FCソウルの高萩洋次郎

ACLノックアウトステージで浦和レッズFCソウルの対戦があったことをきっかけにして、FCソウルの主力として活躍する高萩洋次郎を取り上げた長い記事が相次いで出ています。

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Kリーグに在籍する日本人選手のことをこれだけ正面からきちんと取り上げた記事が出たのは、もしかして初めてではないでしょうか。毎年あるACLの対戦を通じて韓国KリーグがJリーグと互角の存在として認知されつつあることも感じますし、その中でもトップクラブであるFCソウルでの高萩洋次郎の主力への定着の仕方が、(ともすれば「一時的な腰掛け」といった感も否めなかった)これまでの日本人選手とは違って確固たるものとなっていることも感じます。その点で、「日韓新時代」を感じさせるという吉崎エイジーニョさんの指摘には同意です。

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FCソウルで戦術の要として活躍していた高萩洋次郎

 試合後に宇賀神が「まだまだ後半が残っている」と言ったとおり、セカンドレグが残っている段階で結論じみたことは言えない。5月25日、ソウルで行われるゲームで決着がつく。

 梅崎司は「今日は相手2トップに強いモチベーションがあるようには見えなかった。ソウルでのゲームは別物になる」という。

 槙野は「相手が攻撃的に出てくるだろうが、こちらもひるむべきではない。強い姿勢で戦う」と展望した。

 そこで今回は、相手FCソウルの選手としてピッチに立ったある選手についての紹介を。

 高萩洋次郎

 試合コメントは他媒体でも掲載されるだろうから、「彼が韓国でどう見られているか」に話題を絞って。

 1986年生まれの29歳。

 この日対戦した浦和の槙野が「同じ釜の飯を食い、同じ場所で暮らした」と言う通り、サンフレッチェ広島ユース育ちのMFだ。'03年に16歳でトップチーム昇格を果たし、'06年に愛媛FCにレンタル移籍。'07年にサンフレッチェ広島に復帰後、'15年にオーストラリアのウェスタン・シドニーに移籍した。

http://number.bunshun.jp/articles/-/825713?page=3

韓国サッカー界で存在感を見せつけていた高萩。

 そんな彼が'15年の夏のマーケットでソウルに移籍した直後に、現地でホームゲームを取材したことがある。

 その時に韓国メディアの友人から、「彼がどんなキャリアを歩んできて、フル代表では何キャップくらいあるのか?」という点を聞かれた。質問の裏には2つの背景があったように思う。

 ひとつは移籍加入後、高萩はレギュラーを獲得し、いい線の活躍を見せていたという事実。

 もうひとつは、決して韓国では有名ではなかった日本人選手に「Kリーグで活躍させてしまった」という韓国サッカー関係者としての意識。

“力の落ちたKリーグ”という構図で批判する記事を書きたかったのだと思う。結果的には形にならなかったが。

高萩の「韓国経由・中国行き」はあるのか?

 その日の試合後、ソウルワールドカップスタジアムのミックスゾーンに高萩が現れた。チームバスの出発が近づく中、2つ、質問した。

――ソウルに移籍した経緯を。

ACLでウエスタン・シドニーの選手として、ソウルと対戦したんです。その際のプレーがチェ・ヨンス監督から評価され、オファーをいただきました」

 2つめの質問は、韓国メディアから「日本語で聞けるのなら、ぜひとも聞いてほしい」とリクエストされたものだった。

――韓国で活躍して、中国リーグに行こうという考えはありますか?

「いえ、このリーグで成功することだけを考えています」

 返事を伝えると、「なぜだ?」という表情をされた。「日本人から韓国経由で中国に行こうとする選手がついに出てきたと思ったのにな」という。Kリーグは自分たちが中国への中継地としての役割も担っている、という認識を持っている。そんな考えを知らされた機会にもなった。

