うかつにもつい最近までこの寝台列車のことを知らなかったのですが、これはまさに、民営化以降のJR九州における試行錯誤の蓄積のたまものですね。
- 作者: 水戸岡鋭冶,原武史,野田隆,矢野直美,渡邉裕之,住友和子編集室,村松寿満子
- 出版社/メーカー: INAXo
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2012年12月22日03時00分
〈ななつ星駆ける〉アラブも注目 日本最上級列車の挑戦【末崎毅】九州をめぐる豪華寝台列車「ななつ星」が、国内に加えて、アラブや香港の富裕層の心を早くもつかみ始めた。列車はまだイメージ図程度で、運行は2013年10月から。それでも「日本初の陸のクルーズ」への関心は高い。JR九州は半年から1年でルートを見直す方針で、「最上級」の魅力づくりに余念がない。
■香港から「貸し切り」申し出
「今日は、『ななつ星』のために来たんです」
アラブ首長国連邦(UAE)の旅行会社の女性が、2013年10月から九州をめぐる豪華寝台列車の名前を挙げ、声をかけてきた。
南仏の保養地・カンヌであった富裕層向け旅行商談会。今月4日、ななつ星のPRに訪れたJR九州の柳川博信さん(35)に、女性は「UAEの富裕層に日本の新しい列車の旅はマッチする」と関心を示した。
車窓から景色を眺め、時には降りて温泉や庭園を巡る。そんなプランに加え、日本食にも話は及んだ。柳川さんは「アラブの人が知っているなんて」と、その興味の広さに驚きながら、列車内では料理人が九州の素材を使って腕をふるうことなどを紹介した。女性は熱心に耳を傾けていた。
「日本最上級の和み空間」をうたう豪華列車に、国境は関係ない。「いずれ半分は海外のお客様を」。JR九州はそんな青写真を描く。
アラブの旅行会社の女性は、いわゆる口コミで「ななつ星」を知り、事前にインターネットの英語版を読み込んできた。香港の旅行会社からは「1列車を貸し切りたい」との申し出も。香港の食生活にあわせ、仕出し弁当を温かい料理に変えてほしい、という具体的な提案まで飛び出した。
豪華寝台列車は、まだイメージ図が公開されている程度。それでも情報はすでに世界へ広がり、中東や香港で早くも富豪たちの心をつかもうとしている。
九州の七つの県や客車の数などに由来する列車は、古代漆色の外観で、すべてが特別なつくりだ。当初は「スタンダード」の客室をつくる構想もあったが、上質さに特化し、14部屋(約10〜21平方メートル)はすべてスイートになった。3泊4日で最高級の部屋だと、2人で計110万円かかる。
バーカウンターがある「ラウンジカー」では、ピアノの生演奏やマジックショーが楽しめる。「ダイニングカー」では、広々とした車窓から景色を眺めながら、旬の食材をつかった料理を味わう。客は中学生以上に限り、ドレスコード(服装の規定)があるなど、一流ホテル並みだ。
クレディ・スイスの2012年度の調査では、日本で100万ドル(約8400万円)以上の純資産がある層は360万人。米国に次ぎ、世界で2番目に多い。
乗客2千人規模の米豪華客船が来春から3カ月、日本に立ち寄るなど、リッチな旅の世界も競争は激しい。しかし観光を目的とした「陸のクルーズ」は、国内ではおそらく、ななつ星が初めてだ。
洋上とは異なる新しい旅の魅力に、国内の客の関心も高い。2013年10〜12月に出発する8回の旅は、申し込み倍率が7倍を超えた。平均年齢は57.8歳、3割近くが60代だった。
■目指すは「オンリーワン」のおもてなし
「ななつ星」は列車を楽しむだけではない。途中で降りて、九州とっておきの観光地を巡ってもらう。
年に一度しか公開しない茶室で出される、一服のお茶。3泊4日コースの3日目、鹿児島中央駅に着いた乗客は、司馬遼太郎の短編「故郷忘じがたく候」にも登場する薩摩焼の窯元で、もてなしをうける。
旅の思い出づくりにと、絵付け体験もある。15代沈壽官(ちんじゅかん)さん(53)は「焼き物にふれて、体験もして、僕たちしか出せない世界観を楽しんで欲しい」。時間があえば、みずから客を出迎えるという。
ハイライフ研究所の報告書によると、資産を多くもつ層は旅で希少性や目新しさをより重視する。ななつ星だからこそ。そんな「オンリーワン」の価値に、JR九州はこだわる。
例えば3泊4日コースの2泊目に最高級スイートの客が泊まる宿「天空の森」(鹿児島県霧島市)。東京ドーム13個分の敷地に五つの棟が点在する。他の人の目を気にすることなく過ごせる時間を提供する。
なにより2〜4日間を共に過ごす乗務員にはこまやかな心配りができる上質のおもてなしが求められる。その1期生たちを鍛える研修は10月以降、すでにホテルなどで始まっている。
