【学生スポーツの風景】地方大学からの逆襲

今年のプロ野球ドラフト会議は逸材揃いで楽しみだという人も多いかと思います。

その中で、下の記事にもあるように「地方大学出身でプロで活躍する選手が少なくない」というのは、いまや定着しつつある事実だと言えます。大学野球選手権や神宮大会で地方大学が上位に進出するのも珍しいことではありません。

ところが、困ったことに、大学の学生スポーツ界というのはなかなか古い体質を引きずっているところがありまして。

「世界大学野球選手権のメンバーを選ぶのに、実力や成績云々以前に地方大学からは選ばれない」なんてことは、事情を知らない人からしたらにわかには信じられないことかも知れませんが、いかにもありそうなことです。高校以下のカテゴリーではあり得ないことですけど、学生スポーツ界の学閥や既得権の囲い込みやの弊害については、ちょっと注意してみればいろいろなところでチラチラと表面に出てきます。

まあ、だから私はこと学生スポーツに関する限り、某「都の西北」大学が大っ嫌いなんですけどね。

ともあれ、佛教大の大野雄大や八戸大の塩見貴洋といった地方大のドラフト上位候補には、プロでも活躍してほしいなと思いつつ、ひそかに注目しています。

[2010年10月17日(日)]
大学野球】ドラフト、大学生は地方に逸材あり
氏原英明●文 text by Ujihara Hideaki
益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi


今年の春季リーグでは、防御率0.00で最優秀選手賞を獲得した八戸大の塩見貴洋

 ドラフト最盛期―――。
 ここ近年は、そんなうたい文句で金の卵たちが騒がれてきた。

 特に、06年の甲子園を沸かせた斎藤佑樹早大)が大学進学を選択したということで、大学野球は多くの注目を浴びてきた。ピッチャーであれば150キロを計測すると、ひとたび「ドラフト候補」と騒がれてきたのだ。

「球場のスピードガン表示が速い」という噂も飛び交うが、特に神宮を舞台にした東京六大学や東都大学の選手たちは、少しの活躍でマスコミの注目にさらされてきた。

 とはいえ、近年のプロ野球を見ていると、そうしたプロ入り前の評判がプロでの成功を示してはいない。大学のいわゆる「中央球界」出身が成功していると必ずしもいえないし、逆に、地方大学出身の活躍が見逃せなくなっている。

 その代表格が西武・岸孝之、中日・浅尾拓也。日ハム・榊原諒らの存在である。

 岸は東北学院大、浅尾は日本福祉大、榊原は関西国際大。誰もが知っている大学ではないが、彼らの活躍が、今の地方大学への興味を掻きたてる要素にはならないだろうか。大学時代に神宮で150㌔を計測し注目を浴びながらも、プロ入り後に伸び悩んでいる選手をしり目に、存在感を見せる浅尾や岸たちの姿は、地方の大学の価値を上げるのではないか。そういう気がしてならないのだ。

「そういわれると、僕もやる気が出てきますし、やったろうという気持ちになります」
 そう話すのは、今秋のドラフト上位候補のひとり・大野雄大(佛教大)である。彼もまた地方大学の逸材だが、その実力はこの夏の全国大会で日米総勢100人のスカウトを釘づけにしたことでも、証明されている。3大会連続、全国大会初戦完封という偉業も達成している。

 彼以外にも九州産業大の榎下陽大、八戸大の塩見貴洋は、今秋のドラフト上位候補だし、関西にも大阪学院大の小林寛、社会人入りを決めた同志社大藤井貴之、メジャー2球団が食指を動かす天理大・小山雄輝らも、侮れない存在である。

 しかし、そうした実力がありながらも、メディアの報道も含めて、今の大学野球界は地方大学に熱視線を送っているわけではない。たとえば、今年の8月に行なわれた世界大学野球選手権のメンバーに、彼らは入っていない。地方大学からは東北福祉大の阿倍俊人(内野手)しか選出されなかったのだ。

 落選の報に泣いた大野は「決定がある前に『地方の大学は選ばれない』とは聞いていましたけど、自分のボールを見れば問題ないやろと。落とす理由ないやろと思っていました。藤井にしても選考合宿で好投していた」と地方大学軽視に深く傷付いたと語る。大阪学院大の小林寛にいたっては、春季リーグでの登板過多で、選考合宿にすら声が掛からず、苦虫を噛んだ。
「高校の監督に聞いたら、落選理由は僕が春のリーグで投げすぎていて、合宿に呼んで潰れたら責任が取れないから、と。僕の知らないところで、疲れていると判断されて、落とされたのはすごく悔しかった」と小林は漏らしている。

 ただ、ここでの落選が、彼らの未来を示しているわけではない。常に注目にさらされる中央球界との開きはこれからも変わらないだろうが、注目されようともされなくとも、ひとつの夢に向かって努力することにこそ価値はあるのだ。ここでの屈辱を大きな糧にできたら、さらなる成長を期待できるというものだ。

 先に挙げたプロ野球選手のうち、岸は世界選手権に出場したが、浅尾も、榊原も代表には入っていない。特に榊原は選考合宿で高いパフォーマンスを見せ、「確定」と思われていた中での落選だった。まさに、今年の大野と同じような状況だった。

 斎藤や大石らが注目されてきた陰で、地道に努力を続けてきた選手が地方のリーグにはいる。彼らにも、斎藤らと同じような4年間があるということを軽視してはいけない。
 
 「プロに入って抜かしてやる」
 落選した選手のひとりはそう話していた。
 地方リーグ出身たちの咆哮。彼らの反骨心こそ、見逃してはいけない。

http://blog.shueisha.net/sportiva/baseball/index.php?ID=95