 高萩は移籍後、Kリーグで14試合に出場(2ゴール)、KFAカップでは2試合出場で2ゴールを挙げ、タイトル獲得にも貢献した。

 今回の対戦前、現地ネットメディアにはこんな評価が書かれていた。

「3-5-2システムの中盤にあって、逆三角形で構成される中央(1ボランチ+2枚の攻撃的MF)の右側を担う。どんな状況にあっても自由自在にパスを供給できるキック能力を有し、右サイドのワイドの位置から自ら突破をしかけることもある」

http://number.bunshun.jp/articles/-/825713?page=4

ACLで優勝するためにこのチームに来た」と明言。

 今回の試合の前日会見では、チェ・ヨンス監督とともに登壇し質問に答えた。

 本人は「ACLで優勝するためにこのチームに来た」という点を強調し、Kリーグで学んだこととしては「フィジカルコンタクト」を挙げていた。いっぽう、チェ・ヨンス監督に彼の評価を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「日本選手らしい精密なプレー、創造力あふれるプレーができる選手です。我々のチームで最高のプレーを見せてくれている。そこには本人の絶え間ない努力があると思います。彼の自己管理にプロフェッショナルな姿を感じるのです。いなくてはならない存在。我々としても学ぶべき点が多い選手だと思っています」

――明日の対戦に関していえば、どういった点を期待するでしょう?

「浦和の屈強な攻撃力に対峙するために、彼の守備力、判断能力、コミュニケーション能力、ポジショニング、そういった力が発揮されることを期待しています」

“守備力”の項目が加わるあたり、確かに彼の成長を感じさせた。浦和の槙野も対戦の印象を「昔はフィジカルコンタクトを避けるスタイルだったのに、大きく変わっていた」と口にしていた。

 選手からの評価はどうか。

 アウェーで敗れ、多くの選手が足早に立ち去るなか、なんとか元アーセナルパク・チュヨンの歩みを止めることができた。元々メディアをあまり好まないことで知られる彼は、試合自体については「いいスタジアムだと感じました」など答えをはぐらかすなか、高萩に関してだけは、はっきりとこう答えた。

「韓国選手と同じくらいに戦う気持ちを持っている選手です。また韓国文化を学ぼうとする姿勢がどん欲だから、選手たちとも非常によいコミュニケーションが取れています」

 Jリーグチームの行く道に立ちふさがる日本人プレーヤー。新たなACLの醍醐味だ。

 当然、日本チームをよく知るというアドバンテージが高萩にはある。こういった複雑な“困難”を克服したほうが勝利の味は増すというものだ。

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また、全北現代と2強時代を築きつつあるFCソウルの主力選手として高萩洋次郎が日本代表に選出されることがあれば、それはKリーグにとっても、日本代表にとっても、日韓そしてアジアでの新たな「国際化」の潮流として画期的な出来事になると思います。

個人的には、Kリーグ(や将来的には中国クラブ)に在籍する現役日本代表選手、というのをぜひ、見てみたいと思っています。

そして、日本を飛び出してアジアで揉まれて力をつけた選手の在籍クラブと対戦するACL、というのが日常的な風景になれば、選手の育成強化にとって少なからぬインパクトをもたらすような気がします。その意味で、仁川ユナイテッドから光州FCに移った和田倫季のケースなども、「アジアサッカー新時代」のパイオニアとなることを期待しています。

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 そんなソウルの迫力ある攻撃の中心には、ひとりの日本人MFがいた――。「背番号2」を背負ってプレーした、髙萩洋次郎である。

 サンフレッチェ広島のユースチームで育った髙萩は、トップチームに昇格後の2003年4月、当時のJ2最年少出場記録となる16歳8ヶ月3日でリーグ戦デビュー。以後、愛媛FC期限付き移籍した1シーズン(2006年)を挟み、2014年まで広島でプレーし続けた。2012年~2013年の広島J1連覇にも、主力選手として大きく貢献している。

 日本でプレーしていた当時の髙萩の印象は、ひと言で言えば「優雅」。無駄なく流麗に動き、それでいて相手の急所を一発で突くような鋭いパスを出す――。それが、10代のころから変わらぬ髙萩の特徴だった。

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 だが、髙萩が漂わせる優雅さは、「軽さ」と表裏一体でもあった。

 相手DFとの際どいせめぎ合いで、髙萩が強さや激しさを感じさせることは少なかった。一度ボールを持てば優雅にプレーする一方で、試合のなかで、その存在が消えてしまうこともしばしばだった。

