あ、この方、一度ご挨拶したことがあります。先方はまったく覚えていないと思いますけど。
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懐の深い、味わい甲斐のあるインタビューです。
(インタビュー)隣国を、見直す 韓国元外交官・長崎県立大学名誉教授の徐賢燮さん
2015年4月8日05時00分
「韓日関係はジグザグ行進で、少しずつでも前に進めばいい。私は楽観主義者です」=ソウル、東岡徹撮影17世紀に活躍した日本人を「外交の先達」と仰ぐ韓国の元外交官。徐賢燮さんはそんな人だ。日本側からすれば、時に感情的に見え、理解することが難しい韓国の日本への対応。その底にある社会心理や歴史に根ざす感情をざっくばらんに聞いた。徐さんは「韓国を見る目に曇りはないですか」と、日本にも問いかける。
――現役外交官だった約20年前、「日本に学ぶべき点はたくさんある」と訴える本をあなたは書きました。「もう日本に学ぶことなどない」と断じた本が韓国で爆発的に売れた時代でしたが。
「ベストセラーになった日本批判本は感情的、短絡的でした。日本の一部を全体のように分析して些末(さまつ)なことを重大事のように書いていた。韓国の日本専門家が反論を書くだろうと思っていたが、動きがない。私は大使の拝命を待つ身だったのですが、誤った日本観をたださねばならないと考えて書き始めたのです。『頼むからやめて』と妻に泣きつかれましたが」
――ボコボコになりましたか?
「外交官が親日的な本を書くことで強い批判が巻き起こるだろうと、クビを覚悟していましたが、保守系メディアも意外に好意的に取り上げ、財閥のサムスンは講演を要請してきました。韓国に厳しいことも言ったけれど、根拠がしっかりしていたからでしょう」
――日本人の探求心やきちょうめんさを冷静な筆致でまとめた、という印象でしたね。外交官としては約10年、日本に滞在しましたが、そもそも日本に関心をもったきっかけは。
「私は韓国の田舎生まれです。父は朝鮮戦争で戦死し、極貧の中で育ちました。何とか入った中学に日本の明治大学で学んだ先生がいて、こう言いました。『東京の神保町には古本屋が何百も軒を連ね、ありとあらゆる本が手に入る』。いつか神保町に行きたいと夢見るようになったのです」
「苦学の末、外交官になり、東京勤務を命じられたことには運命的なものを感じます。東京で仕事をしながら、日本の本を最も多く持っている韓国外交官になろうと決心して、週末には神保町に足を運びました。毎月給料の4分の1を書籍代にあてたから、妻はしかめっ面をしていましたけれど」
「そんな日々の中で、江戸時代の中期、対馬藩に仕えた儒学者、雨森芳洲(あめのもりほうしゅう)のことを知ったのです」
――対馬藩は当時の朝鮮との交流の窓口でした。
「芳洲は秀吉の朝鮮侵略を批判し、朝鮮からの外交使節団だった通信使の受け入れに力を尽くしました。朝鮮語の方言も話せ、対朝鮮外交の実務を担った。そして唱えたのが『互いに欺かず、争わず、真実をもって交わる』という『誠信(せいしん)の交わり』。これこそが隣国同士の日韓外交の基本にあるべきで、それは20世紀の今も変わらない。私はそう考えました」
■ ■
――日韓関係の現状は「誠信」どころじゃない感じです。隣国をありのままに見ようとしなくなってきたという意味で、数年前からは日韓双方で「日本は韓国化してきた」との指摘が出ています。
「韓国を見下して自国を立派だと礼賛する空気が目立つ日本をみると、『韓国化している』と私も思います。もっと言うと、明らかな劣化ですね。かつての韓国のあれだけの逆風の中で私が評価した、あの日本と同じ国なのかと、がっかりすることがあります。韓国での不祥事や一部の反日的な言動などをとらまえて、さも韓国全体の問題と批判している」
「日韓双方とも、こんなに近い距離なのに、互いに相手のことをまだまだ理解していないことが最大の問題です」
――なぜでしょうか。
「韓国側について言えば、根深い歴史的な感情をまだ払拭(ふっしょく)できないことが目を曇らせています」
――朴槿恵(パククネ)大統領は「加害者と被害者という立場は千年たっても変わらない」と語っています。
「あれは言い過ぎですが、たとえば西欧列強は、同じ文化圏の隣国を植民地にはしなかった」
――なるほど。
「まして韓国人は、『日本に文化を伝えたのは我々の先祖』と考えているだけに今も非常に悔しい思いをしています。だから日本の実力を評価したがらない。好きか嫌いかではなく、必要かどうかでみるべきなのに、それができない。隣国同士とは往々にしてそんなものですが、韓国のその傾向は世界でも際立って高いでしょう」
