上海だけではないその書店事情

この記事…中国や韓国の事情にそれだけ詳しい著者でも、本屋をゆっくり回ったことは過去になかったんでしょうか。もしかして、私が暇すぎるのか?

どこが反日? 上海の大型書店には日本の本が平積みされていた(中島恵) - 個人 - Yahoo!ニュース


上海の大型書店の「おススメ本」に並ぶ日本関係の書籍

先日、上海取材の折に、大型書店として有名な「上海書城」を訪れた。エリアは人民広場という都心の繁華街にあり、日本でいえば、新宿の紀伊国屋書店(本店)のような存在だ。私は中国出張のとき、いつも膨大なインタビューに時間を取られるため、なかなか街歩きをする余裕がないのだが、今回はぜひとも大型書店に足を運び、どれだけ「反日本」が置かれているのか、確かめてみたかった。

いや、実は正確にいえばそうではない。中国の書店には「反日本」がほとんど置かれていないという事実は、以前、中国人の知人から聞いて知っていたのだが、「本当に反日本は置かれていないか?」、私には半信半疑だった。何しろ日中関係は今、最悪の状態だ。日本の書店には「嫌中本」がたくさん置かれているが、果たして中国の書店事情も同様ではないのだろうか? お互いに「嫌中本」「反日本」のオンパレードなのでは? と思ったのだ。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakajimakei/20140310-00033411/

ともあれ、その記事に書かれていることは、紛れもない事実です。上海・福州路にある上海書城には何度か行ったことありますけど、日本で粗製乱造されて氾濫しているような「反日本」「嫌日本」を見かけたことはありません。ここ以外にも何軒か回った上海のその他の書店でも同様です。

上海書城 - 上海ナビ

ちなみに、上海の上海書城と並ぶ北京の有名大型書店・王府井書店でも、事情は変わりません。たまたまのことですが、上の記事を目にする前に、2時間半かけて地下1階から6階まで見て回った上での結論です。

したがって、こちらの内容については、「北京の大型書店」についても適用可能です。現実問題として、「上海書城と王府井書店になくて、他のどこかの書店にはある」と考えるのは、想定としてはちょっと無理があるような気がします。

残念ながら(?)というべきか、幸いにして(?)というべきか、少なくとも、上海の大型書店で、私は(日本で売られている嫌中本のような)過激な文章が踊る反日本を見つけることはできなかった。(むろん、これは私が見た範囲の話であり、複数の書店をくまなくチェックしたわけではないことをお断りしておく)

というか、実を言えばソウルや釜山の大型書店についても、同じことが言えます。

下の文章にあるように、中国や韓国と日本とでは「本」というものの位置づけが多少違っている部分があるのかな、という点は、確かに私も感じました。とりわけ中国の場合、新刊本と並んで「古典」とカテゴリーされるような書籍のコーナーが大きいのは特徴的です。記事中でも推測されている通り、ろくな取材も検証もなしに書き飛ばされ、読み捨てられるようなレベルの「反日本」に対するニーズ自体が、存在しないんじゃないでしょうかねえ。

いずれにせよ、この件に関する限り、日本の状況のほうがかなり特殊なものであり、傍から見れば相当に異様なものであることは明らかです。で、「どうしてそんなことになっているのか」については、別途の検証が必要でしょう。

同行した中国人の友人やその他、中国で出会った友人たちにこの話をしてみたところ、中国では「書籍は学問を学ぶもの」といった意味合いが強く、時事的なニュースや現象はほとんどネット上で気軽に読み飛ばすものであり、日本のように、社会の現象をすぐにわざわざ書籍化するといった動きはあまりないからだ、というのが彼らの推測だった。確かに、北京や上海などの都市部ではスマホ依存が日本以上に高まっており、彼らはネットを通じて常時ニュースやコラムを読んでいる。その中には日本関係の内容も数多くあり、中には反日的な内容が書かれたものもあるだろう。だが、私が購入した本のように、日本についての素朴な疑問を解説したものや、親日的な文章や日本旅行したときの体験談などのおもしろい話も、実はかなり多い。時事的な話題を求めている人は、ほとんどネットを活用しているようだ。

また、中国の書店で反日本が売られていないもうひとつの理由として、私の友人らは「政治と文化を分けて冷静に考えている中国人が多く、とくに日本文化については敬意を払っている人が多い。書店にわざわざ本を買いに来るようなレベルの人は、日本文化にも関心を持ち、質の高い日本の小説に触れてみたいと思っている。だから書店側でもそうした需要のある本を置くのではないか」という意見だった。私の友人は全員が大卒で、中国ではいわゆる中間層以上の知識階層だ。彼らの意見がどこまで本当かはわからないが、私は少しうれしい気持ちになった。

日中関係が冷え込んでいるからといって、決して中国人の日本への関心が薄まっているわけではない。とくに最近は生活にゆとりのある中国人の「日本観光熱」は高まっており、日本について「あれも知りたい」「これも知りたい」と熱望する声は大きい。日中関係が悪化しているからこそ、もっと現実に即した「偏らない情報」をお互いに提供していかなければいけないのではないか。現に、私は上海の書店に足を運ぶまで、中国も日本の書店と同じような状況ではないかと勝手に想像し、疑っていたが、実際は違った。私はメディアの人間だが、メディアだけに踊らされず、自分の目で見て判断することがいちばん大事なことだ。