興南初優勝、沖縄勢3度目のセンバツ制覇

ここ数日の雨模様は回復したものの、晴れ間はたまにあるだけで、冷たくて強い風が吹き荒れる甲子園。センバツの決勝としてはあまり記憶にない冷え込みの中での試合となった。


両チームの打線に注目が集まる中、目立ったのは日大三・山崎と興南・島袋の両左腕エースの力投。失点につながる失策が序盤に重なった興南が崩れずに踏みとどまったのは島袋の力投がナインを支えたからだし、準決勝では中盤で降板した山崎も島袋に一歩も譲らぬ力投を見せた。

日大三が先行し、興南が一気に逆転し、日大三がすかさず追いつくという試合展開は、7回から息詰まる凌ぎ合いとなった。どちらにもチャンスがありながらものにできないまま、ついに1989年以来という延長戦に突入。延長に入ってからは後攻の日大三がやや押し気味に展開したものの、11回裏には連続二封を見せるなど、興南も守りで対抗する。

そして迎えた12回、結果としては日大三の継投と失策が大量点につながった。だが、それで勝ち抜いてきた策を結果論で責めることはできない。

かくして、どちらが勝ってもおかしくなかった手に汗握る3時間の熱戦は、興南に凱歌が上がったのであった。

センバツ興南が初V、沖縄勢3回目 延長で日大三降し 


興南日大三】優勝を決め喜び合う興南の選手たち=阪神甲子園球場で2010年4月3日、徳野仁子撮影

 第82回選抜高校野球大会毎日新聞社、日本高校野球連盟主催、朝日新聞社後援、阪神甲子園球場特別協力)最終日の3日は決勝を行い、2年連続4回目出場の興南(沖縄)が延長十二回に島袋の2点適時二塁打などで5点を奪って8年ぶり17回目出場の日大三(東京)を降し、春夏通じて初めての優勝を果たした。沖縄勢としては08年春の沖縄尚学以来3回目の優勝。センバツ決勝での延長戦は、第61回大会(89年)の東邦(愛知)−上宮(大阪)戦以来13回目となった。興南の左腕・島袋は5失点を喫しながらも、七回以降は1安打に抑えて今大会4回目の完投勝利。日大三は延長十二回に守備の乱れが大量失点につながり、39年ぶり2回目の優勝はならなかった。また、興南の我如古、日大三の山崎はともにこの日1安打で今大会の安打数を13とし、個人大会通算最多安打記録に並んだ。 

 ○興南10−5日大三

 鍛えられた足腰でコースに逆らわずに強く打ち返す興南の強打と高い技術力の日大三の豪打がぶつかり合った。両先発は好対照の投球。興南・島袋は速球を中心に左右、高低を使い、力で押した。二回に自らのけん制悪送球で2点先取され、三回に平岩、六回には大塚に速球を中堅右に運ばれたが、気負いの消えた七回以降は速球にキレが戻り、追加点を与えなかった。

 一方の日大三・山崎は変化球を打者の外側に集めて打ち気をかわした。五回に3安打、六回には島袋の2点適時二塁打など4長短打を浴びて計5失点したが、十二回途中で吉沢にマウンドを譲るまで力投。守りのミスで決着がついたものの、最後まで緊迫した展開になった。【海老名富夫】

 ◆大城滉二遊撃手=興南・2年

 ◇強い打球をナイスキャッチ…守備でレギュラー奪取
 強い打球が中前へ抜けていくはず、だった。日大三の七回無死、横尾が放った打球は島袋のグラブをかすめて後方へ。しかし遊撃の定位置から二塁ベース手前に走り込んで打球に追いつき、その体勢のまま一塁へ矢のような送球で横尾を刺した。「守備でレギュラーをとった僕のすべてを込めた守りだった」

 昨秋の沖縄県大会、九州大会はベンチ入りすらかなわなかった。しかし、瞬時の判断力と的確なグラブさばきを武器に、長時間を守備練習に割いて地道に磨き続けた結果、センバツで背番号「15」を与えられ、公式戦デビューと全試合スタメン出場を果たした。その過程でとりわけ重点的に反復したのが、遠めのゴロに追いつき、その体勢のまま一塁へストライク送球をする「一発送球」という練習。七回のプレーが、それだった。

 六回まで5失点の島袋が七回以降は1安打無失点。エースの投球にリズムを生み出し、優勝への道筋を作ったシンデレラボーイは、優勝メダルを見つめながら思った。「努力は僕を裏切らなかった」と。【倉岡一樹】 

 ◆山崎福也(やまさき・さちや)投手=日大三・3年

 ◇十二回の守備での落球悔やむ
 試合終了の瞬間。最後の打球をつかんだ左翼手をじっと見つめて、しばらく動かなかった。何より悔しかったのは、十二回の守備だ。1死から興南の真栄平が放った一ゴロでベースカバーに入ったが、「焦ってしまった」。一塁手・大塚のトスを捕球する前に目を切ってしまい、落球。打者走者を生かし、大量失点のきっかけを作ってしまった。

 中1日で迎えた決勝。「投球自体はよかった」という。立ち上がりから直球、変化球ともにコーナーに決まった。球がやや高めに浮いた六回は集中打を浴びたが、その後は粘り強く低めを突き、「一球一球、魂を込めて」立ち直った。それだけに、「自分のエラーからこういう結果になって、みんなに申し訳ない」。後悔の念ばかりが口をついた。

