深圳・南方科技大学(南科大)のこと

私自身、この大学のことはほとんど知らなかったので、日経新聞の下記の記事は興味深く読みました。

南方科技大学 - 维基百科

南方科技大学_百度百科

http://www.sustc.edu.cn/

ただこの記事、ちょっとしたことですけど、次の2点は確認しておかないと、ミスリードの可能性があります。

  1. 「政府非公認」は開校当初の話であって、現在はそうではないこと。
  1. 北京・中央政府の反対を押し切ってこの大学を開校したのは深圳市政府(つまり南科大は公立大学)であること。

政府非公認でも開校、中国随一のエリート大学
広州支局 中村裕 2015/7/16 6:30

 北京大学清華大学と言えば、中国でも断トツのエリート校として知られ、13億人の中国人の憧れだ。だが今、その地位を揺るがす大学が新たに生まれ、中国全土から優秀な学生が殺到し始めた。中国政府に「盾突いて」まで設立したこの大学。背景には、極端なまでの詰め込み教育で学生たちを受験地獄へと追いやる、ゆがんだ中国の教育体制に対する不満があった。


広東省深圳市にある南方科技大学。設立わずか4年余りながら、今、中国全土から優秀な学生が殺到している

■「絶対に認めない」

 「絶対に許すことはできない。ダメだ。我々(教育省)は、そんな大学は絶対に認めない」

 「もう待てません。許してもらえないならば、我々は許可無く、勝手に大学を設立させて頂きます」

 こうして政府の反対を押し切ってまで設立した大学が中国にある。だが、まだ知る人は少ない。

 香港に隣接する中国有数の大都市、広東省深圳市。1992年に時の最高権力者、訒小平がここを訪問して行った「南巡講話」で中国の改革開放の加速を唱え、中国経済発展の象徴ともなった。その深圳に大学はある。南方科技大学だ。

 どんな大学なのか。恐る恐る正門をくぐり抜けると、そこには開放的な空間が広がっていた。

 山あいを切り開いた広大な敷地に、白地のモダンな建物が点々と立ち並ぶ。おしゃれな雰囲気の図書館、レストラン、そして明るい雰囲気のマンションのような学生寮――。管理が厳格で古めかしい建物が目立つ旧来の中国の大学には見られない、自由な雰囲気が伝わってくる。


教室での写真撮影は許されなかったが、真剣な眼差しで教授と向き合う学生の姿が印象的だった

■900人の枠に1万人殺到

 設立からまだわずか4年余り。世界の大学ランキングにも顔を出すことはない大学に今春、中国全土から昨年の2倍となる約1万人の志願者が殺到した。だが入学できるのはわずか900人という狭き門だ。志願する学生の多くは、北京にある北京大や清華大、上海の復旦大学といった名門大学に入学する能力がありながら、この大学を目指して来る。一体なぜなのか。

 広東省出身で大学3年の林善達さん(21)は「中国の他の大学にはない、個人の自由な発想を大切にする校風に憧れた」と教えてくれた。

 中国では全国統一の大学入学試験、通称、高考(ガオカオ)と呼ばれる試験が年1回、毎年6月に行われる。そのたった1回の試験で、入学できる大学が決まってしまうため、学歴社会、競争社会の中国では、「この高考にすべての人生をかける」(広東省の中国人大学生)ほど重要な意味を持つ。「高考で成功すれば人生は成功、高考に失敗すれば人生は失敗」(同)というほどの過酷さだ。

 その高考で、林さんは高校3年の時、広東省内70万人の受験生の中で680位の成績を獲得。上海の名門、復旦大学に入学して将来は安泰という道を捨て、新設の南方科技大学を選んだ。

 ただ、設立してわずかだが、南方科技大学のレベルはかなりのものだ。中国政府から正式な大学と認められていない事を知りながら2011年に入学した1期生。今年の卒業時もやはり政府から“大学生”と認められることはなかったが、大学が独自に発行した卒業証明書を手に29人が巣立った。


「南方科技大学に来る学生は、一般的な中国人の物の考え方とは違う。僕はノーベル賞を取りたいんだ」と語る大学2年生の雷嘯さん(20)

■卒業生、海外の一流大学博士課程に

 中でも王嘉樂(17)さんは特筆すべき存在だった。13歳で南方科技大学に入学すると半年前倒しで卒業し、わずか17歳、飛び級でオックスフォード大の博士課程に進学した。ほかにもイエール大学コロンビア大学カリフォルニア工科大学など卒業生の大半は海外の一流大学の博士課程に進学した。

 「何でも管理の厳しい中国で、こんな自由に創造力を伸ばしてくれる大学はない。僕は宇宙工学を学ぶため、中国初となる科学分野でノーベル賞を取るために、この大学を選んだんです」。中国内陸部の陝西省西安からはるばる南方科技大学に入学した2年生の雷嘯さん(20)もそう言って目を輝かせた。

 「中国の科学技術の研究レベルは低い。コピー技術も多い。大学の研究といっても深く追求することが少なく、表面的なもので終わることが多い。僕はそういうことはしたくなかった。だから、この大学を選んだんだ」

 現在は政府と和解して正式な大学として認められているものの、一般の大学とは異なり、中国統一の「高考」のほか、大学独自が実施する試験をパスしなければ入学できない。

 「この万年筆1本で、あなたは何ができますか?」

 試験内容は論理的思考や批判的思考、洞察力、創造力を試す難解な問題ばかり。ただ記憶したことをはき出すような「高考」の試験とは対極にある。

 授業も創造性が重視される点が中国では異例だ。教授陣の大半は海外からの帰国組で、授業はほぼすべて英語だ。

 「授業中、教授が間違ったことを言ったと思えば、『それはおかしい』と反論することだってできるんだ」(雷嘯さん)。教授と学生が絶対的な上下関係にある中国の普通の大学では「ありえない事」(同)という。

