「産経新聞」の朴槿恵新政権関連記事

さまざまな論点を包括的にまとめたものをとしては、よくできていると思ったのでクリップ。

【どうなる韓国】(上)不透明な外交 対北協調、安保に懸念
2012.12.20 07:04

 ハプニングはテレビの生中継中に起きた。いきなり投げつけられた“暴言”を朴槿恵は受け流したが、文在寅陣営幹部の目には「一瞬、顔が引きつった」と映った。

 朴は今月4日、文ら政党公認候補がそろった初のテレビ討論会に臨んだ。その席で親北朝鮮・左翼政党、統合進歩党の李正姫(イ・ジョンヒ)が朴の父親で元大統領の朴正煕に触れたのだ。

 「(日本統治からの)解放後にクーデターで政権を取り韓日(請求権)協定を押しつけ、独裁の鉄拳をふるった。親日と独裁の子孫である朴候補…」

 安全保障や外交をテーマとしたこのテレビ討論会で朴、文が示した対日政策は「日本に『正しい歴史認識』を求める」というものだった。もっとも、朴は討論の中でこう主張している。

 「韓日間の歴史をめぐる葛藤については、知恵を絞って対処する。過去を乗り越えて未来を見据える幅広い思考が重要だ」。「過去清算」にこだわる文とは明らかに違う認識を示したといえる。

 韓国左派勢力は朴正煕に「親日」レッテルを貼った。数%の支持率を争う接戦で、そのイメージの極大化は朴陣営にとって致命傷になりかねなかった。そしてその事情は大統領就任後も変わらない。「親日と見られることを恐れ、朴槿恵政権の対日政策が縛られるのではないか」。日本外交筋はこう懸念する。

 朴の対日政策で大きな役割を果たすとみられる人物がいる。4月の総選挙で初当選したセヌリ党国会議員で、元中央日報論説委員の吉●宇(キル・ジョンウ)だ。前原誠司ら日本の有力政治家と親交がある知日派である。

 吉は今月3日、韓国のシンクタンクのセミナーで、日韓関係について「(韓国の)新政府が解決すべき課題の中で最も深刻なものになる」と話している。

 そして日本の政治状況に触れ、「自民党安倍晋三総裁が首相になり、竹島の日(2月22日)を国の行事に格上げすれば、日本の首相を大統領就任式(同25日)に受け入れられるかどうか」。保守政権のブレーンが日本の次期政権を牽(けん)制(せい)する発言をする−。これが今の日韓関係の現実である。

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 韓国には一部で、有事が発生した場合に女性が韓国軍の「最高司令官」であることへの抵抗もある。

 朴は専門家から「延坪(ヨンピョン)島砲撃のような事態が発生したとき、断固たる意思決定ができるのか」と質問され、「男性か女性かではなく、正しい選択ができる安全保障観と世界観を持っているかが重要だ」と応じた。

 ただし朴は、南北間の早期対話に積極的な文に対抗するためにも、ソウルと平壌に「南北交流協力事務所」を設置する構想など北朝鮮との対話姿勢を打ち出した。

 米国からは、韓国の新政権誕生で対北安保体制に亀裂が入るのではないか−との懸念の声が上がっている。米シンクタンクヘリテージ財団が今月10日に開いたセミナーで、ブルース・クリングナー上級研究員は「朴氏と文氏のどちらもオバマ大統領より柔軟な対北政策を発表した」と指摘。「今後、(対北安保をめぐり)米韓が衝突する可能性もある」と新政権の対北協調政策を牽制した。

 北朝鮮民主化に取り組む自由北韓放送の金聖★(キム・ソンミン)代表は「北朝鮮が態度を改めない限り結局は、現路線を継承するしかないだろう」との見方を示している。(敬称略)

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 国家を二分する大激戦の末、当選を確実にした朴槿恵氏率いる韓国はどこに向かうのか。内政、外交の課題を探る。

(ソウル 加藤達也、桜井紀雄)

●=火へんに正

★=王へんに文

http://sankei.jp.msn.com/world/news/121220/kor12122007050004-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121220/kor12122007050004-n2.htm
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121220/kor12122007050004-n3.htm

