「神奈川新聞」と「東京新聞」の紙面から

かつてであればなかなか見ることができなかった新聞に掲載された記事にアクセスできるという点では、便利になったなあと思います。「神奈川新聞」や「東京新聞」なんて、西日本在住だと現物を見ることはほとんどできませんからね。

いずれも、多くの人の目に触れることが意味するところの多い記事だと思います。

神奈川新聞の「今そこで横行している人身売買」の記事は、現状の報道というだけでなく、問題提起としても重要な内容を含んでいて、ローカルニュースにくくられてしまうには惜しいものです。

横行する人身取引「日本は人身取引大国」、組織的手口で少女売買/神奈川
2013年8月18日

 「現代の奴隷制」ともいわれる人身取引。特に日本人の女性が性風俗産業で強制的に働かされるケースが増えている。人身取引は過去の話でも外国の出来事でも決してない−。被害者支援に取り組む関係者は「身近な問題として考えてほしい」と訴えている。

 人身取引の目的は(1)性的搾取(2)強制労働(3)臓器取引−に大別される。性的搾取の被害者支援などに取り組むNPO法人ポラリスプロジェクトジャパン」の藤原志帆子代表は「日本は人身取引大国」と指摘する。

 昨年、同団体に電話やメールで寄せられた相談は331件。4割を日本人が占め、その割合は年々増加しているという。海外から女性を連れてくるよりも容易なことが一因とみられ、「特に少女が性的な商品として売り買いされるケースが増えている」。

 交際相手など身近な人から親密な関係につけ込まれ、ドメスティックバイオレンス(DV=配偶者らからの暴力)の被害者が売春を強いられたり、児童買春の被害少女が相手に脅迫されたりすることもある。借金のかたに性風俗店で働かされるケースも後を絶たない。

 特に最近は、複数の人間が役割分担し、巧妙に支配下に置く組織的な手口が特徴だ。女性を追い込むために、ホストクラブで高額な料金を請求し仲間のヤミ金融業者から借金をさせたり、モデルのスカウトと偽って撮った裸の画像などを脅迫の材料に使う事例もある。

 「国籍を問わず、性風俗産業に身を置く多くの女性は、決して自由な意思で働いているわけではない」

 そう強調する藤原代表が問題視するのは、女性や子どもの性をめぐる日本社会の意識の低さだ。

 性的サービスに従事する女性が被害者だとの認識がなく、逆に根強い偏見を持つ。女性を性の商品とみる傾向が強く、人権侵害との視点を欠く。国際的には人身取引とされる児童買春の量刑が他の先進国に比べて軽く、加害者に“寛容”な態度を示す−。

 藤原代表は「こうした意識が人身取引の温床になっている」と指摘。厳罰化とともに、性的描写が目に余る雑誌やラブホテル、繁華街の客引きや性風俗店といった「性的搾取を誘発する要素が身近な場所で氾濫する状況にメスを入れるべき」と訴える。

 ストーカーやDVを念頭に、「誰かが犠牲となって初めて法律や制度が変わるのでは、あまりに悲しい」と藤原代表。「人身取引に無知、無関心では済まされない。身近な地域からノーを突き付ける。そんな民意の高まりが求められる」と強調している。

http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1308180001/

人身取引が横行、県内でも性的搾取 脅し、だまし、暴力で支配/神奈川
2013年8月18日

 人を脅し、だまし、暴力で支配下に置いて搾取する人身取引が、全国で横行している。県内でも少女が売春を強要される事件が発生。国内外で「人身取引の受け入れ大国」とも批判される中、撲滅活動に携わる関係者らは対策の遅れを指摘し、体制の整備や被害者支援の充実など幅広い取り組みを求めている。

 「働く場所を紹介してあげる」。6月、県警少年捜査課と瀬谷署が暴力団幹部らを逮捕した児童福祉法違反事件は、その一言が始まりだった。

 家出中だった横浜市内に住む中学3年の少女は昨年9月、横浜駅で若い男に声を掛けられ、車で連れ去られた。その日のうちに暴力団幹部に引き渡され、さらに別の無職の男のマンションで生活させられながら、売春などを強要された。

 少女は「逃げたら家族にも迷惑が掛かる。覚悟しておけ」と脅され、わずか8日間に駐車中の車内などで15人ほどの客の相手をさせられた。別の暴力団組員が出会い系サイトで客を見つけていたという。