 だからこそ、髙萩の”変身”には驚かされた。ずいぶんと、力感が増した――。

 それが、ソウルでプレーする髙萩から受けた印象だ。かつての優雅さは、もちろんいい意味で、失われていた。

 それは決して、記者席から見ただけの印象ではない。実際にひとつのボールを挟んで髙萩と対峙した選手もまた、同様の印象を感じ取っていた。

 同じ広島ユース出身で、広島時代には髙萩と長年一緒にプレーしていた浦和のMF柏木陽介は、かつての同僚について、「守備もできるようになっていたし、球際のところでかなり戦えるようになっていた」と評した。

 広島にいたころの髙萩は、中盤で相手選手がマークしづらい位置にポジションを取るのがうまく、巧みにマークを外してはフリーでボールを受けて、決定機を作る。そんなプレーが得意だった。後輩が見せる巧妙なポジショニングを、柏木はおおいに参考にしていた。

 だが、浦和戦での髙萩は、自ら積極的にボールに関わり、相手選手との接触もいとわなかった。柏木が続ける。

http://sportiva.shueisha.co.jp/clm/jfootball/2016/05/19/post_1131/index2.php

「Jリーグでは相手があまり(プレッシャーをかけに)来ないから、(以前のプレースタイルで)よかったけど、韓国はどんどん来るし、球際も激しいから、それでは通用しないと思ったのだろう」

 また、同じく広島時代に一緒にプレーしたGK西川周作も、髙萩に加わった力強さを感じ取っていた。

「以前からワンタッチでDFラインの背後を狙ったパスを出すなど、創造性の豊かなプレーをしていたが、今はそれに加えて、自分でボールを前に運ぶ力がついている」

 髙萩自身、韓国に渡って球際での激しさやフィジカルの強さが磨かれた実感があるようで、「攻撃のところで、もう少し自分のよさを出せればよかったが……」と悔しさを見せつつも、「意識して守備のところはこだわってやっていた。浦和は(自分たちのプレッシャーを)いなすのがうまいので、そこでボールが奪えればチャンスになると思っていた」と語る。広島時代には、あまり見せなかった一面である。

 当然、いまや持ち前の優雅さに力強さがともなったMFを、日本代表が放っておくはずがない。

 この試合を観戦した日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督も、「以前から映像ではよく見ていた。髙萩も代表候補のひとりだ」と評価。柏木もまた、「洋次郎は同じイマジネーションを持ってプレーできる選手。一緒にやれたら楽しいし、ふたりで代表に入れたらうれしい」と、ふたたび同じチームでプレーすることを望む。

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 これまで日本代表の「海外組」というと、そのほとんどすべてがヨーロッパでプレーする選手だった。ヨーロッパへの移籍はステップアップとして高く評価される一方で、アジアへの移籍は軽視される。そんな傾向があったことは否めない。

 たとえば、2013年のACLでソウルが準優勝したときには、かつて浦和でプレーしていた日本国籍を持つFWエスクデロ・セルヒオが活躍した。エスクデロはストライカーとしてチームをアジアの決勝まで導き、Jクラブを上回る成績を残したわけだが、それでも日本代表に彼の名が加わることはなかった。これでは選手が、アジアへの移籍に二の足を踏んだとしても無理はない。

 だが、もしハリルホジッチ監督が髙萩を日本代表に招集することがあれば、今後アジアへの移籍に対する見方も変わるかもしれない。

 髙萩は、決して過去に成功例が多いとは言えない韓国クラブへの移籍によって、自らに足りなかったものを補い、サッカー選手として一段レベルアップした。ヨーロッパに渡るだけが成長の手段ではないことを、証明して見せた。

 海外とは、ヨーロッパだけにあらず――。

 髙萩洋次郎が切り開いた道は、彼自身にとどまらず、今後の日本サッカーにとっても大きな価値を持つものになるのかもしれない。

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あれ…?もしかして、セカンドレグのFCソウル浦和レッズ戦、ソウルワールドカップスタジアムで観れるかも…。

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