和歌山県、「博士号教員」を高校教員採用試験全教科で募集へ

博士号取得者の就職、いわゆる「ポスドクの出口」問題が深刻さを増しているのは言うまでもないことです。そんな中で、和歌山県のこの取り組みは注目に値します。

ポイントは、従来から募集していた理系科目に加えて、文系を含む全科目の募集へ展開したという点です。これがすぐにポスドク問題の解決に直結するわけではないにしても、社会的に博士号取得者の選択肢や可能性を広げるという意義は少なくないと思います。

個人的には、こうした博士号教員の採用が、現職教員の学位取得(特に、教育学以外の専門分野の修士号・博士号まで視野に入れたもの)にもつながって、全体としての教員の専門性向上や、あるいは最前線の研究現場と教育現場との間の人的交流の拡大に向かうことを期待しています。

「博士号で受験」全教科に 和歌山県の高校教員採用試験

 和歌山県教育委員会は本年度実施の教員採用試験から、公立高校募集の全教科で、関連する博士号を持っていれば教員免許状がなくても受験できるようにした。これまでは高校の理系科目に限っていたが、文系にも広げた。県教委は「高度な専門性を持った人材を広い範囲から集めたい」と話している。

 通常、教員採用試験を受験する場合、教員免許状が必要だが、県教委は2015年度実施の採用試験から、高校の理系教科(数学、理科、農業、工業)について志望する教科に関連した博士号を持っていれば、教員免許状を不要としていた。

 対象者は1次検査の「一般教養」「校種・教科専門」、2次検査の「教職専門」が免除される代わりに、1次検査で「作文」が必要。合格者には県内で有効な「特別免許状」を発行する。前回試験までの3年間で、2人が合格したという。

 今回これを募集全教科に拡大する。全国的に理系では同様の優遇措置はあるが、文系まで拡大する例は珍しいという。

 今回の試験では、他に二つの主な変更がある。小学校志願者で、中学校や高校の英語免許を持っているか取得見込みの場合は、1次検査の「校種・教科専門」(200点満点)の得点に10点加点する。小学校で今後、英語の授業が本格的に実施されることなどから、中学校の英語教育に円滑な引き継ぎができるような人材を確保するためだ。

 さらに、特別支援学校の1次検査「一般教養」「校種・教科専門」を免除する講師経験者の対象を拡大する。この措置を受けるには、特別支援学校での講師経験が一定期間必要だったが、県内の国公立小中学校で特別支援学級を講師として担当した期間もそれに充てることができるようにした。

(2018年5月10日更新)

http://www.agara.co.jp/news/daily/?i=351675&p=more

博士号教員については、秋田県の取り組みが先行事例としてあげられます。下記のリンク先などが参考になるでしょう。

平成21年5月18日付の秋田県教育委員会による配布資料、項目5のQ&Aがなんだかずいぶんエグい質問にサラッと答えていますね。実際にあった質問なんでしょうか。

博士号教員の活用について:文部科学省

5 博士号教員採用をめぐるQ&A

Q.マニアックな専門家が生徒指導などできるのか?
A.県教委による選考(教諭としての資質能力)を経て採用されており、問題はない。生徒、教員集団に溶け込み、今すぐクラス担任を任せてもよい状況である。

Q.最先端知識だろうと授業の雑談のネタ以上の用途はないのでは?
A.幅広い土台を持ち、同じ内容でも違った切り口から指導できるなど、優れた教科指導力を持っている。また、児童生徒の科学的探究心を刺激し育み、未来のイノベーションを担う人材育成にも貢献している。

こちらの文章を読んでいても、手ごたえを感じつつ勤務していることがうかがえます。

秋田県の博士号教員について

博士号教員のこれから
 秋田県が最初に実施した博士号教員の試みは,他県にも広がっており,今後もこの動きは続くと考えている.SSH に代表されるような理数教科・国際化の事業が行なわれる背景には,グローバル化が進み,アジアや他地域の新興国が急速に力をつけてきていることに対する危機感,焦りがある.受験問題を解く能力だけがあるではなく,自然科学・技術への興味を持ち,創造性を発揮できる人材が求められているのである.そこで本格的な自然科学研究の経験をもつ博士号取得者ができることは大きい.通常の授業や出張授業,課題研究の指導やキャリア教育等,いたるところに力を発揮できる場面がある.秋田県の博士号教員は初採用の世代が 4 年目に突入し,高校教育のことを知るフェーズから,博士号教員ならではの教育をつくりあげ,後に続く方々のための環境整備の段階に入ったと考えている.早速研究会※を立ち上げて活動している.
 実験設備がいらない数学者にとって,高校教員は就職後も研究が続けられる,数少ない職場のひとつである.生徒指導・特別活動・クラブ活動と duty は多いが,最近の大学の状況を見る限り,仕事量は大差ないのではと感じている.待遇もそれほど悪くない.
 それにも増して,現場には研究経験のある人材が求められている.先入観を持たずにぜひ教育の世界に飛び込んできてほしい.

ちなみに現在は、秋田・和歌山以外でも募集があるようです。こうした取り組みが今後さらに広がることも期待していいと思います。

zzzdiary.blogspot.jp
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