佐々木亮弁護士による、極めて真っ当な議論だと思います。
- 作者: 佐々木亮,大久保修一,重松延寿
- 出版社/メーカー: 旬報社
- 発売日: 2018/06/26
- メディア: 単行本
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吉本芸人に労組結成のすすめ 佐々木亮弁護士の直言
聞き手・吉田貴司 2019年8月15日19時30分
芸人による労働組合の必要性について話す佐々木亮弁護士=東京都千代田区雨上がり決死隊の宮迫博之さん、ロンドンブーツ1号2号の田村亮さんら吉本興業所属の芸人が、振り込め詐欺グループなどの集まりに出席して金銭を受け取った問題は、「芸人の働き方」が抱える不透明さも浮かび上がらせました。労働法が専門の佐々木亮弁護士は「芸人も労働組合をつくるべきだ」と主張しています。佐々木弁護士にその理由を語ってもらいました。
「全員クビ」はパワハラ
――労働法の専門家として、一連の問題をどうみていますか。
吉本興業と所属芸人の関係は一般的な会社と社員の関係と全く同じとはいえません。しかし実態として、特に若手の所属芸人の働き方は多くの部分を吉本興業の指示に頼っており、労働者の権利が適用される可能性はあると思います。
そうみると「労働問題」だらけです。社長の「全員クビにする」という発言は明確なパワハラに該当します。「契約解除する」は解雇の通告にあたりますが、そんなに簡単に解雇はできません。不当解雇ではないかという疑問が残ります。ギャラの不透明な配分は賃金の問題です。適正な契約書を作っていないという仕事の入り口の問題もあります。
合宿に参加する研修生から「死亡しても責任は一切負いません」とする規約に承諾する誓約書を得ていたという報道もありました。研修生に労働者性があるかという論点はあるものの、芸人は体を張ることもあります。けがをしたときの労災の問題も考える必要があると思います。
派遣労働者に近い立場
――とはいえ、若手芸人が所属事務所に主張するのには勇気がいりそうです。
日本の芸能界は、事務所の力が圧倒的に強く、バランスが悪いと思います。あるテレビ番組に出演したとき、吉本ではない事務所に所属する芸人さんと話していると「うちの業界もブラックですよね。僕だって、出ている番組でいくらもらっているかわからないんです」と話していました。番組の司会者を務めるほどの実力者でしたが、そんな人でも自身のギャラについてわからないというので、びっくりしました。本人、契約する事務所、労務を提供する相手のテレビ局といった三面関係があるので、派遣労働者に近い立場とも言えるかもしれません。
おかしな契約、無効に
――吉本興業が契約書を作っていないことも問題視されました。
そもそもなぜ契約書を作るかというと、お互いの合意事項を前もってはっきりとさせておくためです。今回起きたような問題でも、事前に「反社会的勢力とのつながりがあるところに営業した場合」の処分を明記しておけば、事務所側のリスク管理にも役立ちます。
契約を結んでも、やはり事務所側が強いということはあります。ひどい内容の契約書を結ばされた芸能界の人からの相談を受けたこともあります。内容がおかしすぎる契約は後から無効にすることもできます。
労組あれば違った処分も
――芸人が労働組合をつくる必要性を発信されていますね。
労働組合法による労働者の定義は「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」です。芸能人がこの法律上の労働者であることは間違いないと思います。労働組合は、使用者の力が労働者より圧倒的に強いからこそ、労働者に団結権を保障して対等の状態にしようとするものです。近代国家として当然のシステムです。
今回は、反社会的勢力との関係がある営業だったことが問題になりました。しかし、芸人たちがわかっていて営業したのか、行ってから反社会勢力と気づいたが営業せざるを得なかったのか、全く知らずに営業後に知ったのか、それによって情状が全く違います。それにもかかわらず、吉本興業は言い分を一切聞き入れず、関与した人たちは全員一律謹慎としました。労働組合があれば会社側もその存在を意識せざるを得ず、違った処分になった可能性はあると思います。
プロ野球には、日本プロ野球選手会という労働組合があります。最近では巨人の山口俊投手が減俸処分と契約の見直しを受けたときに、選手会が不当労働行為救済を東京都労働委員会に申し立てました。労働組合があれば、会社側の行為に反発できるバネになりますが、芸能界には労働組合がないので、何も起きないのです。
事務所横断の組織に
――労働組合さえ作れば、問題は解決するのでしょうか。
