なんで若手が首切りに!?:私立大学支援事業、突然の打ち切り

これ、東京医科大の写真が出てますけど、東京医科大だけの話ではないですからね。全事業の途中減額・打ち切りともなれば、影響は甚大ですよ。文科省と東京医科大との間の贈収賄事件に無関係な若手研究者の突然の失職なんて、当事者には洒落にもなりません。

ブランディング事業」と銘打ってはいても、実際には研究支援事業なんですから、財務省の主張も屁理屈なわけです。にもかかわらず、そんなのに反論しにくい立場に自ら追い込まれた文科省オウンゴールのしわ寄せが末端に来ている構図です。

酷い話ですが、事業予算で任期付きで雇用されている若手研究者の多くは、それを受け入れるほかない立場なんですよ。雇用主に言ってもそこではどうにもならないですから。辛いです。

私大への支援事業、計画途中で打ち切りへ 大学側は反発
波多野陽 2019年4月9日05時00分

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汚職事件の舞台となった東京医科大も私立大学研究ブランディング事業に採択されていた=東京都新宿区

 文部科学省は、私立大学の目玉研究に最長5年間の継続支援をする「私立大学研究ブランディング事業」を計画途中で打ち切ることを決めた。同事業をめぐる東京医科大学の贈収賄事件後に見直していた。年間50億円を超える事業で、若手研究者の人件費などとして見込んでいた大学側は、突然の打ち切りに反発。職を失う研究者も出ている。

 採択校はのべ120校。早稲田、慶応、上智立命館、関西、名城大など有名私大の多くが助成を受けてきた。文科省は3月の1日と8日に大阪、東京でそれぞれ説明会を開き、事業打ち切りを採択校に伝えた。

 事業は、大学を挙げて得意な研究を伸ばし、ブランドを高めるのを支援する目的で2016年度から始まった。16年度(予算額72・5億円)に40校、17年度(同79億円)に60校、18年度(同56億円)にも20校を採択。各校に最長5年間、毎年数千万円が配分されるはずだった。

 だが、東京医大が採択されるよう依頼を受けた見返りに自分の息子を同大に合格させたとして、東京地検は18年7月、文科省の局長(当時)を受託収賄の疑いで逮捕、起訴した。同大理事長(当時)らも贈賄罪で在宅起訴した。

 文科省は事件後、事業を見直し、16、17年度の採択校の支援は3、4年で、18年度の採択校は3年で打ち切ると決めた。当初は計画通り5年間支援することを目指したが、財務省から「ブランドイメージではなく、教育・研究の質の向上に資する事業を優先すべきだ」として大幅な予算減額を迫られ、受け入れたという。19年度も支援は続けるが大幅に減額する見通しだとしている。

 有識者で構成され、採択校を選定してきた「私立大学研究ブランディング事業委員会」は、支援期間の短縮などを「極めて遺憾」とする委員長所見を公表した。ある大学の担当者は「(事件の)連帯責任を取らされるのは納得がいかない」と批判している。(波多野陽)

https://www.asahi.com/articles/ASM485CH9M48PTIL013.html

「はしご外された」職失う研究者も 私大の支援打ち切り
波多野陽 2019年4月9日05時00分

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汚職事件の舞台となった東京医科大も私立大学研究ブランディング事業に採択されていた=東京都新宿区

 計画の途中で、突然文部科学省が打ち切りを決めた私立大学研究ブランディング事業。助成は大学が若手研究者を雇用する資金にもなっていた。雇用契約の更新に悩む大学もある。

私大への支援事業、計画途中で打ち切り 大学側は反発

 事業の採択校に雇用されている理系の男性研究者は憤る。「わずか数年で職を失えば、次の就職活動に持って行く成果すら得られない。生活の不安もある」

 男性の給与は事業の助成でまかなわれている。事業の打ち切りを受けて、雇用継続は難しいとする大学と相談し、別の大学の職を探すことにした。

 任期制の研究職を経て、今の大学が採択校になった直後のスタッフ募集に応じた。良い研究者がそろい、5年間の計画があった。「ここでじっくり経験を積み、次のステップにつなげよう」と思ったという。

 事業打ち切りを告げられたのは、職場に慣れ、専門性を生かして大学に貢献しようと意気込んでいた矢先だった。

 この大学の担当者は「つらいことだが、彼にやってもらうと約束した仕事がこの打ち切りでできなくなる可能性がある」と説明する。男性は「博士を増やすという旗を国が振っておきながら、汚職事件のあおりのような形で事業が終わるなんて。はしごを外されたような気持ちだ」と語る。

 2016年に閣議決定された第5期科学技術基本計画(20年度まで)は「若手研究者のキャリアパスが不透明で雇用が不安定な状況にある」と指摘し、若手への研究費支援などの必要性をうたう。ある大学の幹部は「国の支援計画が短期で変わるという前例を作れば、就職か研究かで悩んでいる若手は大学に残らなくなる」と心配する。「国際的な研究の競争力のために若手の雇用の安定化を目指しているのは他ならぬ文科省だったはずだ」と批判する文科省の関係者もいる。

 こうした反発に文科省の担当者は「予算の制約がなければ事業を続けたかった」と釈明している。

 「我々は何も悪いことをしていないのに」。3月1日、大阪市であった文科省の説明会。非公開の会場の外に、採択校の関係者から怒りの声が漏れた。

 私立大にとって、50億円を超える同事業の助成は、貴重な研究資金となっている。代表的な国の研究助成である科学研究費助成事業(科研費)の配分は国立大に重く、18年度は国立大の1343億円に対し、私立大は397億円だった。

 ブランディング事業に採択された研究には、各大学の特色が出ている。たとえば、国学院大は「古事記学の拠点形成」。名城大は「青色LEDの発明」でノーベル物理学賞を受けた赤崎勇終身教授を中心に光デバイスを研究する。

 早稲田大は、医療工学や社会科学の横断的なプログラムが採択されている。早稲田大の広報課は取材に「重要研究課題として中長期的に取り組んできた事業が、途中で打ち切られるのは大変遺憾。国立大と比較し、科研費が少ない中で、私立大の研究力基盤の強化をサポートする施策が必要だ」と回答した。

 アジア・太平洋地域の法秩序の多様性の研究で助成を受けていた中央大は担当者が「事業計画の規模の見直しなど少なからず影響を及ぼす」とした。「研究推進と成果の社会還元は、国の補助事業か否かにかかわらず、重要な課題」として、事業を継続させることを検討するとしている。(波多野陽)

https://digital.asahi.com/articles/ASM485CH9M48PTIL014.html