「地方私立大学の公立化」という選択

朝日新聞が、山口東京理科大の状況に触れながら、大きく取り上げていました。「山陽小野田市立山東京理科大」という名称は、公立大学としてのメリットを生かし切れていないような気がしないでもありませんが、「大学の公立化」という選択肢について考えるためのケースの一つであることは間違いありません。

高知工科大や名桜大・静岡文化芸術大のような「成功例」も少なくないだけに、今後もしばらくこの流れは続くと思います*1

地方私立大、「公立化」に活路 地方創生が追い風に
大野博、山下知子 2015年1月25日14時58分


公立化を進める主な大学

 山口東京理科大山口県山陽小野田市)が、公立化に向けて動き出した。定員割れと経営難の「二重苦」の解消が狙い。少子化が進む中、同様に苦境にあえぐ地方の私立大にも「公立化」を探る動きが広がっている。

 山口東京理科大は、工学部のみの単科大学。運営する学校法人の地方への拡大路線により、1987年誕生の東京理科大山口短大が前身だ。この時に20・8億円、95年の4年制大学移行時に35億円の補助金を、旧小野田市などから受けた「公私協力型」の大学だ。

 運営は厳しかった。過去5年のうち4年間は入学者が定員割れ。学部の定員800人に対し、昨年5月1日現在の在学生は655人だ。学校法人によると、大学運営に関する累積損失は85・9億円にのぼる。

 学校法人の中根滋理事長は昨年7月末、山陽小野田市の白井博文市長を訪問。「現状努力の延長では抜本的改善は不可能」と、私立大から市立大への移行を訴えた。

 一方の市側。白井市長は「公立化か廃止かの二者択一」を迫られたと受け止めた。だが人口6万人強の自治体として、総務省文部科学省の反応が気になる。県立大の新設ですら容易に認めないからだ。

 ところが10月、安倍政権が打ち出した「地方創生」の具体策に「地方大学の活性化」がのぼるようになった。その結果、公立化に事実上のゴーサインが出た。「地方創生さまさまだ」と関係者は言う。

 課題はもう一つあった。隣の宇部市にある国立の山口大工学部と競合する懸念だ。

 そこで白井市長は、県内初となる薬学部の新設を学校法人に持ちかけた。国公立大の薬学部の人気は高く、例えば岐阜市立の岐阜薬科大は倍率4〜8倍で推移している。差別化の切り札になるとの考えに、学校法人側も全面協力を約束した。

 市と学校法人が基本協定書を交わしたのは昨年12月26日。市議会の議決を経て市立大の認可権を持つ山口県に申請し、市が設立する公立大学法人に2016年4月に移管して「公立化」するとの内容だ。名称は「山陽小野田市立山東京理科大」とし、17年の薬学部新設も目指す。

 公立化すれば、市は国から学生1人あたり約170万円の交付金が受けられる。累積損失は公立化前に学校法人側が清算する。市の試算では、定員割れが解消できれば今後10年前後は市の負担は生じない。

 協定書調印後の会見で、中根理事長は「市や県の将来を第一に考える大学経営に切り替えないと、地方創生の役割は果たせない」と説明している。

■「18歳人口減る状況変わらない」

 私立大学の公立化は、各地で進んでいる。

 「第1号」は高知工科大(高知県香美市)。入試の定員460人に対し、受験者数は08年度の745人が、公立化した09年度は5812人に急増。14年度も2637人と好調が続く。

 10年度は名桜大(沖縄県名護市)など2大学、14年度は長岡造形大(新潟県長岡市)が公立化。長野大も昨年、地元の長野県上田市に「要望書」を出した。いずれも地元自治体が全額出資するなどした「公設民営型」の大学だ。

