昨年の秋、和歌山で四社参りをした帰りのことです。
blue-black-osaka.hatenablog.com
和歌山駅からは、和歌浦口行きの25系統のバスに乗り、「車庫前」のバス停で降りて一筋西側の大通りに出ると、そこは「平和塔前」という交差点です。
広い中央通りの横断歩道を渡った奥にあるのが、忠霊塔と平和会館。その由来を辿れば、ここはかつての和歌山陸軍墓地です。
ここについての詳細な説明は、例によって先達の皆さんが丁寧にされています。
鎮魂の霊地 和歌山県忠霊塔
和歌山陸軍墓地 : 『大日本者神國也』
kanレポート 和歌山陸軍墓地
上記の各ページで紹介されている施設や碑石・遺物などについては、私も後追いの形で見て回ったのですが、そこできちんとは言及されていないものを一つ、先に紹介しておきます。
それは、入り口の左右に並んでいる一対の石灯籠です。
向かって左、「功勲廣大」と刻まれた灯籠は、「大日本国防婦人会和歌山地方本部」の寄進。
向かって右、「遺徳無量」と刻まれた灯籠は、「愛国婦人会和歌山県支部」の寄進です。
同じ婦人会でありながら、両者を構成する「婦人」は微妙に階層が異なり、互いに張り合う関係にあったとも聞いています。まあ、岩波新書の聞きかじりにすぎないのですが、そうした関係がこの灯籠の並びに反映されているようで、たいへん興味深く見ました。
- 作者: 藤井忠俊
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1985/04/19
- メディア: 新書
- 購入: 1人 クリック: 14回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
それを過ぎると、米軍使用の機雷や錨・錨鎖の展示などがあり、左手に平和会館があって、その先の忠霊塔の右手が広く開けています。他でもそうであるように、この忠霊塔は納骨堂を兼ねています。
右手に開けたところには、慰霊碑などがいくつかあります。
また、忠霊塔の左手にも、「合葬墓」があります。ここには、個人墓は見当たりません。
見学の締めくくりに、平和会館の1階奥には資料展示室(平和祈念資料館)があり、郷土部隊関連や和歌山の戦争体験についての資料が密度濃く展示されています。常時見学者がいるわけではないために普段は消灯されているようですが、事務室におられる方にお願いすれば、見学することは可能です。
なお、事務室では、『平和へのいしずえ 和歌山県忠霊塔沿革史』(和歌山県忠霊塔護持会、1990)を実費*1で分けていただきました。和歌山の忠霊塔の沿革をまとめた250ページほどある本です。
全体としては、住宅地として開けた中に位置し、人手をかけて清掃も行き届き、きちんと秩序が保たれています。また、道を挟んで裏手の墓地と隣接していることもあり、「当たり前の生活空間の中にゆるやかに溶け込んで存在している」といった感じを受けます。
個人墓がないこともあって、ここで慰められている人々の固有性はおそらく、代替わりによって徐々に薄れていくでしょう。ただ、「死者を祀る霊地」としての意味合いは、それよりも長く、維持されていくような気がします。
*1:確か、1000円だったと思います。