ソウル大の外国人教員の話と日本の大学のこと

ふむ。なるほど。ソウルから香港へ、もしくは母国への帰還といったケースが取り上げられていますね。

まあ、ソウル大でダメだというのなら、それを上回る条件や環境を提供できる日本の大学は、ほとんどないでしょう。東大や京大でも、明確に「上回る」と言い切れる要素はあまりないはずです。下回る要素のほうが多くても驚きはありません。

2016年のアジア大学ランキングのネタ - 大塚愛と死の哲学

記事入力 : 2016/07/26 10:38
外国人教授が次々と去るソウル大学

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 韓国出身でデンマークの里親に引き取られ、後にソウル大学教授に採用され大きな話題となったパク・ソレンソン教授(37)が、わずか4年後に香港中文大学に移っていたことが25日までに分かった。生後8カ月でデンマークに行ったソレンソン氏はロンドン大学で英文学の博士学位を取得し、ケンブリッジ大学で研究教授として勤務。2011年にソウル大学自由専攻学部教授として採用された。ソウル大学の関係者は「ソレンソン氏は母国に奉仕したい考えで韓国に来たが、海外の大学に比べて給与や研究環境などが立ち後れていることに失望し、より良い条件が提示された香港の大学に移った」と説明した。

 ソウル大学は国際的な競争力向上を目的にこれまで多くの外国人教員を採用してきたが、彼らの多くが数年でソウル大学を去り、定着しないことが問題となっている。ソウル大学が与党セヌリ党の李鍾培(イ・ジョンベ)議員に提出した「ソウル大学の運営成果に関する評価報告書(2016年度版)」によると、2015年の時点でソウル大学の全教員のうち外国人専任教員が占める割合は5.5%で、13年の5.5%、14年の5.4%と比べて3年連続で横ばい状態にあることが分かった。これは10-20%の東京大学香港大学シンガポール大学などアジアの主要大学はもちろん、延世大学(7.6%)、高麗大学(7.0%)、成均館大学(6.6%)など同じ韓国の主要私立大学と比べても低い。李鍾培議員は「ソウル大学は毎年、新規採用教員のうち10%を外国人としているが、外国人教員の割合が高くならない理由は、採用した人数と同じ数の教員が退職するからだ」と指摘する。

 外国人教員がソウル大学を去る大きな理由の一つは、他大学に比べてソウル大学の給与水準が低いことにある。ソウル大学建築学科に4年間勤務し、昨年香港中文大学に移ったピーター・ペレット教授(44)によると、香港中文大学ではソウル大学の3倍の給与が保証されているという。ソウル大学工学部のある教授は「韓国人であれば『ソウル大学教授』を社会的に非常に名誉ある地位と考えるため、給与が安くても受け入れるケースが多い。しかしソウル大学の教授職をさほど大きな名誉と考えない外国人の場合、海外の大学から高い給与が提示されれば、それを断る理由などないだろう」と指摘する。しかもソウル大学教授の給与は韓国国内の私立大学よりも低い。ソウル大学評議委員会によると、昨年のソウル大学教授の平均年俸は1億500万ウォン(約970万円)で、これは延世大学(1億6200万ウォン=約1500万円)の65%、成均館大学(1億3400万ウォン=約1240万円)の80%だ。

 世界的に見てソウル大学のランキングが低いことも、外国人教員がソウル大学を去るもう1つの大きな理由だ。かつてソウル大学芸術学部に勤務していた英国アルスター大学のラルフ・サンディ教授(53)は、アルスター大学のほぼ半分レベルの給与を甘受してソウル大学にやって来た。その理由は給与よりも韓国美術について知りたい思いが強かったからだが、それでもサンディ氏はわずか4年で元のアルスター大学に戻った。サンディ氏は韓国を去る際「韓国もソウル大学も本当に気に入ったが、韓国の学界は非常に遅れているため、このままでは自分も淘汰(とうた)されるという不安を感じ耐えられなくなった」と語っていたという。

 朝鮮日報と英国の大学評価機関「クアクアレリ・シモンズ社(QS)」が共同で調査し先月発表した「アジアの主要大学ランキング(2016年度版)」によると、ソウル大学は「教員1人当たりの論文数」の項目で昨年の21位から今年は52位へと大きくランクを下げた。これは中国の精華大学(30位)や日本の東京大学(36位)はもちろん、インド工科大学(37位)、台湾の国立清華大学(45位)よりも低かった。また教授らが書いた論文の影響力を示す「被引用回数」においても、ソウル大学は昨年の18位から今年は24位にまでランクが下がった。

 言語の違いから研究をサポートする大学院生などとスムーズなコミュニケーションが取れず、このことを理由にソウル大学を去るケースもある。ソウル大学が昨年8月に国会に提出した資料によると、2010年から昨年3月までにソウル大学に採用された外国人教員は80人で、彼らは1人当たり平均4.2人の大学院生を指導した。ところがソウル大学の韓国人教員が指導する大学院生の数は平均7-8人のため、外国人教員はその半分の数の大学院生しか指導しなかったことになる。しかも外国人教員のうち24人(30%)は1人の大学院生も指導していなかった。

