論文盗作問題の続き

個人的に関心があるので、引き続き朝鮮日報の一連の報道記事をクリップ。

まあ確かに、判断基準や摘発の仕組みも問題かもしれません。しかし、いま問題になっている韓国の状況は、そんなハイレベルな話をする以前のものであると思います。そっちに話を持っていくと、技術的な困難さを並べ立てて最終的には全てがうやむやにされる…なんて結末が容易に想像できます。

記事入力 : 2013/03/24 09:21
論文盗作、判断基準も摘発の仕組みもない韓国
英米は検索エンジンでチェック
13秒で14の言語からなる1億2000万本の論文と比較
盗作の疑いがある部分を抽出

 韓国は人口に比べて修士学位・博士学位の所持者が多い国だ。これは学問を好むからではなく、個人の経歴を飾るため大学院に行くケースが多いからだ。しかし論文の盗作を防ぐ明確な仕組みはない。そのため選挙、国政監査、政府・大企業の大規模人事などのたびに盗作問題が表面化する。だが根本的な対策は今なお立てられていない。

 2011年の時点で韓国の博士学位所持者数は人口100万人当たり233人で、これは米国(192人)や日本(130人)を上回っている。昨年も8万2765人が修士学位を、1万2243人が博士学位を新たに取得した。

 しかし韓国では研究倫理を正規のカリキュラムとして指導する大学は少なく、また盗作に関する明確で統一された基準もない。ただし教育科学技術部(省に相当)のガイドラインには論文盗作について「他人のアイデアや研究内容を、出処を明確にせず引用する行為」と明確に規定されている。

 またソウル大学は「出処の記載なしに二つ以上の文章が同一の場合」、韓国研究財団(旧韓国学術振興財団)のガイドラインは「六つ以上の単語が全く同じ場合」を盗作と規定するなど、大学や関連機関ごとに基準も異なっている。

 盗作問題が表面化するたびに政府は対策を約束したが、検討だけでいつも立ち消えになった。教育科学技術部は2008年「論文の類似度検索システムの構築」を発表し、10年までに2回の事業計画を取りまとめたが、予算を確保できなかったためいずれも取りやめとなった。昨年、文大成(ムン・デソン)議員に論文盗作疑惑が持ち上がったときも、教育科学技術部は盗作検索システムの構築を検討したが、最終的には見送られた。

 米国や英国ではさまざまな盗作防止策を講じている。最も幅広く利用されているのは「ターン・イット・イン」と呼ばれるプログラム。これは米国のUCバークレー大学の学生たちが開発した有料のプログラムで、学生が論文や報告書を登録すれば、わずか13秒で14の言語からなる既存の学術論文1億2000万本と比較し、盗作が疑われる部分を抽出する。ただし最終判断は教員と大学が行う。

 米国ではハーバード大学を含む100位以内の大学の70%、英国では98%の大学がこのサービスを利用しているが、ターン・イット・インによると韓国でこのサービスを利用しているのは韓国科学技術院(KAIST)やポステック(旧浦項工大)など12大学しかないという。

 ちなみに教育科学技術部は各大学を対象に研究倫理指針を作成したかを調べたが、それを適用しているかどうかはチェックしていない。また独自の盗作検索システムを立ち上げた大学の数についても、教育科学技術部は現時点では把握していない。

金秀恵(キム・スヘ)記者

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/03/24/2013032400084.html

この朝鮮日報文化部長氏とは、いつもウマが合わない感じがあるのですが、今回のことに限っては、話が通じそうです。

記事入力 : 2013/03/24 09:37
【コラム】論文盗作に対する弁明


▲朴垠柱(パク・ウンジュ)文化部長

 90年代末、夜間大学院に通っていた。期末試験の際、試験監督が席をはずすと、数人が本を取り出し答えを書いた。最初に本を取りだしたのは名前が広く知られている運動家だった。道徳性を「他人を刺す刃物」としてだけ利用する運動家を何人も見てきたはずだが、こうした厚かましい様子を見てあきれた。

 4学期目に入ると論文の話をした。「何から写せばいいか分からない」という冗談半分、本気半分の話が飛び交った。勉強に熱中していたわけでもなく、適当に学位を取ればむしろ大学の評判を落とすかもしれないと思い、論文は書かなかった。だからといって道徳性がそれほど立派だったわけではない。そのとき論文を書いていたら「修士論文ノーベル賞を取るつもりなの? 適当に(他の人のを)写しなよ」という雰囲気に巻き込まれていただろう。避けたものは大きかった。

 「どれくらいつらいのか、青春よ」。このような内容の偽物の自己啓発本が氾濫する時代に、違う声を挙げる人が登場した。「ぶつぶつ言うな。私はもっと大変だった」「夢をかなえるために君は一体何をしたのか」と訴え掛ける度胸のある女性、スター講師の金美敬(キム・ミギョン)氏だ。数日前、本紙は金氏が夜間大学院に通っていたときに書いた論文に数カ所の盗作があったと報じた。

