置き去られる遺骨

かつての国鉄時代から、「遺骨」というのは珍しい忘れものとしてしばしばネタになっていました。

https://twitter.com/paddock_watcher/status/623085467588661249

こちらの本の54頁にも記述がありますね。

秘蔵鉄道写真に見る戦後史(上) - Google ブックス

それがすべてうっかりだったかわからない、むしろすべてうっかりだったとは言い難い、というのは、その当時からのことで、その背景には、それぞれ様々な事情があったものと推察すべきでしょう。

なので、下記の記事に出てくるような話を、「昨今の死生観の変化」などと安易に関連づけて、「最近は死者や先祖の扱いが粗末になった」とかいった風に嘆いてみせるとしたら、私はそれには同意できません*1。むしろ、誰もが墓を建てるなどしてきちんと供養される時代のほうが、レアだったのではありませんか?

親の遺骨置き去りで逮捕 「納骨する金銭的余裕ない」の供述
2015.09.09 11:00

 火葬した後、墓に納骨せず遺骨を「置き去り」にする事例が増加している。神社や寺院の境内、駐車場、電車内などに遺骨が放置され、警察に落とし物として処理される件数がここ数年で増加傾向にある。

 置き去りにされる遺骨の多くに共通するのは、道端などに捨てるのではなく「忘れ物」を装って、電車の網棚の上や神社などの施設内に放置されているという点だ。

 遺骨をしかるべき保管場所以外に放置すると刑法190条の「死体遺棄」にあたり、3年以下の懲役に処される。罪に問われたくないという思いや、「捨てるのは忍びない」という意識が手伝い「忘れ物」という形で放置される例が増加している。

 千葉、埼玉両県警の管轄内で「遺失物」として処理された遺骨は2013年1月から2015年8月までで21件。年々増えつつある状況にあるなか、千葉県警は4年前、埼玉県警は3年前から落とし物の項目に新たに「遺骨」の分類を作った。

 いくら名目上“忘れ物”だとしたところで、事実上は捨てられたことに変わりない。しかし捨てた背景を顧みると、やむにやまれぬ状況が垣間見えてくる。

 2010年11月、ある男性が2008年に両親の遺骨を遺棄したとして逮捕された。逮捕まで2年もかかったのは、男性が貧困の末に住む家すら失っていたからだった。

 男性の両親は東京都内に住んでいた。母親が死亡すると、その遺骨は父親が管理した。ところが父親も数年後に死亡、最終的に両親の遺骨を引き取ったのが逮捕された一人息子だった。男性は仕事の都合でかつて住んでいた宮城県仙台市まで車を飛ばし、市内の駐車場に車ごと遺骨を放置。その後職を失い、親類を頼ることもできず、家を売り払い、ホームレスとして路上生活を送っていた矢先に逮捕された。男性は、「金がなく、どうしようもなくて捨てた」と供述したという。

 2007年には神奈川県藤沢市で、寺の境内に夫の遺骨を遺棄した疑いで73歳の女性が逮捕されている。この女性は、「これ以上は保管が困難」という理由とともに「子供に迷惑をかけたくなかった」と漏らした。遺骨は白い布にくるまれ、ポリ袋に入れられた状態で境内に置かれていた。遺骨の中には火葬許可証の切れ端があり、記載された受理番号から女性だと特定された。

「墓を見つけて納骨する金銭的余裕がなかった。自分の先行きも長くないと思った」

 逮捕後、女性はこう供述している。夫は2004年に病死しており、しばらくは遺骨を自宅で保管していたが、結果として寺に放置した。遺骨が置かれた直後、せめてもの誠意なのか、それとも遺骨を弔えなかった罪悪感からか、寺に「供養してください」という手紙とともに現金2000円を送ったという。

週刊ポスト2015年9月18日号

http://www.news-postseven.com/archives/20150909_348977.html

遺骨捨てる人が増加 永代供養墓の3万円さえ払う余裕がない
2015.09.12 16:00

 火葬した後、墓に納骨せず遺骨を「置き去り」にする事例が増加している。遺骨をしかるべき保管場所以外に放置すると「死体遺棄」にあたり、3年以下の懲役に処されるが、経済的な事情などもあり、「忘れ物」という形で放置される例が後を絶たないのだ。放置される場所は、電車の網棚の上や神社等の施設内など様々だ。関東在住の住職は、自身の経験をこう話す。

