東京大学の雇用:若手研究者の「任期なし」化と非常勤職員の「雇い止め」争議

これはねえ、やっぱちゃんと並べて読めるようにしておかないとね。

東大の動向は、他に与える影響が大きいですから。

東大、若手研究者300人 「任期なし教員」に転換
(2017/8/15 05:00)

東京大学は2021年度までに、任期付き雇用の若手研究者300人を任期なし雇用の教員に転換する。外部資金獲得による間接経費などを使い、国の運営費交付金に頼らない雇用とする。16年度の東大の40歳未満の任期なし教員数は383人。若手の雇用安定を財源多様化で実現することで、大学の研究開発力を一層強化する。

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若手研究者には「任期なしの教員」「任期付きの教員」「任期付きの研究員」がある。このうち「任期付き」の2種類で優秀な若手が、任期なし雇用の教員に転換する。

任期なし雇用への転換の財源として、理系を中心とした部局は外部資金獲得に伴う間接経費収入や運営費を活用する。本部は産学連携に関わる収入、規制緩和による土地・資金運用などで確保する。

東大は16年度に任期なし雇用への転換を部局財源で行う場合に年間300万円を3年間、本部が支援する制度を始めた。さらに独自の「東京大学卓越研究員制度」で部局が「任期なしかそれに準ずる扱いにする」と決めた中から対象者を選定。本部が1人当たり同300万円を2年間、支援する。この結果、17年度の任期なし雇用は前年度比約90人増えた。

国立大学の任期なし雇用の教員は通常、運営費交付金で人数が決まる。交付金削減で定年退職教員の後を補充しにくく、任期なし教員が減る傾向にある。

同時に競争的資金のプロジェクトが増え、任期付き雇用が研究型大学で増加。東大の教員のうち任期付き雇用が占める割合は06年度が4割強だったが、12年度は6割超だった。 任期付き雇用は競争意識を持たせる利点がある。一方でイノベーションの創出やノーベル賞級の研究につながる基礎的研究は生まれにくい面もあった。

https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00439401

2017.08.17
東京大学で起こった、非常勤職員の「雇い止め争議」その内幕
最大10万人に影響が及ぶ可能性も
田中 圭太郎 ジャーナリスト

日本の大学の雄である東京大学が、約8000人の非常勤教職員の雇用形態に多大な影響を与える新たな方針を、去る8月7日に開かれた組合との団体交渉で明確にした。このままでは、大半の非常勤教職員は2018年4月以降雇い止めされることになる可能性があるという。

大学側の一方的な決定を受け入れることはできない、と組合は反発。東京労働局への指導の申し入れを検討、さらには刑事告発に発展する可能性が出てきた。

日本で最も権威のある大学による意思表明は、他大学の方針にも影響を与えるとみられている。全国に10万人いるという非正規雇用の教職員が注目する、東京大学の「労働争議」の現状をリポートする。

「東大ルール」

ここに、「改正労働契約法と東京大学における有期雇用教職員の取り扱いについて」と題した文書がある。東京大学が「改正労働契約法」にどう対応するのかが書かれた、内部文書だ。この文書の中に、「無期転換ルールと東大ルールの違い」という項目がある。まずはこれを見ていただきたい。

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「改正労働契約法と東京大学における有期雇用教職員の取り扱いについて」より

文書の表の左側にある「無期転換ルール」とは、一般的な改正労働契約法のことを指している。これは2013年4月1日に施行された法律で、ごく簡潔に言えば「5年以上同じ非正規労働者を同じ職場で雇う場合、本人が希望すれば無期労働契約にしなさい」とするもの。一般的には非正規職員の正規雇用、あるいは契約期限のない無期雇用を促す法律といわれている。

近年、大手企業が契約社員の無期雇用を決めるケースが相次いでいるが、これも、改正労働契約法の影響によるものだ。多くの企業が対応を迫られる中、大学とて例外ではなく、非正規職員の雇用をどうするかが、各校で議論されてきた。

