雨は朝に上がったものの、肌寒い風が吹きすさぶ甲子園で戦われたセンバツ準決勝第2試合、興南‐大垣日大の一戦。
試合は序盤から興南打線が大垣日大の左腕エース・葛西を打ち込むという予想外の展開。いとも簡単に、という感じでヒットを連ねた興南打線には、打たれた葛西投手ならずとも脱帽するほかない。興南の島袋も6回途中まで大垣日大打線をノーヒットに抑えるなど、ディフェンスでもほぼ完璧な試合運び。
これで決勝戦のカードは日大三‐興南と決まった。注目の決勝戦は、明日12時半から。
センバツ:興南、大垣日大に快勝 序盤の集中打で大量点
第82回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)は第11日の2日、阪神甲子園球場で準決勝1試合が行われた。興南(沖縄)が序盤の集中打で、10−0で大垣日大(岐阜)を降した。大垣日大の左腕・葛西に対し、興南は二回に先制ソロを右翼席へ運んだ山川ら右打者が力強くおっつけて攻略。三回途中で葛西を降板させた。山川は三回に右越え2点三塁打、四回も右前適時打と活躍。内角球も右手で押し込んで右方向にはじき返す技術が際立った。エース島袋も直球が走って六回2死まで安打を許さず、砂川との継投で零封した。先発に左打者8人が並んだ大垣日大は、左腕・島袋の内外角の投げ分けに翻弄(ほんろう)された。
二、三回にソロ本塁打を含む長短打6本を浴び6失点、62球で三回途中降板した大垣日大の葛西は「狙ったところに投げても打たれた。すごい、いい打線。自分に力がなかったのだから、仕方がない」と意外にもさばさばした表情だった。
速球を本塁打されたが「打者全員がきちんと球を見極め、センターから逆方向を意識し自信持って打ってきた」と脱帽。2年生エースは「悔しいが楽しい場所で4試合もできた。負けてもすがすがしい気分。これからは島袋投手のように堂々と落ち着いて投げるようにしたい」と課題を口にした。
◇島袋に一矢 日大大垣の森田の一打
一塁上で満面の笑みを浮かべ、ガッツポーズ。わき上がる喜びを抑えられなかった。大垣日大の六回2死、森田が3打席目で放ったボテボテのゴロは島袋のグラブをはじいて二塁手の方へ転がり、内野安打。この日のチーム初安打は、森田が今大会17打席目で放った初安打でもあった。「最高の気分だった」
打ったのは内角低めへのカーブだった。狙いは直球。読みを外して体が前に突っ込んだまま強振し、打球が不規則に変化したことが幸運を呼んだ。森田は正直に言う。「直球で攻めてくると思っていて、タイミングが完全にずれた。当たりは最悪だった」
直球に狙いを絞ったのは1打席目だ。見逃し三振を喫したが、島袋は10球連続で直球を投じた。「伸びはあったが打てると思った。でも直球が頭に残り過ぎて変化球で崩された」。喜びにあふれたチーム初安打は、島袋攻略の糸口さえつかめなかった打線の象徴になってしまった。
しかし、選手たちは試合後、笑顔だった。主将の小尾は言う。「力負けだった。でも越えるべき壁を見つけた」。準々決勝までの3試合で19得点を挙げた強打線のプライドに、火がついた。【倉岡一樹】
低い弾道の打球が、右翼スタンドへ引っ張り込まれるように飛び込んだ。山川がポール際へ放った自身公式戦初の本塁打が、興南の猛攻の口火を切った。
相手の葛西は変化球の制球が定まらず、直球しかストライクゾーンに来ない。山川は、そこだけを待った。4球目、やや高めの直球。「ファウルになるかと思ったが、振り切ったから切れなかった」。迷いのなさが、打球の速さに乗り移った。
山川は2回戦と準々決勝で無安打。我喜屋監督に「捕手はリードに神経を使うから打てなくてもいい」と慰められたが、ひどく落ち込んだ。懸命に原因を探り、狙い球をしっかり絞り、肩が開かないよう意識して、プライドをかけた打席だった。「チームに恩返しができた」と胸をなで下ろす6番打者に、島袋も「悩んでいるのは知っていた。大事なところで爆発してくれた」と手放しで喜んだ。
興南は昨秋、九州大会の3試合で7点しか取れず準決勝敗退。冬場は全員が毎日1000回の素振りをし、打撃練習では1000グラムを超える木製バットも使った。我喜屋監督の「投手を見ずにストライクゾーンを見ろ」という指示も徹底。球を手元に引き込んで鋭く振り抜く打撃はチーム全体に浸透し、ことごとく相手投手を襲ってきた。「打てない興南と言われ続けたけれど、大舞台で練習の成果が出た」。山川の語気も自然と強まる。
頂点は大会前から意識していた。ただ、ここまでの勝ち方は予想を超えている。「新しく生まれ変わった気がする。全然違う彼らを見た」と我喜屋監督。勝つごとに深まる自信を、残る一戦にぶつける。【石井朗生】
◇興南・島袋 球数94に抑える
ここまで全3試合完投の興南・島袋がこの日も先発。前日休養をとれたことで「気持ち良く投げられた」と言い、立ち上がりから球速表示は140キロを超えた。「相手は真っすぐを振ってこない感じだったので、どんどんストライクを取りにいった。甲子園へ来て一番」というテンポのいい投球で、大垣日大打線を六回2死まで無安打に封じ込めた。八回からは、我喜屋監督に「ライトもやってみるか」と言われて砂川にマウンドを譲ったが、早々に飛球を二塁・国吉陸と譲り合って安打にしてしまう場面も。「ライトの守備は緊張した」と楽しそうに言い、この日の球数が94に抑えられたことで「決勝に良い影響を与えると思う」と話した。
【興南・大垣日大】興南の先発・島袋=阪神甲子園球場で2010年4月2日、山本晋撮影http://mainichi.jp/enta/sports/baseball/news/20100402k0000e050085000c.html?inb=yt