奨学金という名で背負うことになる借金の問題

経済成長が右肩上がりだったかつてならいざ知らず、現在の状況下では、この「奨学金」という名称そのものにイラッとしてしまいます。本来であれば「学生ローン」と呼ぶべきなんでしょうが、その言葉には消費者金融のイメージがありますし、「教育ローン」は銀行の商品などで使われていますねえ。

「進学ローン」とか何とか、呼び方は何でもいいんですけど、とにかくこれが「ローン返済の問題」であることを、もっと明確にイメージすべきだと、私は当事者の一人として思います。

奨学金問題:全国組織、31日設立 返済苦しむ若者急増で
毎日新聞 2013年03月27日 東京夕刊

 不況や就職難で奨学金が返済できず、厳しい取り立てを受けたり、自己破産したりする若者が急増しているとして、全国の学者や弁護士らが「奨学金問題対策全国会議」を31日に発足させる。背景には、学費高騰や学生支援組織の独立行政法人化などがあり、支援者らは「本人の努力だけでは解決できない社会問題だ」と訴えている。奨学金問題で全国組織が結成されるのは初めて。

 独立行政法人日本学生支援機構(旧日本育英会)によると、2011年度の同機構の奨学金利用者は128万9000人。大学や専門学校に通う学生の3人に1人が利用している。同機構の奨学金に給付型はなく、卒業後に返済が必要だが、就職難や非正規雇用の増加で返済が遅れる利用者が続出。延滞者は03年度末から11万人増え、11年度末で33万人にのぼる。

 追い打ちをかけたのが、独立行政法人化による回収の厳格化だ。同機構は10年度から、3カ月滞納した利用者を銀行の個人情報信用機関に登録(いわゆるブラックリスト化)し、4カ月目から民間の債権回収会社サービサー)に委託している。その後は裁判をし、11年度だけで給料差し押さえなど強制執行は135件にもおよぶ。

 全国44の弁護士会が2月に実施した奨学金に関する初の電話相談には計453件が寄せられ「生活苦で返済できない」が42%で最多だった。対策会議設立の母体は80年代から多重債務者を救済してきた全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会。対策会議事務局長(予定)の岩重佳治弁護士は「学生の将来をひらくための奨学金が、将来をつぶすことになっている。学生支援のあり方を含め、社会全体で取り組む必要がある」と話す。

 対策会議の設立集会と記念シンポジウムは31日13〜16時、東京都千代田区六番町の主婦会館プラザエフで。問い合わせは、東京市民法律事務所内の事務局(03・3571・6051)。【浦松丈二】

http://mainichi.jp/feature/news/20130327dde041100020000c.html

ローンですから、学生支援機構の第1種奨学金にある返還免除制度を除けば、下にあるような「負担軽減措置」も、しょせんは問題の先送りに過ぎず、負担を実質的に軽減するものではぜんぜんありません。

奨学金返済額は所得で変動 文科省、17年度にも導入公開日時
2013/1/29 23:47

 文部科学省は大学卒業後の所得に応じて奨学金の毎年の返還額が変わる「所得連動返済型奨学金制度」を2017年度にも導入する。現在は所得水準に関係なく定額を返す方式で低所得の若い世代を中心に負担が重いとの声が出ていた。意欲ある学生が安心して勉学に打ち込める環境を整える。

 新制度の検討やシステム設計の費用として13年度予算案に1億円を盛り込んだ。有識者会議を設け、具体的な制度設計を進める。

 現行制度は年収が300万円を上回るまでは返済が猶予され、その後は一定額を返す。月5万4千円の無利子奨学金を4年間借りるとしたモデルケースでは、返済額は月1万4400円になる。

 新制度は毎年の返済額を課税所得の1割にすることを検討。年収300万円を超えた場合の返済額は月7千〜8千円で、所得が上がるにつれて増額する。返済総額は変わらない。

 景気悪化の影響などで奨学金の滞納額は増加中。文科省は「新制度が導入されれば少しずつでも返済したいという人の気持ちにも応えられる」としている。

http://www.nikkei.com/money/telecom/index.aspx?bu=B8B6E5B793BAB1E0E2E3E1E2E1E1E39C968199969096958A9C93819695E0EBE2E6E68DE0EBE2E3E0E2E3E19180EAE2E2E28E969C8A8EE6E0B7E0E2EBE4E1F2F2F2F2F2F2E2

不況で奨学金返済滞納増え猶予措置 全国的現状受け県教委が上限撤廃
(2013年3月26日午前7時02分)

 不況を背景として奨学金の返済滞納が全国的に増えている現状を踏まえ、福井県教育委員会(県教委)は25日、高校生や大学生らを対象にした「県奨学育英資金」について、最長5年間としている返済猶予上限を撤廃することを決めた。

 同資金管理規則を3月中に改正する。これまでの規則は、学校に在籍している人のほか、卒業後にけがや病気、失業などやむを得ない理由で返済が難しい場合に、1年ごとに最長5年間、返済猶予を認めてきた。

 県教委は今回、「病気のほか、不況で失業期間などが5年を超えることもありうる」(高校教育課)とし上限を撤廃。返済が難しい事情が続く間は1年ごとに無期限で延長できるようにした。

