非正規雇用労働:誘導された自発性

これは、ヘッドラインニュースだけ読んで済ませるわけにはいかないニュースです。

たぶん古典的な問いでしょうが、「非正規雇用労働者の約半数は〈自発的〉に〈自らの意思で選択〉した」とくくってしまっていいのか、と思います。こうした雇用状況は、彼らの意思とは別のところで「望ましいもの」とされていますし、そちらへ誘導する力も明らかに働いているわけですから。

出てきている対策の中には「正規雇用労働者の非正規雇用労働者化」みたいなのも見えますね。韓国社会における「雇う側の論理」の優勢振りをうかがわせます。

記事入力 : 2011/05/27 15:30:25
非正規雇用労働者577万人、4年ぶりの多さに

 統計庁が26日発表した今年3月の勤労形態別付加調査の結果によると、非正規雇用の労働者は前年同月比5%増の577万1000人となり、2007年3月以来の多さとなった。景気回復で雇用機会は増えたものの、雇用増は非正規雇用の労働者が中心で、雇用の質が低下している。

 過去1年間で給与労働者の数は44万8000人増えた。しかし、非正規雇用の労働者が5%増加したのに対し、正規雇用の労働者は1.6%の増加にとどまった。新規に創出された雇用の60%が非正規雇用の労働者だということを示している。非正規雇用の労働者が急増したことにより、労働者全体に占める非正規雇用の労働者の割合は、1年前に比べ0.7ポイント上昇し、33.8%となった。労働者の3人に1人が雇用の不安定な非正規雇用で働いていることになる。

 大卒以上の非正規雇用も17万人増え、高学歴者の雇用の質も確保されていないのが現状だ。4月の青年失業率(15−29歳)は1年前に比べ0.1ポイント高い8.7%に悪化した。正規雇用で就職することが困難になったため、高学歴の若者は自発的、非自発的を問わず、非正規雇用の働き口に殺到し、非正規雇用中心の雇用市場が定着しつつある。

 韓国政府は昨年10月、「国家雇用戦略2020」などさまざまな非正規労働者対策を発表したが、企業は依然として、非正規雇用を好む傾向があり、政策は効果を上げていない。

 韓国開発研究院(KDI)のファン・スギョン研究委員は「企業が正規採用に消極的なのは、賃金負担もあるが、みだりにリストラできないからだ。社員側に責任があれば自由に解雇できるようにするなど、リストラ条件を緩和しただけで、非正社員を優先雇用するムードを軽減できる」と指摘した。



全洙竜(チョン・スヨン)記者

http://www.chosunonline.com/news/20110527000060

記事入力 : 2011/05/27 15:30:54
非正規雇用者の賃金、正規雇用者の約半分

 今年3月現在で、非正規雇用の労働者の平均月給は135万6000ウォン(約10万2000円)となり、1年前を8.2%上回った。伸び率では正規雇用(3.5%)の2倍以上に達した。しかし、非正規雇用の労働者の賃金は依然、正規雇用の労働者の57.3%にとどまっている。この数値は1年前より2.6ポイント上昇したが、2004年8月(65%)に比べると、両者の格差は拡大した。

 退職金や社会保険など福利厚生も同様だ。非正規雇用の労働者のうち、退職金を受け取れる人は1年前に比べ3.4%増え40.2%だった。しかし、正規雇用(77.9%)には遠く及ばない。非正規雇用の労働者による年金や保険の加入率は、国民年金(39.5%)、健康保険(45.1%)、雇用保険(44.1%)などとなっており、改善の兆しは見られるが、正規雇用の半分をやや超える水準にとどまっている。労働組合への加入率は2.9%で、正規雇用(15.6%)を大きく下回っている。

 労働者3人のうち1人が労働条件の悪い非正規雇用という雇用形態が定着し、非正規雇用の労働者に対する保護を強化すべきとの声が高まっている。韓国開発研究員(KDI)の兪京濬(ユ・ギョンジュン)財政・社会政策研究部長は「非正規職に対する雇用保障が困難なら、社会保険を充実しなければならない。政府が保険料の一部を補てんするのが望ましく、弱者層を政府が支援する方策が必要だ」と指摘した。

 正規雇用労働者との賃金格差解消も急がれる。イ・ビョンフン中央大教授は「韓国の非正規雇用労働者の賃金は正規雇用労働者の50−80%にとどまっている。同じ労働には同等の賃金を支払うよう制度を改善すべきだ」と訴えた。

全洙竜(チョン・スヨン)記者

http://www.chosunonline.com/news/20110527000061

記事入力 : 2011/05/27 15:31:23
「正社員になるのはあきらめました」

半数が自らの意志で非正規職を志望

 32歳のイさんは、2004年にソウル市内の大学を卒業し、家庭教師や塾講師などのアルバイトをしてきた。大学時代、イさんの目標は政府系企業に就職することだったが、思い通りにはいかなかった。就職準備中は、生活費を稼ぐため2年にわたり時給1万ウォン(約750円)の論述スクールで講師を務めた。また、出版社で1年間校閲のアルバイトをし、150万ウォン(約11万円)ほど貯金した。しかし結局は目標としていた就職をあきらめ、労務士の資格を取ることに変更、準備を続けている。最近は月30万ウォン(約2万2300円)の家庭教師を2カ所掛け持ちし、月収60万ウォン(約4万4700円)で生活している。

 非正規労働者の半分以上は、本人の意志とは関係なく、やむを得ない事情で今の仕事に従事している。イさんのように非自発的に非正規労働者となったケースのうち、73.2%が当面の生活費を稼ぐため今の形態で働いていることが分かった。

 大学でスペイン語を専攻したキムさん(31)は卒業後、中堅貿易会社に就職した。安定した正社員だったが、残業は当たり前で、会食も多く、休日勤務もよくあり非常に忙しかった。キムさんは会社を辞め、保険会社に非正規職の秘書として転職した。最初は「いずれまたどこかの正社員になるまでのアルバイト」と考えていたが、今の仕事はすでに3年目だ。キムさんは「正社員だったころが懐かしく感じることもあるが、非正規職だと自分の時間が多く取れるというよい点もあるし、最近はもうあきらめている」と話した。

 非正規職が急増する中、キムさんのように自ら非正規職となってその立場に安住する、いわゆる「自発的非正規職」も増え続けている。統計庁の調査によると、非正規職の48%が「自ら非正規職の仕事を選んだ」と解答した。これは1年前に比べ2.4%も増えている。自ら非正規職を希望した理由については「労働条件に満足している」(45.1%)、「安定している」(24.2%)などの理由が多数を占めた。一方で「経験を積んでから正社員になる」とか「就職の準備を並行して進めるため非正規職を選んだ」という解答は、20.3%から17.1%に減少している。針の穴を通るほど難しい正社員としての就職をあきらめ、自分から希望のレベルを下げた結果だ。

全洙竜(チョン・スヨン)記者

http://www.chosunonline.com/news/20110527000062