西日本新聞の「新 移民時代」連載記事

一昔前にも何かと話題になっていた「外国人労働者」のことですが、留学生のことも含めて、その頃描かれた様々なイメージをそろそろ更新しなければならない、と最近思うようになりました。「何を今さら」な話かもしれませんが。

平成28年5月改訂 Q&A外国人・留学生支援「よろず相談」ハンドブック

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自分自身による見聞を含めて、見たり知ったりすべきことはたくさんあります。そんな中で目についた西日本新聞のこの連載は、九州においてすでに幕開いている新たな「移民時代」の側面を描き出すものになりそうです。

取材班から 共に生き、共に働く
2016年12月15日06時00分 (更新 12月15日 13時21分)

f:id:bluetears_osaka:20161216134627j:plain:left 街角で中国語とも韓国語とも異なるアジアの言語を耳にしたり、褐色の肌の人々を見かけたりすることが、九州でもここ数年で急に増えた。実は、その多くは旅行客ではない。

 来年1月末に厚生労働省が公表する日本の外国人労働者数(就労する留学生含む)は、初の100万人突破が確実視される。九州7県でも計5万人を超える見通しで、特にベトナム人とネパール人は過去5年間で10倍増というハイペースぶりだ。

 「いわゆる移民政策は取らない」。安倍晋三首相はそう明言する一方、原則週28時間まで就労可能な外国人留学生を2020年までに30万人に増やす計画や、外国人を企業や農家などで受け入れ、技術習得を目的に働いてもらう技能実習制度の拡充を進めてきた。

 その結果、国連が「移民」と定義する「12カ月以上居住する外国人」は増加の一途。国籍や文化の異なる民が同じ地域で共に暮らし、働く、新たな「移民時代」を日本は迎えている。

 24時間営業のコンビニで弁当が買え、オンラインショッピングで注文後すぐに商品が届く便利な暮らし。それを支える深夜労働の多くは、アルバイトの留学生が担う。建設や製造、農漁業などの現場では、3K(きつい、汚い、危険)職場を嫌う日本の若者に代わって低賃金で汗を流している実習生も少なくない。

 留学生30万人計画も実習制度も、政府の建前は「先進国日本の国際貢献」。だが、人口減と少子高齢化で人手不足が深刻化する日本社会を支えるため、「発展途上国の安価な労働力で穴埋めしたい」という本音が透けて見えないか。

 そんな政府の施策には、外国人を共に生きる生活者と捉える視点が欠落し、建前と本音のひずみが、留学生の不法就労や実習生の過酷労働の温床となっているのではないか。

 歴史的にも地理的にも文化的にも、九州はアジアから新しい風を受け入れ、地域を活性化させる力を日本中に波及させてきた。西日本新聞の新たなキャンペーン報道「新 移民時代」は、九州で暮らす外国人の実像や、彼らなしには成り立たない日本社会の現実を描く。「共生の道」を読者と一緒に考えたい。

=2016/12/07付 西日本新聞朝刊=

http://www.nishinippon.co.jp/feature/new_immigration_age/article/295786

出稼ぎ留学生(1)暮らしの隣「移民」100万人
2016年12月15日06時00分 (更新 12月15日 13時28分)

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JR吉塚駅前で迎えのバスに乗り込む外国人留学生ら=福岡市博多区(写真の一部を加工しています)

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多くの留学生たちが仕分け作業に就く運送会社の集荷場

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バスが着き、仕事に向かう外国人留学生ら

f:id:bluetears_osaka:20161216134939j:plain:right 福岡県庁に近い福岡市博多区のJR吉塚駅前。11月下旬の薄暮が迫る午後5時すぎ。比較的人通りが少ない東口のロータリーを囲むように、肌の色が違う外国人の若者がぽつぽつと集まってきた。

 工場バス、アジア系続々

 たばこを吸いながら談笑したり、おにぎりやパン、バナナを頬張ったり、エナジードリンクを飲む姿も見られる。数はどんどん増え、いくつかのグループに分かれた。

 落ち葉が散る近くの公園からは、ボール遊びを楽しむ子どもたちの歓声が聞こえる。駅を利用するサラリーマンも客を待つタクシー運転手も、気に留める様子はない。「最初は気味悪かったけど、4、5年前からどんどん増えてきて、もう慣れたよ」。毎日、買い物で駅に来るという近くの男性(73)は、彼らを横目に通り過ぎた。

