九州の留学生の現状:西日本新聞の取材
うーん、東京から離れたところで独自に「国際化」が進む九州の、何ともえぐい話が書かれていますが、予想外、ではないですね正直。むろん、「九州私大」といっても一様ではなく、問題が漏れ聞こえてくる大学が一部にあることは、私自身も知らないではありません。
日本の留学生政策の評価―人材養成、友好促進、経済効果の視点から
- 作者: 佐藤由利子
- 出版社/メーカー: 東信堂
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留学生2割消えた 九州私大37校の退学・除籍 受け入れ急増で「ひずみ」も 少子化穴埋め焦る大学 【あなたの特命取材班】
2018年01月08日 06時00分
外国人留学生の退学・除籍の状況について、九州の私大から本紙に届いたアンケート回答の一部。従来留学生数が多い中国に加え、ベトナムなどの国籍の記述が目立つ日本で学ぶ外国人留学生は昨年、26万人を超え、過去最多を記録した。福岡市など都市部を中心に、深夜のコンビニや飲食店で働きながら通学するアジア人の若者の姿は珍しくない。
九州の私立大学関係者から昨年、西日本新聞に電話があった。「途中退学する外国人留学生がどれだけ多いか、知っていますか」
この人物の大学ではある年、ネパールから来た若者のうち、8割近くが中途退学したという。
実態はどうなのか。特命取材班は九州の私立大53校、キャンパスの一部を九州に置く私立大4校の計57校を対象にアンケートを行い、2013年4月~17年秋の退学・除籍者の数について37校から回答を得た。
驚くべき結果が出た。過去5年間に入学した留学生計4551人に対し、卒業以外の理由で学校を離れた留学生は20・3%に当たる924人。実に5人に1人に上る。退学・除籍者ゼロという大学がある一方、留学生の入学者と退学者が同数という大学もあった。
理由について、11校が授業料を支払えないといった「経済的理由」を挙げた。「成績不振」「学習意欲の喪失」なども目立った。
入学者数のうち3割を上回る退学・除籍者が出た長崎県の私大は「学習意欲の喪失、学納金未納などでベトナム人留学生の退学や除籍が続出したため、受け入れ数を抑制した」という。
「世界に開かれた日本」を目指し、20年をめどに外国人留学生を30万人に増やす-。08年、福田康夫内閣がぶち上げた計画だ。本紙アンケートによると、ベトナム、ネパールからの留学生が過去5年間で3~4倍に急増した。数字上は政府の目標に近づいているが、“脱落者”が多くいる。
募集や留学生支援の在り方に問題はないのか-。九州の私大に通っていたネパール人男性(25)と、東京で会うことができた。彼は言った。「大学の説明はうそばかり。ネパール人をばかにしていた」
背景には、全国の大学が直面する「2018年問題」があった。
◇ ◇
「アルバイトは紹介するし、大学と寮を結ぶ送迎バスもあります。携帯電話を契約する際は学校が保証人になります」
九州の私大に通っていたネパール人男性(25)は来日前、母国で通った日本語学校で、勧誘に来た大学職員からそう説明を受けたという。夢は貿易関係の仕事に就くこと。授業料や手数料など留学費用計約200万円は現地で家を買える高額だが、何とか工面した。
実際には、アルバイトの紹介はなかった。大学近くに働ける場所は少なく、生活費で貯金は消えた。寮には入れたが、送迎バスは1日わずか2本。大学が携帯電話契約の保証人になってくれることもなかった。
大学の相談窓口には、韓国、中国人の職員はいてもネパール人はいない。「相手にされていないように感じた」。一緒に留学したネパール人仲間と毎日話すようになった。「みんなでやめてどこかに行こう」
ついに2人が退学した。来日費用を取り戻そうと、審査結果が出るまで就労が認められる難民申請の手続きを行い、東京で働き始めた。追随者が次々と出た。
仲間29人のうち卒業したのは、男性を含めてわずか6人だけだったという。
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生活習慣の異なる異国で、言葉の壁もある。男性の証言が全てではないかもしれない。ただ、18歳人口の減少に大学が危機感を強めていることは間違いない。
国立社会保障・人口問題研究所によると、1990年代前半に200万人を超えていた18歳人口は近年、120万人台で推移していたが、2018年以降は減少傾向が進み、32年には100万人を割り込むと予想される。いわゆる「2018年問題」と呼ばれる。
若者が減れば、大学経営への影響は避けられない。既に閉校を決めた例もある。少子化であいた穴を埋めるように、大学は今、留学生の獲得に走っている。
佐藤由利子・東京工業大准教授(留学生政策)は「地方の大学の多くは経営難で、授業料を免除してでも定員を満たしたい思惑がある。授業料を払えなくなる可能性がある留学生を入学させるなど、一部にいいかげんな大学もある」と指摘する。
九州のある私大職員によると、国の私学助成金は学生数によっても額が変わる。「算定基準となる5月時点で在籍していれば問題ない。面接せずにネパール人を受け入れたこともある」
仲介ビジネスも生まれている。特命取材班は会員制交流サイト(SNS)を通じ、九州に住む30代のネパール人男性と知り合った。親族が大学に、留学希望の若者を仲介しているという。「九州のある私立大は1人当たり10万円を出すよ」
