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ヨミウリオンライン・ヨミドクターの「貧困と生活保護」の記事

読むか読まないかは別にして、このように行き届いた文章がネット上で「読める」というのは、「知ることへの入り口」として大いに意義のあることだと思います。

原記者の「医療・福祉のツボ」
2016年12月22日 コラム
貧困と生活保護(45) 在日外国人は保護を受けやすいという「デマ」

 外国人・他民族を差別・侮蔑・排斥するヘイトスピーチは、日本の恥です。その中心的な材料に使われているのが生活保護。在日韓国・朝鮮人は「特権」を持っているから生活保護を受けやすいと排外主義者は主張しています。一部の国会議員も、生活保護たたきと偏見をあおる発言を繰り返しています。ネットにもその種の発言がまき散らされ、うのみにしている人が少なからずいるようです。

 デマ、あるいは妄想としか言うほかありません。日本人でも外国人でも、生活保護を受ける要件や給付の基準は同じで、特別扱いなど、ありません。在日韓国・朝鮮人が保護を受けている割合が高いとすれば、過去の就職差別や社会保障制度からの排除の影響によって、貧困層が多いからでしょう。むしろ、差別を受けてきた結果なのです。

生活保護世帯のうち、外国人が世帯主なのは3%弱

 まず公的データを知りたいところですが、生活保護を受けている外国人の「人数」を示す統計資料はありません。このため、人口比の保護率を計算することはできません。

存在するデータは「世帯」単位だけ。世帯主が外国人(無国籍を含む)である保護世帯の数と、その世帯の人数です。外国人が世帯主でも、配偶者など家族に日本人がいることがあり、逆に日本人が世帯主でも、家族に外国人がいることもあります。しかし家族の国籍の集計は行われていません。

 その前提を理解してもらったうえで、2015年7月末時点の厚生労働省「 被保護者調査 」の数字を見ましょう。外国人が世帯主の世帯は4万4965世帯、それらの世帯の人数は6万9914人です。この時点の生活保護全体は、世帯数で160万2551世帯、人数で212万7841人なので、外国人が世帯主の世帯の割合は、世帯数で2.8%、人数で3.3%です。

 だから、生活保護制度を利用しているのは、ほとんどが日本人であって、外国人の生活保護という問題は、4万世帯余りという、わずかな部分の話です。外国人への保護が日本人の保護を圧迫するような状況では、ありません。

韓国・朝鮮人が世帯主の世帯は、保護割合が高いのは確か

 それだけで済ませるのはあんまりなので、世帯単位で見た保護の割合を、世帯主の国籍別に試算してみます。分母となる世帯数・人数には、 15年(平成27年)10月の国勢調査総務省統計局)のデータを使うことにします。

 住民基本台帳人口(総務省自治行政局)は、3か月を超えて適法に滞在して住所のある外国人を含んでいますが、世帯数の集計は、日本人だけの世帯、日本人と外国人の混合世帯、外国人だけの世帯という3区分なので、今回の試算には使えません。在留外国人統計(法務省)は、国籍別・在留資格別・年齢別の人数が詳しくわかりますが、世帯に関する集計はなく、こちらも試算には使えません。

 15年の被保護者調査と国勢調査から試算した表は、以下の通りです。

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 これは、きわめて粗っぽい試算で、保護割合の数字はあくまでも参考程度です。というのは、分母の数字の信頼度が足りないからです。国勢調査の外国人(調査対象は3か月以上の居住者)には、生活保護の適用対象にならない在留資格の場合も入っています。同時に国勢調査では、日本人か外国人か不詳な人が105万人余りもいるので、本当は外国人の数がもう少し多いかもしれません。また被保護者調査、国勢調査とも、世帯員の人数には日本人を含む場合があることに、改めて注意してください。

 それでも韓国・朝鮮人、フィリピン人が世帯主の世帯は、保護を受けている割合が高そうなのは確かです。どう考えればよいのでしょうか。

保護率が高い最大の要因は、貧困層の多さ

 最初に踏まえるべきなのは、統計上・計算上の数字は全体の平均値であり、区分けして見ていくと必ず、ばらつきがあることです。

 たとえば日本人を含めた全体で、人口比の保護率は1.67%ですが、これは全国平均であって、実際には相当な地域差があります。表と同じ時期のデータで算出すると、低いほうは富山市0.41%、福井県0.51%、岡崎市0.52%、豊田市0.55%といった水準なのに対し、高いほうは大阪市5.36%、函館市4.71%、東大阪市4.08%、尼崎市4.04%、旭川市3.91%、那覇市3.81%、高知市3.74%、札幌市3.73%という具合です。同じ大阪市内でも、福島区は1.27%と低いのですが、生野区は7.18%、西成区は23.96%にのぼります。