「かつては日本のことを野蛮とか小さいという意味で『倭(ウェ)』だと言った。実際の日本は野蛮でも小さくもない。韓国の学校の教科書には今も、鎖国時代の日本文化の大半は朝鮮通信使が持ち込んだというような記述があります。実際は長崎の出島で西欧の文化や情報を得ていましたね」
――むしろ近い国同士の方が、歴史の事実や実像を見つめることは難しいかもしれません。
「メディアの責任も大きいでしょう。自国が絡む紛争については冷静さを呼びかけるのが役割のはずのメディアがプレーヤーになっています。日本も余裕がなくなりつつありますが、韓国メディアにはもっと多様さや余裕を認める度量がほしい。たとえば独島(竹島)の領有権について、日本では国立大学の教授でも、政府の主張を堂々と批判する人がいましたね。でも韓国で政府批判をしたら大変なことになる」
「互いを無視すること、疑うこと、さらに嫌うこと。これらの3要素を除去することが韓日関係におけるメディアの役割のはずなのに、現状は、逆に憎悪を駆り立ててしまっています」
「昨年春まで長崎県立大学で教えていて、毎年学生を韓国に連れて行きました。多くの親や学生から『あの国は怖いのではないか』という声が出ましたが、毎回、みんな韓国を好きになり、最後は日韓双方の若者同士、涙なみだのお別れとなった。こんな交流がある実情を、『反日』『嫌韓』をあおる双方のメディアは、どう説明するのでしょうか」
■ ■
――政治について聞きましょう。日韓の政治の関係は深い泥沼に落ちてしまったようです。
「異常です。トップの考え方が最大の要因でしょう。朴大統領の父は朴正熙(パクチョンヒ)元大統領。安倍晋三首相の祖父は岸信介元首相。いずれも日韓国交正常化に貢献した政治家ですが、それぞれ国内で良かった点とそうでなかった点が指摘されている。現在の両首脳が本当に国のことを考えるなら、父や祖父の呪縛から解かれるべき時です」
――どんな呪縛ですか。
「朴正熙氏は著書で、日本の明治維新が韓国立て直しの大きな参考になると記しました。骨の髄まで日本をうらやんでいた、などと言われることが、韓国では売国奴を意味する『親日派』批判に転じかねず、その娘だからと言われないよう言動には慎重にならざるをえない。一方の安倍首相は国家主義者の様相が濃かった岸氏を非常に尊敬しているようですが、父方の祖父、安倍寛氏の考えもぜひ取り入れてほしい。戦時中、軍部に反抗した気骨ある政治家でした」
■ ■
――具体的にはリーダーにどんな行動を期待しますか。
「中曽根康弘氏と全斗煥(チョンドゥファン)氏、金大中(キムデジュン)氏と小渕恵三氏といった先人の知恵に学ぶべきです。お互いに信頼をどうやって構築していったのか。日本では10年ほど前、韓流で『ヨン様』ブームが起きましたね。日韓がお互いの大衆文化を楽しむあの流れをつくったのは金大中氏でした。98年、韓国国内の強い反対を押し切って日本の大衆文化を開放したのです」
「『戦後政治の総決算』を掲げた中曽根さんだって首相就任後間もなく韓国に来て、わざわざ韓国語の歌をうたって全斗煥氏と信頼関係を築いた。あっぱれな姿だと、外交官として私は感じ入ったものでした。要は、政治家として勇気を出せるかどうかなのです」
「まずは双方で慰安婦問題を決着させることが必要です。ハーバード大学のマイケル・サンデル教授が、日本は戦争中の残虐行為への謝罪に及び腰だと書いていますが、それが国際社会の視点です。これは歴史的に積み残された女性の人権問題と考えるべきで、その解決を先送りすればするほど不利になるのは日本ですよ」
「そして、中国を加えた東アジアの平和共同体づくりを、私たちはあきらめてはいけないと思います。世界第2、第3の経済大国がある東アジアでこんなに大きな政治的緊張が生じている矛盾を少しでも解決するためにどうするか。それは政治家だけではなく、いまを生きる両国の国民一人ひとりが考えねばならない課題でしょう」
*
ソヒョンソプ 1944年生まれ。日本勤務のほか駐ローマ法王庁大使などを務め、2004年に外交通商省を退官。日本語による著書に「日韓曇りのち晴れ」など。
■取材を終えて
「×韓」「△日」といったひとつの型にはめようとする見方は必ずしも現実を反映していない。私のこんな見方に徐さんも同感のようだ。徐さんは、1万円札に「脱亜論」の福沢諭吉ではなく「誠信外交」の雨森芳洲が掲げられる日を夢見る。私はやや懐疑的だが、徐さんが魅力に挙げた、日本の懐の深さが復活することを願う。
(論説委員・箱田哲也)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11693479.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11693479
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