 最近では新潟産業大(新潟県柏崎市)や成美大(京都府福知山市)など、山口東京理科大のように地元自治体が資金面で協力した「公私協力型」の大学も公立化を目指し始めた。

 背景にあるのは進む少子化に伴う定員割れだ。

 日本私立学校振興・共済事業団(東京)の578大学の調査では、今年度の定員割れは全体の45・8%で昨年度より5・5ポイント増加。地方別の定員充足率は、東京の109・53%に対し、福岡を除く九州地方が93・93%、広島を除く中国地方が94・06%だった。近年横ばいだった18歳人口が減り始める「2018年問題」も控える。

 教育ジャーナリストの山内太地さんは「公立大は高校にとって進学実績になり、授業料も私立の約半額に抑えられ、親へのアピールにもなる。だが、18歳人口が減る状況は変わらない」と指摘。桜美林大の諸星裕教授(大学行政管理)は「地域を見て、本当に大学がそこに必要か、税金を投入しても残すかが問われる」と釘を刺す。(大野博、山下知子)

http://digital.asahi.com/articles/ASH1M3DZNH1MTIPE00F.html?_requesturl=articles%2FASH1M3DZNH1MTIPE00F.html&iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASH1M3DZNH1MTIPE00F

上の記事中にもあるように、長野大学や成美大学などでも、地元市における議論がされているようです。この両地域であれば、長野県や京都府との関係はどうなっているのかがあまり見えてきませんが、そのへんはどうなっているんでしょうか。

長野)長野大、公立化の利点は 大学側は学費減を主張
鈴木基顕 2014年12月30日03時00分

 長野大学上田市)の公立大学法人化を巡って議論が続いている。公立化のメリットについて、大学側は学費を安くできるなどと主張。一方、関係者の間には「将来的に安定経営は可能か」など、大学の経営に関する慎重な見方もあり、今後の議論が注目される。

 22日にあった2回目の検討委員会で、大学側は経営シミュレーションを提示。現在の私学助成金約1億8千万円に対し、公立になった場合の交付税(大学運営費交付金)は約2億8千万円になると試算。差額の約1億円で、学生1人当たりの納付金を年間約8万円減らせるとした。その上で、上田地域定住自立圏の地域内から進学した学生の場合、4年間で59万4800円、地域外の学生で52万3800円の学費削減が可能との試案も示し、「地元の若者が入学しやすくなる」などとアピールした。

 経営状況について大学側は「借入金なしで運営し、約53億円の預金などがある」と説明。公立化の場合、設置者の上田市に「財政的な負担をかけない」との立場も示す。

 地域との関係も強みだ。「大学の地域貢献度ランキング」(日経産業地域研究所)で、5年連続で私立大部門1位を誇る。

 しかし、18歳人口は減少の一途をたどる。関係者には「将来的に財政負担が発生するのではないか」などの懸念が残る。大学側が示すメリットと自治体側のメリットが、今後どう折り合っていくのか。議論は平坦(へいたん)ではない。

 大学の公立法人移行は04年の公立大学法人制度導入で可能になった。長野大は今年3月、上田市公立大学法人化を要望。市は検討委を設け、大学の現状などを確認している。

 長野大の森俊也副学長は「課題は、地域の若者を受け入れて地域社会の課題の発見と問題解決を担う人材を養成し、社会に送り出すこと」「公立化を前提に不断の教育改革を実践していくつもりだ」と話す。

 検討委は年度内をめどにあと3回を予定。翠川潔・市政策企画課長は「今後、本当に長野大学を公(おおやけ)が引き受ける意義があるのかなど、本質的な議論が進んでいくと思う」と話した。(鈴木基顕)

http://digital.asahi.com/articles/ASGDT3V27GDTUOOB00T.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASGDT3V27GDTUOOB00T

成美大公立化「地方創生系」単科に/福知山市
2015年01月27日

 府北部で唯一の4年制大学、成美大(福知山市)の公立大学法人化などを巡り、福知山市は26日、有識者らでつくる公立大学検討会議の初会合で、大学の学部と学科を「地方創生系」の1学部1学科に絞り込むなどした中期ビジョンを明らかにした。

