韓国住宅事情の未来

「韓国の住宅事情」と聞いてまず頭に浮かぶ光景に、高層アパート*1群がある。よほどの田舎に行かない限り、その姿を見ないで済ますことはなかなかできない。



韓国の住宅がこんな風に高層化されていったのは、せいぜいこの40年のこと。それらの建物は、初期に建てられたものから徐々に老朽化が進むだろうことは想像に難くない。

それが問題だということはわかるし、簡単な解決策があるわけでもないことも理解できるのだが、それにしてもこの記事、表向きはともかく、深刻な危機感があるようには思えない。

そう思う理由は、冒頭の一文にあるのだろう。ここに書かれているような初期のアパートに、この論説委員氏が住んでいるはずがない。どこかは知らないが、立地のいい最新高級アパートに住むだけの経済力はあるはずだ。過去の遺物呼ばわりされる古アパートの住人に対する言及の仕方が、どこか「上から目線」でエラそうなのは、その反映ではなかろうか。

記事入力 : 2010/09/26 07:59:16
【萬物相】マンション共和国の未来

 ソウルに初めて建築された現代式マンションは、1962年に住宅公社が建設した麻浦マンションだった。それから40年ほど経ったが、当時の世帯の6割がまだ住んでいる。作家の崔仁浩(チェ・インホ)が短編小説「他人の部屋(1972年)」でマンションを人間疎外の空間としてとらえたが、その後の作家らもマンションを「家」としてみなしていない。「隣の男が死んだ。壁を一つ隔てて彼は死んでおり、私は生きている。彼は死んで1305号に横になっており、わたしは生きて1305号で横になっている」(金恵順「南と北」)。

 フランスの地理学者ヴァレリー・ジュルゾウは著書『アパート共和国(韓国でアパートは日本のマンションに相当)』で、「韓国では土地が狭いからではなく、権威主義の政権が中産層の支持を得るためマンションを手当たり次第に建設した」と指摘した。同氏は、70−80年代に建設されたマンションが再建築のために過去が失われるソウルについて、「その日暮らしの都市」と表現した。古いマンションの再開発問題でソウルの未来は明るくないとのことだ。

 作家のキム・ウンヨンは、長編小説『マイホーム購入の女王』で、マンションの光景を「仕方なく建てた欲望のバベルの塔」と表現した。「近頃は、地域区国会議員の仕事ぶりを評価する基準が町内のマンションの価格と言われている」。また「政治家はニュータウンと再開発企業のCEO、マンションの所有者は株主のようだ」と表現した。ソウルにそびえ立つマンションについては「20年も経てばボロボロになるだろう。ソウルのマンションは悪の軸」と嘆いている。

 最近のソウル市の調査で、ソウルのマンションの26.7%が築20年を超えていることが分かった。瑞草区と江南区のマンションの約半数が築20年を超えている。江東区、陽川区、松坡区ではそれぞれ40%を超えている。既に狎鴎亭洞の現代マンションは古くなり、都心の景観を乱しているほどだ。首都圏の新都市マンションも築15年が経過した。今後20年後のことを考えずに30階を超える高層マンションの建築も増えている。

 古いマンションに人が住まない将来を案ずる声が高まっている。都市を離れる人口が増加し、都心のマンションが空洞化する先進国の現象は、対岸の火事ではない。マンションを建築することだけに夢中になった産業化時代のパラダイムから脱する時期が来ている。人の住まない「欲望のバベルの塔」が放置されたマンション共和国の未来。考えただけでもゾッとする。

朴海鉉(パク・ヘヒョン)論説委員

http://www.chosunonline.com/news/20100926000020

で、どうするのか。ゾッとするならその先まで考えないといけないのではなかろうか。日本のニュータウン再開発の事例などは、もしかしたらその参考になるかも知れないが、韓国のアパートの高層ぶり・高密度ぶりは日本のそれとは異なっているので、そのあたりについては独自に考えないといけないだろう。


ところで、かつて韓国事情の本などを読むと、下の記事にある「伝貰(チョンセ)」という制度の解説をしばしば目にすることがあった。家主に一時金を預け、家主はその運用で利益を出し、預けた側はそれを家賃代わりに居住することができる、というもので、それなりに多額になる現金を用意さえできれば、月極めで家賃を払う「月貰(ウォルセ)」よりも有利な条件で入居できる。