芸人自身、しかもそれなりに力のある方が声をあげて作らなければいけないと思います。例えば、ギャラの配分一つを取ってもマネジャーの給料もありますし、「どれくらいの配分がいいのか」は当事者しかわからない慣習で決まる部分もあると思います。そうしたものに影響を与えるには、それなりに力を持った人たちの発言力が欠かせません。
またプロ野球の選手会のように、事務所を横断的に結ぶ労働組合にするべきだと思います。条件の改善を求める局面では、別の事務所の人が交渉をした方が言うべきことが言えるものです。
最近は芸人がギャラの問題をツイッターで発信することもあります。でも、それだけでは一瞬の燃え上がりで終わってしまう。きちんと持続的に芸人の地位を改善していくには、集団で動くべきだと思います。
現実を見て辞める人が多くなれば芸人という文化も廃れてしまいます。芸人のプライドのためにも労働組合を作った方がいいと思います。(聞き手・吉田貴司)
記事中にも言及がありますが、類似した参照例としてここではプロ野球の経験を想起すべきだと思います。
【スポーツ史 平成物語】前代未聞のストライキ決行 忘れてはいけない球音が消えた2日間
2018年7月28日 紙面から
会見で苦悶の表情を見せる日本プロ野球選手会の古田会長(左)。右は瀬戸山ロッテ球団代表=2004年9月17日、東京都内のホテルで第2部 プロ野球編(5)
2004(平成16)年9月18日と翌19日。日本のプロ野球が忘れてはいけない「球音が消えた」2日間だ。労組・日本プロ野球選手会によるストライキ決行。ナゴヤドームなどで予定されていた計12試合は、球界再編を巡る労使対立のあおりを受けて全て中止となった。ストによって公式戦が中止になったのは、ただ一度。何が前代未聞の事態を招いたのか、そしてどのように収拾されたのか。今、改めて振り返る。 (文中敬称略)
会見に臨む日本プロ野球選手会会長・古田敦也(当時ヤクルト)の硬い表情が、事の深刻さを示していた。9月17日夜、経営者側と選手会の協議・交渉委員会(労使交渉)が決裂し、翌日から2日間のストライキが決まった。その後、テレビに生出演した古田の顔はこわばっていた。涙が頬を伝ったのは、ファンからのメッセージが紹介された時だった。
さかのぼること約3カ月。6月13日が全ての球界再編騒動の発端だった。近鉄とオリックスの合併が発覚。平成初かつ21世紀初のパ・リーグ王者は、親会社・近畿日本鉄道のお荷物。年間40億円の赤字を抱えていた球団は経営への万策が尽き、オリックスのオーナー・宮内義彦からの合併の誘いに乗るしかなかった。
事が表面化すると、選手は猛反発。「最初はとにかく近鉄を残してほしいと思っていた」と選手会の森忠仁(現事務局長)は当時を振り返る。事務局員として事務局長の松原徹とともに問題に対応する中、近鉄の選手会長だった礒部公一の言葉に心を揺さぶられた。
「裏方さんたちとかはどうなるんですか!」
そんな切実な思いとは裏腹に、事態は進展した。7月7日の臨時オーナー会議。西武オーナーの堤義明の発言が球界を激震させた。「もう1つの合併が進行している」。ダイエーとロッテも合併して、10球団で1リーグ制に移行する構想だ。世論が反発する中、一つの発言が怒りに油を注いだ。
「たかが選手が!」
口にしたのは巨人オーナーの渡辺恒雄。経営者側の傲慢(ごうまん)の象徴と受け取られた発言に世間や選手は怒りを深めた。森は「侮辱されたようで、選手は敏感に反応しました」。球場での署名活動では多くの署名が集まり、合併反対のデモも行われた。
しかし、経営側の意思は変わらない。実行委員会選手会担当顧問を務めた中日の伊藤修がその理由を語る。「法律の専門家の根来泰周コミッショナーが『この問題は経営権に関する問題』と言っていたんだ」。この判断の下、選手の意見を省みることなく手続きを進めた。
古田ら選手会が近鉄存続や12球団制維持を訴えても流れは変わらない。次第に「ストやむなし」という機運が生まれていった。選手会は8月12日にスト権を確立し、期間も9月の週末と設定。溝が全く埋まらないまま、労使は向かい合った。
1度目の交渉は9月9、10日に大阪で行われた。その中で、伊藤が今も忘れられない光景がある。古田と松原が2人で経営者側の席を訪れ、涙ながらに訴えたのだ。
「自分たちのこと、立場を分かってほしい…」
伊藤によると、半数の球団がこの言葉に理解を示し、これを受けて9月11、12日のストは直前で回避された。でも、これはあくまで先送り。「ストをやれるものならやってみろ」と強硬姿勢の球団がある中、古田も同委の委員長・瀬戸山隆三(当時ロッテ球団代表)との握手を拒んだ。
そして東京で16日に始まった2度目の交渉。その冒頭、ある球団の代表が選手会とライブドアの関係をなじった。インターネット事業などを展開するライブドアは6月に近鉄の買収を表明し、この日仙台を本拠地とした球団の新規加盟をNPBに申請した。森は「一度見送ったんだから、今回もどうせストはできないと思ったんじゃないかというくらい態度が変わっていた」と述懐する。双方の溝は再び深まっていた。