そのなかで東京大学が掲げたのが、上記の表の右側にある「東大ルール」。今回問題視されているのが、このルールだ。いったい何が問題なのか。

まずは、東京大学の非常勤教職員の雇用形態を見てみよう。

東京大学の非常勤教職員は、基本的に単年度契約で、契約は最長5年まで更新できる。その上で2種類の契約に分かれている。

ひとつは「特定有期雇用教職員」と呼ばれるフルタイムの教職員。特任教授をはじめ、特任の准教授・講師・助教・研究員や、有期雇用の看護師・薬剤師・医療技術職員などを指す。その人数は公式ホームページによると2694人となっている(2015年5月1日現在)。

もうひとつは、「短時間勤務有期雇用教職員」。いわゆるパートタイムワーカーで、大学の事務や技術、教務、医療技術、看護技術などの補佐員として働いている人たちのことだ。補佐といっても、各学部の事務や、大学病院での看護スタッフなど、実際に行っている業務はフルタイムの教職員とさほど変わらない。

違いは、特任の教員ではないことと、勤務時間が週35時間以内に限定されていることだ。人数は2017年1月時点で5300人と多く、全体の8割を女性が占めている。

2職種あわせて約8000人にのぼる非常勤教職員は、このまま働いていれば、2018年以降には自然に、改正労働契約法によって無期雇用職員への転換を申し込む権利が発生したはずだった。

しかしながら、無期雇用者が増大すれば、人件費がかさみ財政が苦しくなることを恐れたのだろうか、東京大学は、独自に「東大ルール」なるものを設定し、これに対応することにしたのだ。

5年でリセット…?

「東大ルール」では、この2職種の人たちを、原則最長5年で「雇い止め」をすることを明記している。フルタイムの教職員の一部と、国立大学の法人化前から東京大学に勤務しているパート教職員480人は2018年に無期雇用に転換されるようだが、それ以外のほとんどの人は雇い止めされることになる可能性が高いのだ。

さらに、「東大ルール」には「6か月のクーリング期間の適用」が記載されている。5年働いたパート教職員は、6か月の休業期間を経た後なら、再び上限5年で雇用することを可能、としている。

が、改正労働契約法では、一度6か月もの休業期間を経ると、「雇用継続の期待権」がリセットされてしまい、無期転換の機会を失ってしまうことが定められている。5年働いても、その後半年間の休みをとれば、勤務期間がまた「ゼロ」からとなり、いつまでも無期雇用には至らなくなってしまう。

文書では、これがさも合理的であるかのように記載されているが、無期転換(正規雇用化)を阻止するためにクーリングすることは違法、または脱法行為にあたるとさえいわれている。

また、このクーリング期間は、以前から設けられていたものだったが、それまでは「3か月」であったものを、東大は改正労働契約法施行後、これを6か月に変更した。3か月の休業期間では雇用期間が「リセット」されないため、急遽これを伸ばした可能性がある。これは「労働条件の不利益変更」にあたる、と指摘されるものだ。

東大側は、このような「雇用制度改革」を2013年ごろから掲げて周知していた。当然ながら組合は反発、2016年から東大側の理事・弁護士と交渉の場をもち、見直しを訴えてきた。

筆者は前回の記事で、早稲田大学がほぼ同様の「改革」を掲げ組合と衝突、話し合いの結果、大学がその改革案を撤回するまでの過程を報じた。(<早稲田大学で起こった「非常勤講師雇い止め紛争」その内幕→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52333>この流れの中で、東大もおそらくは撤回、あるいは組合側に妥協するものだろうと、「東大労働争議」の推移を見ていた。

そのようななかで、去る8月7日午後に開かれたのが、東京大学と、東京大学職員組合、そして首都圏大学非常勤講師組合による団体交渉である。組合側は、希望するすべての教職員に対して、5年以上働いた場合は無期雇用に転換するよう、再度求めた。

ところが、東京大学は方針変更を認めなかったのだ。これによって、「東大ルール」が実施されることがほぼ確実となり、2018年4月に大量の「雇い止め」が行われる可能性が高まったのだ。

全面対立の可能性

組合側を驚かせたのは、それだけではなかったという。団交の場で、大学側は2018年4月から「職域限定雇用職員」という、フルタイムで定年まで働ける、新たな非正規教職員制度を作ると説明した。契約期間が満了しても引き続き働きたい人は、フルタイムの人もパートの人も、毎年秋に実施される試験を受け、それに合格すれば、非常勤ながら定年まで働くことが可能になる制度だという。

