留学生への「労働対価型」奨学金導入への条件
「留学したけりゃ金が要る」というのが現実だとしたら、「留学してほしけりゃ金が要る」というのも現実です。その先のキャリアパスについてももちろん重要なテーマなのですが、それ以前の入り口のところで財政的な裏付けのない留学生受け入れ政策なんて、画餅でしかありません。かといって、直接給付に回せる予算には限界がある(というか、全然足りてない)。
その意味で、こちらの記事は、一つの提案として面白いと思いました。
2013年10月3日
(私の視点)留学生受け入れ 「労働対価型」奨学金導入を 近藤佐知彦日本の留学生受け入れは、2010年の14万1774人から震災後の11年には13万8075人に急減した。それでも約12万人の私費留学生の半数以上が、日本での就職を希望している。その一方で11年に実際に就職目的で在留資格を変更した留学生は8千人余りにすぎない。希望者数と実際の就職者数との乖離(かいり)は、「国内に出口が見える」キャリアパスを示すことで、日本留学の魅力を向上させうることを示唆している。
同様に重要なのは財政支援だ。文部科学省は「外国人留学生奨学金制度の充実」のため、国費留学生や私費留学生への学習奨励費など、287億円が給付できるよう来年度予算に概算要求をしている(今年度予算は267億円)。
しかし、この際、留学生向け奨学金は「給付型」という硬直した制度設計を見直してもよいのではないか。留学生の30万人受け入れを目指すという遠大な目標に対し、給付だけでは明らかに追いつかないからだ。給付と貸与という2類型に分けられてきた奨学金に、新たなスタイルをつけ加える必要がある。例えば大学が企業などと覚書を交わし、私費留学生を企業に推薦、企業から奨学金を貸与された学生が労務などをもって返済をする「労働対価型」の支援スタイルを導入してはいかがだろうか。
具体的には、事業会社などと大学とが覚書を交わし、「奨学金」の額やその返済を労務によって充てる条件を定める。たとえば(1)年間の支給額を設定し(2)各月の労務の多寡にかかわらず各月均等に「奨学金」を留学生に支給することを覚書に定める(3)学期期間中や平日など、集中的な学習を要する期間は労務を少なめにし(4)休暇期間中・週末などに労務を増やす(5)年間を通せば学生は「奨学金」と見合った労務を提供する、といった条件を課す。それによって必要な時期には勉学に集中するとともに日本での安定的な経済基盤を得る、といった仕組みが構築できないだろうか。
大学にとっては、私費留学に「奨学金」というプレミアを加えることで、優秀な外国人学生を日本留学に導くことができ、彼らが無理なアルバイトにのめり込んで学業がおろそかになることも予防できる。企業にとっては、大学の協力のもと適性などを見極めながら、若いグローバル人材の確保を行うことが可能になる。そして留学生自身にとっては、毎月一定額の「奨学金」が支払われることによる生活安定と、実社会との接点を持つことで、卒業後の日本でのキャリアパスが見えるというメリットもあるのだ。
(こんどうさちひこ 大阪大学教授〈留学生教育〉)
ただし、この制度がうまくいくためには、いくつかの条件があると思われます。
- 留学生を単なる「労働力」と見なすのではなく、彼らの将来的なキャリアにつながる「職歴」となるものと位置付ける。
(労働実態として、外国人研修・技能実習制度において指摘されてきた問題が発生するようなものでは困るわけです。)
- この制度を利用した留学生それぞれの労働経験をレポートにまとめ、日本語・英語(+留学生の母語)で毎年公開する。
(上の項目と関連してのことですが、労働実態の透明化を通して、そこから「学ぶ」ことのできる制度である必要があるでしょう。)
- 留学生を受け入れている大学における雇用枠の確保をまず義務付ける。
(「先ず隗より始めよ」ということです。留学生を受け入れるような大学であれば、国際化関係部署くらいあるでしょうし、この制度で企業と連携するのであれば、そこでも留学生の手を借りる余地はあるでしょう。)
こんな制限をかけると、制度の広がりは限られたものになるかも知れませんが、これまでのあれやこれやを考えれば、闇雲な量的な拡大を優先していいものではないと思います。
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