鹿島アントラーズとクラブワールドカップとACL:Sportivaの浅田真樹氏の文章で言い尽くされていること

レアルマドリード鹿島アントラーズの試合は、私もテレビで観ていました。アジアのクラブとしては歴代ベストに位置付けてもいい試合だったと思います。ただし…。

…と思っていたことを言い尽くした文章が先に出ていたので、ここではそちらをクリップしておくことにします。後々読み返す機会のある文章になると思います。

2016.12.19
レアルを追いつめた鹿島。
クラブW杯準優勝の真価はACLで問われる
浅田真樹●文text by Asada Masaki 佐野美樹●撮影photo by Sano Miki

 あわや世紀のジャイアントキリング(番狂わせ)、である。

 ヨーロッパチャンピオンのレアル・マドリード(スペイン)とJ1チャンピオンの鹿島アントラーズの対戦となった、今年のクラブワールドカップ決勝。2-2の同点で延長戦にもつれ込んだ熱戦は、クリスティアーノ・ロナウドの2ゴールにより、レアルが4-2で押し切った。

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柴崎の2ゴールで一度は逆転し、優勝をつかみかけた鹿島

 結果だけを見れば順当な結末ではある。だが、鹿島は前半9分という早い時間に先制されながら、同点どころか一時は逆転。その後、レアルに追いつかれてからも際どいチャンスを作り出した。世界を代表するトップクラブを土俵際まで追いつめた鹿島の健闘は、おおいに称えられるべきだ。

 クラブワールドカップはクラブ世界選手権としてスタートした2005年以来(単発で開催された2000年のクラブ世界選手権は除く)、今年で12回目の開催。そのなかでヨーロッパ勢が対戦相手にリードされたケースは5試合あるが、ヨーロッパ勢が先制しながら逆転されてリードを許したケースとなると、過去に例がない。

 ヨーロッパ勢が南米勢に決勝で敗れ、優勝をさらわれたことが3度あるが、スコアはいずれも1-0。前例に照らせば、実力上位のヨーロッパ勢に一泡吹かせるには、粘り強く守り、ワンチャンスを生かす――。道はこれしかなかったはずなのだ。

 ところが、鹿島は違った。早々の先制点で余裕のクルージングに入り始めたレアルに、MF柴崎岳が前半終了間際に一太刀浴びせ、後半立ち上がりにも返す刀で逆転のスーパーゴール。ヨーロッパ勢を相手に試合をひっくり返したところに、とてつもない価値がある。

 結果的に敗れはしたが、単なるスコア上の惜しい試合とはわけが違った。正真正銘の惜敗である。

「悔しい。本当に悔しい。あのレアルを本当に苦しめることができたが、ちょっとしたポジショニングや判断ミスで失点してしまった。本当に悔しい思いでいっぱい」

 鹿島の石井正忠監督もそう語っていたが、大金星が手中に収まりかけていただけに、無念の思いは強いだろう。

 事実上「1強6弱」状態のこの大会は、ともすれば真剣勝負の世界一決定戦どころか、世界的に人気のあるヨーロッパクラブを担ぎ出し、予定調和の結末を迎える「花試合」で終わりかねない。

 実際、過去の大会ではヨーロッパ勢が大勝する試合も少なくなかった。そこには、もちろん実力差もあるのだが、他の大陸王者が必要以上に「ヨーロッパ王者=スター軍団」をリスペクトしすぎ、ある意味で戦う前から戦意喪失していた面があったことは否めない。

 だが、20数年のJリーグの歴史のなかで、どこよりも勝利にこだわり、どこよりも多くのタイトルを手にしてきた鹿島は、そうではなかった。

「経験をしにこの大会に来ているわけではない。優勝できなければ、2位も最下位も一緒」

 キャプテンのMF小笠原満男のそんな心意気が、すべての選手に浸透していた。鹿島は本気で「白い巨人」を倒しにいった。DF昌子源が語る。

「(逆転ゴールを)岳が決めて、レアルはガラッと雰囲気が変わった。あれが本気なんだと思う。(逆転ゴール後の)キックオフのとき、本当に目つきが変わっていた」

 後半のレアルには、少なからず焦りや攻め急ぎが感じられた。思うに任せず、もどかしそうにプレーしていた。裏を返せば、レアルが「本調子」ではなかったにしても、「本気」ではあったことの証拠である。