 警察庁によると、2012年の人身取引事件(売春防止法違反、入管難民法違反、職業安定法違反、風営法違反、刑法の人身売買容疑など)の摘発件数は前年に比べ19件増の44件。摘発人数は54人(前年比21人増)、被害者数は27人(同2人増)と、いずれも増加した。被害者の国籍で最多は日本の11人(同7人増)で、同数のフィリピンとそれぞれ4割を占めた。

 摘発の増加に対し、撲滅を目指す関係者は「氷山の一角」と口をそろえる。国際的な非政府組織(NGO)「反差別国際運動」の原由利子事務局長は「被害者の保護や支援の制度が不十分で、証言が得られにくい」などと摘発の難しさを指摘。「被害者の保護や支援を含めた包括的な禁止法を制定すべき」と訴える。

 国際社会も厳しい目を向ける。日本政府は10年の国連人権理事会で、人身売買罪の刑罰強化、地域的で専門的なシェルターの設置、「奴隷労働」とも批判される外国人研修・技能実習制度の監視強化など21項目の勧告を受けた。米国務省の年次報告書は、04年に「監視対象」国とするなど、10年以上「人身取引根絶の最低基準を満たしていない」国に位置付けている。

 関係する約30団体が加盟する「人身売買禁止ネットワーク」などは日本政府に対し、人身取引対策の政策を一元的に担当する機関の設置や被害者支援の充実など幅広い対策を求めている。

http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1308180002/

東京新聞のこの記事も、しばしば指摘されてきていることではありますが、雇用の「増加」の裏面に改めて目を向けたいい記事です。

労働者との契約を短い期間で区切り、簡単に解雇できる条件を「整える」ことで、どのように労働者の労働の「質」が変化するか。企業にとってもプラスにならない面も多々あると思うのですが、そういう点を扱った調査や研究ってどれだけあるんでしょうかね…?

【政治】進む雇用不安 労働者増 実は正社員減
2013年8月18日 朝刊

 パートや派遣社員など非正規労働者の数が過去最多を更新した。安倍晋三首相は自らの経済政策で「順調に景気は上がっている」と強調し、その象徴として雇用の増加を挙げるが、実態は非正規労働者の急増に支えられ、逆に、正社員などの正規雇用は減っている。しかも、安倍政権は正社員をさらに減らすことにつながる政策を実行しようとしている。 (我那覇圭、関口克己)

 総務省が十三日に公表した労働力調査によると、今年四〜六月期平均の非正規労働者数は一年前より百六万人増の千八百八十一万人で、統計を取り始めた二〇〇二年以降、最多となった。雇用者総数が一年前より五十三万人増えたのに対し、正規雇用は五十三万人減った。確かに雇用全体の「数」は増加したが「質」は悪化した。

 政府は六月に決めた成長戦略で、産業競争力の強化策の柱に雇用制度改革を掲げた。具体的な施策の一つが勤務地や職務を限定した「限定正社員」の導入だ。福利厚生は一般の正社員と変わらないものの、企業がその勤務地や職務から撤退すれば、正社員よりも簡単に解雇される。

 限定正社員は非正規労働者と正社員の中間に位置づけられ、統計上も新たな分類になる。解雇のしやすさから「見かけ正社員」とも批判される。

 年間約三百件の労働相談などに応じるNPO法人「ほっとプラス」の藤田孝典代表理事は「人件費を削減して利益を出そうというビジネスモデルが確立されている。企業が解雇を回避する努力をするよう、国は力を入れるべきだ」と、限定正社員制度の運用に注文をつける。

 成長戦略には、社会問題化している派遣労働の規制緩和も盛り込まれている。

 労働者派遣法は通訳や秘書など専門的な二十六の業務以外は、企業が派遣を受け入れられる期間を原則一年(最長三年)とし、その後は禁じている。

 だが、厚生労働省の研究会は今月六日、これを改め、派遣元からの派遣労働者を別の人に代えれば、業務を続けられるとした素案をまとめた。人材派遣会社からの要望が反映された。

 派遣労働者が派遣元と無期限の派遣契約を結んでいれば、派遣期間は制限されないが、現在、約百十万人いる派遣労働者のうち、これに当たるのはわずか二割。大半は最長三年で派遣先から追われることになる。

 労働組合派遣ユニオン」の関根秀一郎書記長は素案を「労働者を解雇しやすくしたい企業の論理そのものだ」と批判。「このまま導入されれば、現在は正社員である人も次々と解雇され、派遣労働者に置き換えられる。雇用環境はさらに不安定になる」と訴える。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013081802000120.html

