昨日のことですが、以前から評判は聞いていた映画「박열(金子文子と朴烈)」の初回上映をシネマート心斎橋で観てきました。
www.youtube.com
www.fumiko-yeol.com
この映画について何か語る前には、日本語版だけでなく韓国語版の予告編とポスターも見といた方がいいですね。
いやーホンマ、イジュニク監督、凄いわ…。
このテーマで、思想と身体、理性と情念、国家権力とアナーキズム、そして生と死をこんな風に描き出すというのは、とてつもないことですよ。大胆不敵に文学的でありながらそれでもなおリアル。金子文子を演じたチェヒソの日本語と日本語的朝鮮語の完璧さは、この映画世界を日本製作と勘違いさせるほどのものでありつつ、その言葉で、日本映画が今のところ決して到達できない領域に到達する。しかも、致命的に深刻でありながら、決して辛気臭くならない。
事件・人物や映画作品については、他のところで丁寧な言及があるはずなので、ここではざっくりしたメモのみで。
www.youtube.com
www.youtube.com
www.ytn.co.kr
ただ、上映後のトークショーで、「組織」化されて個人が埋没していく前にあり得た「個人の意思」に基づく運動、という点を酒井隆史さんが指摘していたのが、印象に残りました。特殊な時代の特殊な人生を、どれだけ普遍的に受け止めるか。
「金子文子と朴烈」、心斎橋シネマートで初日アフタートーク付きの上映を鑑賞。日本で観るのは昨年の大阪アジアン映画祭以来で二回目。トークは大阪府大の酒井隆史氏。短い時間で文子と朴烈が生きた1920年代初頭の日本における社会運動史を解説していただき、新しい視点を提示してくださった。(続き)
— 朝露「金子文子と朴烈」勝手に応援団員 (@achimisuru) 2019年2月16日
(評・映画)「金子文子と朴烈」 「記号」から自由に、生を謳う
2019年2月15日16時30分韓国映画だが、台詞(せりふ)は主に日本語。朝鮮人大虐殺問題に揺れる関東大震災直後の日本を舞台に、時代の犠牲となり囚(とら)われの身になりながらも愛と信念を貫いた2人の実在のアナキスト、金子文子(かねこふみこ)(チェ・ヒソ)と朴烈(パクヨル)(イ・ジェフン)の生きざまを描いている。「王の男」などで知られるイ・ジュンイク監督の、最高の達成となった。
容易に、日本や日本人に対する敵視にも転化しやすい題材だ。だが監督のやわらかで広範な視野と人間観察力が、映画をそのような硬直した記号から無縁なものとした。
権力によって理不尽にも捕らえられ、やがて死刑を宣告される2人を、不幸な犠牲者然とは描かない演出が、まず光る。まるで獄中の生活や取り調べ、裁判の時間を楽しんでいるかのように、彼らはいつもエネルギッシュで、快活で、キュートだ。一方、2人に対峙(たいじ)する国家側の人間は、権力者然としようとしながらも、しばしば弱みを見せ、彼らに動揺させられ、時に共感までしてしまう。国や民族、立場の違いを越えて、人間らしく能動的に生きることの価値を、監督は謳(うた)いあげようとしている。
状況設定の関係上、演出面では大きな困難が立ちはだかったはずだ。屋外場面はわずかで、刑務所や裁判所などの建物内場面が大半を占める。主人公たちは自在に移動するわけにもいかない。けれどそこに窮屈さを覚える観客はいないだろう。面会や尋問の描写をはじめ正対して向かい合う人物配置が多いが、アップの切り返しの果てに意外な場面、行動を見せるというショット展開が、作品に自由闊達(かったつ)な空気を吹き込んだ。
(暉峻創三・映画評論家)
*
16日公開
【放送芸能】権力と闘う姿を描く 映画「金子文子と朴烈」 主演チェ・ヒソ「国籍は重要でない」
2019年2月14日 朝刊
「金子文子と朴烈」の一場面。法廷に立つ金子文子(チェ・ヒソ)朝鮮人アナキスト(無政府主義者)の妻となり、23歳で獄死した大正時代の日本人女性思想家を描いた韓国映画「金子文子と朴烈(パクヨル)」(イ・ジュンイク監督)が、16日の東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムから、順次公開される。主人公の金子文子を演じたチェ・ヒソ(32)は「100年近い過去の時代に自由や平等について考え、行動した女性がいた。国籍は重要ではなく、その姿と精神を知ってほしい」と話す。 (酒井健)
金子文子への思いを語る主演女優のチェ・ヒソ=東京・渋谷で貧しい生い立ちの文子(チェ)は、アナキスト朴烈(イ・ジェフン)の「犬ころ」という詩に共感。同志となり、同棲(どうせい)を始める。しかし、危険思想者としてマークされていた二人は一九二三(大正十二)年、関東大震災の直後、警察に拘束される。皇太子暗殺を企てたとして大逆罪の疑いで起訴され、裁判を通じて主張を展開する。
作中で、文子は判事に「人間はみな平等。馬鹿(ばか)も利口も、強者も弱者もない」と訴える。チェによると、文子は貧しく、両親にも愛されなかった女性。つらい過去が「虐げられる人のために生きる。権力に対して自分の意思を貫く」精神の柱になった若き思想家だ。日本の観客には「反日映画と誤解されるかもしれないが、国籍を超えて権力と闘った文子と同志たちに注目してほしい」と望む。