 保護率の低い地域は審査が厳しく、高い地域は審査が甘いのでしょうか? 自治体によって制度運用や職員の対応の違いは多少ありますが、保護率を上下させる最大の要因は、やはり貧困の度合いです。それは住民の所得水準、高齢者の割合、失業率といった要因に左右されます。

 地理的区分に限らず、貧困層の多い一部の集団を取り出せば、保護率が高いのは当たり前です。日本人でも高齢者だけを取り出せば、保護率は高くなります。保護を受けている割合を、保護を受けやすい・受けにくいに直結させるヘイトスピーチの論法は、ばかげた単純思考です。

在日コリアン生活保護は、高齢者が多い

 外国人が世帯主で保護を受けているのは実際、どういう世帯なのでしょうか。統計からも、ある程度のことはわかります。表を見てください。15年の被保護者調査のデータをもとに、世帯主の国籍別に世帯類型、世帯人数、世帯全員の年齢層について、それぞれ構成割合を示したものです。

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 韓国・朝鮮人が世帯主の世帯に注目しましょう。高齢者世帯(65歳以上だけの世帯)の割合が59.7%と高く、世帯全員の年齢構成を見ても65歳以上が56.5%を占めます。しかも単身世帯が80.5%と大部分です。

 要するに、在日コリアン生活保護で圧倒的に多いのは、高齢の単身者です。日本人以上に高齢が生活保護の大きな要因になっています。より詳細に在日韓国・朝鮮人全体の年齢分布と、保護世帯の年齢分布を比較すると、若年層、中年層の保護割合はさほど高くないけれど、高齢者は保護割合がたいへん高いことがうかがえます(詳細な試算の説明は、スペースの関係で割愛します)。

 それに比べ、フィリピン人が世帯主の保護世帯は、母子世帯が6割を超え、世帯人数が多く、19歳以下の子どもが半数以上を占めています。日本人の夫と死別・離別したケースが多いと思われます。ベトナム人、ブラジル人の場合は、ひとり親に限らないけれど、子どものいる世帯が比較的多いことがわかります。中国人(台湾を含む)が世帯主の場合は中高年が相対的に多めで、傷病世帯が目立ちます。

朝鮮半島・台湾出身者の歴史的経緯

 朝鮮半島、台湾は、かつて日本が植民地支配していました。その地域の住民は大日本帝国の臣民でした。とりわけ朝鮮半島からは軍事徴用、企業での労働、事業、進学などで日本へ渡った人たちが約230万人にのぼりました。

 1945年に戦争が終わると、約4分の3が朝鮮半島へ戻りましたが、60万人以上が残りました。日本で生活基盤を築いた人たちや、帰国しても生活拠点の乏しい人たちです。50~53年には朝鮮戦争が起きます。その戦争中の52年4月、サンフランシスコ平和条約の発効で日本が主権を回復したのに合わせ、日本政府は、旧植民地出身者やその戸籍に入っていた日本人配偶者の日本国籍を喪失させました。選択の余地なく、日本人から外国人にされたのです。

 その後、暫定在留、日韓協定による永住、特例永住と扱いが変わり、91年の日韓覚書を受けた入管特例法で、旧植民地出身者とその子孫は「特別永住者」という在留資格になりました。16年6月時点の特別永住者は、韓国・朝鮮が34万0481人、中国・台湾が2232人など。在日4世、5世が増えて6世も生まれ、日本人との結婚も珍しくありません。

 「自分の国へ帰れ」などと嫌がらせをする人たちもいますが、特別永住の外国人は、過去に植民地支配をした影響であり、もとをたどれば日本国籍だった時期もあります。条件の厳しい帰化ではなく、民族性を認めつつ無条件で日本国籍を選択できるようにするのも、ひとつの方法かもしれません。

無年金・低年金が貧困の大きな要因

 さて、在日コリアンの高齢者は、なぜ貧困が多いのでしょうか。主な背景は、過去の就労形態と年金制度にあります。かつては就職差別が厳しく、韓国・朝鮮人が大手企業に就職するのはきわめて難しく、公務員への道も閉ざされていました。このため町工場、商店、飲食店などの自営業、あるいは中小事業所や現場の労働者として働いてきた人が多いのです。

 国民年金制度は、82年1月1日より前は、外国人は加入できませんでした。81年に日本が難民条約を批准するのに合わせ、国民年金法と、児童手当法児童扶養手当法などの国籍条項が削除され、外国人も対象になりました。国民健康保険法は83年の法改正で国籍条項が削除されました。それまでは多くの社会保障社会福祉制度から、外国人は排除されていたわけです。