 薄暗くなってきた午後5時20分ごろ。1台目のマイクロバスが到着。「オハヨウ」。片言の日本語が聞こえてきた。若者たちは、吸い込まれるように乗り込み、約40席のバスはすぐ満席になった。

 2台目、3台目…。同6時半ごろまでに次々と到着したバスは8台。乗り込んだ外国人はざっと数えても200人を超えた。彼らの大半は、ネパールやベトナムから来た日本語学校に通う留学生たちだ。

 業者が用意したバスで、全員が24時間稼働している宅配便の仕分けや、コンビニ弁当、総菜の製造工場などのアルバイトに向かう。

 1台のバスにはこんな注意書きがあった。「バスの中では静かに。ルールが守れない人は契約しません」。車中、留学生たちは仮眠を取ったり、外を眺めたり、スマートフォンを触ったりして、バスに揺られた。

 渋滞の国道を抜け30分が過ぎたころ、九州自動車道福岡インターチェンジ(IC)近くに着いた。バスのドアがゆっくりと開いた。身をかがめ、押し黙ったままの留学生たちが列をなして降りていった。

 異国で深夜の荷分け

 マイクロバスが着いたのは、福岡市郊外にある大手運送会社の仕分け作業の拠点。24時間稼働の「ベース」と呼ばれている。

 タイムカードを押して、黒い安全靴を履き、ヘルメットをかぶったネパール人留学生のビカシュさん(23)=仮名=が、ベルトコンベヤーに宅配便を流し始めた。「全部知っている僕がいないと、工場は回らないから」。4千円のリーダー手当をもらい、日本人パートにも指示を出す。月に12万円を稼ぐ。

 荷物には配達地域を示す番号が振られ、その番号に沿って荷物を集積させるため、日本語が分からなくても作業ができる。「数字は世界共通語だから」。関係者はこう漏らす。

 ベースの荷物量は夜間が特に多く、日付を越えた勤務時間帯は外国人労働者が8割程度を占めるという。ネパール人が最も多く、全員が留学生だ。冷蔵庫、テレビ、自転車などが入った段ボール箱は20キロを超え、1時間に約2千個をさばく。夏場はTシャツが汗びっしょりになり、トイレで絞ってから着直す。

 深夜から翌日未明にかけ、勤務を終えた若者たちは再びバスに乗り、JR吉塚駅で降りると、福岡市中央区や南区にある自宅アパートまで自転車をこぐ。午前9時からは日本語学校が始まる。居眠りすることもあるが、ビカシュさんは「今、すごく楽しい」とはにかんだ。

   ◇   ◇

 別のバスが向かった先は、福岡県内でコンビニ弁当の製造を請け負う工場だった。

 おかず、漬物、ご飯を盛りつけるベルトコンベヤーのラインには、白いマスク、帽子、作業着姿の約40人が並ぶ。全員がネパール人という。従業員約800人のうち6割が外国人労働者で、ネパール語バイト規則もあるという。

 リーダーを任されているネパール人のラムさん(25)=仮名=は4月の熊本地震後、日勤にもかかわらず朝まで働く日々が続いた。政府の要請を受け、コンビニ各社が被災地に届ける弁当を増やしたため、工場はフル稼働した。大量の支援物資の陰には外国人労働者の存在があった。

 ラムさんの勤務は、留学生が働ける時間「週28時間以内」を超えていた。福岡市にある日本語学校の中には、入国管理局に目を付けられることを恐れ、弁当工場からの応援要請を断った所もある。

 ラムさんが働くラインには、高齢女性の日本人パートもいる。「日本のお母さんね、楽させたい」。できるだけ業務量が少ない担当を割り振っているという。

   ◇   ◇

 政府は「留学生30万人計画」を掲げ、九州7県の日本語学校は10年前の倍の64校(今年9月末、全国547校)に上る。今年1月には、違法な長時間労働を助長したとして、福岡県警が入管難民法違反容疑で同県直方市日本語学校「JAPAN国際教育学院」を摘発。学校は3月に閉鎖され、100人近い留学生が東京や福岡に移った。

 慢性的な人手不足で、5年前から繁忙期に留学生30~40人を雇っていたが、事件後は“穴埋め”ができなくなったという。

 留学生の大半は複数のアルバイトを掛け持ちし、筑豊地区の製造業を中心に約50社が受け入れてきた。5人の留学生を雇っていた直方市のあるコンビニ経営者は言う。「募集しても日本人が来ない深夜帯に、留学生たちはまじめに働いてくれた。店長を任せたいくらいだった」

