「分煙」がなぜダメか:モスバーガーの教訓

あーこれわかる。すんごいわかります。

私はタバコの煙とにおいがまったくダメなのですが、そういう人間からすると、単に場所を分けただけの分煙の店はおろか、完全密閉を謳った喫煙席があるところでも、その区画の近くは辛いんで避けたいですよ。新幹線なら喫煙車両の隣の車両はもうキツい。喫煙ブースからも可能な限り遠ざかりたい*1

客として選択権があれば、そういう場所に敢えて行くことはありません。もちろん、他にどうしようもないときはありますけど、不快なものは不快です。私のようにタバコがダメな人間が好き好んでそこを選んでいるわけではない、ってことは、商売上、確かに知っといた方がいいかもしれません。

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公序良俗に反する物体にはモザイクをかけています。

ああちなみに、私の周りでタバコを吸われる方には漏れなく呪いをかけていますので、悪しからず。

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モスバーガーが「創業以来の絶不調」である、もうひとつの理由
2018年01月16日 08時15分 公開 [窪田順生,ITmedia]

 売上高、利益ともにフタケタ成長で絶好調のマクドナルドと対照的に、業界第2位のモスバーガーが苦戦している。

 「創業以来2度目の絶不調」(現代ビジネス 2018年1月8日)なんてことまで言われ、昨年からあれが悪い、これがマズかったなんて調子で、さまざまな敗因が取り沙汰されている。

 例えば、かつて成長の原動力だったフランチャイズシステムがオーナーの高齢化で機能しなくなっているとか、コンビニのコーヒーがおいしくなったことで競合となったという方がいる。また、安くもなく高くもない中途半端な価格帯がよくないからだという人もいれば、いやそうではなく、SHAKE SHACKやUMAMI BURGERなど海外から高品質・高価格をうたうプレイヤーの上陸で、モスバーガーの売りである「健康志向」や「品質」というアドバンテージがなくなりつつある、という指摘をするメディアもいた。

 立派な専門家やジャーナリストが分析していることでどれも納得のいく話である。ただ、どなたもまだ指摘していないものの、ここにきて王者・マクドナルドと大きな差が開いてしまった背景には、もうひとつ大事な要素があるのではないか、と思っている。

 それは、「分煙」だ。

 マクドナルドが2014年8月に「全店禁煙」へ切り替えたことを対象的に、モスバーガー受動喫煙防止法案に反対する自民党たばこ議連が提案するように「禁煙」「分煙」「時間帯分煙」と店の自主性に任せて、店頭にステッカーを貼るなどして対応してきた。

 「2003年の健康増進法の施行を受け、モスバーガーでは受動喫煙防止のため店舗での禁煙または分煙化をすすめております。店舗案内で検索できる分煙店舗は、完全密閉型分煙のみ検索できるようになっております。また、店舗によっては時間帯分煙などに取り組んでおります」(モスバーガーの公式Webサイトより)

客数が伸び悩んだ原因は「分煙」

 では、禁煙または分煙化はどんな感じで進めているのか。公式Webサイトの店舗検索で、東京23区の「分煙店舗」(モスバーガー、モスカフェ)を調べたところ、全125店舗のうち65店舗あった。

 地域によって状況は異なるだろうが、このような分煙化を進めたことによって、16年度、17年度上半期にかけて前年比97.7%、99.3%と客数が伸び悩んだ可能性がある、と個人的には考えている。

 なんてことを言うと、「出たな! 禁煙ファシストめ、そうやって愛煙家を排除するのがお前らのやり方か!」という怒声が飛んできて、話が1ミリたりとも進まないので、あらかじめ断っておくと、筆者は「嫌煙家」ではない。

 愛煙家の友人・知人が多いので、煙がたちこめる場所で思いっきり深呼吸もできるほど気にならない。嫌がる人たちや子ども・妊婦のいる場所では遠慮してほしいとは感じるが、ルパン三世次元大介にも、いつまでもシケモクをくわえてもらいたいと願う派である。