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元留学生たちは大学をやめた後、どうしているのか。手掛かりの一つは、難民申請の急増だ。
法務省によると、10年に1202人だった申請数は17年、約1万7千人に達する見込み。難民と認定されるのはわずかで、16年は28人にとどまる。就労目的の「偽装申請」が横行しており、元留学生も多く含まれているとみられている。
審査期間は長ければ数年単位。その間、就労時間の制限はない。それらの若者たちが事実上、東京五輪特需に沸く首都圏の建設現場、担い手不足に悩む農業の現場を支えている。異国の若い労働力に依存する日本社会の現実が浮かぶ。
ネパール人男性は言う。「みんな日本で勉強して就職したいと思って来た。最初から偽装難民になろうなんて思っていない」
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=2018/01/08付 西日本新聞朝刊=
また、この話が「私立大学」にとどまるものではないことは、例えばこんなニュースを見ても明らかです。
留学生、日本語学校提訴 学費稼げず滞納「退学は不当」 佐賀地裁
2017年11月21日 06時00分佐賀県鳥栖市の日本語学校で学んでいたスリランカ人留学生の男性(30)が、半年先の学費を滞納したことを理由に退学処分とされ、精神的苦痛を受けたとして学校側に処分取り消しと慰謝料など約254万円を求めて佐賀地裁に提訴した。男性によると、学校側から「月200時間働ける」などと虚偽の説明を受け、多額の借金をして来日したが、実際は入管難民法の就労制限で週28時間しか働けず、学費が払えなくなったという。
訴状や男性によると、男性は2016年、鳥栖の学校を「母校」とするスリランカの日本語研修学校で「仕事は二つできる」「時給800円で月200時間稼げる」などと説明を受け、留学を決意。現地での仲介手数料や1年分の学費60万円などのため約150万円を借金で用立て、同年10月に来日し入校した。
男性は当初、弁当工場や運送会社で二つの仕事を掛け持ち、収入は月20万円ほど。うち、借金返済などのため10万円を母国に送金していた。今年1月からは2年目の学費として毎月3万円を学校に前払いした。ところが、3月に就労制限を超えて働いていることを入国管理局から指摘されて仕事が減り、4月以降は学費が払えなくなったという。
学校側は6月、前納分の学費の支払いが3カ月滞ったなどとして男性を退学処分にした。ただ、男性は既に11月分までの学費を払っており、佐賀地裁に地位保全を求めて仮処分を申し立てた。地裁は10月、復学を認め、男性はいったん復学したが、生活を続けることができず今月帰国した。
同校の理事長は取材に対し、「200時間働けるなどと説明するわけがない。学費の滞納のほか、学習意欲が低いなど他の学生への悪影響もあったことが退学の理由。学費を払う能力があるように偽造した書類を提出しており、こちらの方が被害者だ」と話した。
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「就労時間説明と違う」 学校側反論「ルール話した」
「まさかこんなひどい目に遭うとは思わなかった」。日本語学校に慰謝料などを求めて提訴したスリランカ人留学生(30)は、西日本新聞の電話取材に憔悴(しょうすい)した様子で話した。労働移民は受け入れないとする日本の政策の陰で、働くための手段として「留学」を選ぶ外国人は少なくない。特に多額の借金を抱えて来日する途上国の留学生は立場が弱く、男性の行動はこうした現状に一石を投じた形だ。
男性は6月に退学処分を受けて以来、アルバイトもできなくなった。生活ができず、今月17日に帰国した。借金はまだ100万円ほど残っているが、現地では月給数万円が平均的で返済の見込みはないという。
男性は出稼ぎ目的だったことを認め、「妻子や親に楽をさせてやれると思った」と言う。スリランカで開かれた留学前の説明会では、日本語学校の理事長から通訳を交えて説明を受けたといい「週28時間という就労制限の話は一切なかった。だまされた」と憤る。
これに対し、理事長は「週28時間のルールを守らず、日本にいられなくなった悲惨な留学生の事例を、感情を込めて説明した」と反論する。ただ、同校が提携する現地の研修学校のフェイスブックには、日本の学生ビザで仕事をしながら学んで稼げるとする「LEARN & EARN in JAPAN STUDENTVISA with 100%jobs」など誤解を招くような投稿も。理事長は「学生の募集は現地に任せており、宣伝には関与していない」と話した。
留学生政策に詳しい佐藤由利子東京工業大准教授は「日本は他国と比べて、私費留学生の募集・選抜や、正しい留学情報の発信に、十分に取り組めておらず、制度をもっと整える必要がある」と訴えた。
=2017/11/21付 西日本新聞朝刊=
ちなみに、西日本新聞が連載していた「新 移民時代」、書籍化されてたみたいですね。
- 作者: 西日本新聞社
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