韓国では二〇一七年に公開され、二百三十五万人の動員を記録した。チェは大ヒットした理由を「二人は韓国でもあまり知られていなかった。『こんな人たちがいたのか』という驚きと感動があった」と説明する。韓国政府は昨年、文子に「建国勲章」を授与。「百年近く前の人に今、勲章が出たのは、この映画の影響だと言う人も多い」。
ソウルで生まれ、小学二年から卒業まで大阪市で過ごしたチェは、日本語も流ちょう。文子の手記や裁判記録も日本語で読み込んだという。映画は二回目の主演だが、本作で文子を演じ「役者として強い影響を受けた。主体的に生きる女性に魅力を感じるようになった」と話す。
日本はチェにとって「考え方や生き方を形成する時期に、幸せに暮らした特別な国」。日本の映画もよく見るといい「ぜひ出演してみたい」とアピールする。
一月に韓国で公開された大森立嗣監督の「日々是好日(にちにちこれこうじつ)」を「毎日の価値を語ってくれる映画」と気に入っている。茶道の先生役として出演し、昨年九月に他界した樹木希林を「とても好きな役者さんでした」といたんだ。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2019021402000231.html
東京新聞の記事中にある「建国勲章受勲」のニュースはこれですね。映画の影響は否定できないでしょう。
抗日運動家・朴烈義士夫人の金子氏、「獄死92年ぶり」独立有功者になる
2018年11月15日09時14分 [ⓒ 中央日報/中央日報日本語版]独立活動家の朴烈(パク・ヨル)義士の同志であり、夫人である金子文子氏が獄死して92年ぶりに独立有功者として叙勲される。
14日、慶北聞慶(キョンブク・ムンギョン)の朴烈義士記念館によると、国家報勲処は殉国先烈の日である17日、金子文子氏を独立有功者と発表する。
朴烈義士記念館は昨年、映画『朴烈 植民地からのアナキスト』(イ・ジュンイク監督)公開後に起きた国民の支持と新しい研究資料に基づき、金子文子氏の独立有功者褒賞を申請した。
記念館側は「その間、朴烈義士の支援者の役割を果たしたと知られた彼女がもはや大韓民国の独立有功者として名を知らせることになった」と明らかにした。
一方、幼い時代、不遇な環境で育った金子文子氏は植民地に置かれた韓国人の立場に共感し、パク・ムンジャのペンネームで活動しながら朴烈と共に日本帝国主義と天皇制に抵抗した。
金子氏は、天皇父子を爆殺するために朴烈義士を助けて爆弾を持ち込んで逮捕され、死刑判決を言い渡されたが無期懲役に減刑され、獄中生活中に1926年7月、亡くなった。
その後、1973年、独立志士が墓地を整備して記念碑を建て、朴烈義士記念館が2003年に作った記念公園に墓地を移した。
せっかくなので、これもクリップしときましょうね。朝日新聞や東京新聞が切り取らなかった部分を切り取ってきてます。「賛否両論あるかと思いますが、実際に観ていただき、感じて欲しいですね」というセリフで締めてる点も含めて、実はなかなかやるな、週刊新潮。
これ読んでこの映画が気になった人にも、ぜひ観てもらいたいものです。てか観ろ。観て語れ。
日韓対立の折も折…過激「反日映画」が公開 “朝鮮人虐殺”描き本国で大ヒット
韓国・北朝鮮 週刊新潮 2019年2月14日号掲載
「金子文子(ふみこ)と朴烈(パクヨル)」〈裕仁皇太子の幼名は迪宮(みちのみや)だろ、朝鮮語の意味は“異常な奴”だ〉――そんなセリフも飛び交う。
2月16日から公開の韓国映画「金子文子(ふみこ)と朴烈(パクヨル)」(イ・ジュンイク監督)の一場面だ。この作品、1923年、関東大震災の混乱時、天皇・皇太子暗殺の企図で逮捕された朝鮮人の朴烈と、恋人で日本人の金子文子による「大逆事件」を題材にした歴史ドラマ。あくまでメインの筋は金子と朴の純愛劇であるが、金子役のチェ・ヒソ始め日本人役の多くが韓国人俳優で、震災時の「朝鮮人虐殺」などの史実も徹底して韓国側の見方で描かれる内容となっている。
試写を観た記者がいう。
「アナキストを貫く朴、彼に惹かれ最期は獄中死する金子、二人の生涯を追った作品自体は感動的でした。ただ物語の背景で、朝鮮人が暴動を起すとのデマを流したのは当時の日本政府の陰謀だとし、若い日本人が少女を竹槍で刺し殺したり、獄中で主人公を残虐に拷問したりなんて場面のオンパレード。ごく普通の日本人が観ても眉をひそめたくなるはず。根底に“反日”的なものを感じましたね。もっともそれが本国では受け、大ヒットしたようですが」
韓国での公開は2017年、235万人もの動員を記録した。主役のチェは、この作品で女優賞を総なめ。一躍、人気スターとなった。
それにしても「徴用工判決」に「レーダー照射事件」と日韓不和の折も折、なぜ今、このタイミングでの日本公開となったのか?
「あまりの過激さに日本の配給先がみな怯(ひる)んでしまったんですよ。ようやくアート系作品を多く手掛ける太秦が手を挙げ、今回の公開となったんです」(同)
たまたまとはいえ、最悪の時期での公開といえようか。いや考えようでは、日本人の感情を逆なでするには絶好のタイミングとも……。
私もそろそろ、聞慶に行って朴烈紀念館を訪問したいなあ。もちろん、金子文子のお墓にも。
blue-black-osaka.hatenablog.com
www.youtube.com
www.youtube.com