うむ、この読み解きは、勉強になりますねえ。
2012年12月9日03時00分
韓国大統領選〈ニュースの本棚〉
テレビ討論に臨む朴槿恵(パク・クネ)、文在寅(ムン・ジェイン)、李正姫(イ・ジョンヒ)の各候補(右から)=ロイター
崔章集著『民主化以後の韓国民主主義 起源と危機』磯崎典世他訳、岩波書店・5250円/チェ・ジャンジプ 43年生まれ。高麗大名誉教授。
雨宮処凛著『怒りのソウル 日本以上の「格差社会」を生きる韓国』金曜日・1260円/あまみや・かりん 75年生まれ。作家・活動家。著書『生き地獄天国』『生きさせろ! 難民化する若者たち』など。
澤田克己著『「脱日」する韓国 隣国が日本を捨てる日』ユビキタ・スタジオ・1680円/さわだ・かつみ 67年生まれ。99〜2004年、毎日新聞ソウル特派員。■「冷めた」風景 日本と類似
評・木村幹・神戸大教授(朝鮮半島地域研究)
韓国の選挙は今日大きく様変わりしつつある。最大の特徴は、ずばり、「盛り上がっていない」ことだ。カリスマ的な候補者と演説会に集う大群衆、といった嘗(かつ)ての韓国の大統領選挙の典型的な風景は既に遠い過去のものである。前回、2007年の大統領選挙の投票率は63%、今年春の国会議員選挙に至っては54%。日本の過去2回の衆議院選挙の投票率は、それぞれ69%と67%だったから、数字だけ見ても、韓国の人は我々以上に政治に「冷めて」いることになる。
韓国の人々はどうして熱い政治への思いを失ってしまったのか。この点に切り込むのが、崔章集『民主化以後の韓国民主主義』だ。同書が指摘するのは、一見賑(にぎ)やかに見える韓国の民主主義が、実は広範な民意を代表することに失敗していることである。同書はこの失敗の起源を大韓民国成立前後の時代状況から説き起こし、今日の韓国、そして民主主義そのものの課題にまで踏み込んでいく。
■経済格差の拡大
肝心の大統領選挙の内容はどうだろうか。李明博(イミョンバク)大統領の竹島訪問以後紛糾する日韓関係や、ミサイル問題で緊迫する北朝鮮との間の関係を尻目に、今回の大統領選挙の論点の中心は、国内の経済問題である。最大の課題は、我が国同様に急速に進んだ経済格差の拡大だ。背景には、1997年のアジア通貨危機以降急速に行われた韓国経済のグローバル化と新自由主義的な経済政策の採用がある。
このような韓国の「今」をセンセーショナルに伝えるのは、雨宮処凛『怒りのソウル』である。貧困問題をライフワークとする筆者が見いだすのは、「日本以上の」格差社会を生きる韓国の若者の現実だ。朝鮮半島問題の専門家でないからこそ、筆者の視点は新鮮であり、細部における疑問点をも超えて魅力的である。とりわけ、困難な状況にある若者が自らの直面する問題を「個人の問題」だと思い込まされ、如何(いか)なる運動にも踏み出すことも出来なくなっている、という指摘は重い。こうした若者の状況は、今回の選挙の予測を難しくさせる要因にもなっている。大接戦を繰り広げる二大政党の候補者の間でキャスチングボートを握るのは彼ら、「怒れる」若者なのである。
■隣国への無配慮
では、このような状況の中、日韓関係はどのような位置を占めているのだろうか。膠着(こうちゃく)した日韓関係がこの大統領選挙の行方によって、少しでも良い方向に変わるのではないか、という我々の一方的な期待とは裏腹に、日韓関係は全くと言ってよいほど争点になっていない。竹島問題や従軍慰安婦問題における主要候補の意見にも大差はなく、誰が大統領に当選しても、大きな変化は望めない状況だ。
日韓関係は何故にこうなってしまったのか。この点は、『「脱日」する韓国』が詳しい。06年に出版された早過ぎた名著が指摘するのは、韓国における日本の影響力の低下である。日本が重要でなくなったからこそ、誰も日韓関係の修復に真剣に動かない。そこにあるのは影響力を失った隣国に対する無配慮だ。だから、待っているばかりでは、韓国が日韓関係の改善に動くことはあり得ない。
政治不信、格差拡大、そして、隣国に対する無配慮。こうみると、韓国の大統領選挙を通して見える風景は実は日本の総選挙のそれと類似していることがわかる。隣国の選挙を考えながら、自国の問題について省みるのもまた重要だろう。
◇きむら・かん 66年生まれ。『韓国現代史』、近刊に『徹底検証 韓国論の通説・俗説』(共著)。
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まあ、ホントに宣伝したかったのはこれなんでしょうけど、そういう野暮なことは言わないでおきましょう。
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