員同士で欠点を指摘する。謝名堂(しゃなどう)陸主将(3年)は「自分たちで考えるしかない」と話す。コーチはいるが、公式戦ではベンチに入れないため、試合中は選手たちで指示を出し合う。

■校長が監督に

 謝名堂君は小学生の頃にPLの試合を観戦し、選手のひた向きな姿に憧れた。だが、入学直後に部員同士の暴行事件の責任をとり当時の監督が退任。野球部は8月下旬まで対外試合禁止になった。「何のためにここに来たんだろう」とやりきれない気持ちになった。

 試合ができるようになっても、監督は来なかった。報道などで新監督候補の名前が出ると、「これで甲子園が近くなった」と仲間と喜んだが、期待通りには進まなかった。監督は野球経験のない校長が務めることになった。

 バラバラになりかけたチームを、1学年上の中川圭太元主将(19)=東洋大1年=が救った。「自分たちで考えて野球をすればいい」。ミーティングで何度も声をかけてくれた。「野球が教えられる監督を呼んで下さい」と池田秀男部長(64)に訴える中川さんの姿に勇気づけられた。

 昨秋、謝名堂君は主将になった。その秋、監督適任者が見つからないことなどを理由に、学校側が今春からの部員募集を停止することを知った。「野球部がなくなってしまう」と落ち込んだが、中川さんの姿を思い出し、「こういう時こそ一つにならんと」と仲間を鼓舞した。「苦しくないと言えばうそになる。僕らは100%の状況じゃない。その思いとの葛藤はいつもあります」

■2年生のため

 2年の土井塁人君は、入院生活の影響で1年時に留年し、日本高野連の規定では今年が最後の夏になる。

 1年生の時に白血病と診断された。治療には骨髄移植と抗がん剤の選択肢があったが、医師からは「骨髄移植をすれば完全に治る可能性は高いが、しばらくは激しい運動は出来ない」と告げられた。小さい頃から憧れたPLでの野球を失うことは、全てを失うことと同じ。悩んだ末に抗がん剤治療を選んだ。

 闘病生活は副作用で髪の毛が抜け、吐き気が続いた。支えたのは「もう一度PLのユニホームが着たい」という思いだった。「一緒に野球しよう」。仲間が色紙をくれた。

 昨年4月、練習に復帰。今春の府大会ではベンチ入りし、代打で打席に立った。憧れのユニホーム。この春は着られただけで幸せだった。でも、今は少し欲が出てきた。「やっぱりみんなで甲子園で着たいです」

   ◎   ◎

 大阪大会開幕まで1カ月を切った。部員募集の再開のめども立っていない。2年の藤村哲平君は、3年生が引退してからのことが心配だ。「12人じゃあ今と同じような練習はできない」。今は夏に向けて集中しているが、大会が近づくにつれ、不安と焦りが高まっている。

 3年生たちは、「甲子園に出れば、部員募集を再開してもらえるかもしれない。12人の後輩に少しでも野球がしやすい環境を残してやりたい」と考える。

 土日を中心に指導してきたOBの深瀬猛コーチ(46)は複雑な思いだ。「野球部の将来という重いものを背負っている。でも、本当はそんな余裕はないはず。この夏は、『自分たちがただ勝つことだけを考えればいい』と言ってあげたい」

 その深瀬さんを含む3人のコーチのうち2人は7月で契約が切れる。老朽化したスコアボードも近く撤去され、雨天練習場も取り壊される計画があるという。(山中由睦)

http://digital.asahi.com/articles/ASH66570NH66PTIL009.html

この半世紀ほど、大阪から全国の高校野球界を引っ張ってきたPL学園ですから、できることならせめてもう一度、甲子園でこのユニフォームを観たいものです。そのあとのことは、またその時に考えるしかありません。