 週28時間を超える労働は「犯罪」。だが、彼らが地方の貴重な労働力となっていたこともまた、現実だ。

  連載「新 移民時代」第1部

 留学生や技能実習生を含む外国人労働者の数が今年、初めて100万人を突破する見通しだ。「移民政策」を否定する政府の建前と、不可欠な労働力となっている現実―。九州の現場でそのひずみを直視し、共生の道を探る。

=2016/12/07付 西日本新聞朝刊=

http://www.nishinippon.co.jp/feature/new_immigration_age/article/295787

出稼ぎ留学生(2)都会の隅に外国人村
2016年12月16日 06時00分

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留学生が多く住むアパート。大半がルームシェアしており、駐輪場には無数の自転車が並ぶ=福岡市南区

 真新しいマンションや古びたアパートが混在する福岡市南区の住宅街。一角にある約300メートルの細い路地を夕暮れ時に歩くと、褐色の肌をした外国人と頻繁にすれ違う。

 時に摩擦、寄り合いも

 ネパール人やベトナム人が多い。彼らが主に暮らす3棟のアパートは、住人の大半が外国人。中廊下を歩くと香辛料の香りが漂い、聞き慣れない音楽が漏れ聞こえる。日本人の住民たちは、いつしかこの通りを「国際通り」と呼ぶ。

 築39年の2階建てアパートの1階には、「KYODAI」と書かれた看板がある。ネパール人向けの食材調達からアパートの紹介まで、何でもこなす「よろず相談所」だ。

 別の築33年の3階建てアパートは、44部屋に60人以上の外国人が住む。一室を訪ねると、洋室6畳とキッチン3畳の間取りに、ベトナム人の男性留学生2人が暮らしていた。

 洋室は布団2枚を敷くとほとんどスペースはなく、ベランダにぎっしりと干された洗濯物がカーテン代わり。昨年4月に先輩の紹介で入居したベトアンさん(24)は「古くて汚れているけど、安いのが魅力」。家賃の2万3千円を折半している。

 管理会社によると、このアパートは当初、日本人の学生や若い会社員が入居した。2000年ごろから空室が目立ち、外国人を入居させ始めた。連帯保証人も必要なく、敷金や礼金もゼロ。入居者の8割以上が日本語学校の留学生という。

 同様の現象は、福岡市東区博多区にも広がっている。都会の片隅に、小さな異国の村ができている。

   ◇   ◇

 福岡市南区に住む外国人は8月現在4658人で、09年に比べ1・5倍。中国人が減る一方、ベトナム人やネパール人が増え、それぞれ千人を超えた。近くに日本語学校があるためとみられ、外国人留学生は約1400人に上る。

 急激な変化に戸惑いを隠せない日本人の住民も多い。70代の女性は「差別はいけないけど、ぞろぞろと歩いていると気味が悪い」。

 地域との摩擦も生まれている。「毎年外国人がどんどん増え、正直なところ住民からの苦情が絶えない」と地元の自治協議会の山口英則会長(75)は明かす。

 トラブルは文化や生活の違いが原因となるケースが多い。ネパールにはごみ分別の習慣がなく、清掃車が回収しないため、カラスが食い散らかしてしまう。アパートには、ネパール語でごみ分別の方法を書いた看板がある。

 共存を目指す動きもある。福岡市南区は昨年から「縁むすび事業」として、日本人住民と留学生の交流会を各地域で開いている。

 10月、ある公民館で住民約20人がベトナム人留学生16人とちらしずしやベトナム料理の揚げ春巻きを作り、食卓を囲んだ。グエンさん(23)は「これまで住民との交流はなかった。仲良くしていきたい」とほほ笑んだ。

 実は「国際通り」周辺は経済的に厳しい1人暮らしの高齢者も多い。9月には、通り沿いの共同住宅で80代の男性が孤独死した。「互いが寄り添える関係になれば、地域にとってもプラスだ」と南区役所の副島信次企画振興課長は言う。

 1人暮らしの池田トキ子さん(70)は4~5年前から毎日、国際通りに近いネパール食材店に通う。ネパール人店主の1歳の子どもをあやし、店番に立つ時もある。代わりにネパール料理を教えてもらう。

 「持ちつ持たれつで、この店が私の憩いの場。近くで暮らす住民同士、話せば理解し合える」。池田さんとネパール人親子の草の根の共生が続く。

=2016/12/08付 西日本新聞朝刊=

http://www.nishinippon.co.jp/feature/new_immigration_age/article/296020