 では、嫌煙家でないというのなら、なぜ分煙を目の敵にして叩くのだ、と思うかもしれないが、理由はシンプルで、モスバーガーの分煙席から漏れ出てくる臭いを嫌がる客をよく目にするからだ。

 筆者は週2~3回はモスバーガーを利用していて、わりと分煙店舗に行く機会が多い。先ほど申し上げたように、タバコの臭いがさほど気にならないからだ。ただ、筆者が分煙席近くでチリドッグをほうばっている横で、「なんか臭いね」と言って顔をしかめる方や、席を移動する家族連れを多く見かけるのだ。

 飲食店に設置している分煙席は禁煙席と敷居があって密閉されているものの、人の出入りやらで外にもタバコ匂いや煙が漏れてくることがある。それを嫌がる非喫煙者は少なくない。

 モスバーガーといえば、できるだけ農薬や化学肥料に頼らない国内農家の生野菜を使用するなど、健康や味を訴求していることで知られている。創業45周年を迎えた昨年は「日本のハンバーガーをもっとおいしく!」というスローガンに掲げて、バンズを10年ぶりにリニューアルした。

「分煙」と「全面禁煙」、どちらがもうかるのか

 そのように健康や味をしきりにPRしている飲食チェーンで、健康や味とまったく真逆のイメージの強いタバコの匂いを食事中にかがされたら――。「ガッカリだよ」と離れていく客がいたっておかしなことではない。

 また、筆者が分煙によって客足に影響を与えていると考える理由がもうひとつある。昼時にモスバーガーを利用すると当然、混雑しているのだが、分煙店では、禁煙席が埋まっていて店の入り口で踵(きびす)を返す人たちもいるなかで、分煙席内はスカスカという光景を幾度となく見かけた。

 つまり、分煙化を進めたことが皮肉にも、モスバーガーの主たるビジネスである「食事」を楽しもうという客に対する機会損失を招いてしまっているのだ。

 「そんなのはお前の個人的感想だ! 飲食店を苦しめるのは全面禁煙であって、分煙ではない!」という怒りのクレームが多く寄せられそうななかで大変申し上げづらいのだが、さまざまなデータが、分煙で飲食店の客が増えてウハウハというのは幻想であって、むしろ全面禁煙のほうが飲食の価値を上げ、客を増やすことを証明しているのだ。

 例えば、フランスでは08年にバー、レストラン、ナイトクラブなどを対象とする喫煙禁止令が敷かれたが、それで小さな店がバタバタ潰れたなんて問題は起きていない。かえって客が増えたというデータもあるほどだ。イタリアでは、バーとレストランを禁煙にした結果、売り上げが20%増加したという調査もある。

 この傾向は、日本も同様である。

 09~12年の改装をきっかけに、受動喫煙対策を強化したファミレスチェーンで、全席禁煙の141店と、喫煙席と禁煙席を壁で仕切る分煙の16店の売り上げを、産業医科大学の研究チームが調べたところ、全席禁煙の店舗は1年目に2%、2年目に3.4%売り上げが増えたが、分煙の店舗の売り上げは1~2年目ともにほとんど変わらなかった。

 14年にマクドナルドが全店禁煙に踏み切った際、産経新聞に『マック完全禁煙に現場困惑「このままでは店が潰れる」』(2014年10月23日)という記事が出た。ネット上には、「消費者軽視」「喫煙者の憩いを奪うマックはもう利用しない」と罵詈雑言が並んだ。

 その後、マックは中国産ナゲット問題や異物混入で客足を大きく減らしたが、今や普通に繁盛している。「店が潰れる」と大騒ぎしていた人たちはどこへ消えたのかと思うくらい、全店禁煙は客に受け入れられている。ファミレスのなかで早くから全席禁煙に乗り出した、ロイヤルホストも好調である。