【どうなる韓国】(中)格差 くすぶる若者 江南スタイル・財閥批判
2012.12.21 07:12


朴槿恵(パク・クネ)・韓国次期大統領(保守系与党、セヌリ党)プロフィル=2012年12月18日現在

 今年、韓国で最もヒットしたのは男性歌手PSY(サイ)のダンス曲「江南(カンナム)スタイル」だろう。馬乗りダンスというコミカルな振り付けが爆発的に受け、米ビルボードでも2位に付けるなど一世を風靡(ふうび)した。江南はソウルで富裕層が集中する街として知られる。♪夜になれば心臓が熱くなる女〜。踊りと歌詞で彼らの生活スタイルを笑い飛ばし、韓国の若者に絶大に支持された。

 11月、与党セヌリ党の支持者集会で、若者と馬乗りダンスに興じる朴槿恵(パク・クネ)(60)の姿があった。

 朴自身、江南に暮らす富裕層だ。パフォーマンス嫌いで知られる朴の、自虐的な馬乗りダンスは、当落の鍵を握るとみなされた若者の支持を取り付けるためのなりふり構わぬ姿だった。


ニューヨークのロックフェラープラザの特設ステージで「江南スタイル」を熱唱する韓国人ラップ歌手PSY(サイ)。NBCの朝の情報ニュース番組「ザ・トゥディ・ショー」で放映された=14日(AP)

 韓国では伝統的に、南東部慶尚道キョンサンド)が保守(セヌリ党)、南西部全羅(チョルラ)道は左派(民主統合党)の地盤という激しい地域対立があった。

 19日の大統領選では、慶尚道の中心都市釜山(プサン)で野党候補、民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)が4割の票を獲得、全羅道でも朴が食い込むなど、あしき地域対立は和らいだと指摘されている。

 代わって鮮明になったのが、50代以上は朴、20〜30代は文支持という世代間の二極化だった。若者が文支持に流れたのは、「財閥出身で“経済大統領”と呼ばれた李明博(イ・ミョンバク)は結局、大企業優先だった。潤ったのは一部だけで、若者にしわ寄せが来ている」との不信感からだ。富裕層を皮肉った「江南スタイル」のブームとも重なる。

 各国が不況にあえぐ中、スマートフォン液晶テレビの売り上げを世界中で伸ばしているのは、サムスン電子をはじめ韓国企業だ。

 サムスンなど10大財閥の総売上高は昨年の国内総生産(GDP)の実に8割を占めるが、その半面、これら大企業に勤めるのは国民の1割に満たないという、いびつな構造がある。

 特に大卒の4割が仕事に就けない就職難にあって、若者の不満が李政権の否定に結び付いた。

 「財閥と特権層を守る勢力と戦おう!」。こうした若者らの不満を受け、文は「財閥改革」を訴えた。

 対する朴は成長を重視し、財閥をある程度容認する立場。一方で「国民生活(の政策)に失敗した」と李政権とは一線を画し、雇用創出や高校無償化、大学の学費負担半減など、若者におもねる公約を並べた。

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 それでも、19日の投票で若者の票が大きく朴に流れることはなかった。

 20〜30代の支持が3割にとどまった朴を当選に導いたのは、「(父親の)朴正煕(チョンヒ)元大統領が成し遂げた“漢江(ハンガン)の奇跡”(高度経済成長)こそ今の韓国に必要だ」と信じる50代以上の世代だった。50代の投票率は約9割にも達した。

 選挙戦で悪役にされた財閥企業に勤め、若者と高齢者の谷間の世代は今回の大統領選をどう見たのか。

 サムスングループの幹部職から今年、別の財閥企業に移った男性(40)は「支持を得るため、大企業批判をするのは仕方ない。ただ、経済成長がなければ雇用も生まれず福祉財源も確保できない。朴氏がバランスある経済策を進めることを期待したい」と話す。

 次期大統領の朴は20日の記者会見でこう強調した。

 「国民の多様な意見を聴き、分裂を和解に変えていく」「経済成長の果実を共に分け合えるようにする」

 今回の大統領選が突き付けた世代間格差という問題を克服し、“第二の漢江の奇跡”を実現できるか。

 バトンは“経済大統領”から“朴正煕の娘”に渡された。=敬称略(ソウル 桜井紀雄)

http://sankei.jp.msn.com/world/news/121221/kor12122107140001-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121221/kor12122107140001-n2.htm
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121221/kor12122107140001-n3.htm

【どうなる韓国】(下)「忍耐の人」朴槿恵 困難ではない、新たな対日決断
2012.12.22 10:27

 1979年、父・朴正煕(パク・チョンヒ)が暗殺事件で亡くなった後、朴槿恵には不遇な時代があった。朴体制下でいじめられた野党陣営の闘士、金大中(キム・デジュン)や金泳三(ヨンサム)らが復活し、朴政権のナンバー2だった金鍾泌(ジョンピル)も彼女とは距離を置いた。

