「和解・癒やし財団」がもたらし、残したものは

ああ、これはいい記事です。従軍慰安婦問題の現状、そして当事者の置かれた状況に丁寧に迫っています。そこを疎かにしたイデオロギッシュな言説は、この問題を多少なりとも良い方向に進めていく努力の足を引っ張るもの*1でしかないでしょう。

この事態を政治的にどう収拾するのかはまったく全然わかりませんが*2、「アジア女性基金」から「和解・癒やし財団」へという実務的な取り組みの流れは、形を変えながらいずれその先につながるものと思います。

(世界発2019)慰安婦財団、残したものは 支援金、元慰安婦34人受け取り
2019年1月28日05時00分

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母が元慰安婦だった女性。一緒に相談して支援金を受け取ることを決めたという

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支援金受け取りを拒否した李玉善さん

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韓国外交省前で、日韓合意破棄と財団の解散を訴える元慰安婦支援団体=2018年12月28日、ソウル、いずれも武田肇撮影

 慰安婦問題の解決をうたう日韓合意で設立された「和解・癒やし財団」が韓国側の決定を受け、道半ばで解散する見通しとなった。元慰安婦を支える活動は、どこまでできたのか。(ソウル=武田肇

■家族「拠出の日本に感謝」

 「(財団から受け取った支援金は)母の犠牲と引き換えだと思っています」

 昨年末、取材に応じた韓国北西部在住の女性(69)はこう語った。90代の母は元慰安婦。1億ウォン(約1千万円)を受け取った。

 財団は2015年12月28日の日韓合意で韓国政府が設立し、日本政府が10億円を拠出。元慰安婦の名誉と尊厳の回復をはかり心を癒やすことを目的に、元慰安婦に支援金1億ウォン、遺族に2千万ウォンを渡す現金支給事業をした。財団解散発表までに元慰安婦47人中34人、遺族199人中58人が受け取り、元慰安婦2人と遺族13人が審査待ちだ。

 母は財団の説明を聞き、「日本に申し訳ないという気持ちがあるから、お金を出したのだ」と考えたという。当事者のこうした声が韓国メディアで紹介されることはほとんどない。

 女性は10年ほど前まで母が元慰安婦とは知らなかった。右腕の傷は慰安所から逃げ、殴打されたから。自殺未遂を繰り返したのは元慰安婦の経歴が露見するのを悲観したから――。告白を聞き、「足元が崩れるような衝撃を受けた」。

 負い目を感じる母は女性に「支援金の半分を渡す」と言ったが銀行に預けたままだ。母の認知症が進み、勝手に使うわけにはいかないと思っている。「(10億円を拠出した)日本の人たちに感謝しています」とも語った。

 同様に支援金を受け取ったソウルの90代の元慰安婦は、不動産投資に失敗した長男の借金返済に全額を充てた。子どもを手助けできたのは誇りだと話した。

 支援金は癒やしにつながったのか。そう尋ねると女性は「苦労に比べると満足はできないが、心は少し軽くなった」と答えた。

■合意反対、7人受給拒む 「求めたものでない」

 関係者によると、合意に反対して受給を拒んだ元慰安婦は7人。その一人で、元慰安婦の共同生活施設「ナヌムの家」(京畿道広州市)に暮らす李玉善(イオクソン)さん(90)は「支援金は私たちが求めたものではなく、財団の解散は当然」と語った。望むのは、日本の首相が元慰安婦の目の前で謝罪することだけだという。

 元慰安婦支援団体は、李さんのような声こそが「本心」だとして政府間合意を批判。ナヌムの家も合意を批判したが、実際には入居する元慰安婦10人(合意後亡くなった人を含む)のうち6人が支援金を受け取っている。この事実も韓国メディアで伝えられることはほとんどない。

 韓国主要紙の元幹部は「元慰安婦支援団体が合意を『被害者の意見を聞かず日本側に有利に決めた』と批判し、記者の多くが『支援金受給は道徳的に正しくない』と考えたことが報じられない原因だ」と話す。

■残った6億円、協議見通せず

 韓国政府が財団の解散を進めると発表したのは昨年11月。日本が出した10億円のうち約6億円が残り、目的を果たしたとはいえない。日本外務省は「同意なき解散発表」だと抗議。協力の象徴になるはずの財団が新たな火だねとなった。

 文在寅(ムンジェイン)政権が財団解散を急いだのは、一昨年の大統領選で、支持者である元慰安婦支援団体の主張に沿って日韓合意の再交渉を公約に掲げたためだ。政権発足後は対日関係を考慮し「合意は破棄しない」と転じたものの、合意を朴槿恵(パククネ)前政権の失政とする認識は変えず、財団は「政権の方向性と相いれない存在だった」(大統領府関係者)。

 合意の際、日本側は慰安婦問題の責任を認め、安倍晋三首相名で「おわびと反省」を表明。その上で両政府が協力して元慰安婦への支援事業を進め、「最終的かつ不可逆的」に解決するとした。事業を担う財団が解散すれば、合意の柱は失われる。

 韓国側で文政権への批判もある。財団理事を務めた国民大の李元徳(イウォンドク)教授は「合意には、日本の首相の公式謝罪や日本政府資金での賠償といった長年の韓国側の主張を事実上実現した面がある。完全否定は韓国にとっても損失」と指摘する。

 文政権は日韓合意に代わり、元慰安婦の声に耳を傾ける「被害者中心主義」を掲げるが、具体策は不明だ。また昨年夏に開設した慰安婦問題の研究所は、運営のトラブルで所長が辞任し、機能を停止した。「何の新しい取り組みもできていない」との不満が支持層からも出ている。

 李氏は、残余金6億円について合意の趣旨に合う使い道を両国で探るよう提案する。元慰安婦の追悼事業などが考えられるという。「韓国側は合意を前政権への評価と切り離す視点が、日本側は『おわびと反省』を維持する姿勢が必要だ」

 ただ、徴用工訴訟判決や海上自衛隊哨戒機へのレーダー照射問題で関係が悪化し、残余金をめぐる協議のめどは立たない。

◆キーワード

 <韓国の元慰安婦 戦時中、日本軍の関与の下でつくられた慰安所で、朝鮮半島出身の女性が将兵の性の相手を強いられた。韓国政府が認定した元慰安婦は240人で、1月現在の生存者は25人。日本政府は1995年にも「アジア女性基金」の設立を主導、国民から集めたお金や、首相の手紙を元慰安婦に送る事業をしたが、受け取った人は一部にとどまった。

https://digital.asahi.com/articles/DA3S13868033.html

*1:もしくはそれ自身が観察と分析の対象。

*2:文在寅政権の間は難しいかもしれません…残念ながら。