で、昨日、しばしば話題になっているのを見かけたこの記事。

【社会】橋下氏を批判 出版中止 中島氏評論「権力への過剰忖度」
2013年8月18日 朝刊

 政治学者の中島岳志(たけし)・北海道大准教授の社会評論が、今年二月の発売予定日を目前に出版中止になった。日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長への批判を含むことを出版元のNTT出版が問題視し、削除を求めたのが発端だった。中島氏は削除を拒否し、その後、本は六月末に新潮社から刊行された。異例の出版中止の裏に何があったのか。 (森本智之)

 この本は「『リベラル保守』宣言」。中島氏が数年前から言論誌「表現者」に連載している内容を見た同出版が「本にしたい」と申し出た。

 中島氏によると、昨秋から出版に向け作業を始めた。ところが、ゲラの校正を進めていた昨年末、編集者から「第三章が社内で問題になっている」「親会社がNTTという公共企業なので、特定の政党や政治家への批判は問題」と伝えられた。

 問題視されたのは、「橋下徹日本維新の会への懐疑」と題した第三章の十五ページほど。中島氏は橋下氏に批判的な若手論客として知られ、本の中で「独断的な改革」「自らの正義で他者を断罪する」と指摘していた。

 出版まで三週間を切った今年二月六日、NTT出版の幹部に呼び出され「第三章全文を削除してほしい」と求められた。中島氏が断ると、「残念です」とその場で出版中止が決まったという。

 中島氏は「急に問題視されたので時期的に『週刊朝日』の問題が影響していると思った」と話す。当時、橋下氏をめぐる同誌の連載が不適切な記述のために中止となったことを受け、出版元の朝日新聞出版や親会社の朝日新聞がたたかれていた。中島氏は「権力への過剰な忖度(そんたく)だ」と批判。新潮社版の「あとがき」で、経緯を詳述した。

 これに対し、NTT出版の斎藤博出版本部長は「特定の個人や団体の利益になる本も、不利益になる本も出さないことにしており、週刊朝日の問題とは関係ない」と説明。「親会社の意向が影響することもない。社として本の内容をきちんと把握できていなかったことが対応遅れの原因」と話し、橋下氏への配慮を否定した。

 だが、同社は今年一月、佐伯啓思(けいし)・京都大教授の「文明的野蛮の時代」を出版。その中には、民主党政権を振り返り「友愛などという言葉でお茶を濁されては事態は一歩も進まない」「『政治主導』どころではない」などと、厳しい批判を連ねた箇所がある。

 相手次第で方針が違うようにもみえるが、斎藤氏は「(佐伯氏の本では民主党を)引き合いに出しているだけで論点は別」と説明する。しかし、中島氏は「これでは自由な言論活動などできない」と納得していない。

 中島氏はかつて、ツイッター上で橋下氏から「役立たず」などと批判を受けた。さらに橋下氏の支持者らにより自身のツイッターが炎上。「自分の主張と違う意見への寛容度が下がっている。ネット上では特にその傾向が顕著で、すぐに大バッシングにつながる。自由に自分の意見を言いにくい時代になってきた」と懸念する。

 「参院選でも自民党が大勝した。橋下氏の例を持ち出すまでもないが、権力が一極集中すれば、反する主張は言いにくくなり、過剰忖度や自己規制の働く余地は大きくなる」

週刊朝日の連載記事問題> 週刊朝日が昨年10月に掲載した橋下徹大阪市長をめぐる連載の初回記事に、橋下氏の出自をめぐる不適切な記述があった。橋下氏が激しく抗議し、出版元の朝日新聞出版は謝罪の上、連載を中止。当時の社長が引責辞任した。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013081802000119.html

もちろん「言論の自由」という問題でもあるのでしょうけど、個人的には「ずいぶんとバカなことをする経営陣だなあ」という感想の方が先に来ます。

中島岳志ほどの書き手になれば、出版先に困ることはないでしょうし、著書の売れ行きだってある程度は見込めるはずです。

実際、その後すぐに新潮社からその本を出しているわけで、新潮社からしたら完成原稿をそのまま本にすればいいだけだったでしょう。ほとんど経費をかけずに本を出せたという意味で、これはタナボタものの話ではなかったでしょうか。

「リベラル保守」宣言

「リベラル保守」宣言

それに、今後おそらく中島岳志やその周辺の書き手がNTT出版から本を出すことはないでしょうし、そういう人たちがそれで困ることも別にないでしょう。NTT出版の側もまあ、「橋下徹の批判を書けない出版社」という評判を取って間口を多少狭めたとしても、それで別に困らないというのでれば、それはそれでええんでしょう。

ただ、親会社の意向がどうだか知ったことではありませんが、いかにも「殿様商売」といった話ですねえ。根っからの商売人の感覚ではないですよ。