 本年度に返済猶予の措置を拡大した日本学生支援機構の対応に準じた措置。

 県教委によると、同資金は本年度、返済義務のある人が1111人おり、このうち198人が猶予を受けている。大半が学校在籍者で、病気や失業などによる猶予は6人という。貸付総額は本年度末見込みで約12億円。滞納額は公表していない。

http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/politics/41279.html

結局のところ、今後この問題を悪化させないためには、学生支援機構などが学生に貸し付ける「奨学金」という名のローンは、例えば授業料免除制度や「(給付型の)奨学金」などとは違い、「できることなら利用せずに済ませたい借金の一つ」である、ということを、よりいっそう広報して周知徹底することが、必要になってくるでしょう。制度の本来の趣旨には反するかもしれませんが、そういう制度になってしまっている以上は仕方ありません。

タバコの箱の注意書き並みの記載をJASSOに義務付けても、いいのではないでしょうか。


奨学金、返せる自信は 就職難や住宅ローンも考慮を
2013/3/23 7:00

 大学に合格したものの、計画通りに教育資金が作れず、学費に頭を悩ませる家庭は少なくない。不足を補う手段としては教育ローンや奨学金があるが、多くの場合は借金。親の老後資金や子の将来の家計を圧迫することがある。日ごろから親子で将来やお金について考えることが大切だ。

 「教育ローンのおかげでタイムラグを埋められた」。東京都のA子さん(47)だ。娘が18歳になる12月に200万円の給付を受ける学資保険に加入していたが、娘は大学に推薦入学。秋口に入学金などが必要になったので、あわてて国の教育ローンに申し込み、事なきを得たという。

■タイプは様々

 教育ローンの利点は、入学金や学費のため、一時にまとまったお金を借りられること。銀行など多くの金融機関が用意しており、タイプも様々だ。たとえば日本政策金融公庫が扱う「国の教育ローン」は、学費だけでなく、一人暮らしの生活準備などにも充てられる。世帯収入の審査はあるが、子の学業成績は不問。今後1年間に必要な費用として、学生1人につき300万円まで親が借りることができ、「学資の駆け込み寺」(国民生活事業本部)ともいわれる。

 一方、学生本人が借りたり給付を受けたりするのが奨学金日本学生支援機構(JASSO)の奨学金などがよく知られる。学費に苦心する家庭の増加もあり利用者は右肩上がりに増え、2010年度には昼間に通う大学生の2人に1人が何らかの奨学金を利用していたという。

 JASSOの奨学金は無利息の一種と利息の付く二種の2タイプ。学業成績や世帯収入などに応じて、いずれかを選ぶ。二種の金利は年3%が上限。貸与額は月3万、5万、8万、10万、12万円の5タイプがある。注意が必要なのは返済だ。

 多くの人が利用する有利子で月8万円の貸与を受けるケースで考えてみよう。4年間の貸与総額は384万円で、卒業後に返済が始まる。仮に金利が年0.5%(20年固定)とすると、20年かけ返済する総額は404万円。毎月の返済額は1万6855円となる。

 さほど負担にならない返済額に見えるが、実際は違う。返済で貯蓄が少なくなる。結婚資金や病気などへの備えは簡単ではない。

 「返済の負担は住宅購入時にも影響するので注意が必要」と指摘するのはファイナンシャルプランナー(FP)の菅原直子さん。夫婦2人で月に2万円の奨学金を返している場合、多くの金融機関では月に8万円の返済能力があっても、2万円を引いた6万円と判断される。金利2%の35年ローンで月に8万円返済できれば、借り入れ可能額は2415万円。だが、6万円になると1811万円しか借りられない。



 もちろん、本人からみれば、奨学金の利用は大卒の学歴を手に入れるための先行投資といえる。それでも「奨学金は借金。返済をよく考えて」とFPの豊田真弓さんも警鐘を鳴らす。

■給付型も調べて

 対策の一つは返済のない給付型奨学金の利用だ。


大学独自で奨学金を設ける動きが広がっている(早稲田大学奨学課、東京都新宿区)

 「奨学金を予約をしていたので安心して入学試験を受けられた」と話すのは、早稲田大学スポーツ科学部3年生、竹中達郎さん(21)。父親の定年退職が近いため、私大進学をあきらめていたが、早大で「めざせ!都の西北奨学金」ができると知り、申し込んだ。

 首都圏以外の高校出身で家計が苦しい学生を対象にした奨学金で、毎年500人を上限に出願前に給付の予約を出す。合格すれば年間40万円、留年しないなどの要件を満たせば4年間160万円が給付される。

 竹中さんはJASSOの一種奨学金も受け、経済面の不安を解消。サッカー指導者を目指し、学業に集中する日々を過ごしている。

 給付型の奨学金は誰でも受けられるものではない。だが、早大のように大学独自で奨学金を設ける動きが広がっている。調べる価値はあるだろう。

 最近は大卒でさえ就職が容易ではないことも考慮すべきだ。収入不足などで「生活苦から返済を滞納。延滞金がかさみ自己破産をした人もいる」。奨学金の返済問題に詳しい岩重佳治弁護士はそう話す。

 この現状で奨学金などで数百万円の借金を子に負わせるのは、リスクがある。「親として、せめて入学金を含む初年度の学費は出せるようにしておくべきだ」と菅原さん。豊田さんは「子が奨学金の返済ができる職に就けるよう、後押しすることも大切」と指摘している。(清水桂子)

日本経済新聞夕刊2013年3月19日付]

http://www.nikkei.com/money/features/36.aspx?g=DGXNZO5298342019032013EL1P00&n_cid=DSTPCS008

日経を読むような親御さんであれば、上の記事の末尾にあるようなアドバイスもそれなりに聞こえるでしょうけど、実際には「それができたら苦労はないっちゅうねん」って家庭もたくさんあって、そういう環境から進学を希望している学生をどう支えるか、というのが無視できない問題になっているわけですよ。一昨日の沖縄大学の例を見るまでもなく…。