「AV業界健全化」への取り組み:「毎日新聞」の記事から

これ、つまりは「AV出演という行為」に透明性と合法性を与えていくという取り組みなわけですよね。この場合は「労働者」としての権利を云々するという話ではありませんが、「個々人の権利保護のための取り組み」という観点からして、法の網をかぶせていく「合法化」というのはあるべき方向性だと思います。

ただ、例えばフェミニズムジェンダー論に根ざす運動勢力がこうした取り組みをサポートする立場になかったりするのは、通常のことです*1。粘り強く実現を図っていくしかありませんけど、この方向での取り組みが賛同の輪を広げていくのは、ものすごく大変なはずです。というか、「敵だらけの茨の道」と言った方がいいかもしれません。

AV出演強要
業界健全化へ団体設立 元女優の川奈さん
毎日新聞2016年7月8日 15時36分(最終更新 7月8日 18時59分)

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AV出演者の支援団体設立について説明する元AV女優の川奈まり子さん=東京・千代田区の毎日新聞東京本社で2016年7月8日、加藤隆寛撮影

 「タレントにならないか」などとスカウトされた女性らのアダルトビデオ(AV)への出演強要を人権団体が告発した問題で、元AV女優で作家の川奈まり子さん(48)が8日、毎日新聞のインタビューに応じ、出演者を支援し、業界の健全化を図るための団体「表現者ネットワーク(AVAN)」を設立することを明らかにした。一般社団法人として11日に発足させ、AV出演者が所属事務所と交わす契約書の統一様式策定などを進める。

 特定非営利活動法人NPO)「ヒューマンライツ・ナウ」が「脅されてAV出演を余儀なくされる事例が後を絶たず、著しい人権被害だ」などとする調査報告書を公表したのは今年3月。川奈さんは直後から「AVを有害業務と決め付け、職業差別を助長している」などとフェイスブックなどSNS上で反論するとともに、出演強要問題の解決を訴えてきた。

 AVAN(アヴァン)は「Adult Video Actress & Actor‘s Network」の略で、仏語の「avancer」(前進する)のイメージを重ねた。「これまで出演者のための業界内部の団体がなかった。AV出演を肯定的にとらえながら、より良い環境で仕事ができるようサポートしたい」と川奈さん。統一契約書の策定などで、出演者がプロダクション(所属事務所)やメーカー(制作者)との関係において不利益を被らないよう支援するとともに、現場で発生した問題などの相談窓口も設ける。また、プロダクションを準会員、メーカーを賛助会員として迎え、業界全体で連携して改善に取り組めるよう促す。

 「AV出演者であることを理由に賃貸マンションの契約を断られた」など、さまざまな生活上の相談にも乗る方針。川奈さんは「AV引退後に仕事を得ることは難しい。『私はもうAV女優ではありません』と言っても差別される」と話し、出演料の一部を積み立ててセカンドキャリア応援金として渡すなど引退後のサポートも計画している。【AV問題取材班】

川奈まり子(かわな・まりこ)さん

 1967年、東京都生まれ。女子美術短期大卒。出版社勤務やフリーライターなどを経て1999年に31歳でAVデビューし、2004年に引退するまでピンク映画やVシネマを含む多くの作品に出演して人気を集めた。2011年、「義母の艶香」(双葉文庫)で本格的に作家デビュー。その後も官能、ホラー小説や怪談実話などのジャンルで活躍している。夫はAV監督でメーカー「ソフト・オン・デマンド社外取締役溜池ゴロー氏。

http://mainichi.jp/articles/20160708/k00/00e/040/260000c

AV出演強要
合法的出演の環境整備を
毎日新聞2016年7月11日 19時53分(最終更新 7月11日 20時43分)

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AV出演者の支援団体設立について説明する元AV女優の川奈まり子さん=東京・千代田区の毎日新聞東京本社で2016年7月8日、加藤隆寛撮影

 アダルトビデオ(AV)の出演者を支援し、業界の健全化を図るための団体「表現者ネットワーク(AVAN)」が11日、発足した。AV出演者同士の横のつながりを強め、悩みの相談窓口を設けるなどさまざまな形でサポートに当たる。同ネットワーク代表を務める元AV女優で作家の川奈まり子さん(48)は、「メーカー(制作者)やプロダクション(所属事務所)の賛同を得ていくことも重要」と話し、出演者との間で交わされる契約書の統一様式策定を当面の活動の中心に据える。その狙いや具体的な支援策を聞いた。【AV問題取材班】

−−業界健全化のために重要なことは?

川奈さん 業界内には「出演者の団体ができたら困る」と思っている人、疑心暗鬼になっている人も大勢いるので「こういうものができないと業界そのものがなくなっちゃいますよ、壊滅しちゃいますよ」と話し合っています。警察関係者ら幅広い人の忠告、提言を聞きながら、なんとか合法的にAVに出演できる環境を作りたい。出演者だけで固まればうまくいくかというと、そうではありません。AV業界そのものが良くなっていかないと、なかなか人権は守られにくい。だから、(メーカーやプロダクションなど)AV業界の他の団体にも「みんなで良くなりましょう」と呼び掛けています。

−−実際にどのような仕組みを作るのですか?

