生活保護の何を見ているのか

生活保護の何を、あるいはどこを見て、法改正を論じるのか。また、自分自身は、生活保護にどこでどう関わり、また関わる可能性を持っているのか。

それは、その人の経験の問題であり、感性の問題であり、品性の問題でもあると思います。

修正が加えられても未だ数多くの問題点が 生活保護法改正で追い込まれるDV被害者たち - 政策ウォッチ編・第26回|生活保護のリアル みわよしこ|ダイヤモンド・オンライン

大阪・母子変死事件から何が読み取れるか

 2013年5月24日、大阪市北区のマンションで、28歳の母親と3歳の長男の遺体が発見された。死因は現在なお明らかでないが、母子は困窮状態にあったと見られている。

 現在までの報道で判明している経緯は、

・母親は、夫からのDV被害を受けており、母子で脱出した
・夫に転居先を知らせない目的か、住民票は夫の居住地にあった
・経済的に困窮しており、親族に経済的支援を求めたこともある
・おそらくは生活保護を申請する目的で福祉事務所を訪ねているが、「申請の意思あり」と記録されていない

 である。

 前述した、5月20日の厚労省・係長会議資料から、申請手続きに関する一節を抜粋しておきたい。

「保護申請の意思が確認された者に対しては、速やかに保護申請書を交付するとともに、申請手続きについての助言を行うことや、保護の申請書類が整っていないことをもって申請を受け付けないということのないよう、法律上認められた保護の申請権を侵害しないことはもとより、侵害していると疑われるような行為自体も厳に慎むべきである(37ページ)」

 少なくとも「あなたには申請権があります」「権利なんですから、申請してください」という助言は、亡くなった母親には行われなかったようだ。

親、夫から暴力を受けていたら?「親族による扶養義務強化」が困窮者を殺す

 DV被害者の多くは、親または原家族に由来する問題を抱えている。暴力の絶えない家庭に育ったり、虐待を受けつつ生育したりした人々は、暴力のない家庭環境というものを想像することさえ困難だ。自分が理不尽な扱いを受けていることに気づいた時には、既に問題が深刻化していることが多い。命にかかわる問題に発展するまで、「これは愛情」「どこの家でもよくあること」と自分に言い聞かせがちだからだ。

 夫がDV加害者である場合、業田良家のコミック「自虐の詩」のイサオのように明らかに問題の多い人物であれば、まだ対処は容易だ。しかし、多くのDV加害者は、外面がよく、社会的ステータスの面からも申し分がなく、巧妙に「妻の父親に取り入り、安心して妻を痛めつける」などの行動を取ることまである。このため、DV被害者となった妻は孤立しやすい。

 DV被害者だけではない。障害者も、適切な生育・生活環境にない場合がある。障害児の教育支援は、現在もまったく不十分である。障害児(者)を抱えた家庭を疎外する地域コミュニティも、地方を中心に未だ多い。

「歩けず運動能力が低いので、原家族でサンドバッグにされていた。生活保護によって、原家族から離れることができ、やっと叩かれたり蹴られたりしない毎日が送れるようになった」

 といった経験は、特に女性の障害者の間では、広く見られるものである。

 今回の生活保護法改正案に含まれている「親族の扶養義務強化」は、最大限に好意的解釈をすれば、

「家族・親族による共助や絆の復活」

 と見ることもできる。しかし、困窮者の多くは、何らかの事情により、既にそのような共同体による支援の網の目からこぼれている。多くは、困窮者本人の問題ではない。困窮者本人と家族・親族の人間関係の問題でもない。

 困窮者の周囲の共同体には、その1人を支える能力や資源がない。経済力が不足しすぎているかもしれない。歴代、「愛する」という能力を育むことのできない家庭環境が連鎖してきたかもしれない。その結果として、困窮者が生み出される。共同体によって生み出された困窮者が、その同じ共同体によって救われるわけはない。

http://diamond.jp/articles/-/36751?page=3
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