日本の最低賃金引き上げの話・2017年版

こないだ韓国の最低賃金引き上げの話を記事にしたところですから、こちらの話も記事にして対比できるようにしておくことは、意義のない話ではないでしょう。

blue-black-osaka.hatenablog.com

韓国の最低賃金引き上げのニュースが影響した、なんて言うつもりは毛頭ありません。ただ、引き上げ幅を圧縮したい圧力と、引き上げ幅を拡大したい勢力との力関係に、国際的な比較の観点が影響していることは間違いないでしょう。ただでさえ円安基調を維持しようとしているわけですしねえ。

通貨の価値を下げたまま、賃金を上げないとなれば、そらもうあんた、色んな意味で「安い国」まっしぐらですわ。

最低賃金3%上げ、政権目標配慮 審議会形骸化、懸念も
2017年7月27日05時00分

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最低賃金が目安通りに上がると…

 2017年度の最低賃金(時給)の引き上げの目安額は全国加重平均で25円となり、比較できる02年度以降で最大の上げ幅となった。引
き上げ率は安倍政権の目標通り、2年連続で「3%」。厚生労働省中央最低賃金審議会の小委員会の最終協議は、異例のスピード決着だった。政府目標をにらみながらの議論となり、審議会の形骸化を懸念する声もある。▼オピニオン面=社説

 最低賃金は、企業が働き手に支払わないといけない最低限の賃金。労使の代表と、大学教授ら公益委員で議論して毎年見直し、引き上げ額の目安を示す。

 東京都内で25日午後3時に始まった今年の最終協議は、同10時に決着した。最終協議は日をまたいで翌早朝までかかることが多かったが、今回は「スピード決着」となった昨年より、さらに早い決着となった。目安通りの引き上げが実現すれば、最低賃金の全国平均は848円になる。

 最低賃金は、物価や所得水準などの指標をもとに都道府県をA~Dのランクに分け、ランクごとに目安額が提示される。東京など大都市部のAは26円、Bが25円、Cが24円、Dが22円で決着した。

 今年もスピード決着となった背景には、政府が3月にまとめた「働き方改革実行計画」に、「3%上げ」の目標が盛り込まれたことがある。6月下旬にあった今年度の初回の審議会で、塩崎恭久厚労相は実行計画に配慮した議論を審議会に要請。決着後に記者会見した連合の安永貴夫・副事務局長は、労使の主張には大きな隔たりがあったが、公益委員の学識者がこの要請を踏まえて歩み寄りを促したことを明らかにした。

 ただ、政府目標に配慮した議論には「官製春闘のように『官製最低賃金』が定着すれば、公労使の代表による審議会の存在意義が問われかねない」(交渉関係者)との懸念も出ている。

 最低賃金制度に詳しい立教大の神吉知郁子(かんきちかこ)准教授は「政府の数値目標以外に『3%』の合理的な根拠が見えてこない。各都道府県の最低賃金審議会から『3%ありきではないか』との疑念が出ることも考えられる。審議会が説明責任を果たせるかが問われている」と指摘する。

 ■増えても「まだ低い」

 最低賃金の引き上げは、低所得者層の賃金や中小企業の経営に直結する。

 神奈川県の最低賃金の時給930円で、弁当工場のパートとして働く猪井伸哉さん(48)は、週5日勤務で手取りは月10万円ほど。昨年度に最低賃金が25円上がったが、増えた手取りは月2千円ほど。貯金はできず、節約のために持病の治療の通院回数を少なくしている。「最低賃金が上がるのはありがたいが、金額はまだ低い。どんな労働者も最低限の生活ができる水準に引き上げてほしい」

 埼玉県にある保育士の人材派遣会社では、約300人の従業員のうち半数は時給で働くパートだ。時給は最低賃金より高く設定しているが、最低賃金が上がれば労働市場全体で時給が上がり、人手確保のために時給を上げる必要がある。「時給は上げたいが、値上げに応じる取引先は少ない。今後もこのペースで上がれば、事業を続けられるか心配だ」と社長は話す。

 引き上げ幅の目安を決める審議会の責任は大きく、現場の実情を踏まえた丁寧な議論が欠かせない。

 (村上晃一

http://digital.asahi.com/articles/DA3S13057668.html

(社説)最低賃金 底上げを早く広く
2017年7月27日05時00分

 今年度の最低賃金引き上げの目安額(時給)が決まった。全国平均では25円で、時給は今の823円から848円になる。時給で決めるようになった02年以降で、最大の増額だ。

 安倍首相が掲げる「年3%程度ずつ引き上げて、時給1千円を目指す」という方針に沿った決着である。今年の春闘で中小企業の賃上げが好調だったことも追い風になった。

 とはいえ、主要国の中では1千円を超えるフランス、ドイツなどと比べてまだまだ見劣りする。経済が順調で人手不足感が強い今は、引き上げの好機だ。もっとペースを早めたい。

 今回の目安をもとに、これから都道府県ごとに引き上げ額を決める。昨年度は、47都道府県のうち6県で目安を上回った。地域の実情を踏まえつつ、さらに多くの県が「目安プラスアルファ」をめざしてほしい。

 今後の大きな課題は、地域間の格差をどう縮めていくかだ。

 全国平均で最低賃金が848円になるとは言うものの、実際にこれを上回るのは東京や神奈川、大阪など大都市部に限られる。働く人が多く、最低賃金自体も高い大都市部が平均を押し上げており、むしろ地方との格差は広がる傾向にある。

 国は所得水準や消費実態などの指標をもとに都道府県をA~Dの4ランクに分け、ランクごとに引き上げの目安額を決めている。Aランクの中で時給が最高額の東京(現在は932円)とDランクで最低額の宮崎、沖縄(同714円)の差は現在、218円だが、目安通りに増額が実施されるとこの差が222円に広がる。

 時給が700円台前半では、1日8時間、月に20日働いても月給は12万円に満たない。これで生活を支えるのに十分な水準と言えるだろうか。

 地域間の格差を是正しつつ、より広く底上げを図るにはどうすればよいか。下位のランクで引き上げを手厚くする。より上位のランクへの区分変更を柔軟に行う。そうした具体的な方策について、国の審議会で議論をさらに深めてほしい。

 最低賃金のアップを定着させるには、体力に乏しい中小・零細企業への経営支援の強化や、大企業と下請けの取引条件の改善など、環境づくりも欠かせない。「下請けいじめ」で公正取引委員会が指導した件数は、昨年度、過去最多の6302件にのぼった。監視態勢の強化が必要だろう。

 社会全体が底上げを実感できるよう、歩みを加速させなければならない。

http://www.asahi.com/articles/DA3S13057575.html