「檀家でない男性が訪れてきて『お墓を買う費用もなく、遺骨をどうしたらいいかわからない』という相談を受けました。冬場なのに着ているのは穴の開いたシャツ1枚で生活費もままならない様子でしたので、通常は身元保証人がいないとやらないのですが、一時的に遺骨を預かることにしたんです。ところがその後、男性から電話で『ごめんなさい』とだけ告げられた後に連絡が取れなくなってしまって……結局遺骨はこちらで弔いました」

 遺骨の埋葬先の相談・支援を引き受けるNPO法人「終の棲家なき遺骨を救う会」の柿崎裕治・理事長はこう話す。

「多くの遺骨は布や風呂敷で丁寧に包まれ、目立つところに置かれるのが特徴です。せめて見つけてくれた人に丁重に弔ってほしいという、切なる思いが込められているのでしょう。悪意や憎しみを持って捨てていく例ばかりではありません」

 親や兄弟の遺骨を捨てる──行為自体は咎められて然るべきだが、捨てる人々の事情や思いを考えると、やりきれない気持ちになる。

 やむにやまれず遺骨を捨てる大きな理由には、前出の例のように「経済的困窮」がある。日本エンディングサポート協会理事長・佐々木悦子氏の話。

「都内でお墓を買うとすれば、標準的なものでも130万円から140万円、それに年間維持費で数千円から1万円程度かかります。最も安価な永代供養墓だと3万円から5万円程度で維持費もかからないのですが、実はそれすら払う余裕がないという方が増えています」

 そのためか、遺骨を自宅などで保管している人は意外に多い。首都圏だけでも100万柱あるといわれており、墓に納められないまま時が経過し続けている“放置予備群”は年々増加している。老人ホームなど施設に入居する際に遺骨を持ち込めなくて困っている、といった相談も少なくない。何らかの契機で保管者に金銭的余裕がなくなり「下流老人」化すれば、それらの遺骨が「忘れ物」と化すおそれがあるのだ。

週刊ポスト2015年9月18日号

http://www.news-postseven.com/archives/20150912_349052.html

2015/8/29 11:45
遺骨「落とし物」相次ぐ なぜ…76%が所有者不明


神戸市が引き取った所有者不明の遺骨は5年の保管後に無縁墓に埋葬される=神戸市北区山田町下谷上、市立鵯越霊園


兵庫県内で拾得された遺骨の主な状況

 人の遺骨が「落とし物」として警察に届けられるケースが兵庫県内など各地で相次いでいる。神戸新聞社の調べでは、兵庫、大阪、京都の3府県警は2010年度以降、少なくとも91件の拾得届を受理。うち69件(76%)で所有者が分かっていない。家族・親族関係の希薄化や少子高齢化、経済的弱者の増加が背景にあるとみられ、専門家は「墓をつくり、守っていくのが難しい時代。今後も増える可能性がある」と指摘する。(小林伸哉)

 3府県警によると、10年度以降に遺骨の拾得届を受理した件数(いずれも今年7月末時点)は、兵庫が14件(10年度分は未集計)、大阪が65件、京都が12件。拾得場所は寺院や斎場、墓などの宗教施設が目立つが、電車内や駐車場、公園などもある。

 このうち、所有者らに返還できたのは兵庫の4件を含む22件。5件は警察が所有者が名乗り出るのを待ち、残る64件は遺失物法の定めで持ち主の所有権がなくなる保管期間(3カ月)を過ぎた。通常の落とし物は売却や廃棄処分もできるが、遺骨の場合は寺院や自治体などに引き取りを依頼しているという。

 単純な「置き忘れ」以外に、故意とみられる例もあった。たつの市では今年2月、男性が母親の遺骨を納骨しようと墓を開けると、透明なケースに入った覚えのない遺骨を発見した。親族にも確認し、5月にたつの署に届け出た。

 姫路市では6月、マンション敷地内にあったかばんから、骨つぼ入りの遺骨や遺影、小型の仏壇が見つかった。姫路署は一緒にあった古い手紙などを基に親族に連絡したが、「長年付き合いがなかった」などとして受け取りを拒否されたという。

