人にかけるコストを切り詰め、本人に転嫁する。

なるほど、そういうことか。それで得心がいきました。

人の値段が安いから「大家族」になる:日経ビジネスオンライン

 一般に、社会が成熟し、産業が高度化すると、個々の労働者が身に付けるべき知識や技能は、それだけ高度なものになる。特に21世紀に入ってからは、情報化が進んだ結果、仕事の内容も、より複雑になっている。このことは、一人の人間が一人前の労働者として完成するまでの年月(および教育コスト)が、大きくなったことを意味している。

 昭和前期のように「中学を出たら自分の力で食って行け」と、子供を突き放すタイプの子育ては、現代にあっては貫徹しにくい。国自体が高度経済成長期にあった時代であれば、学歴の低い労働者にも仕事があったし、出自が貧しくとも、真面目に働いてさえいれば、誰もが家を持って自立する夢を見ることができた。が、現代の社会状況では、15歳で社会に出た労働者は、浮かび上がるのは難しいかもしれない。

 とすれば、教育投資を無視して、子供の成長は、社会の波に揉まれることによる結果に委ねる20世紀中盤までの子育ては、今の時代には採用しにくいわけで、子供を持つためには、巨大な投資への決意と覚悟が不可欠になる。当然の展開だ。

 8歳の姉が2歳の弟をおんぶしながら畑仕事をしていた「おしん」の時代とは、そもそも「子供」の持つ意味が違っている。「子育て」の様相も意義も様変わりしている。

 ほんの三世代か四世代前の、われわれの祖父母の世代は、「小僧奉公」「女中奉公」という言葉が普通に使われる社会で育った人々だった。そのまた数世代前の人々は、「口減らし」や「子売り」が日常的だった時代を生きている。

 当時、「人権」という言葉は発明されていなかった。
 まして子供に人権があるとはほとんど誰も考えていなかった。

 子供は、労働力として使役され、時には商品として売買され、女の子であれば見も知らぬ人間の家に嫁に出される存在だった。そして、その「人としてのコストの低さ」こそが、子沢山の理由にもなっていた。

 もちろん、安倍首相が取り戻そうとしているのは、そういう時代の日本ではないのだろうし、彼が次世代の子供たちに期待しているのも、基本的人権の保障されない世界で育つことでもないはずだ。

 が、時代の変化は、あらゆる社会的条件の変化とセットになっているものだ。
 少なからぬ数の中高年層が、戦後社会を壟断している「行き過ぎた個人主義」の弊害を憂慮していることはよくわかる。

 その一方で、個人主義は、基本的人権や民主主義と一体化した戦後社会の柱のひとつだ。
 民主主義や人権思想に手をつけずに、個人主義だけを昔に引き戻すことはできない。  基本的人権を制限し、民主主義的な制度を部分的にせよ後退させないと、“行きすぎた個人主義”の引き戻しはできないはずだ。

 私は、それを懸念している。
 安倍さんとその周辺の人々が、戦後社会の個人主義を攻撃するために、基本的人権や民主制に手を加えようとすることを、だ。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/102900017/?P=3

これらはある意味で、そうなるべくしてなっていると。

2015年10月28日(水)
国立大授業料 40万円値上げ
財務省方針 小中教職員3.7万人削減も

 財務省は26日、国立大学に対する運営費交付金を削減し、授業料の大幅値上げを求める方針を打ち出しました。減額分を授業料でまかなうと、現在53万円の授業料が16年後に93万円にもなり、憲法26条が求める「教育を受ける権利保障」を投げ捨てる暴挙です。

 小中学校の教職員数を9年間で約3万7000人も減らすことを提起し、国民が求める少人数学級の実現に背を向けています。

 財政制度等審議会財務相の諮問機関)の分科会に提案し了承を得ました。国立大学について運営費交付金補助金が約7割を占め、私立大学では1割程度だと指摘。交付金を年1%減らす一方、授業料など自己収入を1・6%増やし、15年間で両者を同じ割合にすべきだとしました。

 2004年の法人化後、交付金を1470億円(12%)も減らしながら、さらに大幅削減を押し付けるもので、「自己収入の確保」や「規模の適正化」を求めています。

 小中学校の教職員については、10クラスあたりの先生の数を今と同じ18人にしても、少子化の影響で24年度の教職員は3万7000人減らせると指摘。文科省が、いじめや不登校問題などに対処するため教職員を増やし、全体で約5000人減にとどめる計画を示していることと対照的な内容となっています。財務省は「教員が増えても、いじめや不登校も解決せず、学力も向上せず、教員の多忙も解消されない」と少人数学級を全否定しています。

