女性アスリートの身体への理解と配慮の必要性

前々から時折話題になっているにもかかわらず、こうして記事になるということは、危機感が共有されるに至っていないということなのでしょう。競技生活や選手生命だけでなく、その後の人生にも深刻な影響を及ぼしかねないということで、これはドーピングと同じレベルで考えられるべき問題だと思います。

問題は、「不振」であることよりもむしろ

女性スポーツ選手の身体についての認識

下記の朝日新聞の記事の見出しではもっぱら無月経や疲労骨折に焦点を当てていますが、それはある意味結果であって、その背景には極端な低体脂肪率や低体重の追求があります。そして、より根本的な原因として、食事など栄養指導の問題が出てきます。とすれば、選手自身の自覚とともに指導者や競技団体の責任は重大になってきます。選手や指導者自身が、競技者の身体に関する知識や理解を深めることとともに、必要に応じた栄養士など専門家のサポートも、問題改善のカギになってくるはずです。

若い選手の無月経に危機感を 疲労骨折で競技断念の恐れ
榊原一生 2015年11月23日18時16分


無月経に悩み、疲労骨折に苦しんだ実業団時代を振り返る五十嶺綾さん

 2020年東京五輪に向けて若い選手の活躍が期待される一方で、女子選手が抱える「無月経」への対応が必要だ。無知や誤解が、選手生命を途絶えさせる恐れもある。

 「生理は中学の時に数回あったものの、高校では全く来ていませんでした」

 東京都文京区にある順大付属の順天堂医院「女性アスリート外来」を今春、大学陸上部に所属する中長距離の女子学生(18)が訪れた。2度の疲労骨折を経験し、心配した大学の女性コーチに促されて訪れた。

 診察した産婦人科の北出真理医師によると、学生は体重増加を恐れて炭水化物の摂取量を減らし、栄養の偏った食事になっていた。栄養指導をして症状は改善したという。

 女性アスリート外来は昨年10月、同医院と千葉県浦安市にある付属病院内に女子選手専門の窓口として開設した。この1年で約150人が受診し、その約8割が無月経か生理不順の症状を抱えていた。

 無月経は「3カ月以上」生理がない状態をいい、摂取エネルギーよりも消費エネルギーが上回る「エネルギー不足」が主な要因で発症する。無月経が続けば、骨を強くする女性ホルモン「エストロゲン」の分泌が低下。骨がもろくなり、疲労骨折しやすい体になる。

 北出さんは「無月経は疲労骨折に加え、卵巣機能が低下するなど不妊のリスクも高まる」と警告する。

 日本産科婦人科学会と国立スポーツ科学センター(JISS)が女子の大学生ら2153人に対して実施した調査では、調査時に無月経だったのは、運動していない一般の学生が2・4%だったのに対し、全国大会レベルの学生は7・6%。さらに疲労骨折を経験した割合でも、運動している学生は、していない学生に比べて約5倍と高く、うち4割は16歳か17歳で発症した。調査した同学会の久保田俊郎医師は「成長期の10代の選手は特に注意しなければならない」と話す。

 ただ、無月経はこれまで、「深刻な問題としてとらえられていなかった」と元五輪マラソン選手でスポーツジャーナリストの増田明美さんは指摘する。

 指導者には男性が多く、「厳しい練習で生理が止まってこそ一人前」という誤った認識での指導があったほか、女子選手自身にも知識がなく、生理の不快感や腹痛、大会に体調を合わせる煩わしさから「生理がない方がいい」と思う選手も多いという。

 増田さんは「10代の選手は婦人科を受診するには抵抗がある。指導者や保護者らが正しい知識を持ってサポートすることが必要」と呼び掛ける。

 JISSや同学会は、指導者や保護者への啓発や講習会などを開いており、JISSの土肥美智子医師は「五輪を契機に、女子選手の心身の問題にも目を向けてもらいたい」と話す。


■記録のためと食事増やせず…

 「無月経のことを甘く見ていました。体のことをもっと知るべきでした」。実業団の陸上長距離選手だった五十嶺(いそみね)綾さん(32)は自分の知識の無さを恥じる。実業団時代の7年間に生理はほとんどなかった。疲労骨折を繰り返し、2年前、競技生活に終止符を打った。

 実業団に入った2006年の4月に生理が止まった。環境の変化によるストレスと考え、深刻にとらえなかった。生理は煩わしく、大学時代は「無月経の人がうらやましい」とさえ思っていた。

 ところが、無月経の状態が続いた4年後の10年3月、右大腿(だいたい)骨を疲労骨折。体重を軽くした方が速くなると思い、食事を減らしていた。体重は38キロ。女性ホルモンを補充する治療を受け、医師から食事の注意を受けたが、量は増やせなかった。「体重が増えると、記録がでないのではないかと怖かった」。10〜12年の3年間で、すねの脛骨(けいこつ)や骨盤の一部の仙骨など5カ所を疲労骨折。憧れのロンドン五輪には届かなかった。

 引退後は栄養士の資格を取得。現在は都内の保育園で調理の仕事を担う。「将来は、女性特有の症状に悩む選手を救えればと思う。自分と同じ過ちは繰り返して欲しくないですから」(榊原一生)


2009年当時の五十嶺綾さん。体重は40キロを切り、「食べるのが怖かった」という=五十嶺さん提供

http://digital.asahi.com/articles/ASHCL4QK3HCLUTQP00W.html

女性アスリート2割が疲労骨折を経験 日産婦調査
合田禄 2015年8月29日20時15分

 大学などで本格的に運動競技に取り組んでいる女性アスリートの約2割が疲労骨折の経験があることが日本産科婦人科学会(日産婦)の調査でわかった。特に痩せている人は調査時点で無月経だったり、疲労骨折の経験があったりする傾向がみられた。ともに過度なトレーニングや栄養不足が原因の可能性があるという。

 日産婦が29日、発表した。アンケートは国立スポーツ科学センターと共同で実施。調査対象は、本格的に運動している大学生やそうでない大学生ら計2153人。同じ場所に繰り返し力が加わることで骨にひびが入る疲労骨折や、無月経との関係を中心にデータを解析した。

 疲労骨折の経験は、本格的に運動していない大学生では4・3%だったが、日本代表の選手は22・6%、全国大会レベルの選手は23・3%だった。時期は4割が16、17歳のときだった。

 月経異常があるか尋ねたところ、運動していない大学生は2・4%が無月経だったのに対し、体操・新体操の選手は23・2%、陸上の中長距離、競歩の選手は21・9%だった。無月経が続くと女性ホルモンが減って疲労骨折のリスクが高まると考えられているが、今回の結果では疲労骨折時に無月経だったのは15%だけだった。一方、体格指数(BMI)が18・5未満で痩せている選手は、疲労骨折の経験者が約4割、無月経の割合が2〜3割だった。

 日産婦の女性アスリートのヘルスケア小委員会の久保田俊郎委員長は「練習量と食事量の兼ね合いも含めた栄養指導が十分でないように感じる。特に高校生での骨折が多いので、中高生の運動量や栄養状態についても調査していきたい」と話している。

 また、日産婦はこの日の理事会で、妊娠を望んでも2年かなわない状態と定義していた不妊症について、「2年」を「1年」とし、不妊治療を始める目安となる期間を短縮することを正式に決めた。(合田禄)

http://digital.asahi.com/articles/ASH8Y5V6RH8YULBJ005.html