「帰ってきた国立競技場1964」構想

ずっと沈黙を守ってきていた有名建築家氏が自己弁護に終始した会見を開いた日に、このタイミングでまたぶち込んできましたね。

ああ、話としてはこちらの続きです。

新国立競技場ができなくて困る人は誰?

旧国立復刻を!設計書“流用”で費用1000億円以下に 1級建築士・森山高至氏提案
2015年7月16日6時0分 スポーツ報知


多くの国民に親しまれた、取り壊される前の国立競技場

 政府が建設計画の見直し方針を固めた新国立競技場の問題について詳しい、1級建築士で建築エコノミストの森山高至氏(49)は「まだ間に合う」と話した。デザインの代替案としては、現代の最新技術を駆使した「旧国立競技場の復刻」を提案した。

 「現時点で政府が新国立競技場の問題点を認識してくれてよかった。ぎりぎりですが、まだ間に合います」。2年前から、新国立の建設に対して疑念を抱いていた森山氏は、ようやく見直し方針を固めた政府の動きを評価した。

 政府はデザイン変更と、工期延長の両案を検討しているというが、森山氏は「(現行案の)ザハ案は廃案にしないと難しい」と2本の大きなアーチを使った独特なデザインの変更を要望した。

 これまで政府はデザイン変更すると、19年ラグビーW杯開催までに間に合わないなどと主張してきたが、森山氏によると、変更しても、19年ラグビーW杯に間に合わせることも可能だという。「円や、だ円といった単純な形状にして、工場で作った同じパーツをなるべく多く使い、組み立てる」ことによって、工期は3年程度で済むという。

 森山氏が考えた代替案が、旧国立競技場の設計を軸に最新の技術によってよみがえらせるという「国立復刻案」だ。「建築に使う材料や工法が、当時から進化しているため、合理性や機能も格段に改善される」という。また、大きな意味として、「同じ(競技場の)シルエットであればレガシー(遺産)の意義がより強まる」とした。

 現行案では、総工費が2520億円にまで膨れあがったが、「復刻案」であれば人件費などを削り、1000億円以下で作れるという。旧国立の設計書をベースにするため、デザインにかかる時間も減り、工期も短くなる。

 「ゼロベース」によるデザイン変更を求める森山氏だが、もしコンペを再び開催するのであれば「募集要項に、ある程度の規格を示したほうがいい」と話した。そして、競技場完成後に遺恨を残さないためにも、ラグビーW杯になんとか間に合わせる必要があるとし、「森さん(元首相)に恥を欠かせないように」と加えた。

http://www.hochi.co.jp/topics/20150716-OHT1T50075.html

「国立競技場の復刻」という案もさることながら、最後の一文が極めて重要ですね。ここで敵を作るか味方につけるかで、戦略的な展開は全く変わってきます。

それはまた、「いま、破局的結末を回避するためには、誰を斬って、どっちを向くべきか」という話でもありますよ。


具体的な構想については、森山さんのブログに注目しておくことにします。

帰ってきた国立競技場計画 1|建築エコノミスト 森山のブログ

http://blog.goo.ne.jp/junnakamichi/e/fd0c55b493a3cd4224a9e95deba96801


追記:補足のために、こちらの記述もクリップ。

安藤氏と森氏がOKすれば計画の変更は簡単だった
新国立競技場建設計画迷走の責任はどこに

森山高至氏(建築家・建築エコノミスト
ニュース・コメンタリー (2015年07月18日)

 安倍首相が7月17日に、新国立競技場の改築計画の「白紙見直し」を発表したことで、「一度走り出したら止まらない公共事業」がひとまず止まったことの意味は大きい。

 しかし、今回の迷走の原因とその責任がどこにあったのかの検証は不可欠だ。

 新国立競技場の建設主体となる日本スポーツ振興センター(JSC)の鬼澤佳宏理事は7月16日の記者会見で、「安藤先生のお話にあった通り、(デザインの変更は)決定の経緯、条件、約束があり、基本的には国際的にも難しいと判断された。それを前提に議論を進めていくのではないか」と語り、当初予算を大幅にオーバーすることが確実になったザハ・ハディド氏デザインの当初案が最後まで変更されなかった背景に、デザインコンペの審査委員長を務めた安藤忠雄氏の意向が強く働いていることを示唆している。

