多治見と不来方の21世紀枠:1試合だけを見て云々するのは間違っている。

ナンバーに出ていた中村計さんのこのコラム。書かれている個々の内容には納得いく部分もけっこうあるんですけど、この議論そのものにはぜんぜん納得できないですね。

いちばんの問題は、多治見と不来方のチームのことを、たった1試合で論じてしまっているところです。

こんなことは周知の事実でしょうが、多治見は昨秋の岐阜1位です。岐阜県大会決勝では麗澤瑞浪を10-1と破って東海大会に出場し、センバツ出場校の志学館相手に1-2で初戦敗退。

また、不来方は昨秋の岩手県大会準優勝。決勝では盛岡大附に0-9と大敗したものの、東北大会では八戸学院光星に0-2と健闘。

多治見が初優勝 秋季県高校野球
2016年10月02日13:54

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多治見×麗澤瑞浪=1回表多治見1死二、三塁、佐藤が中越えの2点適時二塁打を放つ=長良川

 秋季県高校野球大会(岐阜新聞ぎふチャンなど後援)最終日は1日、長良川球場で決勝を行い多治見(東濃1位)が麗澤瑞浪(東濃2位)を10―1で破り、初優勝を飾った。3位決定戦では美濃加茂(中濃・飛騨1位)が益田清風(中濃・飛騨9位)に6―0で勝利し、17年ぶりの東海大会出場を決めた。

 多治見は立ち上がりから麗澤瑞浪のエース伊藤智紀を攻め、13安打10得点で圧倒。先発河地京太は4安打1失点で完投。

 美濃加茂は七回に打者一巡で一挙5点を奪い、突き放した。エース池戸昇太は直球を主体に5安打に抑え、完封した。

 来春の選抜大会の選考資料となる東海大会は11日に名古屋市内で抽選会を行い、22日から静岡市で行われる。

http://www.gifu-np.co.jp/news/sports/20161002/201610021354_7500.shtml

不来方盛岡大付が決勝へ 秋季高校野球県大会

 第69回秋季東北地区高校野球県大会第6日は21日、盛岡市の県営球場で、準決勝2試合を行い、不来方が初の、盛岡大付が2年連続17度目の東北大会進出を決めた。不来方は延長十回2死三塁から菊池勇輝(2年)の右中間二塁打で5-4と勝ち越し、さらに暴投で加点。6-4で花巻農を破った。盛岡大付は右腕平松竜也(2年)が8回1/3を2失点で好投し、花巻東を5-2で下した。

 大会最終日22日の決勝は盛岡大付不来方の盛岡地区対決。盛岡大付は連覇、不来方は初優勝を懸ける。3位決定戦は花巻東-花巻農の花巻勢対決。花巻東は2年ぶり、花巻農は初の東北切符を狙う。東北大会は10月14~19日に山形県で開催される。

 10人不来方、打ち勝つ

f:id:bluetears_osaka:20160921143825j:plain:right 選手10人の不来方が打撃のチームカラーを前面に出し、初の東北大会切符を手にした。

 延長十回は四球と犠打、一ゴロで2死三塁とし、菊池勇輝(2年)の右中間二塁打で勝ち越しを決めた。三盗も決め、暴投で自らも生還した菊池勇は「人数がいなくても勝てるということを示せた」と達成感に浸った。

 相手左腕は右打者の内角に食い込む直球が武器。4打席凡退し「内角は詰まるので振るなら外。後ろにつなごう」と4球ファウルで粘り、狙い通りの外角球をたたいた。

 「自分たちの持ち味は打撃。チームの色を見つけることができたのは大きい」と菊池勇。

 新チームは人数が少ないため、全てを鍛えることは難しいと判断し、打撃力強化に特化した。1人も欠けられない状況で、「何があってもやるしかない」と全員に責任感が芽生えたことで力をつけた。小比類巻圭汰主将(2年)の力投を確実な守備で支え、集中打で得点する必勝パターンが確立した。

 「試合ごとに強くなっている。ここまでくるチームと思っていなかった。不思議でしょうがない」と小山健人監督も目を丸くする成長ぶりだ。次戦は夏4回戦で敗れた盛岡大付。「打てないと勝てない」とチームカラーを選択するきっかけとなった相手だ。小比類巻主将は「いつも通り打ち勝ちたい」と一気に頂点を目指す。

(斎藤孟)

【写真=不来方-花巻農 延長10回不来方2死三塁、菊池勇の右中間二塁打で5-4と勝ち越す。捕手清水、球審三浦=県営】

◇第6日(9月21日)の試合 ▼準決勝
【県営球場】
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(2016/09/22)

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/news.cgi?ky=20160922_1

センバツの地区大会別選考基準には引っかからなかったものの、両校ともこうした実績をもって21世紀枠に選ばれているわけで、甲子園での結果だけをもってその力を云々するのはやはり間違っていると思うのですよ*1。10試合やって10試合とも似たような内容だというのならともかく、実力伯仲であっても時として大差の試合になることもあります。

ああそう言えば、札幌第一宇部鴻城については、「チーム力が見劣りした」とか言わなくていいんですか?

