金貸し業者・日本学生支援機構のやり口をご覧ください。

この記事、制度面の問題を指摘しているのはもちろんですが、そこに収められている日本学生支援機構サイドの「言い草」が何といってもポイントですね。「法的に問題はない」という彼らの主張の妥当性だけでなく、彼らが究極的に何のために存在している「機構」なのか、よく見ておいた方がいいと思います。

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奨学金、保証人の義務「半額」なのに…説明せず全額請求
諸永裕司、大津智義 2018年11月1日05時26分

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国の奨学金 返還請求の流れ

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「分別の利益」を承認した旨を伝える日本学生支援機構の文書

 国の奨学金を借りた本人と連帯保証人の親が返せない場合に、保証人の親族らは未返還額の半分しか支払い義務がないのに、日本学生支援機構がその旨を伝えないまま、全額を請求していることがわかった。記録が残る過去8年間で延べ825人に総額約13億円を全額請求し、9割以上が応じたという。機構の回収手法に問題はないのか。

 機構は奨学金を貸与する際、借りた本人が返せない場合に備え、連帯保証人1人(父か母)と保証人1人(4親等以内の親族)の計2人が返還義務を負う人的保証か、借りた本人が保証機関に一定の保証料を払い、返せない時に一時的に肩代わりしてもらう機関保証を求める。最近は半分近くが機関保証を選んでいるが、約426万人の返還者全体でみると7割近くが人的保証だ。

 法務省によると、この場合、連帯保証人は本人と同じ全額を返す義務を負うが、保証人は2分の1になる。民法で、連帯保証人も含めて複数の保証人がいる場合、各保証人は等しい割合で義務を負うとされるためだ。「分別の利益」と呼ばれる。

 しかし機構は、本人と連帯保証人が返せないと判断した場合、保証人に分別の利益を知らせずに全額請求している。その際、返還に応じなければ法的措置をとる旨も伝えている。機構によると、2017年度までの8年間で延べ825人に全額請求した総額は約13億円で、9割以上が裁判などを経て応じた。機構は本人が大学と大学院で借りた場合などに2人と数え、「システム上、正確な人数は分からない」としている。

 一方で、機構は保証人から分別の利益を主張された場合は減額に応じている。ただ、件数や金額は「(機構の)財産上の利益などを不当に害する恐れがある」として明かしていない。

 こうした回収手法について、機構の担当者は「法解釈上、分別の利益は保証人から主張すべきものと認識している。主張せずに全額を払い、肩代わり分を連帯保証人らに求めることもできるため、選択は保証人に委ねている」と説明する。

 これに対し、昨年の民法の大幅見直しで法制審議会(民法部会)幹事を務めた山野目章夫・早大法科大学院教授(民法)は「全額を払うよう求めること自体は違法ではないが、一般に法知識のない保証人に分別の利益を伝えないまま全額回収するのは妥当でない。奨学金事業を担う公的機関として社会的責任を問われるだろう」と指摘。取材に応じた専門家の多くも同様の見解だ。

 機構を所管する文部科学省の担当者は「全額請求は法令上、誤ったものとは認識していない。ただ、分別の利益について丁寧に説明するなど、機構が検討する余地はある」と話す。(諸永裕司、大津智義)

日本学生支援機構・遠藤勝裕理事長の見解

 国の奨学金の保証人は、未返還額の半分しか支払い義務はない――。それを伝えないまま日本学生支援機構が全額を請求していることについて、遠藤勝裕理事長に10月25日、見解を尋ねた。

 ――「分別の利益」を伝えずに保証人に全額請求するのは妥当か。

 「法的に問題はない。奨学金の原資は税金で、全額回収する責任がある。保証人から分別の利益を言われれば半額にしている」

 ――なぜ伝えないのか。

 「奨学金を貸与する際、人的保証を選ぶのは毎年、約25万人。全員に伝えるには膨大な事務作業がいる」

 ――全額請求の際に保証人に伝える考えは。

 「もう少し親切にというのもわかる。分別の利益が現実に問題となるのは法的措置に入るところなので、その前に保証人に伝えるのは一つの大きな改善点だと思う」

 ――人的保証制度についてどう考えるか。

 「経済力のない年金生活者などが不幸になる事態は避けたい。そのため、人的保証を廃止し機関保証に一本化したい。奨学金制度に関わる文部科学省財務省などに理解を求めたい」