「入社時に今の姿はまったく想像していなかった」
JR九州の特急の車掌だった大羽優秀(まさひで)さん(23)は、そう言いながら客室のベッドメーキングに挑む。前日には、おじぎの説明だけで20分。ホテルオークラ東京から講師として招かれた小野瀬玲(あきら)さん(51)は「動作では腰骨を意識して」「顔をおろす時は1秒、上げるときには2秒かけて」と指導が細かい。
着付け、茶道といった伝統文化や、喫茶やバーでの接客も。来年10月の運行直前まで徹底して学ぶ。
■ルートは半年から1年で変更
「ななつ星」がJR長崎駅に到着するたび、伝統芸能の龍(じゃ)踊りなどが乗客を出迎える予定だ。
JR九州が当初考えていたコースでは、長崎には寄らないはずだった。その案を覆したのは、長崎市が熱心に提案した独自のアイデアだった。
「市長自ら迎えにいく、というくらい熱心だった」
JR九州の唐池恒二社長はこんな裏話を披露する。 結局、出迎え役は田上富久市長ではなく龍踊りになりそうだが、市長は「第1号はホームの陰でお迎えしたい」と喜びを隠さない。最初の3カ月の乗客を決める11月の抽選会では、最高級スイートのくじをひく大役を、田上市長が担った。
大型クルーズ船なら、港に立ち寄ると乗客の消費額は1億円ともいわれるが、定員30人の列車に大きな経済効果は期待できない。それでも自治体が熱い視線を送るのは、「観光地の中から選ばれた証し」(長崎市)と考えるからだ。
新幹線がない長崎は、とりわけ埋没への危機感が強い。ブランド総合研究所が発表した地域ブランド調査でも、長崎市の魅力度は、大河ドラマ「龍馬伝」が放映された2010年の10位から、12年は31位に急落。大分県別府市や福岡市にも抜かれた。
JR九州は、ななつ星のルートを半年から1年で変える。九州じゅうからよりすぐりの魅力を発掘し、ファンを育てるしかけだ。JR九州クルーズトレイン本部の仲義雄次長は「止まる駅や取りあげる食材のブランド化をねらう」と話す。海外市場へのPRも、地域とともに進める考えだ。
仲次長はいま、「いい観光素材」を求めて九州の各地で行政や観光協会の担当者らと意見を交わす。目線はもう、2年目以降を向いている。
夜にはバーが開く車内の社交場「ラウンジカー」のイメージ図=JR九州提供
夜にはバーがオープンする車内の社交場ラウンジカーのイメージ図=JR九州提供
仏・カンヌでの富裕層向け旅行の商談会に参加したJR九州の柳川博信さん(左)は、「ななつ星」の関心の高さに驚いた=12月4日、同社提供
JR博多シティで開催中の「水戸岡鋭治の幸福な鉄道展」では、ななつ星のコンセプトを再現したバーカウンターも展示されている=福岡市博多区
薩摩焼の窯元にある年1回しか公開されない茶室「鶴壽軒」=沈壽官窯提供
ホテルの客室で枕を整える特訓を受ける「ななつ星」の乗務員・大羽優秀さん(右)=長崎県佐世保市のホテルオークラJRハウステンボス
ななつ星の抽選会で、最高級の部屋に乗る客を選ぶ田上富久・長崎市長=福岡市博多区のホテルオークラ福岡
「ななつ星」のコースhttp://digital.asahi.com/articles/SEB201212210031.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_SEB201212210031
2013年1月8日22時4分
長崎・佐賀に新しい観光列車 JR九州、ルート策定急ぐ【土屋亮】JR九州の唐池恒二社長は8日、長崎県や佐賀県を通る新しい観光列車を、2014年以降に走らせる構想を明らかにした。今夏から、ルート策定などの作業を急ぐ。
具体的なルートはこれから詰めるが、大村線(早岐―諫早)、筑肥線(姪浜―伊万里)、唐津線(久保田―西唐津)で検討する。九州新幹線は、佐賀を経由して長崎方面まで延びる計画で、今後の観光需要の高まりも見込んでいる。
唐池社長は朝日新聞のインタビューに対し「九州に観光列車はあと1〜2本つくれる。沿線住民の盛り上がりをみて決めたい」と話した。九州を一周する豪華寝台列車「ななつ星」が今年10月に運行を始めるのに続けて、鉄道ファンの取り込みをねらう。
JR九州の観光列車は現在、「ゆふいんの森」など9本。しかし、長崎や佐賀はまわらないことから、エリアを広げる。
http://www.asahi.com/national/update/0108/SEB201301080016.html
ヨーロッパの豪華寝台列車を参考にしているようですけど、九州の観光価値もけっこうなものがあるということが改めてわかる話です。
でもってこれは、ヘラン号を持つKORAILも当然ベンチマーキングの対象にしていてしかるべきでしょう。地理的な条件を考えれば、場合によっては連携だって考えられそうですしね。