朴正煕死去30年をめぐるブックガイド

…として役に立ちそうな朝鮮日報の記事をクリップ。
まあ、「歴史化」ということについてこの記事が言わんとすることは分からないではないんですが、朝鮮日報や趙甲済さんがそれを〈促進している〉と評価できるかどうかは、けっこう論争的なところだと思いますけどね。

記事入力 : 2009/10/25 08:44:45
朴正煕元大統領死去30周年、今こそ「歴史化」を(上)

【新刊】趙甲済著『朴正煕の決定的瞬間』(深い青)
【新刊】チョ・ウソク著『朴正煕 韓国の誕生』(サルリム)

 今年10月26日は、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領がこの世を去ってからちょうど30年目に当たる。今ようやく、朴元大統領の功罪を、歴史的に評価することができるようになった。ある人物について歴史的評価を行うということは、過去の人物を現在化すると同時に、死後もなお権力を発揮し続ける当人の影響力を歴史化する作業でもある。現在、韓国社会で「朴正煕問題」に対し必要とされるのは後者、すなわち「歴史化」だ。

 歴史化は、断絶と継承が重なり合った作業だ。まず、感情的断絶が必要となる。朴元大統領に対する過度の賛否は、感情から出たものであるため、朴元大統領に関する疑いなき事実を究明してこそ、こうした感情の緩和や断絶が可能となる。

 『朴正煕の決定的瞬間』は、韓国最高の朴正煕専門家に挙げられる著者が、全13巻の『朴正煕伝記』(趙甲済〈チョ・ガプチェ〉ドットコム)から、62年の生涯を劇的・立体的に示す62の中心的場面を選んでまとめた一冊だ。「13分の1」ゆえの物足りなさはあるが、さほど無理なく、朴元大統領の全体像を把握することができる。

 出生にまつわるエピソード、ひどく苦労した幼年時代、教師、日本軍、そして光復(日本の植民地支配からの解放)後の国軍への変身…。この過程で著者は、「親日」批判や南朝鮮労働党(南労党)入党などの経歴を、避けることなく正面から取り上げた。満州で日本軍に属していた朴元大統領は、敗北と共に武装解除を受け、その後、帰国のため中国・北京の光復軍に入隊した。「朴正煕は、光復後に光復軍に入ったことについて、きまり悪そうにしていたという」。南労党への入党は、左翼だった兄・朴相煕(パク・サンヒ)の死が理由だった。実際、本書に書かれている別の時期を見ても、朴元大統領が左翼の理念や思想に特別な関心を示していた、という兆候は見られない。

http://www.chosunonline.com/news/20091025000005

記事入力 : 2009/10/25 08:44:50
朴正煕元大統領死去30周年、今こそ「歴史化」を(中)

 朴元大統領には、韓国国民に天刑のごとく加えられた貧困から抜け出さなければならない、という毒気にも近い決意が見られた。また、つらく苦しい貧困という、降ろすことができない荷物を抱え生きていかなければならなかった庶民に対し、無限の愛情を抱いていた。朴元大統領が自身の人生や考えを述べた『国家と革命とわたし』には、このような記述がある。「一言で言って、わたしは庶民の中で生まれ、育ち、働き、そうして庶民の人情の中で生を終えることを願っていた」

 趙甲済の『朴正煕』を読むことは、学者や知識人の名分論との決別を意味する。その名分論こそが、朴元大統領を正しく理解できなくしている最大の障害だからだ。朴元大統領のクーデターを「革命」と解釈する著者の観点も、ここから出ている。幸いなことに、「革命」の後、朴元大統領は自らの構想や約束をほとんど実現させた。その結果、大韓民国天地創造に近い発展を成し遂げ、韓国国民も新しい人種へと様変わりした。名分より実質を重視する人間へと変わったのだ。これが、さまざまな批判にもかかわらず、朴元大統領が多くの韓国国民の胸中に残っている理由だ。

 事実によって感情を洗い流した後、次にやるべき作業は継承、すなわち解釈だ。言論人であり、文化評論家として活発に寄稿しているチョ・ウソクの『朴正煕 韓国の誕生』は、著者自身の若かりし時代の朴正煕観を180度修正した告白に近い。著者もまた、「名分の壁」がこれまで朴元大統領の実態を直視できなくしていた最大の障害物だったことを悟り、この作業を始めた、と語っている。意外にも、著者にこうした「悟り」を与えた人物は、在野の運動家・白基玩(ペク・キワン)だった。白基玩は朴元政権の最大の被害者の一人だが、学者や知識人の虚偽意識や名分論からはむしろ自由だった。著者が伝える白基玩の言葉はこうだ。「朴正煕は、われわれのような人間(政治的反対者)を3万人も抹殺したが、そのほかの政治家は3000万人の韓国国民を抹殺した」

http://www.chosunonline.com/news/20091025000006

記事入力 : 2009/10/25 08:44:55
朴正煕元大統領死去30周年、今こそ「歴史化」を(下)

 著者は、維新体制についても積極的に肯定している。「一つの仮説ではあるが、世間で流通している古い通念に疑問符を付けるためのもの。つまり、“朴正煕は経済開発には成功したが、独裁者だった…”というのは、通念ではあっても、実におかしなものだ。民主主義のあり方さえ固守していれば、開発独裁や長期政権はなく、経済開発にも成功できた、というのも間抜けな話だ」

 死去30周年に合わせ、よりさまざまな視点から朴元大統領の姿を新たに発掘・解釈する書籍が次々と出版されることを期待する。『朴正煕の決定的瞬間』は806ページ、1万9000ウォン(約1490円)。『朴正煕 韓国の誕生』は422ページ、1万6000ウォン(約1250円)。

■そのほかお勧めの本

 『朴正煕の決定的瞬間』に満足できず、全13巻の『朴正煕伝記』を読破する読者なら、反対の視点から最高権力者・朴正煕元大統領の影を見ることができるキム・ギョンジェの著書『革命と偶像』(全5巻)=人物と思想社=を一読してみる必要がある。同書は、一時は朴元大統領の側近中の側近だったものの、権力闘争から押し出され、不幸な結末を迎えた中央情報部(KCIA=現在の国家情報院)の金炯旭(キム・ヒョンウク)元部長の生涯を描いており、1980年代に『金炯旭回顧録』というタイトルで4巻まで出版された。その後、紆余(うよ)曲折の末、今年7月にタイトルを変え再出版され、5巻で刊行が終了した。

 チョ・ウソクによる朴正煕解釈を行き過ぎと感じ、もう少しじっくりと人間、指導者としての内面を知りたければ、政治学者の故チョン・イングォンの著作『朴正煕評伝』(イハク社)をお勧めする。同書は心理学的な想像力を土台として、朴元大統領を「心理的孤児」と解釈し、2006年の出版当時、朴元大統領の生涯をバランス良くまとめている、との評価を受けた。

イ・ハンウ記者

http://www.chosunonline.com/news/20091025000007