「経営者」としての資質と資格:名古屋女子大学事件

AERA」のこの記事。大学を舞台として、名のある研究者を標的としたところに目が行きますが、これは「追い出し部屋」という「今どき」の問題という前に、昔からある「組合つぶし」の問題でしょう。学校法人を舞台とした同様の事件も、過去にはしばしばあったことです。

職場をともにする労働組合とすらまともに話し合うことができなくて、いったいどこで何をどうマネジメントすることができるのでしょう。ハッキリ言ってしまえば、経営側の経営センスが疑われます。

組合との話し合いや団交に応対する手間を惜しんで、こんなアホなことをして法人全体を貶める行為は、長い目で見れば自滅への道でしかないと、私などは思うのです。

解雇したい人追い詰める 大学の「追い出し部屋」の実態
(更新 2013/7/ 3 16:00)

 解雇したい人間を押し込め、じわじわと追いつめる「追い出し部屋」。これは、民間企業だけではなく、公的機関である「大学」にも存在する。

 その場所は、「教職員研修室」の名で呼ばれていた。名古屋女子大学文学部教授として教鞭をとっていた谷口富士夫(たにぐちふじお)さん(55)は昨夏まで、この「部屋」で、日本漢字能力検定の過去問を解かされ、何度もリポートを書かされ、文章作成などの業務を行っていた。当時を振り返って谷口さんはこう言う。

「いつ何をさせられ、今後どうなるかわからない状態…。心理的に追いつめられていました。まさに追い出し部屋です」

 学園の法人本部から突然呼び出しを受けたのは一昨年6月。指示通り、本部がある汐路(しおじ)学舎の会議室に行くと、事務方の中間管理職の男性からこう告げられた。

「漢字能力検定の1級と2級の過去問題を解くように」

 学生による授業評価アンケートの結果が低かったため、日本語関係の授業を教える能力があるかどうかを見極めるための「学長特命プログラム」、と説明されたという。

 こうして、事務方中間管理職立ち会いの下、漢検の過去問に取り組む日々が始まった。一日約3時間。途中、1時間置きに5分のトイレ休憩があるだけ。10月までの計13回、漢検の過去問を解き続けた。この間、他にも、日本語教育能力検定の過去問にも取り組まされた。

 谷口さんへの「指導」は9月に入るとさらに激しさを増す。プログラムを続けるため、すべての授業が休講になり、研究室の移動を命じられると、学内LANにつながったパソコンを取り上げられた。専門分野と関係のない授業の「見学」も指示され、毎回リポートが義務づけられた。10分単位で授業がどのような展開になっているか記録し、授業の感想を書き、その授業の良い点を3点列記するよう指導された。すでに授業停止になっていたにもかかわらず、自らの授業に取り入れたい内容も書くよう言われた。授業見学は翌2012年1月まで延べ120回近く。ことあるごとに反省文も書かされ、リポートと反省文の多くは手書きを強いられたという。

 名古屋女子大学は、学校法人「越原(こしはら)学園」が運営する創立98年の私学だ。07年に中学・高校を吸収合併し、法人名を「越原学園」に変更。関係者らの話を総合すると、この頃から、学園方針のほとんどの決定は、理事長、副理事長、常務理事の3人から成る常務委員会でなされるようになったという。理事長は越原一郎氏、副理事長は理事長の娘婿の越原洋二郎氏だ。こうした手法に反発した教職員らが同年4月、「名古屋女子大学職員組合」を結成すると、組合員を対象にした、大学側からの「指導」が始まったという。谷口さんは組合結成当初から、組合副委員長を務めている。

 こうした状況のなか12年4月、谷口さんは「教授」から「助手」に降任。そして同年7月下旬、谷口さんがネット上で書いていた「名古屋某女子大学マンガチック」と表記したブログが名誉棄損等にあたるとして学園から解雇を言い渡された。学園は谷口さんに対し、名誉棄損による約1千万円の賠償請求訴訟を起こし、谷口さんも同年9月に解雇無効等の裁判を起こした。二つの裁判は現在、名古屋地裁で審理が続いている。

 アエラの取材に学園本部の総務課長は、電話口で、「(教職員研修室のことを)よくご存じですね。しかし、企業秘密であり、非常に敏感な部分でもあるので、一切お答えすることはできない」とだけ回答した。

AERA ※2013年7月8日号

http://dot.asahi.com/news/domestic/2013070200024.html

ちなみに、こちらも同じ学校法人での事件のようですね。

有期の専任教員“妊娠切り”事件 名古屋女子大中学・高校のマタハラ、復職&解決金350万円で勝訴級和解 - MyNewsJapan


考えてみれば、「ブラック企業」を云々するときに、「労働組合がきちんと(それなりに)機能している」「労働組合との交渉に経営側が誠実に(常識の範囲内で)応じている」「そもそも労働組合が存在する(ことを認めている)」といった基準を適用してみることは、非常に意味があると思うのですよ。そこをすっ飛ばした「見分け方」論議をしばしば見かけますけど、実際問題、ユニクロワタミ労働組合自体が存在しないはずです*1

耐えても逃げても終わらない! ブラック企業“負の連鎖”をどう断ち切る? - 日刊サイゾー

笹山尚人弁護士インタビュー〜ブラック企業の見分け方と対処術〜 - 就職活動のための法律ガイド - NPO法人POSSE


とかく労働組合と見れば頭ごなしに敵視したがる昨今の風潮を助長している責任の一端は、そういう性癖を持つ首長を担いでいる「大阪」という地域にもあります。誠に申し訳ないことです。


追記:この名古屋女子大の事件、こちらのブログに詳細が書かれています。この学校法人の内部は、AERAの記事に書かれている以上に異常な状況のようです。

名古屋女子大教授に漢検勉強など400時間、大学の命令差し止め仮処分 - 猫の欠伸研究室

*1:…し、経営陣がその存在自体を忌み嫌っていると思われます。