甲子園で21点は取る方だって辛い。
センバツ21世紀枠に足りない視点。
posted2017/04/06 07:00

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多治見相手に21得点を挙げた報徳学園21世紀枠相手に対しても全力で戦ったからこそのスコアとなった。

text by 中村計 Kei Nakamura
photograph by Kyodo News

 今選抜大会の決勝、履正社大阪桐蔭のカードは、おそらく今、日本で1位、2位にランキングされるチーム同士の戦いだった、と言ってもいいのではないか。このカードが実現したのも同都道府県から複数チームの出場が可能な選抜大会ならではのことだった。

 チームの完成度という話を別にすれば、改めて、選抜大会は夏の選手権大会よりもレベルが高いと感じた。各都道府県大会の上位チーム同士で、さらに地方大会を行い、そこの上位チームを選んでいるのだから当然といえば当然である。しかも選出校も夏の49チームよりも17チームも少ない32チームと絞られている。

 そんな中だけに、今年は特に21世紀枠で出場した3校中2校のチーム力が見劣りした。報徳学園(兵庫)に0-21で大敗した多治見(岐阜)と、静岡に3-12の大差で敗れた「部員10人」で話題となっていた不来方(岩手)だ。

 厳しい言い方をすれば、勝負になっていなかった。

バントでアウトを意図的に与えているのでは?

 不来方と静岡の試合を見ていて考えずにはいられなかったのは、静岡サイドの気持ちだった。

 静岡は1回表に1点を先制されたものの、その裏、相手の拙い守備に助けられ5点を返し、難なく逆転する。その後、送りバントスクイズを仕掛けるシーンがあったのだが、その都度、ラジオの実況中継では、静岡はまだ攻撃の手を緩めない、といったニュアンスの言葉が使われた。

 しかし、私には逆に映った。静岡はそんな言い方は決してしないだろうが、不来方の頼りない守備を見て、「バントでアウトを意図的に与えているのでは」と。

 というのも、砂川北と鵡川(ともに北海道)をそれぞれ3度ずつ甲子園に導いた「バント嫌い」で有名な佐藤茂富が、かつてこんな話をしていたからである。

「俺は地区予選の1、2回戦ぐらいは、バントをよく使うんだわ」

「嫌になって、野球をやめちゃうでしょ?」

 過疎化が進む北海道の辺境地の高校相手だと、コールドを採用していても、20点差、30点差がついてしまうことも珍しくない。佐藤が続ける。

バントでアウトをあげんの。それで、できるだけ10-0、ちょうどでコールドで勝つ。でないと、あいつら、嫌になって、野球をやめちゃうでしょ?」

 日本では最後まで手を抜かないことこそが礼儀だとする傾向が強いが、佐藤の配慮を失礼だと言えるだろうか。私は強者の「武士の情け」であり、「思いやり」であるように思えた。

 もちろん、これまで甲子園では数々の逆転劇が演じられてきた。何点とっても「絶対」はないという言い分もわかる。しかし、大逆転は、さほど実力差がない場合に限る。明らかな力量差があったら7点差、8点差をひっくり返すことはほぼ不可能だ。

「どんだけ点が取れちゃうんだろう」という心配。

 あの試合、不来方側に立てば「どんだけ点を取られてしまうのだろう」と不安だったろうが、静岡側からすれば「どんだけ点が取れちゃうんだろう」と心配だったのではないかと思うのだ。

 しかも21世紀枠で選ばれたチームは、主戦投手が1人しかいない場合がほとんどだ。甲子園ではコールドがないため、点を取れば取るだけ試合時間は長くなり、故障のリスクをともなう。それを承知で攻め続けなければならないチームは酷である。

 ただ選抜はレベルが高いゆえに、どうしてもお馴染みの強豪私学ばかりになりがちだ。そんな中、21世紀枠の存在は貴重でもある。私も不来方のような魅力的なチームを甲子園で見てみたい。しかし、やはり3チームは多過ぎるのではないか。大会の緊張感が損なわれかねない。

21世紀枠同士で、まず「0回戦」を行うのだ。

 そこで妙案がある。21世紀枠同士で、まず「0回戦」を行うのだ。大会初日、開会式のあとに、4チームなり、2チームなりで、1回戦に出場するための決定戦を行う。そして勝った2チームもしくは1チームは、1回戦の最後に組み込む。

