改正労働契約法:「5年ルール」の刃
下の早稲田大学は、「手続き上の問題」ということで刑事告発されていますけど、この手の対応は今、大学に限らず、あちこちの職場で起きていることです。社会人生活を送っていれば、同じような提案や議論を身近なところで見聞きしたことがあると思われます。
労基法違反:首都圏大学非常勤講師組合、早大を刑事告発へ
毎日新聞 2013年04月07日 10時25分(最終更新 04月07日 18時31分)
早稲田大学=東京都新宿区◇契約期間に上限「手続き不正」
早稲田大学(鎌田薫総長)が新たに設けた非常勤講師の就業規則を巡り、制定の手続きに不正行為があった可能性があるとして、首都圏大学非常勤講師組合(松村比奈子委員長)は同大を近く労働基準法違反の疑いで刑事告発する。非正規労働者の契約は5年を超えて働いた場合、期間の定めのない雇用に転換できるなどとした改正労働契約法が1日から施行されたばかり。この法改正で、大学現場では非常勤の契約に新たに上限を設ける動きが出ているという。【東海林智】
告発状などによると大学側は3月19日の団体交渉で、非常勤講師の就業規則を組合側に初めて提示。上限のなかった雇用契約期間を通算5年とする内容だった。
労働基準法によれば新たに就業規則を制定する場合、事業主は事業所ごとに労働者の過半数代表者の意見を聞く必要がある。組合側が「全く聞いていない」と反発したところ、大学側は2月4日には過半数代表者を選ぶ手続きを始めたとする文書や同月14日の公示などを示し、手続きは正当に実施したと説明した。
しかし組合側によれば、同14日は入試期間で非常勤講師は公示場所に立ち入ることができず、その後も手続き文書を見たことはなかったという。代表者選びの投票結果も公表されないことから、告発を決めた。組合から相談を受け団交にも参加した佐藤昭夫早大名誉教授(労働法)は「『違法な手続きだから期間を空けてやり直したらどうか』と警告したのに大学側は強行した。学生時代から50年も関わった母校だが進歩に逆行するようなことをしてはいけない」と話す。
組合によると、早大では12年時点で専任や専任扱いの教授らが約2200人なのに対し、非常勤講師や客員教授ら非常勤は約4300人。影響は大きいが、大阪大や神戸大も上限5年の実施を検討している。同様の動きは他大でも出ていたが労組の抗議で撤回や凍結したという。
松村委員長は「正規の2倍にも達する非常勤の貢献を無視する強引なルール変更なので告発する」。早大広報課は「詳細がわかりませんので、コメントは差し控えさせていただきます」としている。
http://mainichi.jp/select/news/20130407k0000e040126000c.html
根本的な問題は、改正労働契約法にあるわけで、クーリング期間などの規定を合法的に利用して、「有期契約の無期転換」というお題目を骨抜きにする動きが、全国津々浦々で進行中です。労働現場で起きているこの動きを、知らないとは言わせません。
改正労働契約法 さらなる法整備へ検証必要
2013年04月08日パートや契約社員など、雇用期間が決まっている有期契約労働者の雇用安定化を図る改正労働契約法が、4月から施行された。有期契約が何度も更新され、同じ職場で5年を超えて働いた場合、希望すれば期間を限定しない無期雇用に転換される。不安定な雇用環境の改善に向けて一歩前進といえるが、法の“抜け道”を模索する動きもあり、さらに検討を続ける必要がある。
改正の柱として三つのルールがある。一つ目の「5年ルール」は今年4月1日が起算日となり、無期労働契約への転換スタートは2018年4月となる。二つ目は雇用打ち切りを制限するルール。契約を更新して長く働いている人は、正社員の解雇と同様、合理的な理由がなければ雇い止めにできないとした。三つ目は不合理な労働条件の禁止。有期雇用を理由に、賃金や福利厚生などの条件で格差を禁じている。
また、労働者が職場を離れて6カ月以上経過すれば、通算の雇用期間をゼロにリセットし、再雇用できる「クーリング期間」も設けた。
総務省の労働力調査によると、今年2月時点の雇用労働者5467万人のうち、有期契約労働者は1449万人と4分の1以上を占める。
不況の長期化や小泉政権の規制緩和推進などを背景に、こうした非正規労働者は増加。県の12年度労働条件等実態調査によると、県内の民間事業所における非正規労働者の割合は32・6%と、10年前から2倍近くに増えた。リーマン・ショック後の08年末には、職や住居を失った労働者が東京・日比谷公園の「年越し派遣村」にあふれ、社会問題化した。
有期契約について、企業側は「雇用機会の確保につながっている」と主張。一方、労働組合側は「一時的・季節的な業務に限定すべきで、合理的な理由がない有期契約は禁止する必要がある」と指摘する。
日本労働弁護団が3月に実施した非正規労働者を対象とした電話相談では、熊本など27都道府県で168件あった相談のうち、32件が雇い止めに関するものだった。
県労働弁護団(西清次郎事務局長)によると、県内でも「契約社員で5年以上働いているが雇い止めを通告された。納得できない」(40代男性)「近く雇用期間が5年になるが、法は適用されるのか」(40代女性)などの声があり、生活の不安を抱えた非正規労働者の雇用実態が浮かび上がっている。