 ビジョンでは、新大学の基本方針を、▽地域課題の解決に関する教育研究を行う▽地域連携、生涯学習、国際交流の拠点とする▽防災に関する情報を発信する――などと定めている。

 学部は、NPO法人などを含めた公共分野で活躍する人材を育成する「地方創生系」の1学部とし、▽公共政策▽観光・交流マネジメント▽防災・危機管理マネジメント――など6コースを学科として設置。学生数は、開設初年度から6年間で定員を50人から200人に増やす計画という。

 会議では、委員から「福知山だからこその特色を知りたい」「コースを絞り込むべき」などの意見が相次いだ。会議は2月13日までに3回開かれ、市は会議での意見を参考に基本構想や基本計画を策定する。

http://www.yomiuri.co.jp/local/kyoto/news/20150126-OYTNT50275.html

長野県では事実、県立大学設立をめぐって県内関係者間がギクシャクしてるみたいですし、京都も京都府北部地域・大学連携機構との関係はどうなっていくんでしょうね。

長野の新県立大学、具体像作り急ぐ 他大学へ説明行脚終了
2014/9/9 6:00

 県立大学の新設構想を巡り、同大理事長に就任予定の安藤国威・ソニー元社長は8日、長野県庁で私立松本大学の住吉広行学長と会談し、構想への理解を求めた。新県立大首脳による県内大学関係者への説明行脚はこれで終わり、県は履修科目や教授選考など具体像作りを急ぐ。学生の獲得競争が激しくなることへの懸念は強く、作業は不満を残したまま始まる。

 8日の会談には、新県立大の学長に就任する予定の金田一真澄・慶応大学名誉教授も出席した。約30分にわたる会談は非公開だったが、安藤氏は会談後、記者団に「(松本大と)お互いに連携を深めてウィンウィンの関係をつくりたい」と語り、和やかな雰囲気だったことを強調した。

 金田一氏も「松本大は地域貢献で成果を出している。教えを請いたい」と、良好な関係を築きたい考えを示した。

 松本大は、新県立大が設置を決めている管理栄養士課程を持つ県内唯一の大学だ。新県立大構想に対する反発は強い。

 この日の会談でも管理栄養士課程については議論が平行線をたどったもようだ。住吉学長は会談後、「今までの反対の経緯について申し上げた。今の基本構想を認めることは絶対にない」と言明した。「今後話し合いはできるが、決裂もあるかもしれない」とも述べた。

 安藤、金田一両氏は松本大に先立ち、2日から長野大学清泉女学院大学諏訪東京理科大学信州大学の4大学関係者と相次ぎ会談し、理解を呼びかけてきた。ただ、松本大以外の大学も、新県立大とすみ分けができるかどうか疑問に思っているもようだ。新県立大ができれば、学生獲得競争が激しくなることを警戒している。

 県はこうした微妙な情勢の下、2018年の開学に備え、カリキュラムの作成や教員の選考を急ぐ。カリキュラムでは、国際人材の育成を重視した科目を導入し、全寮制を採用する方針だ。こうした点を前面に出して他の大学と差をつける一方、履修科目の詳細な設定などは他大との間で「すみ分け」のための調整を探るとみられる。

 安藤氏は今後の作業について8日の会談後「松本大が心配する点について明確に説明していきたい」などと述べ、時間をかけて理解を求める方針だ。

 金田一氏も「松本大の住吉学長の考えを何とか変えていきたい」と話し、管理栄養士課程の設置や学部の配置など基本線は変更することなく開学を目指す姿勢を示した。

http://www.nikkei.com/article/DGXLZO76795200Y4A900C1L31000/

*1:余談ながら、韓国には公立大学がほとんどありませんので(ソウル市立大がたぶん唯一の例外)、地方大学にこの選択肢がないんですよねえ。