選手会が最も求めたのは合併の1年凍結、もしくは12球団制維持に向けた翌年の新規参入の確約だった。しかし、1リーグ構想を持つ経営者側は譲らず、17日午後5時のタイムリミットを4時間延長したにもかかわらず、溝は埋まらなかった。決裂が濃厚となり、古田は集まった各球団の選手会長に「どうする」と尋ねた。全員が「仕方ない」と応えて、スト実施が決まった。
翌日。球場では各選手会がさまざまなイベントを実施した。水面下では伊藤と松原が収拾へ話し合いを続けた。伊藤がその時の心境を振り返る。
「ともに2度目のストはしてはいけないと思っていた。選手は野球をやってこそ。松原君にもストライキに至った脱力感みたいなものがあった」
経営者側も手抜かりがあった。中止損益の補填(ほてん)という問題を事前に協議していなかったのだ。さらにライブドアだけではなく、楽天も球界への参入を表明。一方、ダイエーとロッテの合併も消滅。1リーグ構想の前提が崩れ、最低限の妥結の条件が整った。
22日から名古屋で行った3度目の交渉には、全選手会長が出席。その場で了承できる態勢を整えた。経営者側も新規参入による12球団制の維持をのんだ。スト回避の機運が高まる中、23日の6時間の交渉の結果、交渉はまとまった。
あれから14年。2011年の東日本大震災後の開幕時期を巡る騒動など労使の対立は絶えない。森は根源について「(球団が)雇ってやっている感というところは、あのころとそんなには変わっていないのかな」と分析する。
平成は終わる。カープ人気、DeNA、楽天など新興球団の努力もあり、プロ野球人気は復活の兆しを見せている。だが目には見えぬところで、火種はくすぶり続けている。 (特別取材班)
■9月16、17日の協議・交渉委員会での双方の主張
【選手会】
(2)12球団制維持のため、2005年シーズンから新規参入を認める
【経営側】
(2)審査には時間が必要で、2005年シーズンからの新規参入の受け入れ努力は約束できない
(3)近鉄の選手にプロテクト枠がある関係で、移籍の自由を認めることは受け入れられない
■交渉の合意内容
日本プロ野球選手会とNPBが9月23日の労使交渉で交わした合意書の主な内容は以下の通り。
・NPBは来季(2005年)に12球団に戻すことを視野に入れ、野球協約に基づく参加資格の取得に関する審査を速やかに進め、適切に対応する。
・NPBは現行野球協約(当時)の加盟料、参加料を撤廃し、預かり保証金等の制度を導入する。
・新規参入が決まった球団の分配ドラフト参加を認める。統合球団のプロテクト選手(2巡目、3巡目の指名選手を含む)を除いて柔軟に対応する。既存球団は戦力均衡を図るため、参入球団に協力する。
・NPBと選手会は1年間をかけて、ドラフト改革、年俸の減額制度の緩和などについて徹底的に協議する。
長嶋監督(左)と巨人入団発表をする落合=1993年12月21日、東京都港区の新高輪プリンスホテルでFA制度開始、落合が巨人移籍
球界再編騒動とともにプロ野球を大きく変えたのが1993(平成5)年9月にNPBと日本プロ野球選手会が合意したFA制度。一定の年数を経た選手は自らの意思で12球団と自由に契約できるようになった。選手会は1986年から導入を要求。当初はNPBが消極的な姿勢だったが、選手会は粘り強く交渉を継続し、1軍在籍10年という条件での導入が決まった。初年度はダイエーに移籍した松永浩美(阪神)を皮切りに、石嶺和彦(オリックス)が阪神、駒田徳広(巨人)が横浜、落合博満(中日)が巨人へ移籍した。
行使条件は現在、国内FAが高校出の選手なら8年、大学・社会人出の選手が7年、海外FAが一律9年となっている。しかし、選手会は一律7年への見直しを長年求めており、森は「新たな方向として取り組んでいこうと思います」。さらなる見直しは新しい元号の下でとなりそうだ。
https://www.chunichi.co.jp/chuspo/article/column/heiseimonogatari/CK2018122802100021.html
追記:同じ佐々木弁護士の手になる関連記事など。
news.yahoo.co.jp
news.yahoo.co.jp
忙しいのであまり佐野SAのできごとに言及できないが、代わりの労働者を雇ってスト破りをしたことについて、職安を通さなければ違法じゃないとか、スキャップ禁止の協約を結んでないから違法じゃないとかありますが、そういう問題じゃないんですよ。
— ささきりょう (@ssk_ryo) August 20, 2019
また、昨今の日本のマスメディアでは労働者の権利や労働運動のことを正面から取り扱わないみたいです。近年のストライキのあり方(やスト破りのやり方)については過去に何度か取り上げた映画「明日へ(原題:カート)」が参考になるかもしれません。