 「この大学の教育方針に感銘を覚え、帰国することにした」。米国在住27年、ピッツバーグ大学で教えていた呉傳躍教授(56)も、南方科技大学の将来性にかけた一人だ。「ここには中国の学生上位5%のトップ層が集まっている。精いっぱい、学生の期待に応えたい」

 だが伝統的な学歴社会が確立されている中国で、なぜこうした大学が生まれたのか。背景には、中国が乗り越えるべき大きな課題と言える、詰め込み一辺倒で極端なまでの受験地獄がある。

 河南省には、そんな中国の教育の今を分かりやすく示す「衡水中学」と呼ばれる高校がある。軍隊より厳しいことで知られる有名校だ。

 「小便は1分、大便は3分以内で済ませろ!」。寮生活を送る高校生らは、厳格な監視下に置かれ、勉強以外の活動時間は全く与えられない。高考の競争に勝つことがすべて。勉強で疲れ切り、翌朝の遅刻を恐れる学生は寝る時、パジャマではなく学校の制服を着て寝るほど厳しい生活を強いられる。

■飛び降り防止の鉄柵

 学校内の手すりには、勉強に疲れた生徒が飛び降り自殺をしないための鉄柵が張り巡らされる。3月の全国人民代表大会全人代、国会に相当)でも「やりすぎだ」と指摘されたほどだが、この学校に通わせ、良い大学に入れさせたいと思う親は後を絶たない。


幼い頃から始まる受験戦争で疲れ切った中国人の大学生たち。その多くは「夢も無く、関心はお金や株に向かう」と学生は語る(北京大学で)

 「朝6時から夜10時まで、ずっと勉強をし続けるだけの高校生活。でも僕だけじゃない。中国は人口が多く競争が厳しいので、いい大学に入るため、いい会社に入るため、ほとんどの中国人は小さい頃からこんな生活を強いられるんです」。北京大学に通う虞雪健さん(24)はそう語り、中国の現状を嘆く。

 虞さんは江蘇省出身。省内の30万人以上の高校生が受ける高考で54位と、抜群の成績で北京大学合格を勝ち取った。だが、「中国人の多くの学生と同じですが、私には夢という夢はないんです」と、虞さんは少し寂しそうに話す。「今の中国人の学生の興味は、株やお金の事ばかり。これも詰め込み教育の弊害だ」という。

 中国では高校、大学、大学院に至るまで、今でも毛沢東思想概論、マルクス主義が必須授業に指定されている。1週間に2〜6時間。「こうした授業に多くが割かれ、思想的な詰め込み教育に反発する学生は多い」(広東省の大学生)

 「軍訓」と聞いて、嫌な顔をする大学生も多い。大学入学後、どこの大学でも中国では約1カ月の軍隊訓練を受けるのが決まり。1989年の天安門事件を機に始まった軍訓は、朝6時〜夜の9時まで続き、体と精神をいじめぬく。それは北京大、清華大のエリート学生でも容赦はない。中国の全ての学生が軍訓を受ける義務を負うのだ。


6月初旬に行われた大学の入学試験「高考」の当日朝、緊張の面持ちで試験会場に入る高校生(広州市内の高校正門前で)

 中国では今、将来の競争に負けまいと、幼少時からの教育熱も過熱している。そして、大学を卒業するまで息つく暇もない学生生活を送り、社会へ巣立つ。だが、そんな生活を送り、疲れ切った学生たちが社会に出て、何を目標に、どう国を背負おうと考えるのか。それは腐敗がはびこる今の中国社会とも無縁ではないだろう。

■教育改革、混乱と紙一重

 「この大学を選んで本当に良かった」。西安出身の南方科技大学2年の方晨さん(20)。高校2年の時までは名門大学に進んで「将来は共産党幹部に」との夢を抱いたが、高校3年の時、南方科技大学の存在を知ると、その夢は捨てた。「大学を卒業したら、まずは世界中を駆け巡り、自分の目で多くを吸収し、自分のため、本当に国のためになる夢を見つけたい」。そう方さんは語る。

 共産党が支配する中国にとって、教育改革は容易な事ではない。今の教育体制がまずいことは政府も承知だ。だが、改革は、混乱と紙一重でもある。

 今年1月、北京大学の副校長の立場にあった陳十一校長(58)が、南方科技大学の新しい校長として迎え入れられた。そしてこの6月、同大学を志望する学生らと初めて向き合い、陳校長は力を込めた。

 「みなさんと共に、ここ改革の象徴、深圳で、世界一流の創造型の大学をつくるという我々の夢、開拓者の精神、高い志がかなうことを楽しみしています」

 中国の教育問題に一石を投じた南方科技大学の挑戦を、今後も見守っていきたい。

http://www.nikkei.com/article/DGXMZO89337940V10C15A7I00000/

冒頭で北京大学清華大学復旦大学を引き合いに出して、後半は中国国内の教育制度の話になってしまっていますが、南科大それ自体に注目すると、おそらくモデルはマサチューセッツ工科大学なんでしょうね。で、直接的なライバルになるのはすぐ隣の香港科技大、東アジアでは韓国のKAISTやPOSTECH、日本だと東京工業大あたりでしょうか。

つまり、理系中心の研究大学という位置づけなので、北京・清華・復旦のような総合大学の直接的なオールタナティブではないわけです。中国やアジアにおけるこの大学の位置付けをきちんと考えるには、もう少し整理が必要な気がします。

特集:南方科技大学が挑む教育体制改革_特集_InsightChina

南方科技大学:教育改革路上的孤独舞者_教育_凤凰网