記者の視点 諸永裕司

 「分別の利益」を主張しない保証人からは全額を回収し、主張した保証人には減額に応じる。自ら進んでは伝えない――。日本学生支援機構の回収手法は、国と個人の情報格差を考えれば公正とは言いがたい。その結果、法知識を得た一部の保証人だけが半額になる不公平が生じている。

 機構は、保証人が全額払った後で、本人や連帯保証人に肩代わり分を求められると説明する。だが、機構や委託した債権回収会社ですら回収できなかったのに、保証人が取り戻せるとは考えづらい。

 連帯保証人と保証人をともに立てる仕組みは、政府系や民間の金融機関ではほとんど例がないという。人的保証制度は奨学金が創設された戦中の1943年から変わらない。保証人の親族まで巻き込む人的保証制度は見直すべき時期にきている。

https://www.asahi.com/articles/ASLBY56YWLBYUUPI003.html

「分別の利益」知らせず奨学金を全額請求、専門家は批判
諸永裕司、大津智義 2018年11月1日09時10分

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分別の利益とは

 奨学金の保証人は本来、未返還額の半分しか支払う義務はない――。日本学生支援機構はなぜ、そのことを保証人に知らせないまま全額請求しているのか。専門家はどうみるのか。

 機構は2004年に日本育英会から改組した後、金融の専門家を含む有識者会議の提言に基づいて金融の手法を採り入れた。以来、独立行政法人として毎年、回収率を厳しく問われている。

 全額請求について、担当者はこう話す。

 「奨学金事業は、学生時代に貸した分を卒業後に返してもらい、次世代の原資に回すことで成り立つ。保証人の方々は、本人と連帯保証人が払えなければ返すと約束いただいている」

 税金が投入されている事業で、分別の利益を認め、本人や連帯保証人からも回収できずに事実上の債権放棄をすれば、また税金で穴埋めすることになる。「それで国民の理解が得られるでしょうか」

 識者の間でも回収が重要であることに異論はない。ただ、その手法に対して、取材した専門家からは批判の声があがっている。

 新潟県弁護士会による保証についての実務書の執筆に携わった鈴木俊(つよし)弁護士は「法律の知識によって負担が半分になったりならなかったりするのは公平でない。分別の利益を伝えず、国と個人の情報格差に乗じて利益を得るのは不適切だ」と批判する。

 民法を専門とする学者や民法に詳しい弁護士の多くも次のような認識で一致する。「機構は、保証人が分別の利益について知らないであろうことを知りながら全額請求して利益を得ていることになり、公正ではない」

 昨年の民法改正に携わった山野目章夫・早大法科大学院教授は「奨学金の保証人は連帯保証人より責任を軽くするために設けられたとみられる。その保証人に分別の利益を伝えずに全額請求するのは制度の趣旨にそぐわない。そうしたやり方を続けると奨学金事業そのものへの信頼が失われ、事業の安定的な運営にもマイナスではないか」と話す。

 一方、内閣府消費者委員会委員長を務めた河上正二・青山学院大教授(民法)は「機構の対応が適切かという疑問は理解できるが、民法の解釈からは、伝える義務があると批判まではできない。ただ、保証人の保護は昨年の民法改正でも柱の一つで、情報提供について今後考えていくことは必要だ」と話す。

 そもそも機構の解釈が誤りだ、という意見もある。平野裕之・慶大法科大学院教授(民法)は「分別の利益を保証人が主張するしないにかかわらず、保証人の債務は契約時点で半分になると解すべきだ。機構は、もともと半額の債務しか負わない保証人に全額を請求しており、過大請求にあたる」と指摘する。

 機構によると、過去8年間で9割以上が全額請求に応じ、これまでに合意した返還計画や和解内容を変更したことはない。奨学金問題対策全国会議事務局次長の西川治弁護士は「今後、すでに返した半額分の払い戻しや減額を求める保証人が出てくれば、訴訟になる可能性もある」とみる。(諸永裕司、大津智義)

分別の利益

 民法では、複数の保証人がいる場合、各保証人は等しい割合で義務を負う、とされる。奨学金の人的保証制度では、借りた本人の債務を連帯保証人1人(親)と保証人1人(4親等以内の親族)の計2人が保証する。連帯保証人は本人と同じ全額を返す義務を負うが、保証人は支払い義務が2分の1になる。

https://digital.asahi.com/articles/ASLBN4HVYLBNUUPI003.html