飲食店が「分煙」をやめる、もうひとつの理由

 このような勢いを受けて、これまで分煙をうたっていた大手飲食チェーンも続々と全席禁煙に切り替えている。

 例えば、ケンタッキーフライドチキン日本KFCホールディングスグループは全国の約1150店舗うち、18年3月までに約320店舗の直営店を完全に禁煙にし、約830店舗のフランチャイズチェーン(FC)店は改装に合わせて順次切り替えて全席禁煙にしていく。デニーズも約380ある店舗すべてを原則禁煙にするという。

 これらの動きは、イデオロギー的なものは一切関係ない。各社、全席禁煙にしたほうが長期的には、客足が増える、という経営判断によるものだ。

 『各社はあらゆる年齢層で嫌煙家の広がりを感じており、「喫煙席の周辺にすら嫌悪感を示す人が多くなった」(大手外食)との声が聞かれる。喫煙客が離れても「長期的には家族客の定着で売り上げは回復する」(日本KFC)とみている』(日本経済新聞 2017年10月21日)

 さらに、これらの企業が分煙から離脱していくもうひとつの大きな理由が「リクルート」だ。ファミレスもファストフードも人手不足が大きな問題となっているのはご存じのとおりだが、分煙店舗の場合、そこへ輪をかけて深刻な事態に陥っている。

 煙モクモクの喫煙ルームに飛び込んで、トレーで食事を運んだり、吸い殻の清掃をするのは御免だということで、アルバイトが集まりにくいのである。

 「仕事なんだからそんな文句を言ってないでやれよ」とおじさん世代は憤慨するかもしれないが、タバコを吸わない未成年や若者からすればハラスメント以外の何物でもない。

 名寄市立大学の学生(695人)を対象にした調査では、半数以上の学生がアルバイト先で受動喫煙をうけていて、そのうち約85%が不快感を覚えているが、「我慢」しているという結果が出た。

 JTの最新データでも、喫煙率は40歳代男性が36.7%と最も高いが、20~29歳は22.8%となっており、同世代の女性にいたっては7%しかない。

 つまり、「なんで見ず知らずのオッサンたちが吐いた煙を吸ったり、吸い殻を片付けなきゃいけないんだよ」と不快に感じながらも時給のために我慢をしてバイトをしている若者がいまの日本には、おじさん世代が考えるよりもはるかに多いということだ。

モスバーガーの復活に期待

 こうした状況を考えると、昨年5月にモスバーガーが深刻な人手不足から、50店舗で営業時間の短縮に踏み切ったことも興味深い。

 先ほども申し上げたように、14年からマクドナルドは全店禁煙だ。同じファストフードで働くならば、煙くないほうがいいよね、とマックに流れてしまう若者が増え、それがここにきてじわじわとボディブローのように効いてきている可能性もあるからだ。

 もちろん、モスバーガーには禁煙店舗も多くあり、絶不調の理由をすべて分煙のせいなどと言うつもりはない。ただ、業界ナンバー2として、マクドナルドの全店禁煙と差別化していただけのつもりが、いつの間にか消費者の志向や、アルバイトの快適な労働環境が大きく変わり、「世間ズレ」してしまった感は否めない。それがモスバーガーの強みであるはずの健康志向や食事の質という顧客満足度を蝕んでしまった可能性はないか、ということを申し上げたいのである。

 モスバーガーは直営店が主流のマックと異なり、フランチャイジーの店が圧倒的に多い。「禁煙にしたら店が潰れる」と信じて疑わぬ飲食店事業主も多いなかで、モスの加盟店オーナーたちもそのように考える方が多いのかもしれないが、「日本のハンバーガーをもっとおいしく!」というスローガンに立ち戻れば、いまなにをすべきかというのは、おのずと答えはみえてくるのではないか。

 日本のハンバーガーを長く牽引してきたモスバーガーの復活に期待したい。

http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1801/16/news048.html

*1:そこに出入りして禁煙エリアを往来する人間がまとっている煙やにおいは、もしかしたら喫煙者にはわからないかもしれません。でも、あるんですよこれが。