 鬼澤氏はまた、「私どもがいま考えているのはラグビーワールドカップに間に合わせること」とも語り、2020年五輪の前年に日本で開催されるラグビーW杯に間に合わせるためにも、ザハ案の変更が困難であることを指摘している。

 日本が2009年にラグビーW杯を招致した段階では新国立競技場の建設計画など存在しなかった。招致段階ではメイン会場は神奈川県横浜市にある日産スタジアムが想定されていた。ところが、日本ラグビー協会の会長を務める森喜朗元首相の強い意向で、2019年ラグビーW杯が新国立競技所のこけら落としイベントとすることが、事実上既成事実となっていた。

 今週になって7月16日に安藤忠雄氏が長い沈黙を破り、自身はデザインを審査しただけで建設費の高騰には一切関与していないことを釈明する会見を行った。その会見の中で安藤氏は、依然として近未来的でインパクトのあるザハ案に未練があることを滲ませながらも、当初1300億円を予定していた総工費が2520億円にまで膨れあがってしまった以上、計画の見直しはやむを得ないとの立場を表明していた。

 また、これに続いて翌7月17日には安倍首相が森元首相と直々に会談し、ザハ案を白紙に戻すことで、新国立競技場の建設が2019年のラグビーW杯に間に合わなくなることへの理解を求めた。会談後、森氏は「元々自分はあのデザインは好きではなかった」などととぼけたコメントを発していたが、これでデザイン見直しのもう一つの障害だった森氏も折れ、ようやく白紙見直しが可能になった。

 安倍首相は同17日、森氏との会談の直後に記者団に向けて、計画の白紙見直しを発表している。

 こうして2520億円の計画は白紙に戻ることになった。

 もはや、説明は不要だろう。

 建築界の重鎮であり世界的にも高名で、なおかつ石原慎太郎東京都知事を始め多くの政治家や有力者とも親しい関係にある安藤忠雄氏が、審査委員長として直々に選んだザハ案を白紙に戻すためには、何をおいても安藤氏の了解が不可欠だった。安藤氏自身は会見で、自分はデザインを選んだだけで、それ以外のプロセスには関与していないことを強調したが、安藤氏の側から「デザインの変更をしてもいいのではないか」との提案でもない限り、事務方が安藤氏にデザイン変更を提案することなどあり得なかったことは、容易に想像できる。

 また、今になって計画を白紙に戻すことで、ラグビーW杯に間に合わなくなることから、森元首相の了解も不可欠だった。コストが2520億円まで膨れあがることが確実になって以降は、ラグビーW杯に間に合わせなければならないので、今さら他のデザインへの変更は難しいというのが、この問題が膠着状態に陥ってしまった最大の原因だった。

 いずれにしてもJSCも文科相の担当者も、この2人の巨人が首を縦に振らない限り、何もできない立場だった。更に、役人にしてみれば、計画が大きければ大きいほど利権は大きくなり、うま味が増すことから、自らの身を危険に晒してまで計画を縮小させようという動機は起こりにくい。かくして、誰も止めることができないまま、誰も望まない巨大事業の計画がまさに粛々と進んでいくというのが、いつもの暴走型公共事業の典型的なパターンだ。

 そして、その二匹の巨人の首に鈴をつけられるのは、安倍首相をおいて他にはあり得なかった。つまり、もっと早く首相が動かなければならなかったのだ。

 止まらない公共事業の背後には、必ずといっていいほど「この人が首を縦に振らなければ止められない」というような立場にある黒幕がいる。そして、それを説得できるのは首相しかいない。逆の見方をすれば、首相がその気にさえなればどんな事業でも止められることが、今回明らかになった。このことの意味は決して小さくはない。

http://www.videonews.com/commentary/150718-01/