がん患者の死生観

個人的には、死後の世界や生まれ変わりなどというのは死生観のごく一部を占めるに過ぎないと思っている。それらについて、「がんが転移し治療が難しい患者ほど割合は低く、現実的な死生観を持っていた」と記事にはあるが、これにはもう少し慎重な分析や考察が求められるだろう。その他の調査項目の結果を見ても、死生観の問題以前に医療現場の環境的な問題を考慮する必要性は、けっこうあると思われる。

死生観:がん患者「死後の世界」信じる割合低く 東大調査

 がん患者は一般の人に比べて、死後の世界や生まれ変わりなどを信じない傾向が強いことが、東京大の大規模調査で明らかになった。また「望ましい死」を迎えるために必要なこととして、がん患者が健康時と変わらない生活を望んだのに対し、医師や看護師がそれを期待する割合は低く、認識の差も浮き彫りになった。

 調査は、がん患者の死生観を知るため東京大の研究チームが昨年1月から1年間かけて実施。東大病院放射線科に受診歴がある患者312人と同病院の医師106人、看護師366人、無作為抽出した一般の東京都民353人の計1137人が協力した。患者は75%が治療済みで、治療中の人は20%だった。

 「死後の世界がある」と考える人の割合は一般人の34.6%に対しがん患者は27.9%、「生まれ変わりがある」は一般人29.7%、患者20.9%で、患者の割合が目立って低かった。がんが転移し治療が難しい患者ほど割合は低く、現実的な死生観を持っていた。

 生きる目的や使命感を持つ割合は患者の方が一般人より高く、「自分の死をよく考える」という人も患者に多かった。

 「望ましい死」に関しては、患者の多くが健康な時と同様の生活を理想とし、「(死ぬまで)身の回りのことが自分でできる」(93%)「意識がはっきりしている」(98%)「物が食べられる」(95%)−−などを望んだ。一方、医療関係者はこれらについての期待がそれぞれ30〜40ポイント低かった。

 調査をした中川恵一・東京大准教授(放射線科)は「がん患者は死と正面から向き合っているようだ。望ましい死に対する認識の差は、医師らが終末期の現実を知っているのに対し、患者は死の経験がないため生じるのだろう。生きている時間を大切に過ごしたいという患者の思いに応える医療が必要だ」と話す。【永山悦子】

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090114k0000e040029000c.html

ちなみに、この記事の内容については、今日まず東大病院で記者会見が開かれ、明日には東大内の研究会での報告があるらしい。

臨床死生学・倫理学研究会
2009年1月15日(木)
第10回 臨床死生学・倫理学研究会
(場所:法文1号館215室 時間:午後5時〜7時30分)

・5時〜6時20分
清水哲郎 (G-COE死生学・上廣死生学講座)
「一新聞記者の病と死 ― 万朝報時代の堺利彦とその交友」
(明治30年〜32年頃の話です。堺利彦の友人にして同僚に、杉田藤太(号は天涯)という人がいて、結核に倒れ、闘病の末死に至りました。このことをめぐって調べ始めていることの中間報告をいたします。)

・6時30分〜7時30分頃
中川恵一 (東大病院 放射線科准教授/緩和ケア診療部長)
「日本人の死生観―調査結果報告」
(中川先生は、本グローバルCOEの活動の一環として、上記タイトルのような調査をしてこられましたが、このほど結果がまとまったということで、14日に病院内で同内容の記者会見を予定されています。それに基づく、ご発表になると思います。)
どうぞご参加ください。

http://www.l.u-tokyo.ac.jp/shiseigaku/ja/yotei.htm