ムン・ヒョンウン記者

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2016/07/26/2016072601010.html

こんな風になっている理由はいろいろあるでしょうが、根本的には「お金がない」という点に行きつくだろうと思います。そして、トップクラスの大学からその他の大学まで、程度の差はあれどこもが頭を悩ませている「大学とお金」の問題を突き詰めていけば、その根本は文部科学省を突き抜けて財務省に行きつきます。財務省の問題ということは、国家財政の問題なわけです。

国の収入に限りがあり、その配分については優先順位をつけざるを得ない中、大学の順位が(内部で期待されているよりも)下がっているというのが現状なのでしょう。それはそれでやむを得ないところもあります。

朝日新聞の「高等教育とお金」関連記事 - 大塚愛と死の哲学

ただ、その結果、「食っていけない」「生きていけない」となれば、「ああそうですか」と引き下がるわけにはいきません。食い詰め者を大量生産し、なおかつその存在を無視するような政策は、最終的には破綻することになると思います。知恵を絞るべきポイントは、やっぱりそこなんとちゃいますか。

その点で、「期限付き」「任期付き」の濫用は、個人にも組織にもいい結果をもたらさないと思っています。

法律変わったのに「雇い止め」? 東北大、非正規の契約更新5年上限
2016年7月25日05時00分

 東北大学で有期契約で働く約3千人の非正規職員が今後順次、契約を更新されない「雇い止め」になりかねない事態になっている。改正労働契約法で、契約更新の期間が5年を超えると働き手が無期契約を求めることができるようになり、大学側が契約更新の規定を見直したためだ。非正規職員の労働組合は「希望する全員を無期雇用に転換すべきだ」と主張している。

 東北大で事務をする40代の女性職員は今年初め、上司との面談で、契約を打ち切る「雇い止め」の方針を伝えられた。1年契約で、2011年から更新を続けてきた。上司からは早めの退職を求められ、断ったが、3月には契約更新の上限を「18年3月まで」とする契約書を渡された。

 「頼れる家族もおらず、雇い止めをされたら生活が成り立たない。転職も年齢的に厳しくなっている」と話す。

 東北大は14年3月に就業規則を改定し、准職員や時間給職員について、契約更新の上限を従来の3年から5年にした。規則は13年4月の改正労働契約法の施行時にさかのぼって適用される。契約更新されない職員が18年4月以降出始める。

 改正労働契約法の「5年ルール」=キーワード=では、有期契約の働き手は、通算5年を超えて働く場合、希望すれば無期契約に転換できる。東北大では規則改定で、無期契約への転換はできなくなる。

 規則改定の対象は、04年の国立大学法人化後に雇われた約3200人。ただ、講義を担当する非常勤講師は対象にならない。

 これに対し、東北地方の大学などの非正規職員らでつくる東北非正規教職員組合は6月の団体交渉で、雇用の安定をめざす改正労働契約法と「趣旨が全く違う」と東北大を批判した。

 大学側は改定は働く側に有利な内容だとする。以前の上限3年から、5年に延びたためだ。一方、組合側は、これまでの3年上限の運用は厳密ではなく、3年超働いている人が相当数いると主張する。

 東北大の山田純司・人事給与課長は「人件費確保が難しいため」と説明する。大学運営の財源は、国の交付金や授業料など安定財源以外に、特定目的のプロジェクト向けの補助金などもある。こうした補助金などで雇われる人は3200人の約半分ほどで、「資金が切れる可能性があるので、一律に無期転換することはできない」という。

 大学は「能力が極めて優れた者」などは無期雇用にする例外措置を設けることを明らかにしている。ただ、対象者の人数は明らかにしていない。組合側は「対象者は極めて少ないだろう」とみている。

 ■非常勤講師に適用の大学も

 他の大学では、有期雇用の非常勤講師で、契約更新に5年や10年の上限を設ける動きがある。10年の場合があるのは、大学などの研究者や教員は、無期転換権の発生が10年超という例外扱いがあるためだとみられる。

 早稲田大学は13年3月、5年を上限とする規定にした。その後、非常勤講師を組織する労働組合の抗議を受けて修正。14年4月以降に採用された講師について10年の上限を設けた。

 同志社大学では、今年3月までに契約している非常勤講師が引き続き更新して10年を超えた場合に無期雇用に転換する方針だ。今年度の採用からは10年を上限とした。

 立命館大学は今年4月に非常勤講師制度を廃止し、「授業担当講師」という新制度にした。従来の講師は無期にしていく方針だが、新制度の講師は5年の上限がある。

 (小宮山亮磨、編集委員・沢路毅彦)

 ■人材確保に望ましくない 毛塚勝利・法政大学大学院客員教授

 無期契約はもともと合理的理由があればいつでも解約できるものだ。大学の非常勤講師の多くは、継続的に授業を担当することが予定されているのだから、一般的には無期契約で対応すればよい。

 外部資金によるプロジェクト研究では、5年を超える長期のものは無期契約で対応し、解約事由として、プロジェクトの終了や資金の継続が期待できないことなどを定めておけばよい。