解説

値上げの連鎖復活も

 財務省の提言の長期試算通りに国立大学の学費を値上げすれば、最悪の場合、16年後に約40万円もの値上げになります。

 財務省は、16年後の2031年度に国立大学の自己収入を7370億円(2013年度)から2437億円増やして9807億円にすることを要求。自己収入の内訳は、授業料、寄付金、産学連携の研究費収入などです。

 地方大学や文系中心の大学は、産学連携による収入増を見込むことは難しいのが現実です。仮に授業料値上げだけで自己収入増をはかろうとすると、授業料を毎年2万5000円程度値上げして、16年後に現在の約53万円から40万円増の93万円程度にしなければなりません。(学生数を現在の61万人と仮定)

 国立大学が連続値上げに踏み出せば、18歳人口の減少で経営が苦しい私立大学も値上げに踏み切り、1970年代以降から2005年まで続いた国公私立大学全体の「値上げスパイラル」が復活する危険があります。

 家庭や学生の厳しい経済状況のなかで、アルバイトで学業に専念できない学生や、経済的理由で進学をあきらめる高校生が増えています。こうした若者からも大学教育を奪う学費値上げは絶対に許されません。財務省の提言は、憲法26条が求める「教育を受ける権利の保障」を投げ捨てる暴挙です。

 (土井誠・党学術・文化委員会事務局次長)

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-10-28/2015102801_03_1.html

【社会】「まごころ奨学金」重い返済 利用は想定の3割未満
2015年10月28日 朝刊


まごころ奨学金の担当者が、窓口の電話で聞く犯罪被害者家族の置かれている状況は深刻だ=東京都港区の日本財団

 犯罪被害者の子どもたちを支援するため、二〇一三年度に金融庁が始めた貸与型奨学金「まごころ奨学金」の利用者数が、想定していた年間二百〜三百人の三割にも満たない五十五人(九月一日現在)にとどまっている。利用が伸びない背景に、返済時の負担を心配して、被害者の家族が申請をためらう現状がある。被害者支援に携わる現場からは、「被害者家族に寄り添う制度にしてほしい」と声が上がる。 (望月衣塑子)

 「殺された母に代わって祖母が一人で頑張っている。正規の仕事に就いて妹と祖母を支えるため、大学にきちんと通いたい」

 まごころ奨学金の窓口となる日本財団(東京都港区)の担当者が数年前に受けた電話の女性の声は、切羽詰まっていた。女性は当時高校生。シングルマザーの母親は幼い妹を産んで間もなく知人に殺害された。女性と妹は七十歳を超えた祖母に育てられることになった。

 祖母は年金生活でパート勤務を始めたものの、年収は九十万円未満。女性は二人を支えるために、進学したいと願っていた。

 奨学金を許可された女性は現在、経営を学ぶため私立の四年制大学に通う。学費は年間約百三十万円。月八万円の奨学金で年間九十六万円を支払う一方、アルバイトを掛け持ちし、足りない学費や家族の生活費を賄っている。卒業時には、約四百万円の借金を背負うことになるが、女性は「仕事に就ければ何とか返せる」と話しているという。

 まごころ奨学金を所管する金融庁は、民間の公益財団法人「犯罪被害救援基金」が犯罪被害者の家族に支給する返済不要な「給付型」の奨学金制度の実績から、貸与型でも二百〜三百人の利用があると試算。しかし、実際の利用者は一五年度以外も一三年度が三十一人、一四年度五十三人と低迷している。

 利用申請が少ない理由を日本財団の担当者は、「貸与型のため、子どもに将来借金を背負わせたくないと、被害者家族が申請しづらい状況が起きているのではないか」と分析する。

 日本財団によると、奨学金の申請者の平均世帯年収は二百万円。さらに、まごころ奨学金を受ける奨学生五十五人のうち二十四人が、別の貸与型奨学金も受けている。高校から大学、大学院を出るまで他の貸与型奨学金と併用して奨学金を受け続けると、卒業と同時に一千万円を超える借金を背負うケースもある。

 日本財団は「返済不要な給付型の申請に切り替えるべきだ」と訴えるが、金融庁は、「国会議員からの提案もあり、給付型への切り替えは有識者を交え議論する。ただ給付型は、事業の継続性という点で困難が予想され、どうするかは未定だ」と慎重だ。

 犯罪被害者支援に携わる武内大徳(だいとく)弁護士は「日本は欧米などに比べ、犯罪被害者やその家族を支援するという意識がまだ低い。全面的に給付型にするのは難しいにしても、被害者家族の困窮度などを考慮し、一部を給付型に切り替えるなど、被害者家族に寄り添えるよう、制度を再設計する必要がある」と指摘している。