 遺骨を捨てたと判断された場合、刑事事件になることも。神戸市西区では13年4月、高速道路料金所のごみ捨て場で遺骨が見つかり、神戸西署は死体遺棄容疑で親族の男性を書類送検した。

【変わる寺院の対応】

■宗派問わず合祀 宅配便で「送骨」

 遺骨の落とし物が相次いでいる問題について、宗教学者で「墓は、造らない」などの著書がある島田裕巳さんは「都市部では自宅で遺骨を保管したまま取り扱いに悩む人は多い」と分析、今後も同様のケースが増えるとの見方を示す。

 こうした不安の解消に乗り出す寺院も出始めている。姫路市の寺は「墓を継ぐ人がいない」などと檀家(だんか)からの相談が相次ぎ、宗派を問わず合祀(ごうし)できる「永代供養墓」を2年前に建立した。費用負担は3万円からで、「子どもに迷惑を掛けたくない」と申し込む団塊の世代が目立つという。

 遺骨を宅配便などで寺院に送り、安価な費用で供養を頼む「送骨」と呼ばれるサービスも全国で広がっている。

 一方、落とし物となった遺骨の所有者が見つからない場合、自治体が警察の要請で引き取るケースもあるが、神戸市の担当者は「取り扱いを明確に定めた法律はなく、対応が悩ましい」と明かす。公立の無縁墓がなく、引き取りに対応できない自治体もあるという。

 家族関係の在り方の変化や格差社会の広がりも指摘され、島田さんは「老後の問題だけでなく、死後の不安を抱える高齢者も多い。国を中心に遺骨を簡単に処分できるルールを作るべきだ」と主張する。

http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201508/0008347380.shtml

行政も宗教者も、こうした遺骨の置き去りや送骨などを批判するよりも、死後に捨て去られてしまう不安を誰も抱かないで済むような仕組み作りに知恵を絞るべきだと思います。

遺骨を宅配便で「送骨」…共同墓や散骨業者へ
2015年09月04日

 共同墓への納骨や散骨のため、遺骨を宅配便で送るケースが増えている。持参する労力や交通費の負担を減らすためで、後継者不足などから墓の維持が難しい現代的な事情があるようだ。

 兵庫県三木市の蓮花寺平成霊園は4月、共同で埋葬する「永代供養墓」の利用者向けに、遺骨を日本郵便の宅配便「ゆうパック」で受け付ける「送骨パック」プランを設けた。段ボール箱や緩衝材などのセットを送り、届いた遺骨を供養したうえで、納骨する。

 総額は税別1万2800円。インターネットで情報が広がり、5か月で約100の遺骨が寄せられた。墓が高額で所有しにくい関東からが半数を占めた。高齢だったり、多忙だったりして遠方への持参が難しく、宅配に頼らざるをえなかったケースも多い。

 運営会社の伏見一洋代表は「縁遠い先祖や親戚の遺骨を重荷に感じており、送って供養できるならと考えるのではないか」と話す。

 「送骨」は5、6年前に始まり、富山、埼玉の寺や都内のNPO法人などが行っている。関西でも大阪府池田市の霊園が2009年から取り入れている。

 また、近年増える散骨でも利用されている。ユニクエスト・オンライン(大阪市)が運営する「小さなお葬式」が2年前に始めた海洋散骨は、実施した約500件の大半が送骨だった。

 数年間自宅に置いていた母親と長男の遺骨を同社に送骨し、5月に沖縄の海で散骨してもらった同府豊中市の女性(59)は、「成仏できないのではと気に病んでいたのでほっとした。遺骨だと知ったうえで業者が丁寧に扱ってくれたので安心した」と言う。

 ただし、民間の大手宅配業者には遺骨の配送を受け付けない規定があるため、制限していないゆうパックが主に利用されている。

 大切な遺骨を宅配便で送るのは不謹慎だと、否定的な寺も多い。永代供養で有名な大阪市の一心寺も「お骨は胸に抱いてお持ちいただく」とし、送骨は受け付けていない。

http://www.yomiuri.co.jp/osaka/news/20150904-OYO1T50016.html

*1:まったく外れているとは思いませんけど。