陸前高田市の東日本大震災犠牲者刻銘板の記載内容をめぐるやりとりについて

こういうニュースを目にしました。

殉職と銘板に明記を 震災で犠牲の陸前高田市職員遺族が市に要望

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市に要望書を提出する職員遺族(右の2人)

 岩手県陸前高田市が2020年度に整備する東日本大震災の犠牲者刻銘板を巡り、職員の遺族有志が18日、何らかの形で殉職であったことを明記するよう市に要望した。遺族2人が16人分の署名を添えて提出。「殉職職員が100人を超えた教訓を後世に伝え、二度とこのようなことにならないため」と訴えた。

 これに対して市被災者支援室は「亡くなった人を同じように刻銘する。市職員だけを特別には取り扱えない」と応じた。

 刻銘板の在り方について戸羽太市長は17日の定例記者会見で「(犠牲者には)家族や知人、近所の人を助けようとした人もいたと思う。線引きは難しい」と説明した。

 その上で、職員遺族が独自に刻銘板などを整備する場合は、市が協力することも考えられるとの認識を示した。

 市の震災検証報告書によると、嘱託や臨時も含めて当時の在籍職員443人のうち111人が犠牲になった。

 報告書は職員多数が犠牲になった要因について「自らの身の安全を顧みず、市民の避難誘導などを優先し、さらなる災害対応業務に備えて職場付近での待機を続けた結果、逃げ遅れが生じたことが考えられる」と指摘している。

2020年02月19日水曜日

https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/202002/20200219_31004.html

私の知っている事例の中で、イメージ的に近くて参考になると思われるのは、「釜山警察追慕空間」の刻銘板でしょうか。

blue-black-osaka.hatenablog.com

わずか数文字の違いですが、遺族がその文字に込めようとする心情は、軽いものではありません。

ただそれは、釜山の場合、遺族だけでなく、警察という組織の同調と行政の後押し、そしてそれを是認する世論があって実現したものであることもまた事実です。その事例に学ぶとすれば、この遺族有志の訴えに市役所や市議会内で同調する人が増え、世論もそれを支持するようになれば、現在の流れが変わることもあろうかと思います。

他方で、遺族が独自に刻銘板を整備するのであれば市が協力することもあり得る、という意向も示されているので、こちらの線で遺族も納得し、各方面が合意できる形が作れれば、それで収まる可能性もあります。

「問題提起と議論と合意形成を通じてあるべき姿を模索する」ことが求められるこの案件は、初めから正解があるわけではなく、その意味で極めて政治的な問題だと言えるでしょう。