放置される陸軍墓地

この記事、「分かった」の主語は何なんでしょう。多少なりとも関わっている人からしてみれば、放置されているケースが少なくないことは、ずっと前から「分かっていた」ことのはずです。

ここでも例えばこんな記事をクリップしています。そこでも福岡の谷陸軍墓地のことが言及されていますが、陸軍墓地をめぐる状況はこの当時からぜんぜん変わっていない感じです。

荒廃する軍人墓地

とは言え、いろいろ取材した末の記事であるようで、内容的には参考になります。原田敬一・小田康徳というこの分野の専門家からコメントを取っている点も、人選として的確です。

兵士はどこへ行った 軍用墓地と国民国家

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陸軍墓地がかたる日本の戦争

陸軍墓地がかたる日本の戦争

倒れた墓石、密林化…放置される陸軍墓地


樹木に押され、倒れたままの墓石(福岡市中央区の谷陸軍墓地で)=浦上太介撮影

 太平洋戦争の戦没者らを弔った陸軍墓地の墓石が、所有者不明のまま放置されているケースがあることが分かった。

 福岡市では墓が損壊しても修復されず、山口市では草も刈られずに密林のようになった時期があった。遺族らは「国に召集されて命をささげた以上、国や自治体が責任を持って管理してほしい」と訴えている。

 福岡市中央区にある谷陸軍墓地。日清、日露、太平洋戦争の戦没者らの遺骨約1万5000柱を納めた高さ数メートルの石碑が10基ほど並ぶ。その片隅では、寄りかかった樹木に押されて墓石1基が倒れている。「修復を行政に頼んでも、また断られるだろう」。8月上旬、元陸軍中尉で建設会社会長の菅原道之さん(89)(福岡市)はつぶやいた。

 陸海軍の軍用墓地は戦後、82か所の所有権が大蔵省(現財務省)に移転。さらにその一部が自治体に譲与、無償貸与されるなどした。谷陸軍墓地は1969年から福岡市が無償で借りている。2005年3月の福岡県西方沖地震で石碑5基の石柱がずれたため、菅原さんらは「倒壊の危険性がある」と、所有者の福岡財務支局と管理者の市に補修を求めたが、断られた。

 同財務支局は「国有財産として登録されているのは土地だけ」、市は「国から借りているのは土地だけで、石碑などの管理は所有者がすべきこと」と話すが、いずれも所有者については把握していなかった。

 行政の動きがないなか、菅原さんらは有志に呼びかけて寄付金約1100万円を集め、修復にかかった。石碑内の納骨室は浸水し、骨つぼが床に落ちて壊れていたが、ボランティアで作業を進め、08年12月に修復を終えた。

 菅原さんらの調査によれば、石碑の多くは1935年、陸軍が主導して市民の勤労奉仕によって建立された。菅原さんは「軍民一体となって造り、国にささげたもの。国有財産であることは明らか」と語る。

 山口市の山崎陸軍墓地には、主に明治期の墓石約300基や昭和初期の石碑がある。山口財務事務所によると、土地は国有地だが、墓碑の所有者は不明。維持管理の予算はつけてないという。

 「以前はジャングルのようだった」。旧陸軍、陸自幹部OBらでつくる「山口県偕行会」の会長、坂本強さん(85)は話す。見かねた自衛隊OBや隊員らが十数年前からボランティアで雑木を切り、雑草を刈っている。

 墓地を巡る対応は、自治体によって異なる。熊本市陸軍墓地、花崗山陸軍埋葬地は戦後、市有地となり、1980年に市指定史跡となった。市によると、墓石の所有者は不明だが、修繕などについては史跡のため補助金交付の対象となる。宮崎県都城市の陸軍墓地は納骨堂も国有財産。市は、国から土地と一括して無償で借り、老朽化した納骨堂を改修し、管理している。

 旧軍の墓地制度に詳しい原田敬一・佛教大教授(日本近代史)は「軍は自らの規定に基づいて軍用墓地を設けており、墓や碑が個人の所有物とは考えられない。国は責任を持って対策を講じるべきだ」と指摘。小田康徳・大阪電気通信大教授(同)は「軍用墓地の存在は地域と軍の密接な関わりを示すもので、地域住民が徴兵され、戦死した事実の証し。遺族の高齢化が進めば、ますます維持・管理は難しくなる。戦争遺跡として国や自治体が保存すべきだ」と話している。(小松一郎

(2013年8月12日11時58分 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130811-OYT1T00201.htm

ま、ざっくり言えば「国は何もしていない」という結論になりますね。清浄に維持されているところがあるとすれば、それは「気にかけている人がいる」ところに限られるでしょう。個人レベルでのこともあれば、ボランティアを組織するケースもあるでしょうし、自衛隊などが関わっているところもあります*1

ただ、国が何らかの対策を取る必要があると私も思いますけど、それは必ずしも韓国の国立墓地のように大々的な整備である必要はないでしょう。「こうした墓地を、どのように維持・管理すべきか」というのは、そんなに単純で簡単な問題ではありません。

畏敬の念を込め 陸軍墓地清掃 静岡
2013.8.11 02:22

 古式弓術の道場「草薙錬心館」(池上数弘館長)の門下生らが10日、静岡市葵区沓谷の陸軍墓地を清掃した=写真。同墓地には、日露戦争の激戦「遼陽会戦」で戦死して軍神となった旧陸軍の橘周太中佐が第1大隊長を務めた歩兵第34連隊の英霊が祭られている。

 草薙錬心館の門下生らは2カ月に1度、朝稽古前の早朝に、同墓地の墓石の周辺に積もった落ち葉を掃くなどして清掃している。門下生で県立大3年の弓道部主将、中田裕之さん(20)は「清掃を通じて、静岡市に駐屯していた34連隊の歴史を知ることができた」、3年の奥谷佳恵さん(20)は「弓道は的を射る技術だけではないので、英霊や祖先を敬う心は弓道に通じている」と話していた。

http://sankei.jp.msn.com/region/news/130811/szk13081102220001-n1.htm

そう言えば私も、いろいろ放置したままでした。またいずれ、再訪するなり、続きを書くなりするとしましょう。

いつか出直す日のために

善通寺・旧陸軍墓地への道

岡山・旧陸軍墓地への道

*1:例えば善通寺などは、自衛隊が墓域の清掃などを担っています。