韓国人の住まい -賃貸制度ウォルセ&チョンセ - 「コネスト」

個人的には、こうした制度を利用する機会は今までなかったのだが。

で、韓国独自の制度として知られるこの伝貰(チョンセ)制度が、いま揺らいでいるらしい。実際、住宅価格の上昇や高金利、高利回りの金融商品の存在を前提としているこの制度が今後立ち行かなくなる可能性は、かなり高いだろう。

ただこれ、分譲住宅を購入できる層よりも下の階層に広く影響を与えるものだけに、その辺の扱いを間違えるとエラいことになる可能性がある。政府としても簡単に解決できない、頭が痛い問題であるはずだ。

記事入力 : 2010/09/26 07:59:19
【コラム】不動産不敗論と別れを告げる時

崩壊避けられない「伝貰」制度

 韓国には家主に大量の現金を預け、その運用益を家賃代わりとすることで、月々の家賃を払わなくても済む「伝貰(チョンセ)」という独特の住宅賃貸制度がある。不動産価格が下落する中、最近は伝貰価格の相場が急騰している。

 ソウル江南地区の人気マンションでは、30坪(約99平方メートル)程度の物件で伝貰価格が5億〜6億ウォン(約3700万−4400万円)まで急騰した。人気地区だけの上昇ならば、金持ちのマネーゲームだと片付けられるが、問題は首都圏の庶民向け物件でも相場が急騰していることだ。郊外の20坪(約66平方メートル)程度の物件はもちろん、伝貰価格が3000万〜4000万ウォン(約220万−300万円)の低所得層の住宅でも相場が20−30%上昇している。

 マイホームに手が届かない庶民の立場では、伝貰価格さえ安定していれば、住宅価格の騰落は人ごとだ。しかし、伝貰価格が高騰すれば、住む場所を失いかねない生存権にかかわる問題となる。その上、伝貰価格は政府が統制する手段もない。政府が不動産の譲渡税、保有税を加重課税したり、ローン審査を厳格化したりすれば、住宅価格の上昇は抑制できる。しかし、伝貰価格は少しでも供給が不足すれば相場が急騰するなど需給に敏感だ。政府が政策的手段で介入する余地はほとんどない。

 現在の伝貰価格の上昇は一時的現象ではない可能性がある。伝貰制度は世界でも韓国だけに存在する特殊な住宅賃貸制度だ。伝貰は住宅価格の上昇を前提としている不思議な制度だ。例えば、家主が2億ウォン(約1480万円)で買った物件を1億ウォン(約740万円)で伝貰に出せば、本来2億ウォンの金融資産で得られるはずの金利収入のうち1億ウォン分しか手にできない。また、家主は住宅の維持修繕費、財産税(固定資産税)などは負担しなければならない。韓国に住む外国人が帰国時に保証金の全額を返還してもらい、伝貰制度に賛辞を送るほど、入居者側に有利な制度といえる。日本では家賃のほかに2カ月分程度の敷金を払わなければならず、大半のケースではそれが全額戻ってくることはない。

 事実、伝貰は家主側から見てもうからない商売だ。それでも、市民が借金をしてまで不動産を買い、伝貰で運用するのは、いつかは不動産価格の急騰で損失を挽回(ばんかい)できるという期待感からだ。このため、不動産不敗論が崩壊すれば、伝貰制度も泡と消えてしまうことだろう。不動産投機勢力と批判される複数物件オーナーは、伝貰物件の供給者であり、彼らがいなくなれば、伝貰制度も崩壊を免れない。

 最近は伝貰市場の根幹が揺らいでいる。高齢化に伴う人口構造の変化、政府税制などで不動産不敗論の根拠が徐々に崩壊してきている。住宅を複数保有することは、社会的非難を受けるだけでなく、投資面でも有利ではないとの認識が急速に広まっている。首都圏は売れ残り物件であふれている。今や複数の物件を保有することはむしろ面倒なことだ。

 不動産不敗論の終息で、伝貰市場は急速に縮小し、最終的に住宅賃貸市場は諸外国のように家賃制度に変わるだろう。そこに至る過程で、伝貰価格の急騰、物件不足などの問題が表面化するのは避けられない。韓国社会は不動産は永遠に上がり続けるという不動産不敗論に別れを告げるべき時が近づいている。しかし、賃貸市場の構造変化への対応策がなければ、さまざまな問題が噴出する。政府は手遅れになる前に分譲住宅主体の政策を賃貸住宅中心へと転換すべきだ。

車学峰(チャ・ハクボン)産業部次長待遇

http://www.chosunonline.com/news/20100926000021

*1:日本語で「マンション」というところを、韓国語では「アパート」と言います。