 形式的に5年や10年の契約更新の上限を設定したりすることは、働くものにとってだけでなく、人材確保のうえで大学にとっても望ましいものとは思われない。(談)

 ◆キーワード

 <改正労働契約法の「5年ルール」> 有期雇用の人の契約更新が通算5年を超えると、無期雇用への転換を求めることができる。いつ「雇い止め」になるかわからない非正社員の不安定な雇用を解消するためのルール。民主党政権時代の2012年8月に成立した改正労働契約法に盛り込まれ、13年4月施行された。18年4月から順次、無期雇用に転換できる。

http://digital.asahi.com/articles/DA3S12478074.html

下流化ニッポンの処方箋
年収200万円博士号女性の夢は「任期なし常勤」
2016年7月27日 藤田孝典 / NPO法人ほっとプラス代表理事

貧困は固定化している(5)

 有名大大学院で博士号を取得した女性研究者(38)はいま、五つの大学で非常勤講師を掛け持ちしています。

 非常勤講師は、特定の授業だけを担当し、他の大学業務にはかかわらない職種。大学との雇用関係はありません。これに対して、フルタイムで教える教員は「常勤講師」「専任講師」と呼ばれ、任期なしの雇用であれば、昇進して准教授や教授になることも可能です。

 非常勤の彼女は一コマ8000円から1万円で授業を請け負っています。原稿執筆や講演の雑収入を加えて、年収は約200万円。大学院修了時点で奨学金計1100万円を借りていて、今も毎月3万円を返済中。残りは約800万円です。貧困ラインにいると言えるでしょう。

 研究分野の宗教史は文系の中でもかなりニッチな専攻。学生を呼べる人気分野とは言えず、ポストの空きがないため、やむなくパートタイム教員として8年ほど働いています。

 任期のない常勤講師のポストをずっと探していますが、競争者は他にも山ほどいて、簡単ではありません。公募にも落ち続けています。38歳で研究者としての経験しかないと、普通の就職も難しく、今後どのような道を目指すのか、真剣に悩んでいます。

大学でも非正規雇用が増加

 学術研究と教育を担う大学でも、雇用は大きく揺れています。背景には、大学間の競争激化と少子化があります。

 国内の研究活動を引っ張る主要11大学(北海道大、東北大、東京大、早稲田大、慶応大、名古屋大、京都大、大阪大、九州大、筑波大、東京工業大)を対象に、教員の雇用状況を調べた文部科学省のデータ「大学教員の雇用状況に関する調査」(2015年3月公表)があります。

 07年度と13年度で、教員の雇用形態がどう変化したかを調べたもので、調査対象者の総数は07年度が2万6559人、13年度が2万9421人でした。

 調査結果でもっとも特徴的なのは、任期の定めがある任期付き教員の数が、6年間で4286人も増えていたこと。13年度の任期付き教員の割合は実に39%(07年度は27%)でした。一方、任期のない教員は1428人減りました。教員の世界でも「非正規化」が進んでいます。

 また、任期付きの増加は若手に顕著に表れています。30歳以上35歳未満では、07年度に1618人だった任期付き教員は、13年度には2493人に増えました。35歳以上40歳未満でも、1650人から2899人に増えています。任期付き教員を雇う財源を、大学外部から特定のプロジェクトに支出される「競争的資金」に頼っていることも、この変化に関係しているようです。

非正規大学教員のささやかな夢「任期なしで働きたい!」

 任期付き教員は大学のいわゆる契約社員です。授業や入試監督業務、学内業務は任期なし教員(いわゆる正社員)とほぼ同じであることが多いようです。任期付き教員の経験がある某大学の教授は、こう振り返ります。

 「大学にもよるが、年収は2〜3割ほど低く、30代で400万〜650万円程度。一定期間だけ雇用され、その後契約は更新されない。契約期間は3年から5年が多い。任期なしポストをちらつかせながら、パワハラをされることもあったが逆らえない。多くの大学は、任期付き教員と非常勤講師がいなければ回らなくなっている」

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大学の求人公募情報サイトの一例

 大学の求人公募サイト「JREC-IN」を見ると、任期付きポストの募集が多いことが分かります。非常勤講師や任期付き教員は、研究を続けながら「任期なし」の安定したポストを探すのに必死です。

 博士課程を終えてもポストがなく、収入が足りなくて風俗店で働く女性もいます。大学を取り巻く環境が激変したことで、ポストと財源が減り、研究職を目指した人たちの行き場が減ったのです。

 非常勤講師の女性はこう話します。「いつまで今のような働き方ができるのか、将来を考えると不安しかない。いつかは諦めなければならない日が来るかもしれないが、もう少しがんばってみたい……」

 激変するニッポンの一断面です。

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 次回から、病気になったとき、暮らしに困ったときに使える役立つ制度とその活用法を詳しく紹介します。

 <「下流化ニッポンの処方箋」は原則毎週1回掲載します>

http://mainichi.jp/premier/business/articles/20160725/biz/00m/010/006000c