 国民年金の場合、国籍条項で加入できなかった期間は、老齢基礎年金の受給資格を得るのに役立つ合算対象期間(カラ期間)になります。しかし制度改正の周知不足で、82年当時に35歳以上だった人は、今から入っても60歳までに必要な加入期間(25年間)に届かないと思って入らない人がかなりいたそうです。また受給権を得ても、保険料納付期間が少ないと老齢年金の額は少なくなります。障害基礎年金も、生まれつきの障害で82年当時に20歳を過ぎていた人は受給できません。厚生年金保険なら国籍条項はありませんが、小さな個人事業所は、適用外です。

 それらの結果、在日コリアンには無年金・低年金が多いわけです。日本人とは異なる事情があります。

通知に基づく行政措置として保護を実施

 生活保護について、厚労省保護課は「外国人でも保護の要件や基準に違いはない。外国籍だからと言って保護を受けやすくする、受けにくくするということはない」と説明しています。

 ただし厚労省は、保護の対象になりうる外国人を、<1>永住者(法務大臣の無期限許可)<2>日本人の配偶者・子・特別養子<3>永住者・特別永住者の配偶者、日本で生まれて引き続き在留している子<4>定住者(第三国定住難民,日系3世,中国残留邦人等)<5>特別永住者<6>難民認定者――に原則として限定しています。

 また、法令上の根拠が日本人と違います。外国人の場合は生活保護法ではなく、「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」という1954年の旧厚生省社会局長通知に基づき、行政措置として、法による取り扱いに準じて必要な保護を行うとされています。日本人と外国人の両方がいる世帯では、世帯主の国籍によって法か通知かを分けます。

 実際にはその後、外国人に生活保護法を準用する(法を適用する)と解釈した判例もありました。

 しかし、2014年7月18日の最高裁判決は、永住資格を持つ大分市中国籍女性の保護申請却下をめぐって「外国人は、生活保護法に基づく保護の対象とならない」と判断しました。旧生活保護法(46年制定)には外国人を区別する条文がなかったが、憲法25条に基づく現行生活保護法(50年制定)の条文は「すべての国民に対し」と書いてあるから、という理由です。

 この判決の後、外国人への生活保護憲法違反だからやめろと主張している人たちがいます。判決について誤解を招くような報道があったことも一因ですが、判決の内容を全く取り違えた主張です。最高裁は外国人の保護を否定したわけではなく、通知に基づく行政措置によって事実上の保護の対象となりうることは認めています。憲法上の権利や法律に基づかない行政施策はいくらでもあります。

 もし、外国人を保護から排除したり不利にしたりすれば、社会保障に内外人同等の扱いを求めた国際人権A規約(社会権規約)、難民条約の違反になりかねません。そもそも在日外国人も所得などに応じて課税されます。排除するなら、生活保護分の税金は割り引くのでしょうか。自国民の生活保障は本国の責任と言う人もいますが、日本人が海外で生活に困窮したとき、現地で日本の生活保護の適用はありません。

審査請求ができないのは、おかしい

 外国人の保護に関する決定について厚労省は、当事者から行政不服審査請求があっても、通知に基づく決定は行政処分性がないから却下する、生活保護法に基づく審査請求なら日本国籍がないという理由で棄却する、という対応を自治体に求めています。

 しかし、外国人への保護が一方的な恩恵であって審査請求でも行政訴訟でも一切争えないのでは、行政のおかしな決定をただす手段がなくなります。本人の権利、義務、利害、生命にかかわることなのに救済の道が閉ざされます。行政処分とは何かについては法的解釈があまり煮詰まっていません。最高裁判決があっても、議論を積み重ね、通知による制度運用の中身を行政法的に争う道はないか、積極的に試みる価値は高いと思います。

緊急時の医療支援の仕組みを

 近年は来日外国人が大幅に増え、国籍も多様になりました。気になるのは、滞在中の外国人が重いけがや病気をしたときです。3か月を超えて適法に滞在する外国人は12年7月から国民健康保険国民年金の加入対象になりましたが、短い滞在や不法滞在の外国人もいます。

 無料低額診療を行う医療機関はありますが、無保険の患者を費用持ち出しで診療する施設は限られています。行旅病人及び行旅死亡人取扱法を使う方法もありますが、どういう場合に使うかは自治体によってまちまちのようです。すべての患者を安易に無料で受け入れるわけにはいきませんが、人道的な見地から、緊急時に一定の医療支援を可能にする公的な仕組みが必要ではないでしょうか。

 *参考文献:『在日外国人 第三版』(田中宏岩波新書、2013年)、『貧困の現場から社会を変える』(稲葉剛、堀之内出版、2016年)、『外国人の医療・福祉・社会保障相談ハンドブック』(外国人生活・医療ネットワーク関西/外国人医療・生活ネットワーク編集、福島移住女性支援ネットワーク発行、2016年)、『生活保護「改革」と生存権の保障』(吉永純、明石書店、2015年)

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20161221-OYTET50036/

貧困の現場から社会を変える (POSSE叢書)

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