<まごころ奨学金 両親などが殺人、傷害、詐欺などの犯罪に遭い、経済的に不安定となった被害者の子どもに私立高校生は毎月5万円、入学一時金25万円を上限に、大学生は毎月8万円、入学一時金30万円を上限に、それぞれ無利子で借りられる。返済期限は最大30年間。ニセ電話詐欺に使われ、警察などが凍結した口座にある詐取金のうち、被害者が特定できず返還できなかった40億円が原資。一方、「犯罪被害救援基金」の給付型奨学金は、殺人や事件で重い障害を負った両親や祖父母を持つ子どもらを対象に、小学生から大学生まで月1万〜3万円、入学一時金として8万〜10万円が支給される。昨年度は297人が受給した。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201510/CK2015102802000139.html

SPA!』のこの記事は、タイトルの付け方こそ男性のエロやゲスなところをくすぐるものになっていますが、こうした問題に対する情報感度は大手の新聞などにほとんどない*1もので、評価に値すると思います。

風俗バイトは就活成功への近道!? 女子大生風俗嬢が急増した意外な理由とは
2015.10.28 恋愛・結婚

「学費を稼ぐために、この業界に入った――」

 キャバクラ嬢や風俗嬢の常套句といもいえるこの一言。かつては、単なる営業トークだととらえられがちだったが、いまやその言葉こそが真実になりつつあるようだ。

「ここ数年、普通の女子大生が風俗業界でバイトをするケースが非常に増えてきました」と語るのは、10月13日に『女子大生風俗嬢 若者貧困大国・日本のリアル』(朝日新聞出版)を上梓した、作家の中村淳彦氏だ。

 本来ならば学生生活をエンジョイしてしかるべきの女子大生たちが、なぜ風俗に身を染めてしまうのか?

中村:若者や学生の貧困は、凄まじいことになっている。親からの援助が減ったりなくなって、真面目に勉強したい、いい就職したい、奨学金という借金のこわさを知っている……など、自立した頭のいい学生ほど風俗嬢をしている。風俗は豊臣秀吉が日本で初めて作ったと言われているけど、今現在は安土桃山時代以降の長い歴史の中で、最も女性がカラダを売ることが一般化している時代かもしれない。

なぜそうなっているのか。理由のひとつは、親の世帯収入の減少で大学の学費の負担が困難になっていること。それと国による高等教育予算削減の結果、学費高騰していること。そうした事態にも関わらず、高卒就職は急激に減って、若者たちが大学へ進学せざるをえない。こうした、さまざまなネガティブな社会背景が重なって、学費や生活費で困難を抱える学生が増えてしまった。今の女子大生風俗嬢たちのほとんどは、例えば高度成長期やバブル期に大学生だったら、一生カラダを売ることはなかったと思います。

――昔であれば、学費を払えないのならば、奨学金に頼るという手もあった。日本学生支援機構の調査によれば、現在、奨学金制度を利用している日本の大学生は50%以上と、過去最高の割合となっている。しかし、この奨学金制度こそが女子大生が風俗に流れ込む大きな要因だと中村氏は語る。

中村:かつての給付型や無利子の奨学金とは違い、いまの奨学金は、国がお金を有利子で学生に貸しつけて金融事業化している。『奨学金』との名前こそついているけど、実態は学生ローン。その結果、大学生の過半数は、大学進学によって自己破産相当の借金を背負い、卒業後には、社会人になって半年後から15年〜20年かけた返済をする。自己破産相当の借金なので社会生活、結婚、出産など、人生設計が狂う。払えなかったら容赦なくブラックリスト送り。非婚や少子化が加速するのは当然で、未成年に自己破産相当の金融契約をさせるなど、どう考えても異常な制度としか思えません。

――とはいえ、奨学金を使わずに学費を自己負担できるほど高単価な仕事は、大学生にはなかなか見つかるものでもない。奨学金で有利子の負債を背負うか、学生生活に影響あるほどアルバイト漬けになるか。その選択を迫られた結果、学生たちが選ぶのが「風俗」なのだ。

中村:そのような大学生の貧窮をブラック企業が利用している実情もある。親の世帯収入が低い大学生の場合、低賃金の長時間労働で学生生活を蝕ませながら学費を稼ぐしかない。有意義な大学生活を送っているのは富裕層の娘と、風俗嬢とキャバ嬢だけ。風俗業は、時間の融通も利くし、高単価。頭のいい女子大生ほど、風俗バイトを選んでいるようにみえる。

――女子大生という肩書に加えて、若さもある。そんな「商品価値」を兼ね備えているため、高級ソープや高級デリヘルなど、単価が高い風俗店ほど、女子大生風俗嬢が出没する傾向にあるのだとか。しかし、数年前まで女子高生だったようなずぶの素人が、一流店の風俗嬢として通用するのだろうか?