 翌日、金氏は公式の立場を明らかにした。「学界の基準に合わせられなかったことは誤っていたが、良心までむやみに売ったわけではなかった」とした。発表文を要約すると「過ちはあったが、意図的ではなかった。朝鮮日報の報道は全体を見ずに一部だけ見ているものだ」という内容だった。普段の威勢のいい語調に比べて余裕がないように感じられる。そのような立場では誰でも同じかもしれないが、金美敬氏らしい弁明ではなかった。普段堂々と「出世した田舎の女」と自分を呼んでいるように「田舎の女が欲を出してしまった。申し訳ない」ときっぱり言った方がよかったのではないだろうか。

 金氏の盗作論文をめぐって、彼女がどの程度責任を取るべきかという話が出た。ある先輩は「今のポジションを獲得する上で学位が決定的な要因であるなら職を辞するべきだし、そうではないなら必ずしもやめる必要はないのではないか」と言った。記者も金氏がもう一度チャンスを得てもいいのではないかと思う。

 2007年に起きたシン・ジョンア元東国大助教授の学歴詐称事件を機に、韓国社会はようやく、偽の学歴を語り履歴書に書くことが「犯罪」だという事実に共感するようになった。「他人の論文を一部でも写すのは大きな犯罪」だという社会的認識が形成されたのもここ数年のことだ。

 韓国社会では「博士などありふれていて、どこにでもいる」とからかいながらも「どこどこの博士」だと分かればその人の言葉になんとなく重みを感じてきた。いくら手術の腕が良くても、患者を上手に診察する医師だとしても、博士号がなければ大学病院の教授になることはできない。意味のない論文だとしても本数を稼げば定年までのポストが保障される。「質的検証」は誰もしない。大学や機関は恣意(しい)的採用の予防線として論文の本数や学位証明書を利用してきた。大学は特殊大学院をやたらと作り、修士・博士学位を与えるという「商売」で金を稼ぎ、そこで博士号を取得しながらも職の見つからない卒業生に就職先を与えることで、再び裏金を手にする。2回にわたってもうかる市場だ。

 偽の論文を書くのは非道徳的だ。しかしそれが許される環境があるために次々と盗作が生まれる。道徳性の再武装では足りないだろう。学位論文の盗作が見つかった場合、それを書いた人だけでなく、そのような論文に合格を与えた人を公表し、大学にもペナルティーを与えるべきだ。そうすれば、学位乱発の需要と供給のサイクルが途絶えるのではないだろうか。

朴垠柱(パク・ウンジュ)文化部長

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/03/24/2013032400095.html

ただ、言うまでもないことですが、芸能人かどうかにかかわらず、いい論文はいい論文としてちゃんとあるわけです*1

記事入力 : 2013/03/24 09:30
修士論文が学術誌に掲載された「学究派」タレントも
論文が学術誌に載ったキム・アジュン、「うつ病論文」が評価されたパク・ジニ


▲(写真左から)キム・アジュン、パク・ジニ

 芸能人の論文盗作が話題になる一方で、芸能人の修士論文が高く評価されるケースも多い。女優のキム・アジュンさん(31)は、2011年に高麗大学言論大学院に「感性欲求と認知欲求が感情の強さおよび満足度に及ぼす影響、スリラー映画鑑賞を中心として」という論文を提出し、修士号を取得した。

 キム・アジュンさんの論文は、翌年に韓国文化経済学会の学術誌『文化経済研究』4月号にも掲載された。それほどに学術的価値を認められたということだ。確認した結果、キム・アジュンさんの論文は、盗作疑惑が持たれているほかの芸能人とは異なり、本文の3分の1以上が引用と脚注からなっていた。

 ある大学教授は「ほかの人の文章を引用する際、はっきり出典を記したということ」と語った。

 女優パク・ジニさん(35)が延世大学行政大学院(社会福祉学専攻)在学中に執筆した修士論文「役者のストレスとうつ病および希死念慮に関する研究」も、斬新なテーマで話題になった。

 パク・ジニさんは「260人の役者を対象にアンケートやインタビューを行った結果、全体の40%程度がうつ病にかかっており、自殺を考えている」と発表した。自殺の危険がある深刻なうつ病は10人に1人の割合で、役者の30%は自殺を実行に移したがっている、という内容も盛り込まれていた。

 パク・ジニさんの研究は、関連学界で「芸能人自ら内部集団の問題に光を当てる斬新な研究を行った」と評価された。

ウォン・ソンウ記者

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/03/24/2013032400090.html

ま、とりあえず、他人様の文章を引用したり、他人様の議論を参照したりした時には、ちゃんとその旨を注記しましょう。いろいろ言われていますが、今回の問題は、そのレベルのことです。

例えばこの文章とか、韓国語に翻訳して掲載してみてはどうですか、朝鮮日報様。

コピペはダメだよ、について (内田樹の研究室)

*1:逆に言えば、研究職や教育職に就いている人の論文でも、怪しいものはかなり怪しいです。肩書きは、実はそこではあまり問題ではありません。