 そんな80年代に1度、日本をブラリ訪れたことがある。たしか日本船舶振興会会長で日本財団の創始者である右派の大物、笹川良一の招きだった。その時、京都などを観光旅行した。彼女にとってはいわば“癒やしの旅”だった。

 98年に政界入りした後、平壌での金正日(ジョンイル)総書記との会談(2002年)を含め数多くの外遊をこなしてきた。その中で日本には06年3月、野党ハンナラ党(現セヌリ党の前身)の代表として公式訪問した。

 この時、小泉純一郎首相や安倍晋三官房長官ら多くの日本の要人と会ったほか、日本記者クラブで記者会見して対日観を披露した。

 韓国は竹島問題などで「対日外交戦争」を公言するなど、対日強硬路線の盧武鉉ノ・ムヒョン)政権時代の後半だった。小泉の靖国神社参拝などに刺激され、対日感情は悪化していた。日韓関係は冷え切っていた。

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 朴槿恵は当時、野党代表で1年後の大統領選への出馬を考えていた。したがって対日感情悪化の中での日本訪問は国内政治上、危うかった。

 左派の盧政権や反対派からは、韓国では今なお「売国奴」を意味する「親日派」の悪罵(あくば)を使って、「親日派の娘」と非難されることの多かった彼女にとって日本訪問は重い。しかし「何とか突破口を開きたい」との思いで訪日に踏み切ったという(自叙伝『絶望は私を鍛え、希望は私を動かす』から)。

 この訪日の際の発言が、彼女の最もまとまった対日観である。

 「過去の歴史には確かに加害者と被害者は存在した。その事実に変わりはない。その認識のもとで対話がなされなければならない。対話はしないからといって問題が解決するわけではない」

 「歴史の転機を作っていかなければならない。人が違えばその(対日外交の)方法も違ってくると思う。韓日関係を友邦関係として発展させていくことにおいて、私には私の方法があります」

 記者会見での公式発言だから原則論が中心だったが、靖国神社参拝問題では「隣国の国民感情を配慮した他の成熟した方法を模索する必要がある」と注文している。

 6年前の野党時代の意見だが、朴槿恵の考えがこのままだと安倍晋三には厳しい。しかし「国民感情」は日本にもあるのだから、2人はそのあたりをじっくり「対話」すればいい。

 彼女はこの時、「安倍官房長官とも長い間、話を交わすことができた」と述べているが中身は明らかでない。自叙伝では要人との対話について「歴史問題さえ除けば各分野での考えは一致させられた」と回想している。

 自叙伝では「孫子の兵法」を引用しながら「怒りにまかせて戦えばせいせいするかもしれないが、事をし損じるだけだ。私は戦わないで勝つことがまさに外交の力と考える。他のいかなる国との関係より忍耐が必要なのが、日本との外交だ」といっている。

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 激動を数多く経験してきた朴槿恵は「忍耐の人」である。安倍も「忍耐と対話」で歴史問題をはじめ日韓の懸案に対処すればいい。そして朴槿恵にとっては、父が日韓国交正常化の際、圧倒的な国内世論の反対を戒厳令で抑えて踏み切ったことを考えれば、新たな決断などそう難しくないかもしれない。=敬称略(ソウル 黒田勝弘

http://sankei.jp.msn.com/world/news/121222/kor12122210280003-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121222/kor12122210280003-n2.htm
http://sankei.jp.msn.com/world/news/121222/kor12122210280003-n3.htm

いろいろ見ている限り、今後、朴槿恵政権下で最も問題となっていくのは、(中)のテーマでしょうね。「経済格差としての世代間格差」の中で鬱々としている世代の屈折を、今回の選挙結果に快哉を叫んだ朴槿恵支持層を抑えながら、いかに掬い上げていくか。

「江南スタイル」の江南に暮らす優雅な左派を指す言葉として「江南左派」というのがありますけど、富裕層のシャングリラである江南を遠くに見ていることしかできない人が、江南の周辺にどれほどいることやら知れません。

この記事のことを思い起こしてみると、今後は「江南左派(강남좌파 )」ではなく、「安岩左派(안암좌파 )」が、大きく政治イシューに浮上してくるような気がします。