中村:人によるけど、女性の多くは一週間も働けば慣れちゃう。お金のために“泣きながらカラダを売る”みたいなのは男性の幻想です。しかも店側は女の子を大切にするし、無理な労働も求められない。ただ女性の供給が過剰な状態なので、仮に学費稼ぎとはいえ根性がある子しか生き残れませんけどね。

――そして、気になるのが、風俗嬢となった女子大生たちの就職先だ。一度風俗業で身体を売ることに慣れてしまえば、そのまま卒業後も風俗嬢として働き続けてしまうのでは?

中村:就職先はピンからキリまで千差万別ですが、カラダを売ることによって経済的貧困を脱して、学生時代に時間にゆとりができるので、実は女子大生風俗嬢の方が普通の学生よりも就職がよかったりする。ただ一方で、『カラダを売って換金』という経験をしているため、世の中を斜めに眺める力もついている。ブラック企業みたいな会社に就職をしてしまったら、すぐに辞めて風俗に出戻るでしょう。

――貧困世帯の女子大生にとって、風俗は就活を成功させる最善の策となりつつあるのかもしれない。学費のために、風俗に身をやつす。苦学生を地で行く女子大生が急増する一方で、風俗嬢になれる女子学生は、「まだ恵まれている」とのこと。

中村:仮にカラダを売る覚悟をしたとしても、供給過剰なのですべての女子大生が風俗嬢になれるわけではない。売れる外見とカラダなど高いスペックがないとそもそも採用されない。ダメだった子は、最低賃金に近いブラックバイトで、学生生活を楽しむ間もないほどに働く。また、経済的貧困には男女関係がないので、『カラダ』という売り物がない男子学生は男娼やホストになったり、大学の同級生や恋人を風俗に沈めたり、詐欺に加担してしまうケースもある。

最悪のケースは、風俗はもちろん、アルバイトもせず、第一種奨学金、第二種奨学金をフルで毎月18万円借ることですね。例えば、Fランク大学社会福祉学科みたいなところに通う子たち。背負ってしまった借金を取り戻しようがない。卒業後15年間、20年間と苦しむことは間違いない。たぶん、結婚も出産もできないのではないのではないでしょうか。

――また、貧困家庭に育った子ほど、NPO福祉業界に興味を持ち、ブラック企業に入社する傾向があるのだとか。

中村:そもそもFラン大学は学費が高い。さらに、福祉関係の学部に進んでも、福祉・介護業界は賃金が安くて雇用条件も悪く、なかなか奨学金返済分の年収を得ることは難しい。自己破産相当の負債を背負ったら、どう考えてもアウトです。返済できるはずがない。社会人になっても奨学金に搾取され、低賃金長時間労働でブラック企業に搾取され……まるでホラーです。その後の人生は、地獄みたいなものになるんじゃないでしょうか。

――学生たちの貧困化がますます進み、さまざまな社会問題を産んでいく。その悲惨な状態に対して、中村氏はこう提言する。

中村:進学を控えた高校3年生までに、人間は決して平等ではないことを知るべき。世帯収入が低い親に生まれてしまった若者は、勇気をだして『昼間過程には進学しない』もしくは『大学には行かない』という道を選択した方がいい。日本の9割の会社は中小企業、大学卒が絶対条件ではないので、人生が制限される借金を回避して高卒で自分に向いている道を探し、社会の中で逆転することを狙うべき。どうしても、勉強したいなら通信過程でもいいじゃないですか。むしろ、今のブラック企業だらけの状況で、奨学金で多額の借金を背負ってしまえば、人生の取り返しがつかなくなりますから。

【中村淳彦】
大学卒業後、編集プロダクション、出版社を経てノンフィクションライター、代表作に『名前のない女たち』シリーズがあり、劇場映画化もされる。高齢者デイサービスセンターを運営していたが手を引き、ノンフィクション、ルポルタージュを執筆。著書に『崩壊する介護現場』(ベスト新書)、『AVビジネスの衝撃』(小学館新書)、『ルポ 中年童貞』(幻冬舎新書)などがある。

http://nikkan-spa.jp/963546

女子大生風俗嬢 若者貧困大国・日本のリアル (朝日新書)

女子大生風俗嬢 若者貧困大国・日本のリアル (朝日新書)

*1:今回のこの中村さんの本、朝日新書なんですけど、朝日新聞は本紙でこの本取り上げてましたっけ?