 これこそが、今大会の決勝戦が単にスター選手を見るための「ショー」ではなく、純粋な「勝負」として十分に楽しめる試合となった理由だろう。MF永木亮太は言う。

「自分たちらしいサッカーが堂々とできた」

 とはいえ、だ。

 鹿島の健闘をたたえるのは、このくらいにしておきたい。というのも、今大会の鹿島は、そもそも開催国枠という特権を利用した出場にすぎないからだ。

 クラブワールドカップには、6つの大陸連盟(ヨーロッパ、南米、北中米カリブ、アフリカ、オセアニア、アジア)が主催する、それぞれの大会を勝ち抜いた大陸王者が出場できる。日本のクラブでいえば、AFCチャンピオンズリーグACL)で優勝することが出場条件だ。

 しかし、当初は6チームで争われた大会も、開催国のクラブが出場していないと盛り上がりに欠けることから、2007年大会からは開催国枠が新設された。

 本来なら違う国への遠征を重ね、慣れないアウェーの地で多くの試合をこなして、ようやく勝ち取れる出場権。それが、国内リーグを制しただけで手にできるようになったのだ。これはJクラブにとって、おいしいボーナスである。

 しかも、クラブワールドカップに出てしまえば、ノーリスク・ハイリターン。さすがに1回戦でオセアニア王者に負けては体裁が悪いが、そこから先は「よく分からないが、強いかもしれない」未知なる相手との対戦となる。勝って称えられることはあっても、負けたところで批判されることもない。

 本家のワールドカップに出場する日本代表とは雲泥の差。さしたるプレッシャーもなく、ホーム(日本)で戦えるアドバンテージまである。それでいてオセアニア王者に勝ちさえすれば、最低でも今大会で言えば1億円超(100万ドル)の賞金を手にできるのだ。こんなにおいしい話はない。

 実際、気楽にのびのびと戦えるせいか、概してクラブワールドカップでのJクラブの成績はいい。今大会の鹿島も含め、Jクラブは6大会に出場しているが(過去の開催国枠での出場は2011年柏レイソル、2012、2015年サンフレッチェ広島の3回。2007年浦和レッズ、2008年ガンバ大阪はアジア王者での出場)、成績は3、3、4、5、3、2位。2012年大会の広島をき、すべて準決勝に進出している。

 この大会を通じ、日本の選手たちは世界トップとの距離を感じつつも、それなりの手応えを得て、自信と経験を手にしてきたわけである。

 そして視線は、自然と翌年に向けられる。

「来年はACLを勝ち抜いて、アジア王者としてここに来て、チャンピオンになれるように頑張りたい」

 今大会終了後に小笠原がそう語っていたように、過去にこの舞台を経験した選手の多くが同じことを口にしていた。日本でこの大会が開催されるたび、何度なく聞かされた言葉である。

 だが、実際はどうなったか。

 クラブワールドカップの翌年、言葉通りにACLで優勝できたクラブは、もちろんない。それどころか、最近のJ1王者は翌年になるとACLとの両立が負担となり、J1でも成績を落としてしまうケースがほとんどである。結局のところ、地の利を生かした一発勝負では勝てても、地力が求められるACLでは勝てない。それがJクラブの現状なのだ。

 本家のワールドカップもそうだが、こうした大会は本大会で勝つよりも、ある意味で予選を勝ち抜くほうが難しい。

 自国でクラブワールドカップを開催し、開催国枠を生かして出場さえできれば、鹿島と同じような成績を残せるクラブは、おそらく中国にも韓国にもあるだろう。実際、モロッコで開催された2013年大会でも、地元のラジャ・カサブランカが決勝に進出している。確率的には、5回に1回くらいは起きる程度の「小金星」だとも言える。

 それを考えれば、鹿島の快挙も少し割り引いて考える必要がある。つまり、鹿島の真価が問われるのは来年。過去ベスト4にすら進出したことのないACLで初優勝を遂げてこそ、今回の準優勝は本当の価値を持つことになる。

 アジア王者として、再びクラブワールドカップに――。有言実行を期待している。

https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/jleague_other/2016/12/19/___split___acl/index.php

それにしても、考えてみれば、ACLチャンピオンとしてクラブワールドカップに出場した日本のクラブは浦和レッズガンバ大阪なわけですが、それぞれが対戦したACミランマンチェスターユナイテッドの現状は…。十年ひと昔という言葉が身に沁みます。

逆に考えれば、10年もあれば、今の日本サッカーの停滞状況を変えることも十分に可能だとも言えそうです。2008年のアジア王者にして、2016年クラブワールドカップ準優勝クラブと勝ち点1差だったガンバ大阪も、もっと強くなる可能性を秘めているはずです。
(2012年のようなことは、もうないと信じたい…。)