しかし、この「職域限定雇用職員」とは、専門的かつ高度な仕事をする教職員であり、予算の裏付けがある部署に限っての募集となる。現時点では対象の部署は明らかにされず、予算の裏付けがないとされた職場で働く人は、そもそも対象外となる可能性が高そうだ。

また受験には部局の推薦が必要とされている。さらに、これは公募なので、現在東京大学で働いていない人も受験可能だという。パート教職員にいたっては、そもそも勤務時間をフルタイムに変える必要があり、試験を受けることを躊躇する人が多いのではないだろうか。

大学側は「この試験に合格すれば無期雇用になるので、試験を受けてほしい」と、誰でも受けられることを強調するが、組合側が「試験に受からなかった人はどうなるのか」と質すと、大学側は「試験に落ちた人を保障する必要はない」と回答。つまり、試験で落としてしまえば、その職員を再度雇う必要はない、ということのようだ。

試験に受からない場合は「その人の責任」で、不合格によって雇用が途切れるのは大学側の責任ではない、という理屈をつくるための制度だ、と組合側は受け取っているという。

組合側は、そもそもこの「東大ルール」は、改正労働契約法の趣旨に反していると指摘している。改正法は「雇用の安定を図るという趣旨で設けた」という政府解釈が国会でも示されており(2012年7月25日衆議院厚生労働委員会)、いま働いている人を雇い止めにすることは、法律の目指すところとは全く逆の行為になる、ということだ。

ところが大学側は、団交の場で「この提案は決して法律の趣旨には矛盾していない」と言い張り、「東京大学の業務の特性上致し方ない。部局ごとの事情もあり統一した対応は困難」と主張した。

これでは話にならないと、大学と組合の交渉は決裂してしまったという。

交渉が決裂したことをうけ、組合側は、東京労働局に東京大学への指導を申告する方針を固めた。また、首都圏大学非常勤講師組合は、事実上の就業規則変更が届け出されていないことを問題視し、大学を労働基準法違反で刑事告発することも検討しているという。東京大学と組合側は、すりよりの見られないまま、全面的に対立することになりそうだ。

非常勤教職員約10万人に影響?

東京大学の非常勤教職員への対応には、就業規則の件以外にも多くの懸念が残る。組合側は、無期転換を認めない姿勢はそもそもの法律の趣旨に反していると主張したが、女性が8割を占める短期間有期雇用労働者を雇い止めしようとしている点は、女性に対する雇用差別、とも受け取れるという。

さらに注目すべきは、国立大学の雄である東京大学でこのような方針が決定・推進されれば、全国の国立大学の非常勤教職員の雇用問題にも影響が出てしまう可能性があることだ。

文部科学省は2016年度に、国立大学法人86法人を対象に「無期転換ルールへの対応状況に関する調査」を実施した。その結果、非常勤教職員を「原則無期転換する」と答えたのは秋田大学浜松医科大学愛知教育大学三重大学京都教育大学奈良教育大学の6法人だけだった。

ほとんどの大学は「職種によって異なる対応を行う」ことを検討していると回答し、事実上態度を保留している。他大学は、東京大学の様子を見ているとさえ考えられる。

現在、86ある国立大学法人全体で、少なくとも10万人以上の非常勤教職員が働いている。東京大学の対応が正当化されると、多くの大学が追随し、数万単位の雇用に影響が及ぶ可能性があることを指摘しておきたい。

東京大学は本来、法改正の理念を汲みとり、最も模範を示すべき存在ではないだろうか。筆者は東京大学に「東大ルールにより非正規教職員を雇い止めすることは、改正労働契約法の趣旨に反しているとの指摘があるが、大学としての考えを聞きたい」と8月10日に取材を申し入れた。

この申し入れに対し、東京大学広報課は、非常勤教職員の多くを雇い止めして、新たな「職域限定雇用職員」を公募する方針は認めた。一方大学の見解については、「本部が長期の休みに入るので、8月21日以降に改めて連絡します」と答えるに留まった。

この問題は、少子化や大学改革などとも密接に関係しているはずだ。大学側も苦しい事情を抱えているのだろうことは推察できる。筆者は東京大学側への取材も含めて、今後もこの問題を追っていくつもりだ。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52605