雇用期間に期限を設けることは違法ではなく、改正法の効果は企業の倫理観頼みという面も否定できない。福岡県経営者協会が昨年実施したアンケートでは、37・6%が「5年以下で雇い止めを行い、無期雇用への転換を抑える」と回答。一部の大学では有期雇用の職員を、原則的に5年を超えて継続雇用しない方向で検討中という。また、企業側が「クーリング期間」を悪用し、6カ月の空白期間を挟んで同じ労働者を有期雇用で働かせ続ける恐れもある。
改正法は、行きすぎた規制緩和に一定の歯止めをかける意義がある。ただ、こうした“抜け道”を容認すれば、労働者を保護する法の理念が骨抜きにされかねない。一層の法整備に向けた検証が求められる。
有期で働く側の希望や都合がどこまで取り入れられているか。そうした観点からすると、現状はとても「改正」とは言い難いものです。
契約社員も上司も追い詰める“改悪法”の実態 - 日経ビジネスオンライン
2013年4月5日
(韓国の非正規:1)無期契約でも残る差別 賃金は正規職の半分、ミスで解雇の規定も
無期契約になっても正規職と区別されていることを資料で訴えるキム・ヨンテさん=ソウル市半年や1年などの期間限定で働く人たちがいる。契約社員やアルバイトなど、1450万人。全雇用者の4分の1にあたる。期間が終わり、契約更新できなければ職場を去る。こうした不安定な働き方の人を助ける「5年ルール」が4月、日本ではじまった。契約更新を続けて5年超働いたら、期間の定めのない働き方ができる。参考にされたのは韓国の制度だ。本当に役に立っているのか。韓国で現状をみた。
「有期の連中は言われた通りやれ」
韓国・ソウル市の国民体育振興公団に勤める競艇の審判員、キム・ヨンテさん(35)は大学卒業後、1年契約を何度も更新してきた。職場では無期契約で働く正規職からいつも見下され、ささいなことでくりかえし怒鳴られた。
賃金も安い。正規職と同じ仕事なのに半額以下。昇進もほとんどない。でも、不満を口にしたら、次は契約更新されないかもしれない。
自分も無期契約になりさえすれば――。そう思っていた2007年、「非正規職保護関連法」が施行。勤め先で2年を超えて働けば、無期契約になったとみなされる。同じ境遇の同僚と喜んだ。
だが、期待は裏切られた。
経営側は正規職と分けて「運営職」という区分を新しくつくった。自分たちはこれに転換されるらしい。契約こそ無期だが、賃金はあいかわらず正規職の半分程度。就業規則も正規職とは別にある。
キムさんは同僚と労働組合をつくって抗議した。しかし、相手は巧妙だった。
運営職のほかにも「準運営職」「無期契約職」「支援職」と新たな区分が次々できた。もとの契約内容や無期転換の時期によって呼び名が変わり、賃金や昇進に差がつく。「労働者がまとまらない。露骨な分断工作だ」
いま、労働組合は四つもある。正規職の労組は、運営職らの賃上げや正規職登用に抵抗した。待遇をよくすると、正規職の取り分が減るのではと警戒したためだ。
キムさんは「労働者同士の対立で爪痕だけ残った。無期になっても差別は解消されない」。今年1月、国家人権委員会に是正を訴えた。
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韓国では1997年の経済危機後、正規職から非正規職への置きかえが進み、社会問題化。07年の「2年ルール」はその解消を狙った。厚生労働省にあたる韓国雇用労働部が有期雇用の約2万人を追跡調査したところ、1割が正規に、3割が待遇は不明だが無期の契約になっていた。不安定雇用を解消する一定の効果はあったとみられる。雇い止めを含む離職は3割だった。
日本の改正労働契約法は、韓国のこの法律を参考にした。厚労省幹部は「日本でも無期転換を起こし、働き方を安定させる狙い」と話す。
しかし、韓国では無期転換した人を「中規職」と表す。非正規と正規の中間という意味だ。非正規問題に取り組む民間団体、非正規労働センターのイ・ナムシン所長は、「中規職は真の正規職とはいえない。無期転換時に悪条件を強いられることも多い」。
金融機関で働く40代の男性は、複数の金融機関で債権回収を手がけてきた。借金を滞納した中小企業の機械などを差し押さえる。02年にリストラされて以来、有期労働契約を繰り返してきたが、09年に今の職場で無期に転換。契約で「実績があがらないときは解雇する」という趣旨の文言を入れられた。
男性は「契約が無期に変わっても雇用は安定していない。ミスしたら簡単にクビだ」と怒る。経営側が都合よく解釈できるあいまいな表現で解雇の規定を入れるこうした手法は、「三振アウト制」と呼ばれる。3回ミスしたらアウト、という意味だ。
賃金も低いまま。基本給は最低賃金と同程度。必死に働いて成果給を稼がないと暮らせない。正規職と待遇の差は大きい。「同じ仕事をしているのなら、同じ給料にするべきだ。でも、法律は無期転換した後まで考えていない」(石山英明)
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<5年ルール> 雇用期間をあらかじめ定めて働く「有期雇用」は、会社にとっては、好不況にあわせて雇う人数の調整がしやすい。一方、長く働きたい労働者は、次の契約が更新されるのかいつも不安で、職場でひどい目にあっても泣き寝入りしがち。そこで、日本では4月に改正労働契約法が施行され、有期雇用で通算5年を超えた労働者が、契約を無期に変えるよう会社に申し込める「5年ルール」が導入された。
http://digital.asahi.com/articles/TKY201304040603.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201304040603