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川奈さんが考えるAV出演者支援の仕組み=AVAN提供

川奈さん 出演強要や不当な出演料の搾取がなぜ起こるかというと、プロダクションやメーカーの利益だけを考えた非常に不公平な契約が結ばれているからです。出演者はいいようにプロダクション、メーカーにあしらわれてしまう。そこで、まず私たちのような第三者機関が契約書を作成し、プロダクションが準会員に、メーカーが賛助会員になっていただく中で、会員たちに使ってもらう。入会の条件にするわけです。すると出演者は業界にいる間、入り口から出口までの権利がずっと守られる。契約書を出演者がもらっていないなどということもないよう、運用マニュアルまで作ろうと思っています。

 「絶対に違法な行為はしない」「出演者の権利はこのように守る」といった会則に従っていただければ、安心なプロダクション、安心なメーカーということになる。出演者は自分が関わるプロダクションやメーカーを選ぶことができる。そうすると被害がほとんど防げると考えています。

−−相談窓口はどのようなものになりますか?

川奈さん AV出演者には厳然として職業差別があり、社会的に本当に弱い立場です。一度出ただけで人生が制限されてしまう。じゃあ、出演を隠せばいいのかというと、これもまたやっかいな問題があって、隠しているとバレる恐れもある。秘密を握った人が脅迫者にひょう変するというのも非常に多く、ストーカーや脅迫の被害にも遭いやすい。だから、まず悩み相談窓口を設けてその問題に最適と思われる方を「アドバイザリーボード(有識者らでつくる助言のための委員会)」から選んで紹介します。例えば民事暴力に強い弁護士、風俗関係に強い弁護士、人生相談に乗ってくれるカウンセラーなどです。

 被害が起こった後は警察にお任せした方が早くて正しいのでしょうが、被害は「未然に防いでこそ」です。「被害に遭いそう」「出演内容をちゃんと説明されていないのに明日出演しなくちゃいけない」というときに相談できる窓口が必要で、一分一秒を争うとき、こちらは業界内部にも知り合いがいますので、対処できます。

 AV女優同士はライバル関係。「つらかった」と相談しても「だったら私がその仕事やるわ」ということになりかねない。親しいAV監督に「よその現場でこんなことがあった」と言うと、その監督は「大変だったね」と言いながら「俺の現場で文句言ってほしくないな」と思うかもしれない。出演者はすごく孤立しやすい。気軽に相談できる窓口があったら、小さな悩みでも相談してもらえる。小さな悩みだと思っていることが、実は大きな問題をはらんでいる場合ということも往々にしてあります。業界外の人権団体がAVで被害に遭っている人のために立ち上がってくれるのは非常に心強くてありがたいのですが、そういう人権団体の方が完全にAV出演を肯定的にとらえてくれるかというと、そうではない。すると、現役の人たちは相談するところがなくなってしまうんです。私たちのようなところを頼ってくれるといいなと思います。

−−他にはどんな対策を考えていますか?

川奈さん 「AV出演マニュアル」を作って公開しようと思っています。「こういうスカウトはインチキだよ」「こういうふうにAV業界に入ってくることはあり得ないよ」などと、情報提供します。団体ができること、それからマニュアルを作ることで、一般の社会にとっても「AV業界は思っていたよりも怖くない」「いや、でも一歩間違うと非常に危ない部分もある」というような、フェアな目で見ていただけると思うんです。

 あとは、例えば退職金代わりになるよう、出演料の一部をメーカーに積み立ててもらい、引退するときにまとめて支払うことも考えています。確定申告の教室や演技のワークショップを開くなど、いろいろなことができると思います。

−−人権団体による強要被害告発の後、大手AVプロダクション元社長らが逮捕された労働者派遣法違反事件もありました。AV出演者は「労働者」なのでしょうか?

川奈さん 「労働者」ではありません。労働基準法では「雇用主に時間を拘束される」「雇用主に指揮監督権がある」「諾否の自由が制限される」というような条件で、労働者性の有無を見極めます。AV出演者に労働者性がある場合、「出演しろ」と言われたら諾否の自由がないとか、プロダクションやメーカーの人間に「脱げ」と言われて脱ぐとか、「やれ」と言われたことをやるということになりかねない。そうすると、ものすごく人権が毀損(きそん)されてしまう。そういうわけで、やはりAV出演者は「表現者」でなければならないと思うんですね。自立した表現者が自由意思で出演するという状況でしか、絶対にAV出演は許されてはならない。私自身がそうやって活動してきたので、もしそうじゃない人がいたら、どんなにかつらいだろうと思うんですね。

 AV出演者が完全に自立したアーティストであり、自由意思で表現活動を行っている場合、職業安定法や労働者派遣法違反による摘発対象にはなりません。一方で、「表現者」として立つと労働関係法で守られなくなってしまう部分があるので、団体で保険に入るなどしてカバーしたいと思っています。

 この会の運営の根幹には、やはり「AV活動を健全にしていかないといけない」ということがあるので、AV出演者の方を向いているのですが、ただ、プロダクションやメーカーの賛同も得ながらでないとうまく運営できないだろうと考えています。

http://mainichi.jp/articles/20160712/k00/00m/040/031000c

*1:現時点ですでにヒューマンライツナウと「衝突」していることからも、そのことはうかがえます。