「芸能人の独立性」という点における日米韓比較

なるほど。よく整理された論考だと思います。参考になります。

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韓国の場合、「JYJ法」は今後、重要なメルクマールになっていくでしょう。SMエンタテイメントの場合、「H.O.TとJTL」という、「東方神起とJYJ」とまるっきり同じ構造の先例(前科と言ってもいい)があります。そこから数えれば、ここに至るまでかなり長い年月がかかっています。

また下記にも言及のあるKARAにしても、「KARA事態」がすぐに想起されるのはやむを得ないところですけど、その後、2007年のデビュー以来の貢献はきちんと評価され、メンバーたちが契約の主導権を得ていました。最終的には、話し合いによってそれぞれ円満に契約を満了して、移籍するなどしています。

この点を踏まえてみれば、「SMAP事態」がどれほど異様なものか、よりいっそう浮き彫りになるはずです。

韓国は法改正により芸能事務所に罰金も

ここでひとつ補助線を引くならば、日本の芸能界と似たシステムを持つ韓国の状況であろう。韓国では、特定の芸能人に対して露骨な圧力が続いたことにより、法改正にまで至ったのだ。

2010年、人気男性グループ・東方神起を脱退した3人のメンバーは、JYJとして独立した。しかし、彼らには苦難が待ち構えていた。映画やドラマには出演できても、音楽番組にはいっさい登場することができない日々が続いたからだ。背景には、前所属プロダクションであるSMエンタテインメントの圧力があるとされている。JYJは、11年にそれを禁止する判決も導いた。SMエンタが圧力をかければ、1回につき2000万ウォン(約200万円)の罰金が科せられることとなった。

しかしこれ以降も、JYJは音楽番組に出演できなかった。そこで韓国の公正取引委員会は、13年に業界団体とSMエンタに対し、活動妨害を禁止する命令を出す。が、それでもJYJが音楽番組に姿を見せることはなかった。この状況を重く見た野党の国会議員が、15年に入って放送法改正に乗り出し、11月30日、ついに放送法が全会一致で改正された。それは圧力をかけた者に、罰金が科される内容だった(※2)。

年明けにはまたJYJメンバーが音楽イベント『ソウル歌謡大賞』に出演できない事態が生じた。ファンの批判を受けて、イベントの後援でもあるソウル市・パク市長は主催者に対し、再発すれば後援を中断すると通告した。この法改正は、徐々に効力を持ちつつあるとも見られる。

韓国の芸能界は、日本をモデルとしてきたことで知られる。グループアイドルの形式や早い段階からの育成などはもとより、芸能プロダクションがタレントを抱えるシステムも日本とほとんど同じだ。

JYJだけでなく、韓国芸能界では過去にはKARAの独立も大きな騒動となったことがある。そうしたときしばしば使われるのが「奴隷契約」という表現だ。判断能力の乏しい10代半ばの未成年者が、不利な立場で芸能プロダクションと長期の契約を結ぶことが問題視された。そしてたとえJYJのように独立しても、その後の活動は不利な状況となる。これらも日本と酷似している。

韓国芸能界は、JYJやKARAが社会的に問題視されることで、急速に状況を改善しつつある段階だと言える。法改正するほどの動きを見せたのは、芸能が国にとっての主要産業であり重要なソフトパワー政策だという認識もあるからだろう。

対して「クール・ジャパン」のお題目のもとにコンテンツ輸出およびソフトパワー戦略を活性化してきた日本では、国会で安倍総理SMAPに対し「存続して良かった」と述べたように、さほど大きな問題だとは捉えられていない。だが、日本の芸能人も、韓国同様ほとんどが10代から芸能プロダクションに所属し活動を始める。その最初の選択で、後の人生を大きく左右してしまうリスクがある。芸能人の自由な活動を国が保証しないかぎり、今回のような騒動は繰り返されるだろう。

※2:韓国・放送法85条に、「放送事業者の従業員以外の者の要請により(略)放送番組制作と関係のない理由で放送番組に出演をしたい人を出演させないようにする」ことが「禁止行為」として新設された。違反した場合は、是正命令を下すか、または売り上げの2%以内の課徴金を賦課されるとある。

http://president.jp/articles/-/17343?page=3