 21世紀枠同士とはいえ1つ勝ったチームなら、慣れもあり、それなりに勝負になると思うのだ。それに「0回戦」を採用すれば、21世紀枠の選出校を極端に減らさずに済む。

 21世紀枠をなくすべきだとは思わない。確かに、魅力的な制度だ。しかし、この制度を考える上で欠けていると思わざるを得ないのは、21世紀枠のチームと対戦したチーム側からの視点である。

http://number.bunshun.jp/articles/-/827788

そもそも、21世紀枠センバツ通算成績は、こちらのサイトによると現時点で19勝45敗。初戦の勝敗を見ると15勝30敗。いずれにしても勝率はほぼ3割といったところです。大きな声では言えませんが、都道府県別でこの数字に届いていない県が複数あるんですよね…。

akatsuki18.hatenablog.com
www.asahi.com

そしてもう一つ、私が引っかかっているのは、多治見と同じ「0-21」で甲子園で大敗を喫したあのチームのことです。「厳しい言い方をすれば、勝負になっていなかった」かもしれませんし、「大会の緊張感が損なわれかねない」ものであったかもしれませんね。

そのへんは、どうなんでしょ?

胸張れ清峰、準優勝 2、3回逸機、流れ戻せず
2006年04月05日

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横浜―清峰 3回裏清峰2死、佐々田は右前安打を放つ

 あと一歩、優勝旗には届かなかった。4日の選抜高校野球大会決勝。清峰は横浜(神奈川)に敗れた。大舞台の重圧があったのか。0―21の大敗だった。だが、長崎県勢の準優勝は、90年を超える高校野球史上初めてだ。「よく頑張った」「胸を張って帰ってこい」。街で、学校で、甲子園で。昨夏の「旋風」を超えた球児たちに、喝采が鳴り響いた。

 ◎…好機に、あと一打が出ない。もどかしい試合展開の中で、清峰は流れをつかめずに終わった。

 3点を先制された直後の2回裏。先頭の木原が二塁打で出塁。四球と犠打で1死二、三塁と反撃の糸口をつかみかけた。だが、続く田辺と池野が凡退。相手投手の変化球にタイミングを外された。

 準決勝まで、清峰打線は徹底した直球狙いで、好投手を次々と打ち崩してきた。しかし、この試合では、勝負どころで相手投手の多様な変化球に打ち取られた。

 甲子園で初めての無安打に終わった5番佐々木伸は話す。「思った以上に相手投手の変化球の切れが良かった。研究されてるな、と思った」

 相手の堅い守備にも阻まれた。

 3回裏2死一、二塁。木原が甘いフォークを右にはじき返したが、相手二塁手にダイビングキャッチされ、得点につなげることができなかった。

 木原は言う。「相手のプレーをさせてしまい、自分たちの野球ができんかった」。試合の流れは完全に横浜に傾いた。清峰に守りのミスが出始める。

 6回、無死一、三塁で有迫が一塁に絶妙のタイミングで牽制(けんせい)球を送った。逆をつかれる走者。だが、一塁手山辺が後逸し、三塁走者の生還を許した。

 打線が封じ込まれ、守りにも乱れが出た清峰。本来の野球を取り戻すことは最後までできなかった。

 ◎…連投のエース有迫は立ち上がりから切れがなかった。準決勝までの4試合で計570球。疲労の色は隠せなかった。

 ボールが先行し、「打たせて取る」つもりの球が甘く入る。ことごとく外野にはじき返された。3回途中で降板する。

 リリーフの富尾も勢いに乗った横浜打線を止められない。結局、計4人の投手をつぎ込んで被安打14、与四死球17。走者をためては、適時打を許し、失点を重ねた。

 よもやの大敗に、試合後しばらくぼうぜんとしていた主将の広滝はこう語った。「すべてで上を行かれた。守っていても、抑えられる気がしなかった。夏までに最後まで戦える体力を身につけたい」

 越えられなかった最後の壁。清峰の新たな挑戦が始まる。

◆学ぶところ多かった(清峰・吉田洸二監督)

 点差以上に学ぶところが多かった。横浜は、今まで当たったチームと違っていた。選手たちは準優勝したからと言って生意気になったり、威張ったりすることなく、この経験を人生でプラスの方向に生かしてほしい。

◆楽しんで戦い抜いた(清峰・広滝航主将)

 横浜の力を見せつけられた。点差が開き、つらい試合展開になったが、チームのみんなとは、最後まで楽しんで戦うという気持ちで一致していた。体力と精神力を鍛え直し、夏も甲子園の舞台に帰ってきたい。

http://www.asahi.com/koshien/news/TKY200604050078.html

その他にも、興南に1-13で大敗した東海大相模とか、大阪桐蔭に0ー17で大敗した常葉菊川とか、センバツなら今治西のあの試合とか済美のあの試合とか神村学園のあの試合とか、引き合いに出したいケースはいくつかあるのですが、めんどくさいのでやめておきます。

*1:逆に言えば、京都府大会ベスト8止まりだった洛星が甲子園で同じスコアで敗退したとしたら、ちょっと話は変わってきます。