 だが、昨秋に投手に転向したばかりの左腕が、今大会は3完投して、うち1完封。バットでは個人大会通算最多安打タイ記録達成と、実り多き5試合だったことも確かだ。「打撃は自信がついたし、投手としても、少しは抑えられると思った」。大いなる反省とささやかな自信を得た甲子園だった。【平本泰章】

 ○…とっさの切り替えが、決勝点を生み出した。興南の十二回1死満塁で打席の安慶名。1ボール1ストライクからスクイズを試みたが、捕手の後ろへの飛球となり、ファウルになった。「やっちゃった。でももう打つしかない。次は確実にゴロを打つ」。続く4球目、外角直球をたたきつけて三塁へのゴロに。このゴロが本塁悪送球を呼び込み、勝ち越しの2者が生還した。「併殺になったかと思った。でもゴロ打ちしてよかった。うれしい」。打点はつかなかったが、最高の結果と、記憶が残った。 

 ○…興南の4番・真栄平は無安打ながら、十二回の最終打席で大きな役割を果たした。4球目をフルスイング。打球は一塁手へのゴロとなった。この回先頭の3番・我如古が倒れて既に1死。「ここで凡退したら、勝利が向こうへ行ってしまう。必死に走った」。ヘッドスライディングも及ばず、と見えたが、ベースカバーの山崎が落球し、一塁を得た。ここから、山崎の降板、連続四球に敵失とつながり、一挙5点。昨年の甲子園の春夏初戦敗退から「生まれ変わった興南打線の力を発揮できた」と喜んだ。  

 ○…出場機会に恵まれなかった主将が、流れを呼び戻す一発を放った。四回に代打出場し、一塁の守備に就いた日大三の大塚。「センター中心に強く振ろう」と念じて、逆転された直後の六回1死からの第2打席に向かった。2ボールから、外角高めに来た直球をしっかりたたくと、打球はバックスクリーン右のスタンドに突き刺さり、その後の同点劇を呼んだ。

 背番号2を着けながら肩の故障でマスクをかぶれず、ここまでは準決勝の途中出場のみ。唯一の打席は三振に倒れていた。最後の試合での会心の一打に「思うようにできなかった悔しさをぶつけられた」と胸を張った。 

 ○…背番号12にとって、大きな経験となる敗戦だった。故障の影響でマスクをかぶれなかった大塚に代わり、日大三の捕手を務め通した2年生の鈴木。連打を許した六回を「連打されると簡単にストライクを取りに行く癖が出た」と反省し、横尾からの送球を止められず勝ち越し点を許した十二回には「準備が足りず、気持ちが前に出せなかった」と悔やんだ。それでも懸命に先輩投手をリード。「周りに積極的に声もかけられた。一回り大きくなれた」と、自身の頑張りに納得した。

 ◇個人大会通算最多安打13=大会タイ
 日大三の山崎福也投手が決勝の興南戦の三回に左前打、興南の我如古盛次内野手が決勝の日大三戦の六回に右前打を放ち、それぞれ達成。第67回(95年)の室岡尚人(観音寺中央)以来で、山崎が2人目、我如古が3人目。

 ◇チーム大会通算最多塁打105=大会新
 日大三が達成。単打40本、二塁打15本、三塁打5本、本塁打5本。従来の記録は第72回(00年)の智弁和歌山が記録した101。

http://mainichi.jp/senbatsu/10/article/archive/news/2010/04/20100403k0000e050067000c.html

センバツ興南が初栄冠、沖縄勢3回目 半世紀の節目飾る

 第82回選抜高校野球大会毎日新聞社、日本高校野球連盟主催、朝日新聞社後援、阪神甲子園球場特別協力)の決勝が3日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場であり、2年連続4回目出場の興南(沖縄)が延長十二回の熱戦の末、8年ぶり17回目出場の日大三(東京)を10−5で破り出場32校の頂点に立った。大会屈指の左腕、島袋洋奨(ようすけ)(3年)の好投と全5試合2けた安打の強力打線で、春夏通じて初の栄冠を勝ち取った。沖縄県勢としては1960年の那覇センバツ初出場からちょうど半世紀の節目で、第80回大会の沖縄尚学に続き2年ぶり3回目の全国制覇となった。

 決勝の観衆としては99年の71回センバツ以来11年ぶりに4万人を超える4万3000人が見守った。六回まで点を取り合う展開。以降は両チームとも無得点が続き、延長十二回表に興南が一挙5点を奪って試合を決めた。12日間にわたった今大会は、雨のため25年ぶりに2日連続で順延されたほか、準決勝1試合も延期された。総入場者数は42万9000人だった。

 閉会式で、奥島孝康・大会審判委員長(日本高野連会長)は「前半は見応えのある投手戦、準々決勝以降は点差の開く試合が目立った」と講評し、21世紀枠の向陽(和歌山)と川島(徳島)のほか、雪のハンディを乗り越え8強進出を果たした北照(北海道)などの健闘をたたえた。

 朝比奈豊・大会会長(毎日新聞社社長)は「延長十二回、興南のたたみかける攻撃は見事でした。沖縄の野球のレベルの高さを示した。沖縄野球界の先人たちに敬意を表したい。一方、日大三は最後まで頑張り抜いた姿勢は伝統校らしい戦いぶりだった」と述べた。【田中龍士】

http://mainichi.jp/senbatsu/10/article/archive/news/2010/04/20100404k0000m050019000c.html